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アヴァルシス王国騒乱

配ノ章

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「これでひとまず大丈夫だ」

「……あ、ありが……と」目まぐるしい展開に、エルタは本当に目を回したのか、きちんと立つことが不可能で、酔っぱらったような足取りでフラフラと右へ左へと歩き、しまいには、立ってることを諦め、小麦の袋に寄りかかり、力なく崩れ落ちた。

 とりあえずは、ここには誰も入ってはこれない、ここからどうするか……体はゲームの時のように、自由に動いてくれたし能力的な不満を感じることはなさそうだ。息を整えながらエルタが「あ、あの千景様、これからど、どうするのですか?」と話しかけてきた。

「そうだな、少し様子を見る。俺は作業があるから、その間ゴルビスのことを教えてくれ」

 千景はこの世界に降り立った建物の中では、時間が取れず呼びだすことが出来なかった配下NPCを呼び出すことにした。エルタは、その作業をしている千景に向かって、言われた通りゴルビスの事を話し出した。

「ゴルビスは、そこまで身分の高くない貴族の長子でしたが、その政務能力の高さから、わが父に重用ちょうようされ、宰相の地位まで上り詰めました。父はそういう方面にはうとく、ゴルビスがこの国を豊かにしたのは事実です、ただ……黒い噂も多く、この都市の裏の組織とつながりがあるらしいのですが……政治的に反発する者の中に、不審ふしんな死を遂げる者も多くいたのですが、ゴルビスの能力の高さ故、政治的にとどこおることはありませんでした」

 それを聞いた千景は、そもそも上にいた貴族たちは地位が高いだけで、政治的能力がないやつらばかりだったのではないのかと千景は思ったが、そんなことを口に出したら、エルタの父まで否定することになるので心の中に仕舞っておいた。

「続きは、ちょっと待ってくれ」とエルタが喋ってる口を止め、千景は、特殊上位スキル『配下招来はいかしょうらい天音あまね』を使い、千景の配下NPCである『くノ一天音』を呼び出した。

 この配下NPCは『倭国神奏戦華わこくしんそうせんか』に専用クリエイトツ―ル『KAIBYAKU』が実装された時に、犬犬いぬいぬに作成を手伝ってもらったNPCだった。天音という名前と言語設定などは千景でも設定が出来たが、造形作業が苦手だったので、そういう作業が得意な犬犬に造形を頼んだ、すると黒髪ロングの爆乳くノ一が出来上がった。

 そしてそれを目の前にしてアーティスト犬犬先生の熱いくノ一NPC解説がはじまった。

「くノ一と言ったら爆乳ね、これ外せないから、でだ! このうれいを秘めたような顔つき!千景君わかる? こういう影を落とした表情、そしてそれを保ちつつ、意思の強そうな目!
 女忍者だからね、強くないといけない、そしてそして俺の会心の出来のこの扇情的せんじょうてきなボディーライン! 完璧だろ、すごくない? やばくない? 千景君は、俺の事を神とたたえていいよ、ただこのボディーラインを演出するために千景君よりも若干背が高くなってしまってな」

「ちょっちょと色々でかすぎますよ」

「しかもこの設定なに? 折り目正しく、誠実、任務に徹し、冷酷非情、言語設定は固めな女性A型だけってなに?」

「なんかあんまりパッと思いつかなかったんですよね」

「こういうのはゲームなんだから適当に設定もりもりすればいいだよ」

 主人である千景に対して絶対服従であり一生付き従うことを心に決めている、千景への隠した愛のために! と追加で書き込んだ。

「なんですか、隠した愛のためにって、愛の字が今みたいな意味を持ったの明治以降ですよ」

「いいんだよ! そういうのいらないから! 千景君のそういうとこ俺好きじゃないなー、はい決定!」

躊躇なく作成終了ボタンを押した犬犬

「あー! 作成終了ボタンしたら三か月は変更できないんですよ!」

「いいじゃん、俺の神懸かったアート作品なんだから」

「……それはまあ見た目はすごくいいと思うんですけど、逆にここまでクオリティが高いと、呼び出してる時に対人戦とかになったら集中できない気が、目のやりばに困るというか……」

「それ相手も一緒だから、天音見るじゃん、おっ凄いナイスプロポーションのくノ一がいるって動き止まるじゃん、そして千景がその隙に切るじゃん、余裕じゃん、はい完璧、千景ならその隙にキルとりまくれるじゃん」

「なんか天音を餌にしてるみたいでちょっと……」

「いい加減にしろ! それがくノ一ってもんだろ! お前いっつも忍者がー、忍者でー、忍者、忍者、ニンニンニンって言ってる割にはそういうところあるよな」

「そ、それは」

「てかお前こういうの好きじゃん、前回のイベントのときに超絶美人の妖狐NPC二体ゲットしてたじゃん、俺もほしかったのに……あの時IN出来なくて参加できなかったけど次回は俺もゲットしたい、前回兄貴がゲットしたNPC、ゴリマッチョの青鬼だぞ意味が分からん、それで俺に今度赤鬼取らせて、うちの城の門前に2体並べるとか言ってたんだぞ、いやいやいやいやいや俺も、妖狐取りたいよ」

「だって俺もけもみみ好きなんで! ただもふもふできないんですよ、ゲットした後に気付きましたけど……しかもあの妖狐取得するのにめちゃくちゃ金かかってそれですからね」あれは寂しかった千景は思った。

「もふもふすら許されないとか厳しいよな、尻尾に触るのが性的な行為に抵触ていしょくするってことだろ、なにか、俺が家で飼ってるめごちゃんの尻尾触ったら欲情してるのか俺」犬が大好きな犬犬さんだった。

「人型っていうところがそうなんじゃないですかね」

「本当におしい、実におしい、触れない……目の前に人参ぶら下げられた馬の気分だ」天音をみながら犬犬は言った。

「『鉄壁スキン』があって触れませんからね」

「くっそくっそ、なんでだ、ゲームならいいんじゃないのか」

「そういうゲームじゃないですし、このゲーム……」

「ここまでリアルに表現出来るゲームないのに」

「それ俺に言われても……」

「あー俺今絶望した、ゲームに絶望した、裏切られた世界に」

そして犬犬はログウトボタンをそっと押した。という具合に作成されたのが天音であった。

 千景には、天音を合わせて、くノ一が四人、男忍者四人の計八人の配下NPCがいた。
そして千景だけは、カジノ戦でのチャンピオンにだけ送られる特別称号『神滅忍者』を所持することにより、特権枠として通常の枠より四枠多かった。更に眷属NPCとして妖狐二体を所持していて、全部で召喚できるNPCは十体いた。
その中でも一番強化に力を注がれたのが、この天音であった。千景がその特権をフルに活用して、課金アイテムも惜しみなく注ぎ込み、魔改造された天音は、配下NPCとして無類の強さを発揮し、そこら辺のプレイヤーやボスよりも強化されていた。

 ただ忍者職は、本体がメインで戦う職種であったため、隔離プレイルームによるカジノ戦での使用は不可であった。
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