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アヴァルシス王国騒乱
猿ノ章
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中にいた男は、扉が開く音を聞くと、台を拭いてる手を止め、そのにこやかな表情を崩さずにこちらを見た。千景の視界と、千里眼の視界が重なり合う、男と千景の間には、微妙な距離感がある、男は、千景の頭から足元までなぞる様に見てから、先に口を開いた。
「どちら様でしょうか?」男は体勢を保ったまま、口だけ動かして千景に語りかける。千景は何も答えず男の目を見据える。分身の術を使わずに、ここに千景の本体で来た意味、男に『傀儡操針の術』の針を首筋に差し込めば全ては終わる話だが、それで終わらせてはいけないような気がしていた。
二人の腹の探り合いをしているような、沈黙の時間が流れる。先に動いたのは、男の方であった、口元が動いたかと思うと、男の体から白い触手なようなものが浮き出て、壁に張り付いている少女達の死体の方に伸びて行き、手足に纏わりついていく。
男の職種は、屍操師、千景は表情を変えることなく、男から視線を外さない、本来だったら、男の体から伸びる、あの触手は、普通の人には見えることが出来ない類の物だった。しかし、強化された千景の目には、その様子がありありと見て取れた。白い触手の動きが止まり、男の準備が、完了したのか、今まで動かさなかった体をこちらに向けて「では私から名乗ります、私の名前はシンツー『トライセラトリス』って知っていますか? それは知らなくてもこの国の、宰相であるゴルビスは知っているでしょう、ここにいるのならばね、で……ご用件は?」と神経質そうな様子で話しかけてきた。
「ゴルビスがどのような者を、飼っているのか直接見に来た」
「飼う? はっ!」シンツーは、鼻で笑った。そして「我々は共犯者ですよ、私達の商売を彼が円滑にして、私達は彼の望む者を、彼が望む形で供給する、そこに上下の関係というものはなく、勿論飼うという言葉は私達と彼との間の関係を指し示す言葉としては不適切です」と続けた。
「ゴルビスとお前達が共犯者?」
「そうです、ええ、そうですとも、私達は実に趣味が合うんです、こういうことはですね、一人で楽しむよりも気が合うもの同士で楽しんだがほうが、何倍も楽しいんです、どうです? 美しいでしょ」シンツーは、誇らしげに、壁に貼り付けにされた少女達の死体を指さした。
「わからないね、わかりたくもない」
「はっ! 芸術がわからない下等な猿が!」シンツーは鼻で笑いながら千景を罵った。そしてシンツーは『デッドマンズ・スキャーリー』と大声で唱えた。すると少女達の死体が、閉じた瞼が限界まで開かれ、体を前面に押し出し、仰け反りながら、力いっぱい叫びだした。その叫び声の大きさで部屋の壁や、天井までが地震かと思えるくらいに震えた。シンツーのにこやかな顔が、その叫び声を聞いて、さらに、恍惚を帯びた表情になる。
「どうです! 苦しめて苦しめて、苦しめた分だけ、少女達の死体から大きな声が出るんです。私達の作品素晴らしいでしょー! この歌声のよさわかります? わかりませんよね! そんな芸術が理解出来ない猿は猿らしく、無様に死んでください!」
シンツーが両手を突き出すと、壁に貼り付けられた少女達が、拘束具を壊しながら、千景に襲い掛かってきた。しかしそれは、シンツーが、少女達を操るために出した触手が見えていた千景にとっては想定内であった。千景は、刀を床に突き刺し、忍術『真影捕縛の術』と唱えた。床に突き刺した刀の影から、黒い棘が勢いよく飛び出し、少女達の影を貫き、千景の方に向かってきた少女達は、空中の見えない壁にぶつかったかのように一回大きく弾み、その後空中で、静止した。
シンツーは、それを見て、すぐさま、ゆったりとしたローブの中に手を入れ、千景に向かって飛び針を投げてきたが、それを千景は、いとも簡単に弾き返す。恍惚の表情があからさまに不快な表情に変わった。そして、台に手を掛け、一気に下に降りる階段の方に飛んだ。
死体の補充か、下の階にいる少女達が殺される、猿、猿、猿
「そんなに俺の事を猿というのなら、俺の猿仲間を連れてきてやる高位忍術『口寄せ炎獄三猿』」
白と黒と赤の炎をそれぞれ身に纏った猿達が、目にも止まらぬ速さで、階段を下に降りようとするシンツーに襲い掛かる。シンツーがその姿を確認するために一瞬振り返ったときにはもう全てが遅かった。
『止』黒の止め猿がシンツーの動きを止める立方体の結界を作り出し動きを止め。
『絞』白の絞め猿がシンツーの首を絞め。
『殺』赤の殺め猿がシンツーの心臓を抉り出した。
瞬きをすることすら許さない短い時間の中で、三猿の作業は遂行された。そして殺め猿が作業終了の合図に、抉った心臓を上に掲げた。ゲーム内だといつもは、作業終了と共に三猿は消えていなくなるのだが、殺め猿が抉った心臓を食いだした。それに続くように、止め猿も、絞め猿も、シンツーの死体を嬉々として食いだした。そんな追加効果はいらないだろ……千景が呆れたようにその様子を見ていると、骨まで綺麗に平らげた三猿は煙と共に消えて行った。
「どちら様でしょうか?」男は体勢を保ったまま、口だけ動かして千景に語りかける。千景は何も答えず男の目を見据える。分身の術を使わずに、ここに千景の本体で来た意味、男に『傀儡操針の術』の針を首筋に差し込めば全ては終わる話だが、それで終わらせてはいけないような気がしていた。
二人の腹の探り合いをしているような、沈黙の時間が流れる。先に動いたのは、男の方であった、口元が動いたかと思うと、男の体から白い触手なようなものが浮き出て、壁に張り付いている少女達の死体の方に伸びて行き、手足に纏わりついていく。
男の職種は、屍操師、千景は表情を変えることなく、男から視線を外さない、本来だったら、男の体から伸びる、あの触手は、普通の人には見えることが出来ない類の物だった。しかし、強化された千景の目には、その様子がありありと見て取れた。白い触手の動きが止まり、男の準備が、完了したのか、今まで動かさなかった体をこちらに向けて「では私から名乗ります、私の名前はシンツー『トライセラトリス』って知っていますか? それは知らなくてもこの国の、宰相であるゴルビスは知っているでしょう、ここにいるのならばね、で……ご用件は?」と神経質そうな様子で話しかけてきた。
「ゴルビスがどのような者を、飼っているのか直接見に来た」
「飼う? はっ!」シンツーは、鼻で笑った。そして「我々は共犯者ですよ、私達の商売を彼が円滑にして、私達は彼の望む者を、彼が望む形で供給する、そこに上下の関係というものはなく、勿論飼うという言葉は私達と彼との間の関係を指し示す言葉としては不適切です」と続けた。
「ゴルビスとお前達が共犯者?」
「そうです、ええ、そうですとも、私達は実に趣味が合うんです、こういうことはですね、一人で楽しむよりも気が合うもの同士で楽しんだがほうが、何倍も楽しいんです、どうです? 美しいでしょ」シンツーは、誇らしげに、壁に貼り付けにされた少女達の死体を指さした。
「わからないね、わかりたくもない」
「はっ! 芸術がわからない下等な猿が!」シンツーは鼻で笑いながら千景を罵った。そしてシンツーは『デッドマンズ・スキャーリー』と大声で唱えた。すると少女達の死体が、閉じた瞼が限界まで開かれ、体を前面に押し出し、仰け反りながら、力いっぱい叫びだした。その叫び声の大きさで部屋の壁や、天井までが地震かと思えるくらいに震えた。シンツーのにこやかな顔が、その叫び声を聞いて、さらに、恍惚を帯びた表情になる。
「どうです! 苦しめて苦しめて、苦しめた分だけ、少女達の死体から大きな声が出るんです。私達の作品素晴らしいでしょー! この歌声のよさわかります? わかりませんよね! そんな芸術が理解出来ない猿は猿らしく、無様に死んでください!」
シンツーが両手を突き出すと、壁に貼り付けられた少女達が、拘束具を壊しながら、千景に襲い掛かってきた。しかしそれは、シンツーが、少女達を操るために出した触手が見えていた千景にとっては想定内であった。千景は、刀を床に突き刺し、忍術『真影捕縛の術』と唱えた。床に突き刺した刀の影から、黒い棘が勢いよく飛び出し、少女達の影を貫き、千景の方に向かってきた少女達は、空中の見えない壁にぶつかったかのように一回大きく弾み、その後空中で、静止した。
シンツーは、それを見て、すぐさま、ゆったりとしたローブの中に手を入れ、千景に向かって飛び針を投げてきたが、それを千景は、いとも簡単に弾き返す。恍惚の表情があからさまに不快な表情に変わった。そして、台に手を掛け、一気に下に降りる階段の方に飛んだ。
死体の補充か、下の階にいる少女達が殺される、猿、猿、猿
「そんなに俺の事を猿というのなら、俺の猿仲間を連れてきてやる高位忍術『口寄せ炎獄三猿』」
白と黒と赤の炎をそれぞれ身に纏った猿達が、目にも止まらぬ速さで、階段を下に降りようとするシンツーに襲い掛かる。シンツーがその姿を確認するために一瞬振り返ったときにはもう全てが遅かった。
『止』黒の止め猿がシンツーの動きを止める立方体の結界を作り出し動きを止め。
『絞』白の絞め猿がシンツーの首を絞め。
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瞬きをすることすら許さない短い時間の中で、三猿の作業は遂行された。そして殺め猿が作業終了の合図に、抉った心臓を上に掲げた。ゲーム内だといつもは、作業終了と共に三猿は消えていなくなるのだが、殺め猿が抉った心臓を食いだした。それに続くように、止め猿も、絞め猿も、シンツーの死体を嬉々として食いだした。そんな追加効果はいらないだろ……千景が呆れたようにその様子を見ていると、骨まで綺麗に平らげた三猿は煙と共に消えて行った。
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