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「伊豆諸島ですってっっ!?」
「そ……そうよ、だって近場だし……」
 富士ふじ進一郎しんいちろうの食いつきぶりに、吉野よしのさくらは少々退き気味に返した。
「どうしてまた、そんなところへ……?」
「臨海学校よ」
「臨海学校……?」
「そう、私立晶瑞しょうすい学園の臨海学校よ」
「……あ、なるほど」
 さくらの説明に、ことの次第を理解して、進一郎はちょっと落ち着いた。
 ――晶瑞学園と言えば、ふたりにとってはなじみ深い存在。
 もっともこの学園、通常の学校ではない。
 建前としてはキャラクターコンテンツのクリエイターを幅広く育成するための専門校、アニメやラノベ、Vtuber運営に至るまで、あらゆるオタク産業の担い手になるための実践的な教育をするための学校、と謳われている。
 しかしそれはあくまで表向きの顔。
 この学園の4年C組には、進一郎が『WWW』の取材で知りあった、「特殊なお店」のオトコの子/娘ばかりが在籍していた。
『WWW』とはフリーペーパー、『Weekly Willy Work』の略。
「男の子のための高収入求人マガジン」と謳われているフリぺであり、この「willy」というのは幼児語で「おちんちん」の意味。
 つまり、この少年を対象にした求人誌に載る業種はつまり――え~と、そういうもののわけだ。
 中でも4年C組の生徒たちは「Pre Semination Age」と呼ばれていた。
【semination】というのは、まあ、語義は多義に渡るが、ひとつには「射精」の英語。
 つまりプレセミネーションエイジというのは、まだ射精できない少年たちのこと。このクラスのオトコの子/娘たちも、そうした特殊な店の中でも、さらに特殊な嗜好に対応した店で働いている者ばかりなのだ。
 そして進一郎は『WWW』の少年記者、さくらはその上司である編集長であった。
 つまりこの臨海学校も、実質的には『WWW』を読んでいるような好き者連中、通称「大きなお友だち」への「ファンイベント」の意味あいが強いのだ。
「……つまり、キャップはそのイベントの司会者として?」
「そーゆーことね」
 進一郎の問いに、さくらはドヤ顔で頷く。
「あ……あの、それってぼくは行けないんですか?」
「え……?」
「だからその司会者、ぼくがやるとか……?」
「う~ん、それはちょっと……というかアンタ、その食いつきっぷりは何よ?」
 さくらはまじまじと、進一郎の紅潮した顔を見据えた。
 漫画に出てくる「博士クン」みたいな大きな丸眼鏡に、襟足を綺麗にカットしたおかっぱ頭。
 中学二年生の14歳だが、黙っていれば小学生に見えるような童顔。
 学力テストで全国ベスト10にランキングされたこともあるが、ちょっとどこかずれている。
 ついたあだ名が「天才バカポン」。
 天才で、バカで、ポンコツ。
 といっても最近は「天才」が取れて単に「バカポン」呼ばわりが多い。
「――だって伊豆諸島じゃないですか! 海外ではドラゴンズ・トライアングルと呼ばれる地域ですよ!」
 顔を上気させ、進一郎はまくし立てる。
「どらごんず……とらいあんぐるですって……?」
 怪訝そうな顔をするさくらへと、進一郎はなおも続けた。
「はい、大西洋にある三角形の海域、古くより船や飛行機が消滅する魔の海域、バミューダ・トライアングル。それと同様のものが、日本にもあるんです! デビルズ・シーと呼ばれて、デビル、デーモン、モンスターに船が引きずり込まれると昔から漁師に恐れられてるんですよ!!」
「………………」
 しばし溜めて、さくらはただ、ひと言返した。
「あ、はい」
「つまり、伊豆諸島にはシーサーペント、つまり大海蛇が棲息しているに違いないんです!!」
 そう、進一郎はUMAオタク、つまり未確認生物のマニアであった。
 この食いつきぶりに、さくらはしばし呆れていたが、ふと脳裏に閃くものがあり、頷いてみせた。
「――そうね、単純に生徒たちのひとりとしてなら、同行することもできるわ」
「ホントですか!? ぼく、行きます!!」
 一も二もなく、進一郎は頷く。
 そんなわけでさくらはスタッフとして、そして下っ端の進一郎はあくまで「学園の生徒」扱いで、「臨海学校」に同行することになった。
 ――ふっふっふ……ちょろいわね……。
 と内心ほくそ笑む、さくらの思惑も知らないままに――。
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