海の声

ある

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53.島の味

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「えっ?なに?」

『ほら、しょーがないから手貸してやるッ。』

まっすぐ俺に向かって伸ばされた小さな柔らかい手を掴むと、俺の腕がグッと引っ張られた。しかし、その細い腕は千切れてしまうのではと思う程に俺の身体を起き上がらせられていない。

『力入れろよぉ!!』

痛む背中と腹に力を入れ一気に身体を起き上がらせた。

「ッッ…っと…さんきゅ。」
美雨の頭にポンと触れ、不器用ながらも精一杯の笑顔を作って見せた。

『え、うん。』

思わずしてしまった子供扱いするような行為に怒るかと焦ったが案外そんな事もなく、つくり笑顔の精度に関しても特に非難が無かったのは想定外だった。

『さぁーて!早くしねーと鮮度が落ちちまう!こっち来な。』

俺たちの様子を黙って見ていた漁師のおじさんは、ニヤニヤとしながらそう言うと、建物の奥へと案内してくれた。

風通しが良く開放的な屋根の下、太陽の日が当たるか当たらないかくらいのところにプラスチックの籠がひっくり返して置いてあり、その上には使い込まれたまな板と、黒光りした刺身包丁が置かれている。

『ちょっと待ってな。』

そう言っておじさんがどこかへと歩いて行く。その後ろ姿をぼーっと見つめ、ふと視界に映った美雨に目をやると、美雨はじっと一隻の船を見つめていた。

他の船と比べて年季の入ったその船は、ぷかぷかと波に揺られ、静かに漁へと出るその時を待っているようだ。

「あの船は??」

俺が声をかけると、美雨はハッとした表情をして『カンケーなぃだろ…』と呟いた。

その言葉にいつもの覇気は無く、あの船に特別な思い入れがあるのだろう、と俺は勝手にそう思った。ただ単にぼーっとしていたというのが正解だろうけど。
その船にはフジツボに隠れて微かに文字が見える。
…よくわかんないや。

『待たせたなぁ、ほれっ、うんまそうなマアジだろう??』

いつのまにか戻って来ていたおじさんはプラスチックの籠に入った魚を俺たちに見せて真っ黒な肌から白い歯を輝かせた。
「あぁ、そうですね。」
そんなこと言われても良い魚と悪い魚の違いは分からんのだ。それ以前に魚の種類も。

『うまそー♪早く捌いちゃってよッ!!オッチャン!!』

美雨の元気な声が屋根の下に響いた。
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