シノビーツナイトコア AW:RIMIX

駿河ドルチェ

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エンデラ王国と不死族

エンデラ王国ノ事情

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 黒い大地から、吹き荒ぶ、魂の底からこごえそうな冷たい風、エンデラ王国の陽光ようこうの丘に吹く風は、比較的温暖なこの国の風の中では、異質いしつなものであった。その丘に設置された魔晶石を加工して造られる、巨大な魔晶石の集合体『アールシャールの眼光』が放つ光が、黒い大地と接するこの地方の夜を照らし出し、黄色の光に包まれ、明るく輝いていた。

「あとこの光はどれくらい持ちそうだ」エンデラの魔導部隊まどうぶたいの隊長が、光の調整をしている技術者に声をかける。「出力の微調整びちょうせい誤魔化ごまかしていますが、もって、一週間かと」アヴァルシス王国から魔晶石の補給ほきゅうが出来ないまま、光が弱まってきて以来、黒い大地の方では、影の中にうごめく者が、ボコボコと大地の表面に現れては消える頻度ひんどが増えている。

「あの様は見ているだけでぞっとするな」そう言い放った隊長の服装は、黒い大地から来る魔障ましょうびた風を、防ぐために特殊な加工をほどこされたローブを身にまとい、口にもマスクをしている。『アールシャールの眼光』によって、浄化されているとはいえ、長時間その風を浴びるのは、危険であった。

 この光が、消えた時、この国はやつらに食い尽くされる。そうなると生命力そのものを食われ人間は『リヴィングロスト生を失った者』になり彷徨うさまよしかばねとなる、そいつらがまた人間に襲い掛かり、鼠算式ねずみざんしきに増えて行く。その数はどんどん増えて行く。エンデラ王国全土が『リヴィングロスト』の巣窟になる。ゴルビスは自分の国で魔晶石の採掘さいくつが出来るから自分の国には被害がこないと思っているが、それは大間違いだぞゴルビス。心なしか『アールシャールの眼光』の光がまた少し弱くなったように感じた。

 エンデラの首都ガジスその王宮の中に、『白夜びゃくや断罪者だんざいしゃ』の第一位隊長アタルの姿があった。アヴァルシス王国でのことを国王に報告するために。大きな扉を開き、王のそばへと急ぐ。自体はきゅうようしていた。

「国王、戻ってまいりました」

「アタル、待っておったぞ、どうであった?」

「まずセギリが、ゴルビスの命を受けて反乱を起こしていたノーゼス公の首を取り、アルザック男爵だんしゃくに引き渡し国境線で起きていた争いを鎮圧してまいりました。そしてアルザック男爵にすぐに魔晶石の供給を再開して、貰うように伝えてあります。私は、ゴルビスの死んだことの裏付けを取るためにゴルビスの屋敷に潜り込んだのですが、一度捕らえられました。どうやらエルタ女王は化物を飼っている様子でして、近づくことは困難こんなんと判断しました」

「お前を捕らえるだと、そんな化物がエルタ女王の近くに? そんなものがアヴァルシスにいたのなら、国王を殺せなかったはずだが……その時にはそんな報告は上がっていなかったはず」

「ビマはきちんと国王殺しの仕事をこなせました、ただその後『邪渇宮』に行ったきり、その後の足取りはわかりません、あそこで何があったのか……化物はそこから来たのかもしれません、あくまで仮定ですが、ビマが戻ってこない以上は、そういうことかと思います。化物の主人らしきものと話をする機会がありましたが、聞くに聞けませんでした……」

「そうか、ビマは……しかしどうするか……父君を殺した我々にエルタ女王は、我々の要望ようぼうを聞き入れてくれるのか……間に合うか」

「エンデラの民を思い、行動されたことは我々は間違っているとは思いませんが……その行動で背負った罪が大きすぎますので……」

「ゴルビスを徹底的てっていてきに攻めてやりたいがもうやつはいないし、くそっ、国王殺しの見返りの魔晶石鉱山をもらい受ける話も消えてしまったではないか……」

「私は、やつが生きていたとしても、我々がのどから手が出るほどほしかった鉱山を素直に渡すとは思えませんでしたが」

「我々が関与かんよしていることを叫ばずにってくれたのがせめてもの救いか……」

「そうですね、ただビマが帰ってこないことと、私がゴルビスの屋敷で出会った化物の様子からすると、国王殺しは、知られていると考えた方がいいです、ただその事について責めてくる様子でもなかったですが、化物のあるじらしき者は、魔晶石のことをエルタ女王に話を通してくれると言っていましたが、それで話が通るかは別の話だと思います」

「そいつもエルタ女王も何を考えているのか、さっぱりわからんな、確実なことはこちらの状況は悪化している、それだけだ、今後どうするかだ、私が直々じきじきに会いに行って、話をつけてくるか」

「アヴァルシス王国内で、何が起こっているのかわからないうちは危険かと、我々にわかっていることは、ゴルビスが死に、エルタ女王が誕生したということだけです。今後、我々に国王殺しの報復ほうふくの兵を送ってくることも十分考えられますし、国王が直接行ったのなら責任を取らされるかもしれません……」

「うーむ、そうは言っても、もう時間がない」

「私がもう一度行ってきます、今度は正門から堂々と、エンデラ国王の勅使ちょくしとして行って参ります、直接エルタ女王に会わないと話が進みませんし、もし国王殺しの罪をとがめられた場合にはすぐさま私はそこでそのせきを取り自決します」

「待て、今お前に死なれたら、この国は終わる、その時は知らぬぞんぜぬをつらぬきとおせ」

「そんなことが通じる相手ではないのです……」

「お前にそこまで言わすのか……」

「私をおろかかな王だと思うか? アタル」

「いえ、今、後ろを振り返ってみても国王が選択することが出来た道は、この道しかなかったと思います、我が国が、黒い大地に飲み込まれないようにするためには、私でもそうしました」

「そうか……つまらないことを聞いたなアタル、頼んだぞ」

「かしこまりました、我が王よ」

 アタルはその場を後にして、アヴァルシス王国に舞い戻るための支度をするために自分の宿舎しゅくしゃへと足早に向かった。帰ってくるときには、魔晶石と一緒に戻ってこないと、この国は……悪い想像だけが脳裏のうりめぐる。浮かない顔したアタルに、女性が声をかけてきた。

「アタル隊長、大丈夫ですか? お疲れなのでは」

「セギリか、そうも言ってられない、俺はもう一度アヴァルシス王国のアルスミラに向かいエルタ女王に謁見えっけんしてくる」

「そうですか……報告の時に聞きそびれたのですが、に、兄さんは……ビマ副隊長はどうでしたか?」アタルは、目をせ首を横に振った。「そ、そうですか……」

「セギリが『白夜の断罪者』の一員としてノーゼス公の首を取れたことを伝えられると思ったんだがな」

「ノーゼス公は私の事をいつもいやらしい目で見ていて、せいせいしましたよ。アヴァルシスの貴族はあんなのばかりなのですか」

「たまたまだろう、そう思いたい、俺はもう行くぞ」

「ア、アタル隊長」

「なんだ?」

「い、いえ何でもないです……どうかご無事で、戻ってきてください」

アタルはその言葉には答えず、セギリに微笑ほほえみかけ、その場を後にした。
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