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しおりを挟む薄ぼんやりとした、淡い光が滲む早朝。濃く重なり合う葉が朝陽を遮り、辺りは午前八時を過ぎたというのに、まだ夜明け前のような仄暗い夜の縁に取り残されていた。
ジルは眠気眼で窓の外へと顔を向けると、その薄い灯りに過剰反応するかのように目を細めて、白いレースのカーテンを閉じる。
「早くこちらへおいで。窓の近くは危ないよ」
背後からかかる声へと振り返ると、ベッドの中にしっかりと潜り込んだカインが手招きしていた。
「森に囲まれているから、今なら外も歩けそうです」
ジルはそう言いながら、カインのいるベッドのそばに腰を下ろすと、その眠そうな眼を覗き込んだ。
「ああ、今度ね。俺が眠くない時」
「それは一体いつになるんですか?」
今度ね、と受け流された回数は、数えるのも億劫な数字になって来て、ジルはわずかに眉を潜めた。けれど、すでに目をしっかりと閉じてしまっているカインには、その訴えは届かない。諦めるように小さく息を吐くと、ジルはレースカーテンの向こう側から滲むように漏れてくる朝の気配をぼんやりと眺めた。
もう何年――何十年と、いや、もしかしたら百年単で、朝陽を見ていない気がする。
ジルはすでにはっきりと頭で再生できない程擦り切れてしまった遠い記憶を辿りながら、懐かしむとはまた違う感覚に捕らわれていた。懐かしむにしては遠過ぎて、もう人様の記憶に触れるような感覚があった。
「ジル、こっちにおいで」
不意に呼ばれて振り返ると、ジルの白く細い手首を、カインが優しく引いた。ジルはそんな彼を見下ろしてから、口元に淡い笑みを浮かべると、彼の体温で温められた布団の中へ、身体を滑り込ませる。
「今日は七時に酒屋が来て、オープンは九時です」
「知ってるよ」
「ラタトゥイユを作ろうと思ってます」
カインの長くしっかりとした腕に抱かれながら、ジルは分かち合う体温の間でゆらゆらと、あやされるような眠気に襲われた。カインはジルの背中を大きな掌でゆっくりと撫でながら、自分と同じ眠気の縁にジルを誘い込む。
「楽しみにしてるよ」
カインの言葉に頷いて、ジルはゆっくりと目を閉じた。
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