上 下
12 / 31

第12話 レジスタンス

しおりを挟む
 みどりとマジラニカントが、西の森から大きく魔王城を迂回しつつ北の山脈を目指して、ひと月ほどが経過した。

 目指す山脈地帯には、あと少しという所なのだが、肝心の反魔王勢力の情報が全く入手出来ない。それというのも、それなりに大きい集落だと、すでに手配書が届いている様で、人間だと分かった時点でお縄になる可能性が高く、迂闊に人のいる所に近づけないのだ。

 それに、このあたりには土着のエルフも全くおらず、マジも目立ってしまう。
 そもそも、エルフ自体が、魔王国内ではあの王城都市内でしか生活を認められておらず、城外にいるエルフは、必ず魔王の活動許可証を持参しているものだと、マジに教えてもらった。

 マジは、碧を魔王城に連行する時の活動許可書を持ってはいたが、ちゃんと調べられたら、もう失効しているのはバレバレだろう。

「魔王城からこんなに離れた田舎ですし、私の許可証はよほどの事がないと怪しまれないかと思うのですが、碧は……困りましたね」
「うーん。いっそ獣人とかに変装しようか? そう、コスプレ!」
「コスプレ? ……ですが、変装はありかも知れません。まあ、獣人にしては、ちょっと血色が良すぎますが……わかりました。
 私がそれとなく材料を集めてきます」
 そう言って、マジは集落に入って行き、動物の毛皮や針糸などを入手してきた。

「マジ。怪しまれなかった?」
「ええ。逃げた勇者捜索の密命で来ていると説明しましたので……」
「……」

 その夜のうちに、マジは碧用の猫耳としっぽを作ってくれた。
 もちろん、近くでよく見たら作り物だとは判ってしまうが、ちょっと遠目ならわからない位にはよく出来ていた。これで、私も集落に入れるかな。

「それじゃ、早速試してみましょう」
 そう言ってマジは、碧を連れて近くの集落に入り、いきなり派出所を訪れた。

「えっ、えっ。マジ。大丈夫?」
「大丈夫です。あなたの存在もちゃんとアピールしないと。
 ですがちょっと離れていて下さいね」
 そういいながらマジは、不審そうに二人を見ている、立番と思われる獣人に声をかけた。

「すいません。私、魔王城の方から来た、逃亡勇者の秘密捜査官なんですが……」
 そう言いながら、例の許可証を一瞬だけちらっと見せると相手は何も疑わなかったようで、その場で最敬礼した。

「ご苦労様です。それで何かお手伝い出来る事は?」
「こちらに入った情報で、逃亡勇者が、この山脈近辺の反魔王組織と合流したとか、しようとしているとかで……それを追跡しているのですが、その反魔王組織の情報が不足していて、地元の方のほうがお詳しいかと思いまして、訪ねて参りました」
「あー。それでしたらもうすぐ上官が戻ってまいりますので、それまでお待ちいただければ捜査協力も……」

「いえ、私も秘密捜査なので、あまり偉い方と直接お話して、大がかりに動くのはちょっと。あなたの御存じの範囲で構いませんので、教えていただけませんか?」
「はあ……この近くですと、ここから見て……ほら、あの一番高い山の中腹。
 あの辺に、レジスタンスが巣を作っているという話はあります。ですが、あまりに危険な場所なもので、こちらからの調査は詳しく行っておりません」

「危険とは?」
「あの山、ドラゴンの巣なんですよ。魔王様ならいざ知らず、私らみたいな普通のもんでは、とてもとても。かといって魔王様にこんなところまで来ていただく訳にも……。それで住人、何人召し上がっていただく事になるのか……。
 いや、これは失言!」

「はは。ありがとう。助かりました。それでは私はこれで……」
「あの! ちょっとお待ち下さい。あとで上官に報告しますので、貴方のお名前を。あとそちらの……助手さんですか? その方もお名前を教えて下さい」
「あーっ……なんだ? 
 君はさっき私が見せた許可証をちゃんと見て確認していなかったのか! 
 私の名前は、アシタバカヤロだ! そしてあっちの助手は、ワンタイジン! 
 いいね!」
「あっ、はい! 失礼いたしました、アシタバカヤロ様」

 一時はどうなる事かと、碧はヒヤヒヤしながらやり取りを見守っていたが、マジの迫力に気おされて、あの警官がビビったおかげで何とかごまかせた。

 二人は、足早に集落を離れた。

 ◇◇◇

「うまくいったわね、マジ」
「まあ、なんとかなりましたが、多分、彼の上官は私達の裏付けを取るでしょう。
 そうなったら偽物バレバレで、かえって追手に手掛かりを与える事になります。
 早々にレジスタンスのところに向かいましょう」

「でもドラゴンって……」
「確かに厄介ですが、レジスタンスもそこにいるのなら、何らかの接触手段はあるはずです。当たって砕けるしか……」
「砕けたらだめじゃない?」
「いや、そのくらいの意気込みでという事です。急ぎましょう!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...