海の声

82.ブロッコリー法案

俺は身体を起こしテレビに映し出されている風景を睨みつけた。
そしてそれが"この島"であることに気づいた頃には俺はテレビの前へと移動し、食い入るように画面を見つめていたのだった。

"豊かな自然が残る沖洲島。この沖洲島で新たな試みが行われようとしております"

アナウンサーの言葉と共に、画面は島の民家が建ち並ぶ風景から島全体を映す上空の映像へと移り変わった。
上空から映し出されるこの島は思ったよりも小さく、ブロッコリーみたいな緑に埋めつくされた島には本当に何もない。そしてその周囲を取り囲む沖洲の海は…言葉にならないくらい本当に綺麗だった。
例えるならソーダのゼリーの真ん中に巨大なブロッコリーが盛られているような…うわ、なんか気持ち悪い。
するとまた画面が切り替わり、会議室のような場所が映し出される。
教卓のような机の前にはひとりのスーツ姿の男の人が手を机に着いて立っている。
そして間も無くその人物が口を開いた。

"えー、今回の沖洲島リゾート開発考案についてですが…"

そう言ってその人物は机の上の紙に視線を移しつつ難しい言葉をスラスラと読み上げていく。総合保養地域整備法だのどこどこの経営再建はどうだっただの俺にはよく分からないが、俺はそのニュースにただただ聞き入っていたのだった。

『何これ、沖洲島とか出てるじゃない。』

背後から夕食の支度を終えたのであろう母さんの声がした。

母さんはオトナだ。俺と違って、難しい内容のニュースを見て"へぇー"とか"どうなっちゃうのかしら"とか一人でブツブツ呟いている。

ニューススタジオへと画面が切り替わったタイミングで俺は母さんに今のニュースの翻訳を求めた。