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第30話 決戦

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「魔王様。大変時間がかかり、お詫びの申し上げ様もございません」
 ジルベルリが魔王に謝罪している。

「おお、ジルベルリ。ほんとに待たせてくれちゃったよね……それ、君の妹? 
 なんかおいしそうだね。遅れたお詫びとして後でくれない? 
 はは、ウソウソ。任務をなし遂げた人にそんな事したら信義に反するよね。
 それで、勇者の処女はちゃんと奪って来た?」
「あっ、いえ。
 それは、改めて魔王様のご意向を最終確認してからと思いまして……」
「ふーん。まあいいや。じゃ、さっさと毒抜きして連れて来てよ」
「かしこまりました。ああ、それで、側付きのエルフはいかがいたしましょう?」
「あーん? 別にどうでもいいけど。あいつ結構腕利きとか言ってたよね。
 後日のおやつに取っておくか。そんじゃ、奴隷部屋にぶち込んどいて!」
「ちっ!」サルトールの顔が険しくなった。

 ジルベルリが退出したので、サルトールが魔王に話かける。
「魔王様。あの、大変遅くはなりましたが、勇者ヤミーは捕獲されました。
 それで、豊穣の加護の件は……」
「何の事……ああ、でも今年はもう間に合わないでしょ。
 もう飢饉が始まってんじゃない?
 それに、勇者ヤミーは処女じゃないから、早く次を連れて来ないと、来年もアウトだよって、エルフ王に伝えてよ」
「あの、なんとかお慈悲を……エルフ王城には、罪もないエルフが三万人も……」
「ああ、うっとうしいな君。これから勇者を喰べるんじゃなきゃ、君から喰っちゃうところだ。それとも何かい。君も奴隷部屋でおやつ待機するかい?」
「くっ!」

「魔王様。ジルベルリ、勇者を連れて戻りました!」
 廊下から声がした。
「お兄ちゃん……」モルモルは緊張で腰が抜けそうだ。

「おう、ジルベルリ。入っていいぞ」

 その瞬間。

「魔王! 覚悟!」
 そう叫びながら、碧は部屋に飛び込み、思い切り魔王キングに向かって、ロッドを振り下ろした。

 グッゴゴゴゴゴゴゴゴッゴーーーーー
 
 まるで太陽が出現したかと見まごうばかりの光球が、一直線に魔王に向かって飛んで行った。

 バッカーーーーーン!!
 
 ものすごい音と衝撃がして、部屋の中の椅子やテーブルが全てひっくり返り、窓やドアも吹き飛んだ。そして天井には大きな穴が開いている。

「はあ、はあ、はあ……」
 直前まで姫路に身を任せていて、ほとんど真っ裸の碧は、肩で大きく息をしていた。
 
「碧!」マジと姫路が部屋に駆け込んでくる。
「マジ! やった! 私やったよ! 魔王は跡形もなく消し飛んだ……」


「あー。まったく……ひどいな……部屋がめちゃくちゃじゃないか! 
 またしてもやってくれたねー……勇者ヤミー」
 
 そんな声がして、天井に開いた大穴から、大きな肉塊がぼたっと落ちて来た。
 そして、みるみる魔王の姿に戻っていく……。

 えっ……なんで……。
 
 碧も姫路もマジもサルトールも、ジルベルリもモルモルも……
 今、眼の前で起きた事が信じられない。

「ぷっ、ははははははは。そうそう、その眼! 
 その、なにかこの世のものとは思えないものを見ちゃった眼。
 それ最高!」
 魔王キングが腹の底から笑っている。

「あー、ジルベルリー。まさかとは思ってたんだけど、お前裏切ってたんだー。
 道理で廊下の勇者の魔力が全然処女のままじゃん。後でお前の妹喰うの決定ね。
 まあ、僕は用心深いからさー。
 勇者ヤミーと会うのに、なにも準備しないとか……はは、ないない!」

「あ、あの。魔王様。僕はどうなっても構いません。
 妹は……モルモルは何卒お許し下さい。
 僕が無理に従わせただけなのです……」
「お兄ちゃん!」

「おーおー。魔族にしては、麗しい兄妹愛! どうしようかなー……。
 そうだ! ジルベルリ。
 今ここで勇者ヤミーを強姦してよ。
 そうすればこいつ処女じゃなくなるし……。
 ジルベルリも妹も許してあげるよ。
 勇者ヤミー、君ももういいだろ? 十分頑張ったよ。僕が認めてあげる。
 ジルベルリに処女あげて僕に喰われなよ。
 そしたら妹ちゃんもジルベルリも助かるよ」

「勇者ヤミー……ごめん……」
 そういいながら、ジルベルリが碧の側に来て、両肩に手をやった。

 どうすれば……でも、ここは一人でも助かる様にするしか……碧が目をつぶった、その時だった。

「っざけんな! この引きこもり童貞オタク野郎が! 
 おめえ、そんなバケモノに転生して、人の心はどっかやっちまったのかよ!」

 声を上げたのは姫路だ。

「な! なんだお前……って、あー、あのBBA。お前どの面下げてここに……。
 どっか行っちゃえば命だけは許してやろうと思ったのに……もう切れたよ! 
 なんだよ今の言い草は! お前、何を知ってるってんだよ!」

「ああー、知ってるさ。
 『異世界なら彼女の母親とずぽずぽでもいいんだからね!!』と、あと『転生先はソープランドでした』だっけか……他にもあったが……。
 も少し、まともな本読めや! 
 同じラノベとやらでも、もっと夢のある話もたくさんあるんだろうが!」

「! このBBA。コロス‥‥‥」

「ふん。三十過ぎたら妖精さんとか抜かしていたが、大方お前がそうなんだろ!
 そんな話、こっちの世界じゃ、誰も知らなかったぞ! 
 あーあ、人の事BBAとか言ってて、お前こそOTC(オーバーサーティーチェリー)じゃねえか!」

「くっそー!!!! それがどうしたってんだ。
 ずっとあっちで辛い思いしてきて、ようやく夢がかなって、チート能力もらって転生したんだ。好き勝手やって何が悪い!」 

「おめえよー。お前の好き勝手って、人を丸ごと喰う事かよ。
 もっと、こう……幼なじみといちゃいちゃするとか、ハーレム作るとか、無双するとか、男ならそういう方がよくねえか?」

「うるさい! 人の嗜好を語るな! 
 いっつもそうだ。まともに暮らせ、まじめに働け、節度を守れ、社会に貢献しろ? はあっ? なんだよそれ!
 それが得意じゃない奴は、お前らの方がはじいてんだろっ!?」

「ああ、そうかもな。
 あたいもはじかれた口だから、その意見は分からんでもない。
 だがな。どんなに社会からつまはじきにされても、あたいにはあたいの矜持《きょうじ》ってもんがあるんだよ! 
 弱い奴いじめて自分が気持ち良くなろうなんて、ぜってー思わねー!」

「何なんだよ、お前! ちくしょー、もう許さねー」
 魔王の身体がいきなり数倍の大きさになったと思ったら、いきなり姫路に向かって飛びかかってきた。

 それを予測していたかの様に、姫路は身体を半身ずらし、魔王の口に自分の左腕をぶち込んだ。

「ぐぇほっ! こら、奥まで腕を入れるな。毒が入るだろ……。
 このやろー、かみ切ってやる!」

 魔王は口に力を入れるが、姫路が右手に持ったロッドも突っ込んでおり、思う様に噛み砕けない。

「ははー、やっぱこの棒、すげー硬いわ。 
 おーい、碧。もう準備はいいか?」

「はい、姫路さん!」
「そんじゃ、構わねえから……あたいごと撃ち抜きな!」
「はい、姫路さん……それじゃ……ごめんなさい!!」

 そう言って碧は、手にしたロッドを思い切り魔王と姫路に向かって振り下ろした。

 先ほどよりさらに大きな光球が、二人を包みこむ。
 
 一体、どこからあんな処女魔力を……。
 そう思いながらジルベルリが碧の後ろに目をやると、スズランとミューが気持ちよさそうな顔をして、半裸で倒れていた。

 あやー、これって犯罪では?

「マジ様、あれ‥‥‥姫路は大丈夫なのか?」
 サルトールが慌ててマジに聞く。
「だまって見てろ」

 やがて、碧の光球が収束し始め、もう終わりかと思ったら、こんどは姫路の身体が光り出した。ああ、これは……。

 マジは、姫路の体内に蓄積していた処女の魔力が、碧の攻撃に反応して、連鎖的に次々破裂しているのだと理解した。

「うわ、なんだこれ。痛い! 苦しい! くそー……助けてくれー!!」

 魔王の断末魔だ。

「はは、せっかく転生したんだから、せめて童貞くらいは卒業しておくべきだったんじゃねえか? 腐れOTCさんよ。
 まっ、あたいの処女の炎に焼かれてんだから本望だよな……」

「ちくしょー! うわーーーー…………… ・ ・」

 次々ときらめく光の中で、魔王キングの陰はだんだん薄くなっていき、やがて、光が収まり、そこには真っ裸の姫路が、ロッドとともに転がっていた。

「姫路―!」

 眼を覚ましたスズランが姫路に駆け寄るが、姫路も意識はあるようだ。
 碧は腰が抜けて床に座り込んでしまっており、マジに抱き起された。

「やったーーーーーー!!」
 夢魔の兄妹が喜びの声を上げ、姫路に走り寄った。

「でも姫路姉様。よくあいつの正体を看過しましたね!」
 モルモルが尊敬のまなざしを姫路に向ける。

「ああん? あんなの、適当にカマかけただけに決まってんだろ!」
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