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3.借り物競争

3.借り物競争

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「う゛……う゛ぅ゛……う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛……」

 進一郎は、おなかを抱えて唸っていた。

「お……おしっこ……したい……」

 ――場所は選手控室代わりのテントの中。

 第二回戦で放尿したにもかかわらず、第三回戦に向けて待機する進一郎は、既にもう尿意を催し、苦悶していた。

 ――どうして……今日はどうしてこんなに何度もおしっこが……したくなるんだろう……ッ?

「あれ、進一郎クン?」

 と、またしても彼の本名を呼ぶ者があった。

 振り向けば、そこにいたのはやはり取材で出会った相手。

 均整の取れた肢体をスカイブルーのウェアに包み、彼はこちらに笑いかけていた。

洩斗えいとクン?」

「どうしたの進一郎クン、顔を青くして?」

 彼は江木月えぎづき洩斗、小学四年生の10歳。コスプレカフェ『C.C.C.』の所属であり、同時にアイドルグループ・ジャンボマンモスのセンターを務めてもいる、超小学級のジュニアアイドルだ。

 例のスマホにも、そのことは記されていた。



 そんな端正な顔立ちの美少年に見つめられ、進一郎の顔もふと赤くなる。

「あ……い……いや、何でもないんだ……ッ!」

 ぶんぶんと首を横に振る進一郎。

 しかし洩斗は全てを見透かすかのように微笑んだ。

「ひょっとして進一郎クン、おシッコがガマンできないとか?」

「え゛……?」

 あなたはテレパシスト? とでもいった顔で洩斗の顔を見つめる進一郎。

「あはは、給水所で水を飲みすぎたんじゃない?」

「そんな……そんなことないって!」

「ふぅん、ならいいけど……給水所で出される水は、利尿剤が入ってるから、飲みすぎない方がいいよ」

「え゛ぇ゛……ッッ!?」

 愕然となる進一郎――しかし、逆にそれでこれだけ尿意を感じることの理由は分かった。

「ど……どうしてそんな……ッッ!?」

 泡を食う進一郎だが、洩斗は不思議そうな顔をするのみだ。

「どうしても何も……出ないと困るじゃない、おシッコ……」

「へ?」

「だって今回のレースも――進一郎クン、ひょっとして事情吞み込めてない?」

「ま、まあ、あんまり……」

「ふぅん、でも第一第二レースで分かったと思うけど――」

 と、洩斗が何やら説明しようとした瞬間。

「――はい、第三回戦の開始です! 選手はスタンバイしてください!」

 さくらのアナウンスが響いた。

「あ、行かなきゃ、それじゃ」

 あっさりと洩斗は立ち去ってしまう。

 話を効き損ねたまま、進一郎も仕方なく後を追い、スタートラインに立った。

「第三回戦は借り物競争! 果たして選手たちはアイテムをゲットして、無事ゴールインできるのでしょうか? それでは――」

 カウントダウンが開始され、そして。

 ――ぱぁん!

 スターターピストルの音と共に、少年たちは一斉に駆け出した――。


 ……。

 …………。

 ………………。

 グラウンドに引かれたコースを走り続ける選手たち。

 しかし、その途中にはやはり、小学校にあるような小さなデスクが設置されている。

 仮装競争の時と違うのは、そのデスクが一台で、その上にはいくつかの封筒が置かれている、ということ。

 と、そのデスクの前に、洩斗が到達した。

「さあ、一番乗りは江木月選手です! 果たして探し出すべき借り物は……?」

 さくらがアナウンスする間にも、洩斗は封を切る。

「えぇと……」

 紙片を取り出し、さすがの彼も顔を引きらせた。

 ――紙片に書かれていた文字は、「尿瓶しびん」。

「これは……」

 今、ここでそんなものが手に入るかどうか……しかし迷っている暇はない。

「あ……っ、あの……っ、みなさんの中で尿瓶をお持ちの方はいませんか!?」

 観客席に向かって呼びかける洩斗だが、なかなか声を上げる者はいない。

 ――と、そうこうするうちにも。

「はぁ……っ、はぁ……っ、はぁ……っ、や……やっと着きましたぁぁ……っ」

 息も絶え絶えになりながら、チェリーピンクのウェアの選手がデスクへとたどり着いた。

「おっと二番目は意外にも水下みなもとしずく選手! 小学四年生の9歳で、江木月選手同様に『C.C.C.』所属。特撮魔女っ子ドラマ『魔法使いシエル・ラ・ソルシェル』で主演を務める、超小学級の読モと呼ばれるオトコの娘です!」

 こののこともやはり、サイトに書かれていた。



 雫はデスクの封筒を手に取り、封を開くが――。

「う゛ぅ゛……ッッ!?」

 奇声を上げ、絶望的な表情になる。

 中から出て来た紙片には「携帯トイレ」と書かれていた。

「あ……あの……ッ、その、携帯トイレ……持っている方は……いらっしゃいませんかぁぁ……ッ///」

 羞恥に頬を染めながら、観客へと訴える雫。

 しかしさすがに、声を上げる者はいない。

 ――と、そこに進一郎も姿を現した。

 封を手にして、中から紙片を取り出すと――そこに書かれていたのは「ペットボトル」の文字。

「えぇと……あの、ペットボトルを持っている方は、いらっしゃいませんか……?」

 おずおずと問いかける進一郎に、間髪入れず、返事が返ってくる。

「おう、取っといてくれ!」

 ぽんと投げ渡されたのは、コーラの500ml入りペットボトル。

「あ、ありがとうございます!」

 ゲットしたペットを握りしめ、そのまま走り出そうとする進一郎だが――。

「おぉ~~っと、黒星選手! そのままじゃ失格になっちゃいますよ!?」

「えっ!? どうして?」

 素で問い返す進一郎へと、さくらもアナウンスというより私語っぽい声をかける。

「どうしても何も、そのままじゃ売れないじゃない!」

「売れない……?」

「とにかく、今までの流れで、何をすればいいか分かるでしょ?」

「わ……分かんないよ、そんなの!」

「本当、バカポンね! しょうがない、他の子たちを見てれば分かるんじゃない?」

「え……?」

 戸惑う進一郎だが、その間にも洩斗はその手に尿瓶を抱え、この場に戻ってきていた。

「え……?」

 何を目的としてか、どうやら観客の中で尿瓶を持ち歩いていた者がいたらしい。

 そして、さらに雫もその手に何やら袋を持って戻ってくる――どうも、あれが携帯トイレのようだ。

 普通に考えれば、「借り物競争」なのだからアイテムをゲットした時点でゴールインすれば、それでレース終了のはず。

 しかし、さくらはそれでは失格だという。

 となると……?

「さあ両選手、どちらが先にゴールインできるでしょうか!?」

 アナウンスに促され、洩斗はしばしもじもじとしていたが、封筒の置かれていたデスクへと、そのおしりをちょん、と乗っけた。

「そ……それじゃあ……します……ッ」

 頬を微かに染めつつ、しかしそれでも観客席の方へと営業スマイルを浮かべてみせた。

 そして、腰に手をやると、そのボトムスをする、と僅かに降ろす。

 と、中からは愛らしい茎と袋とが、ぽろんッと転がり出る。

 その先端は、頼りなげに下を指し示すのみ。緊張のあまり、縮こまったままらしい。

「あぁ……あはぁ……お……おシッコします……みなさん、じっくりご覧くださいね……ッ♥」

 手にした尿瓶を股間へとあてがうと、少年のペニスがガラスの中に収まった。

「し……します……ッ!!」

 洩斗の宣言と共に、その未成熟な男性器の先端から、一条の水流が放たれた。

 ――ぷしゃあああああああああああああああああああああ……ッ。

 勢いよくほとばしった黄金水は、ガラス容器の中に渦を巻きながら、溜まっていく。

 そしてその光景はやはりドローンによって捉えられ、生中継されていた。

「おぉ……ッッ♥ 江木月選手、溜まったおしっこを尿瓶に出しています! あぁ、少年アイドルの放尿シーン、200インチのプロジェクタースクリーンにばっちり捉えられています!!」

 さくらの興奮しきった実況と共に、洩斗のペニスがガラス瓶の中を尿で満たしていく様が大写しになる。

「江木月選手のおしっこ、陽の光を浴びてキラキラ光っています! あぁ……とても美しい色をしています……!」

 そんな解説を受けながら、洩斗の放尿は終わった。

「さあ、少年アイドルの生搾りおしっこ入りの尿瓶! いくらで落札されるでしょうか!?」

 と、電光掲示板にはたちまちのうちに、今までを超える高額が並んだ。

「おぉっと、最高入札額は三十二万円!! さすがアイドル、大変な人気です!!」

 その一方で――。

 雫もまた、その場にしゃがみ込むと同時に、ボトムスを膝辺りにまで降ろしていた。

「お、水下選手も開始するようです! ではちょっと、水下選手の様子にカメラを切り替えましょう!」

「ふぇぇ~~~ッッ、き……切り替えなくてもいいですよぉぉ~~~ッッ///」

 顔を耳たぶまで真っ赤に染めつつ、それでももうガマンの限界なのか、手にした袋を開封する。

 それは蓄尿袋の中に粉末状の凝固剤を入れたタイプの携帯トイレ。

 ポリエチレンの中に、雫はその露わになった、やはり未成熟な男性器を挿し入れた。

 そしてスクリーンは、そんな無色透明のビニールの中のペニスが大写しになった。

「あ……あぁ……もう……出ちゃいますぅぅ~~~ッッ///」

 恥じらいの声と共に、袋の中へと排尿を始める雫。

 ――しょわわわわわわわわわわわわわわわわわわわぁぁ……ッ。

 仄かな湯気を立ち昇らせつつ、小さな袋の中に鮮やかな黄色の液体が満ちていく。

「あぁ……ッ、み……見られちゃってるぅぅ……ッ! 大勢の人に見られてるのに……ボク、おしっこしちゃって……ますぅぅ……ッッ///」

 小さな袋をいっぱいにして、雫の放尿は終わる。

「はぁ……あはぁ……あはぁぁ……ッッ///」

 息を荒らげながら、雫はボトムスを穿き直しつつ立ち上がる。

 そしてスクリーンでは、その手の中に収められた携帯トイレを上空からのアングルで大写しにしていた。

 見れば、そこでは雫の尿が、早くもゲル状に固まりつつる。

「水下選手のおしっこ、固まっております! 美しいレモンイエローでまるでレモンゼリー! とても美味しそうですッッ♥」

「や……やだ、そんな……照れちゃいますぅぅ……っ///」

 顔をなおも真っ赤にしながら、この言にはまんざらでもないらしい雫。

「さて、オトコの娘のビタミンたっぷりゼリー、お値段は……?」

 掲示板にまた、数字が立ち並ぶ。

「はい、水下選手使用済み携帯トイレ、二十万円の値がつきました!!」

 ――そんな観客席の盛り上がりと、そして自分の手にあるペットボトルを交互に眺めつつ、進一郎は戸惑っていた。

「つ……つまり、これに……?」

 既にさっき観客たちに見られていることにいまだ気づいていない進一郎、さすがに衆人環視の前で放尿シーンを披露するのはためらわれた。

「どうしたの、黒星選手?」

 さくらが進一郎のヘッドフォンに囁きかけてくる。

「ど……どうしたも何も……」

「このままじゃアンタ、失格よ?」

「で……でもぉ……っ」

 泣き声を上げる進一郎に、さくらはなおも追い打ちをかけた。

「まあ、別にいいけど? ここで棄権して尻尾を巻いて逃げ帰る?」

「そ……それは……ッ!」

「あ、そうそう。この会場のトイレ、今清掃中で使用不能だから」

「え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛……ッッッッッ!?」

「一番近いトイレとなると、1kmほど先のコンビニかしら? ま、頑張ってね~」

「そ……そんなぁ……ッッ!」

 ペットボトルを握りしめたまま、また進一郎は嗚咽をもらす。

 ここでまごまごしている間にも、尿は膀胱を圧迫して、早く外に出たいと暴れ回っている。

 ――ど……どうすれば……ッッ!?

 一歩、前に踏み出そうとして、それだけで尿道口から中のものがあふれ出しそうになる。

「………………ッッ!」

 決意を固め、進一郎はペットのキャップを外した。

「おぉ……ッ♥ 黒星選手、ようやく演技開始ですッッ!!」

 ボトムスの前をぺろんとめくり降ろすと、発毛の兆しすらない下腹部と、それに続く愛らしい茎が陽光の下に姿を現す。

 ――と、待ち構えていたように、彼の前にはドローンが姿を現した。

「ちょ……ちょっと、何これっっ!?」

 カメラのレンズが、こちらを睨みつけている。

 もちろんそのレンズは進一郎の生白いペニスを捉え、スクリーンへとデータ配信していた。

 しかし、一度出そうと決めた尿を、今さら引っ込めることはできない。

 その、たっぷりとした包皮に包まれた先端を、進一郎はペットの口へと挿し入れる。

 ――しゃあああああああああああああああああああああ……っ。

 涼やかな音と共に、その先端の包皮を破り、淡い黄色の液体が放たれた。

「少年の清浄な小水が、ペットに満ちていきます! 黒星選手のおしっこペットボトル、さあ、いくら!?」

 電光掲示板に、ぽつぽつと数字が現れる。

「え~とぉ……三千円、三千百円……三千五百円……四千円――四千円でよろしいでしょうか?」

 と、進一郎が放尿を終え、ペットボトルの八割が尿で満ちた辺りで。

「はい、黒星選手のペットボトル、四千円で落札です!!」

「え……? な……何でぼくだけそんな値段……?」

 売りたいわけではないが、何とはなしに釈然としない表情で、進一郎はつぶやいた――。
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