本日は性転ナリ。

ある

文字の大きさ
上 下
185 / 277

189.桜の妖精

しおりを挟む
その花びらを手に取り稚華さんが優しげに微笑んでこう言った。

『自分でも不思議なくらい嶺の居ない生活に慣れてきた自分が怖い。』

花びらをベイちゃんの頭の上へとそっと置き、
『嶺が居ない私なんてあり得なかったのにさ。』そう言ってベイちゃんを抱き上げた。

"元気出してッ♪"

その瞬間、私の持っていた紙コップが手からスッと離れ、シートへと落下した…


賑わう周囲に相反し私たちは目を見開き言葉を失う。

…突然ベイちゃんから流れた音声を私たちは雑踏の中確かに聞いたのだ。
勿論、再生ボタンは綿に包まれた内部に収納されており、外から握った程度ではそのボタンを押すことはできない…

すると稚華さんの目に煌めく小さな粒が見えた。

『うん…アリガト…嶺ッ…』

その言葉に私たちの目からも温かいものが零れ落ちていく。

その時、"ひゅーっ"と春の風が桜の花びらと共に私たちを包み込んだ。

ふと顔をあげた私は涙に滲んだ視界の先に桜の樹の下に佇む小さな人影を見た。

私は妙な胸騒ぎを覚え涙を拭ったが、その人影は忽然と姿を消してしまった。

レイ…ちゃん?

何故か私はそう感じたのだ。しかしその真意も分からないまま春の風にそっと吹かれて消えてしまった。



その日の帰り道。

『ホントに今日はありがとう。嶺もきっと満足してるよ。』

手にしたベイちゃんを見つめ稚華さんが言った。

「うんッ、また桜が散る前にもう一度お花見しようね♪」

『そうだねッ、また近々、嶺も一緒に。』

稚華さんはベイちゃんの手を取り"バイバイ"と手を振った。
その表情は"あの頃"のように穏やかで優しい"姉ちゃん"であった。


私と莉結は穏やかな風が舞う街並みをゆっくりと歩いていく。

駅のバスターミナルへと着いた時、「ねぇ、学校の近くの堤防行かない??」と莉結の手を握った。
『えっ、いいけど、どうしたの??』

「ちょっとね、お願いッ!!」

私たちは学校方面のバスへと乗り込み堤防へと向かった。

"プシューッ…"

排出音と共にバスのドアが開く。

バス停へと降り立った時、莉結が突然『堤防まで競争ねッ♪』と言って走り出した。

「えぇっ!待ってよーッ!!」

春の風に靡く長い髪を追って走っていく。

しばらくして草花の匂いと桜の仄かな甘い香りが私たちを包み込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

TSしちゃった!

恋愛
朝起きたら突然銀髪美少女になってしまった高校生、宇佐美一輝。 性転換に悩みながら苦しみどういう選択をしていくのか。

女の子なんてなりたくない?

我破破
恋愛
これは、「男」を取り戻す為の戦いだ――― 突如として「金の玉」を奪われ、女体化させられた桜田憧太は、「金の玉」を取り戻す為の戦いに巻き込まれてしまう。 魔法少女となった桜田憧太は大好きなあの娘に思いを告げる為、「男」を取り戻そうと奮闘するが……? ついにコミカライズ版も出ました。待望の新作を見届けよ‼ https://www.alphapolis.co.jp/manga/216382439/225307113

新しい自分(女体化しても生きていく)

雪城朝香
ファンタジー
明日から大学生となる節目に突如女性になってしまった少年の話です♪♪ 男では絶対にありえない痛みから始まり、最後には・・・。

君は今日から美少女だ

恋愛
高校一年生の恵也は友人たちと過ごす時間がずっと続くと思っていた。しかし日常は一瞬にして恵也の考えもしない形で変わることになった。女性になってしまった恵也は戸惑いながらもそのまま過ごすと覚悟を決める。しかしその覚悟の裏で友人たちの今までにない側面が見えてきて……

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

初恋の幼馴染の女の子の恰好をさせられメス調教もされて「彼女」の代わりをさせられる男の娘シンガー

湊戸アサギリ
BL
またメス調教ものです。今回はエロ無しです。女装で押し倒されいますがエロはありません 女装させられ、女の代わりをさせられる屈辱路線です。メス調教ものは他にも書いていますのでよろしくお願いいたします

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

俺がママになるんだよ!!~母親のJK時代にタイムリープした少年の話~

美作美琴
キャラ文芸
高校生の早乙女有紀(さおとめゆき)は名前にコンプレックスのある高校生男子だ。 母親の真紀はシングルマザーで有紀を育て、彼は父親を知らないまま成長する。 しかし真紀は急逝し、葬儀が終わった晩に眠ってしまった有紀は目覚めるとそこは授業中の教室、しかも姿は真紀になり彼女の高校時代に来てしまった。 「あなたの父さんを探しなさい」という真紀の遺言を実行するため、有紀は母の親友の美沙と共に自分の父親捜しを始めるのだった。 果たして有紀は無事父親を探し出し元の身体に戻ることが出来るのだろうか?

処理中です...