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あれから何度求め合ったのか分からない。
ベッドから抜け出せば、もう終わりだとお互い言い合ったのに、湯船で終わりなく求め合い、もう止めようと言いながら、リビングで横たわればその場で身体を重ねた。
深夜にようやく力尽きて眠りに落ちれば、リビングの堅いソファの上で目が覚めた。
俺は兄の腕の中にいた。ブラインド越しに、白々と青い朝が訪れている気配がした。目を擦ると、幾分視界がクリアになり、ただ身体の気怠さだけが昨日の激しい夜を物語っていた。
あの怠い身体に、良くあんな体力があったものだと、我ながら感心してしまう。
「起きた?」
声を掛けられて顔を上げると、兄の唇が降ってきた。朝に似合う、重ねるだけの優しいキスだ。
「おはよう」
「おはよ、悪いな。こんな場所で。ベッドに運ぼうと思ったんだが、さすがに体が怠くて、少し眠ってた」
兄が苦笑いすると、俺は首の下にある彼の二の腕に頬を擦り当て、
「ここならどこでもいい」
と掠れた声で答える。
ベッドの上でも堅いソファの上でも、どこでもいい。
そう言うと、兄は俺を抱き締めてくれた。俺達はお互いに抱き合いながら、木の根のように足を絡ませて、窓の外からじわりと滲み寄ってくる朝から逃れる様に抱き合った。
もう戻れない場所まで来てしまった。
一艘の船に乗せられ、広大な海に放たれたような不安が、不意に胸に去来する。それは幸せの隙間を縫って忍び寄り、何度も俺の影に身を顰め、隙を突いては俺の心を、何度でも黒く覆うのだろう。
「好きだ、もう絶対離さない」
囁くように呟いた兄の俺を抱く腕に力がこもる。彼の体の熱が、俺の胸を焼いて、心も、思い出も焼き焦がそうとする。俺はそれにそっとを目を閉じて、一度だけ頷いた。
もう俺達には未来しかない。
「愛してるよ」
けれど、この先光のない場所でも、胸に宿った炎だけは生涯消える事はないから、きっと生きていける。
俺は兄の腕の中に深く潜り込んで、思い出を遠く見えない場所へと投げ捨てた。
ベッドから抜け出せば、もう終わりだとお互い言い合ったのに、湯船で終わりなく求め合い、もう止めようと言いながら、リビングで横たわればその場で身体を重ねた。
深夜にようやく力尽きて眠りに落ちれば、リビングの堅いソファの上で目が覚めた。
俺は兄の腕の中にいた。ブラインド越しに、白々と青い朝が訪れている気配がした。目を擦ると、幾分視界がクリアになり、ただ身体の気怠さだけが昨日の激しい夜を物語っていた。
あの怠い身体に、良くあんな体力があったものだと、我ながら感心してしまう。
「起きた?」
声を掛けられて顔を上げると、兄の唇が降ってきた。朝に似合う、重ねるだけの優しいキスだ。
「おはよう」
「おはよ、悪いな。こんな場所で。ベッドに運ぼうと思ったんだが、さすがに体が怠くて、少し眠ってた」
兄が苦笑いすると、俺は首の下にある彼の二の腕に頬を擦り当て、
「ここならどこでもいい」
と掠れた声で答える。
ベッドの上でも堅いソファの上でも、どこでもいい。
そう言うと、兄は俺を抱き締めてくれた。俺達はお互いに抱き合いながら、木の根のように足を絡ませて、窓の外からじわりと滲み寄ってくる朝から逃れる様に抱き合った。
もう戻れない場所まで来てしまった。
一艘の船に乗せられ、広大な海に放たれたような不安が、不意に胸に去来する。それは幸せの隙間を縫って忍び寄り、何度も俺の影に身を顰め、隙を突いては俺の心を、何度でも黒く覆うのだろう。
「好きだ、もう絶対離さない」
囁くように呟いた兄の俺を抱く腕に力がこもる。彼の体の熱が、俺の胸を焼いて、心も、思い出も焼き焦がそうとする。俺はそれにそっとを目を閉じて、一度だけ頷いた。
もう俺達には未来しかない。
「愛してるよ」
けれど、この先光のない場所でも、胸に宿った炎だけは生涯消える事はないから、きっと生きていける。
俺は兄の腕の中に深く潜り込んで、思い出を遠く見えない場所へと投げ捨てた。
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