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エンデラ王国と不死族

レプリカノ杖

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 天音あまねが、貴族や官僚達かんりょうたちに、人気が出たのは、ある意味よかったのかもしれない、ハクルとシャザの死体を天音に運ばせて『トライセラトリス』をつぶした手柄てがらを、天音が配下の虎鉄とやったことにして、更に名声を高めて貰おうじゃないか、そうと決まればということで、千景ちかげ白狐びゃっこの所に向かった。

「ということだ、白狐」

「天音様の人気取りにですか……それはそれで面白いかもしれませんね、主様は動きやすくなりますし、私は賛成ですよ」

「食っちゃうぞー、食べちゃうぞー」と言って、赤狐しゃっこがゴルビスに捕まっていた少女達を追っかけていた。昨日運び込まれて来たばかりだというのに、少女達は赤狐に追いかけられながら、キャーキャー叫びながら元気に、芝生しばふの上を、走り回っていた。

「なんか赤狐が、ああいうことを言うと、冗談じょうだんには聞こえないな……」

「そうですか? 赤狐も食用とそうでないものとの区別は、きちんと出来ていますよ、主様」

「食用……まあいいか……でも昨日運び込まれてきたのに、元気だな、あの子達、なにかしたか?」

「ええ、あそこでの体験は忘れて貰いました、生きていく上での記憶としては不要でしょうし、それ以外は、体は綺麗きれいなものでしたし、健康状態も良好でした。いたぶる前に、体力を消耗しょうもうされていては、つまらないものですから、ゴルビスにいたぶらせる商品として、品質は『トライセラトリス』が、良質な状態に保っていた、というところでしょうか」

「そうか、そうか……」

「その表情、元居た世界では、もっと残虐ざんぎゃくなことをしていた方の顔とは思えませんね、主様」

「あれはゲームの中の話で……」

主様あるじさまが絶対の正義の私達にとってすれば、主様があそこの少女達を全力で守れというのならばそれに従いますよ」

「そうだな、全力で守れ」

「かしこまりました、主様」白狐が、赤狐と少女達の元へと歩いて行った。その背中に千景は「その子達を医務室に預けたら、ハクルとシャザをこっちに持ってきてくれ、天音も向かわせる」と言って、エルタと天音が食事をしている部屋まで戻った。

 部屋に入ると、少しだけ変であった。部屋の中にいる者の視線が、一点に集中して、その先にはいつもの調子で食事をしている天音の姿があった。そういうことか、料理を運ぶ初老の執事を呼び止め、今どれくらい天音は食べたのかと聞くと、十人分は食べていると言うことだった。その執事から、皿を受け取り、天音の前にそっと差し出すと、皿を出したのが千景だと気付かずに、綺麗に平らげて、すかさず横にいたメイドがその皿を片付けた。その様子を見ていた、エルタが、クスクスと笑い出したので、天音が異変に気付き、顔を赤くした。

「ど、どうでしたか御館様、みんなの様子は……」

「特に変わりなかったよ」と言って、千景は天音の耳元に口を寄せ「白狐と合流して、天音が『トライセラトリス』を潰してきたと警備隊に報告してくれ」とささやいた。

「天音がですか、かしこまりました、御館様」部屋を出て行く、天音を見送りながらエルタが「天音様はどこに行かれるのですか?」と聞いてきたので答え「街のゴミ掃除の報告だ」と千景は答えた。

「天音様がいると、天使に守れている感じがします」

「実際それだけのことをしているよ天音は、そうだエルタ、ゴルビスの屋敷を貸してはくれないか、そうしなければ昨日みたいにみんなで雑魚寝ざこねだ」 

「そうですね、城に部屋を用意しようと思ってはいましたが、その方が千景様達にとって都合が良さそうですし、そうしましょうか、ヒリングを呼んできて」

 少しすると、ヒリングがやってきて、千景の要望ようぼうをエルタがヒリングに伝えると、かしこまりましたと言って、すぐさま部屋を出て行った。

「千景様も料理を食べたらどうです?」

「そうだな」
 
 二人は、今日の戴冠式たいかんしきや、会議の事を話した。ゴルビスが宰相さいしょうになるまでは、地方領主たる貴族の権限も強かったが、ゴルビスが宰相になってからは、中央集権がし進められ、ゴルビスが持つ権限は相当に強化されていた。貴族が、新しい税収をす時には、中央に報告しなければならない義務や、貴族間の兵力の移動も制限が課せられていた。ただ魔導学院を所領に持ち管轄かんかつする、ノルヴァイン侯爵は、特例を受けているということだった。それと共に、教会にも独自の権限が認められていた。

「正直言うと俺も天音が居てくれて助かったよ、天音があそこまでこういうことに関して、力を発揮するとは思っていなかったな」

「そうですね、的確な助言や、発言で貴族や官僚の方達を唸らせてました。ゴルビスの権限が、私にそのままきたので、みなさん不安なところもあったでしょうが、表面的にでも納得して協力的でしたね、腹の底では何を考えているのかは、今はまだわかりませんが」

「そうだな、言ってもまだ女王陛下様、初日だからな」

「茶化さないでください、千景様」

「しかし『黒渦くろうずの杖』については、情報がなかったな、亜人のことや、魔法のことは段々わかってきたが」

「そうですね、そういうのに詳しいのは、やはり教会でしょうか、ちょっと待ってください千景様、はい、はい……わかりました……少しの間、私と千景様だけにして下さい」と言って、エルタは部屋から人を外に出させた。人が出て行ったのを見計らって、エルタの半身からルルカが出てきた。

「一人の体に二人居るっていうのは大変そうだな……」

「そうでもないぞ、わらわは大体いつも寝ているからな」

「ルルカ様の心配をしているわけじゃない、エルタの心配をしているんだ俺は」

「ふんっ! つれないやつじゃのう、まあいいわ」

「出て来たってことは、何か話があるんじゃないのか?」

「とりあえずは、まあ、エルタとミレアを救ってくれてありがとうじゃな、疲れているようじゃが大分落ち着いたのはエルタを通してわかる、今後も力になってくれや」

「ルルカ様に、お礼を言われるなんて思わなかったよ」

「ふんっ、わらわだって礼くらい言うは、それよりも『黒渦の杖』が共振しておる、気を付けろよ、レプリカの杖は邪渇宮にあった物だけではないからの」

「そうなのか」

「千景、おぬしが来たから焦ってるやもしれんのう杖は」

「と言われても、まだどんな物かもさっぱりわからないし、気を付けろと言われてもなあ」

「そのうち向こうの方から命を取りに来るじゃろう」

「ぶ、物騒ぶっそうですね命を取りに来るなんて」エルタも会話の中に入ってきた。

「そうじゃのう、まあわらわもわらわで、遠くを見て、それらしいものを探しておこうかの」

「遠くを見る?」

「おぬし達だけが、千里眼せんりがんを使えると思うなよ、わらわだって使えるぞ、わらわも徐々に力を取り戻しつつあるからな」

「俺の事は見えるのかそれで?」

「ん? む……見えんな、何かしておるじゃろ、意地悪いぢわるな奴め」

「そうか、よかった、俺達の世界の防御結界ぼうぎょけっかいで防げるということか、意地悪をしようとしたわけじゃないんだ、確認のためだ確認の」

「むー、そうか、まあよいは、とりあえず、言いたいことは言えたからわらわは、また元に戻る」そう言って、エルタの中に引っ込んでいった。

「いつも急だな」

「そうですね、でも普段は静かなものですよ、ルルカ様に話かけられるまで忘れてしまうくらいには」

 少しすると、どんドンどんドンと、扉からノックの音の域を超えた、もう少し力を込めたら壊れるんじゃないかという音がして「おやかたあ、入ってもいいですかあ」とその音に続いて虎徹こてつ間延まのびした声が聞こえた。千景が返事をすると、部屋に虎徹とミレアが入ってきた。

「丁度よかった虎徹、俺は一回ここから出る、お前一人で、護衛ごえいできるよな?」

「まあかしといて下さい」

「宙音と水音もここにくるように言っておくは……」

「不安ですかい?」

「念のためだよ」そう言って千景は部屋を出て行った。
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