海の声

ある

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176.伝えられた想い

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「美雨…ありがとな」

俺がそう言い終わろうとした時、『バカッ!!』という美雨の声が鼓膜を大きく震わせた。

『なんも分かってないッ!バカ。セイジってホントバカだよ…さっきも言ったじゃん。好きな人が居なくなるのはヤだっ…て』

「わかってるよそんな事。だけどさ、海美が居なくならないなんて保証はどこにも無くて…俺は後悔したくな…」

その瞬間、俺は何が起こったのか理解できずにいた。分かるのは後頭部にかかる力と唇に触れている柔らかい感触…

そして、唇から艶やかな音をたてて離れていく柔らかな感触と共に視界に提灯のぼんやりとした灯りが差し込んだ。
そこに浮かび上がるのは薄暗い光に照らされた美雨の顔…そして後頭部から首筋をなぞるようにスーッと美雨の腕が離れていった。

『好きな人って、セイジなんだけど…ばか』

「えっ…」

そこで俺の思考が完全に止まってしまった。コイツ…いま何て?…それにさっきの感触…ちょっ…えっと…何でこうなったんだっけ!?ていうか…えっ?!

「えぇッ?!ゴメン、俺いま何したんだっけ?!えっと…あぁぁぁ!!なんかゴメン!!分かんないけどゴメン!!」

そんな俺を見て美雨の顔に笑顔が戻るのが目に映った。

『ふふ♪まぁいいや、返事は待ってあげる。んで…それだけ元気なら一緒に海美ねぇのトコ行ってあげるケド、その後はすぐに医者に見てもらう事。気持ち悪くなったらその場ですぐに診療所に向かうから!それと…ボクのふぁーすときっす奪った責任は取ってもらうからッ♪』

既に情報処理能力が追いつかず、今の出来事の整理ができないまま、俺は美雨に手を引かれ、あの場所へと足を進めた。
出店が並ぶ道を下ると、あの獣道が見えた。だが日も入り果てているこんな時間のその道は、その先に道があるなど想像もできない程に漆黒の闇に包まれていた。

『セイジっ!ボクの手掴んで!』

そう言って美雨が俺の手を握りしめる美雨。すると、美雨は躊躇することなく獣道へと足を進めたのだ。

「お前正気かよ!?こんな真っ暗じゃいくらなんでも危ないだろ!」

『大丈夫ッ!ボクの身体が道知ってるから!今のセイジでも大丈夫な筈だからッ!』

さっきまで俺の身体が心配なんて言ってたクセに…てか大丈夫な"筈"ってなんだよ!でも、今はそれどころじゃない…か。元はと言えば俺が無理矢理押し通したようなもんだし…少しでも早くあの場所へ行かなきゃ!

漆黒の闇の中、草木が生い茂る中に続く道を下っていく。しばらくすると目が慣れたせいか、美雨の言う通りさほど苦にはならなかった。もしかしたら変な物質が俺の感覚を麻痺させていたのかもしれないが…

なんとか斜面を下っていくと、暗闇に浮かぶ提灯の明かりが樹々の隙間に浮かんでいるのが見えた。ホッとする気持ちが浮かび上がるの同時に、焦りが俺の足を早めさせた。


あの場所への入り口が見える。俺は生い茂る草の中から飛び出すと、美雨を追い抜き階段を駆け上った。確信を持って焦る気持ちを抑えつつ海美が居ることを願いながら。

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