想色40season's

ある

文字の大きさ
上 下
1 / 19

響く先は夏の星空

しおりを挟む
「莢果(さやか)!    おい、返事しろよ!    なぁ!    おい!    莢果ッ!」

    少し蒸し暑い、夏草の匂いが仄かに香る道にしーちゃんの切迫した声が響いた。
    私がぼーっと目を開くと、目の前には今にも泣き出してしまいそうなしーちゃんの顔。その後ろには今まで見たことも無い程に綺麗な星空が広がっていた。

「莢果……大丈夫だ。すぐ、救急車、来るはずだからさ、な?    だからもうちょっとだから……」

    今まで見たことない程に不安な表情を露わにするしーちゃんが心配になって私が身体を起こそうとすると、お腹の辺りに変な違和感を感じた。ジンジンとした、ずっとお湯が溢れている様な変な感覚……そこでふと思う。
    ……そういえば何で私は寝てるんだろう。
    すると、ぼんやりと直前の記憶を探していた私の肩をしーちゃんが優しく掴んでそっと地面へと戻した。
    私が不思議に思ってしーちゃんの顔を見上げると、しーちゃんは何故だかグッと目を瞑って私の頬へ大粒の涙をポタポタと零しだした。

「しーちゃん、どうした…」

    私が言いかけた時だった。
    突然思い出したかのようにお腹の辺りに激痛が走る。それは痛覚の限界を思わせる程の痛みで、同時に自分のものと思えないような低い呻(うめ)き声が喉の奥から捻(ねじ)り出された。

「おい、大丈夫?!    いいからじっとしてなきゃ!    くそっ……まだ来ないのかよ」

    そこでやっとしーちゃんがいつもと違うのは、私のせいなのだと理解する。しかし気付いた時には私はこの状態になっていて、このお腹の痛みの心当たりがまるで思い出せずにいた。

「なんか……お腹のとこが凄い痛いよ……痛い……何が……あったの?」

    私が痛みを堪えつつも絞り出したその言葉に返事は無く、言葉の代わりにしーちゃんが私の手をギュッと握りしめた。その一瞬、私は痛みを忘れてその温かな大きな手の感触に浸ってしまう。
    だって今までずっと近くに居たのに、二人が大きくなってしまってからは手を繋いだ事なんて一度も無かったんだもん。
    しかしその幸せな感覚は瞬く間に痛みに上書きされてしまう。
    そんな私の小さな幸せすら邪魔をするその痛みの先、お腹の辺りへとゆっくりと視線を向けた私は、そこに異様な光景を目の当たりにした。
    太さはトイレットペーパーの芯くらい……丸くて鈍い光を反射する一本の長い棒が私のお腹から……生えている?
    そしてその棒の根元には、真っ赤な絵の具みたいな液体が静かに波打って、私が今日初めて袖を通したばかりの真っ白な浴衣を赤く染め上げてしまっていた。
    "血の気が引く"という言葉の意味を身に染みて感じた瞬間だった。
    それから私の意識がすぅーっとどこかへと引っ張られていくような感覚に襲われ、気がつくと私は……しーちゃんの家の庭に立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

処理中です...