16 / 21
第十六話 知られた正体
しおりを挟む
「ああ…………」
自分の正体がハジッコである事を虎之助に知られてしまったショックで、ハジッコは立っている事が出来ず、その場にしゃがみこんでしまった。
そんなハジッコを憐れむかの様に夜桜が話掛けた。
「なんだ……そんなに澄子に成りすまして、この男と添い遂げたかったのか? まあ、残念だがここまでだ。それでは、これでもう邪魔もはいらんし、お前の容姿と魂を戴くとしよう」
夜桜は再び手鏡を取り出し、座り込んでしまっているハジッコにゆっくり近づく。
(ああ……これでもう、スミちゃんの魂はこの身体には戻れない……
ならばせめて魂は……あの魂の顔だけでも元の可愛いスミちゃんに戻るなら…………スミちゃん。ごめんなさい!)
暗闇の中、夜桜も半ば手探りでハジッコに近づき、その頭に手が触れた。
「ふっ、ここにいたか。それではツラを出せ!!」
そう言いながら夜桜が手鏡をハジッコの顔にかざした瞬間、突然、パーンという音と共に、ものすごい光があたりを包み、夜桜もハジッコも何も見えなくなった。
「なんだこれは!? ややっ! しまった!!」
夜桜が何か叫んでいるが、ハジッコには何も見えない。
やがてだんだんと光が落ち着いて来て、眼も慣れてきた様なので、ゆっくりあたりを見渡すと……ああ、まつりちゃん! 豊川刑事!!
……って、それに……ブチャ先生!?
まつりの手にはブチャ先生がしっかり抱きかかえられていた。
「いやー、間一髪だったんじゃない? ハジッコ。まだ魂抜けてないわよね?」
「えっ? あ、はい……でも、まつりちゃん。よくここが……」
「あー。夜桜は人目につかない様に山ん中に誘い込んだつもりだったんでしょうけど……ここのお山の天狗様は私の知り合いでね。怪しい奴が山に来てるって、昼すぎに連絡くれたのよ。それで慌てて丹波篠山から……」
「ああ、そんな事が……でも夜桜はどうなったのですか? それになんでブチャ先生……じゃないカキツバタさんまで、どうしてここに?」
「あー、慌てないで。ちゃんと説明するから」
まつりがそう言いハジッコが顔をあげると、目の前に希来里と虎之助とビスマルクが気を失って倒れていた。そして豊川刑事の手には何やら箱の様なものがあり、その中身がわずかに光を発している。
「夜桜の手鏡はこの箱に封印しました。ほら、この真ん中でうっすら光ってるやつ」
ああ。箱の中で光っているのは夜桜が持っていた手鏡だとハジッコは気が付いた。
豊川が続ける。
「もともとこの手鏡は、私がいた稲荷神社の祭具だったんです。それが付喪神化したのに私が気づかず夜桜に仲間として取り込まれてしまい、その責めを負う形で、私が宇迦様から命ぜられ夜桜を追っていたのです。そしてこの箱は、元々こいつが収まっていたもので、宇迦様に霊力を込めていただいておりますから、もうこいつはここから自力では出られませんよ」
「それでは……これから皆さんで幽世へ行かれるのですね?」
「そうよ。だからあんたも心の準備をなさい。そう思って、お姉ちゃんも、あの理恵って娘の家からこっそり拉致ってきたのよ!」
「ああ、そうなんですね……でも、まつりちゃん……私はもう……私がハジッコだと虎之助さんに知られてしまいました。これではこの身体をスミちゃんに返す事が出来ないのです!」ハジッコがそう言うと、カキツバタが声をかけた。
(とりあえず、幽世にいって、スミちゃんの魂と会ってみなんしょ。もしかしたら大丈夫かもしれません)
「……そうでしょうか?」
(はい。虎之助さんが夜桜に操られた状態であったなら、夜桜さえやっつければ、あとに記憶も残りませんから……それに賭けてみませんか?)
「そうですね……でも、このからだを返せなければスミちゃんの魂は……」
不安で仕方がないハジッコをまつりが励ます。
「ほらほら。案ずるより産むが易しっていうでしょ? 可能性にかけて前進するわよ! でも十分注意してね。私も大分法力を強化出来たんだけど、決戦はあいつの腹の中よ。くれぐれも油断しないでね!」
「あの……虎之助さん達は?」
「このまま寝かせておいて大丈夫よ。これ夜桜の結界だけど、まだ使える様に私の支配下に置いたから!」
そう言いながらまつりは、前回同様何かの詠唱をして幽世への道を開いた。するとその時、突然ハジッコの脇をすり抜け、いつの間にか目を覚ましていたビスマルクがそこに飛び込んだ。
「ああ、ビス君!」慌てるハジッコをなだめる様に豊川が言った。
「ハジッコさん。この際、味方は一匹でも多い方がいいですよ」
そう言われたハジッコは、カキツバタの言う可能性に賭けようと意を決して、幽世に足を踏み入れた。
◇◇◇
幽世は相変わらず薄暗く、夜なのか昼なのかもよく分からない。
すでにハジッコ達の幽世への侵入は夜桜の知るところに違いないのだ。いつ何が起こるのか……そんな中を一行は慎重に進んでいく。
そして前回同様、遊郭の様な街並みが現れ、その木戸口に一行は到着した。
「どうやら、すぐに我々をはじき出すだけの霊力は無い様ですね。前回の時からまだ回復しきってなかったのでしょう。私達がいない間にと焦ったんでしょうね」
豊川刑事がそうつぶやいた。
「油断しちゃだめよ。今回は決着をつける為に来たんだから。
だからまず、この幽世内のどこかにいると思われる夜桜の本体を探さなくっちゃ」
そう言うまつりにハジッコが話かける。
「あの、まつりちゃん。私は、スミちゃんとブチャ先生を探していいでしょうか?」
「でもバラバラで行動するのは……」渋るまつりにカキツバタが言った。
「二手に分かれるでありんす。わちきは、ハジッコさんとこのビス君? といっしょにスミちゃんとブチャ先生を探します。何かあれば念話を飛ばしますので……」
「そうね。時間も限られるし、私達が先に夜桜やっつけちゃってスミちゃんや不細工猫の魂まで輪廻に帰っちゃったらハジッコも困るわよね。いいわ二手に別れましょう。でもくれぐれも慎重にね」
カキツバタとまつりは、この幽世内ならテレパシーの様に意思疎通ができるのだそうだ。まつりが言うには二人のきずなの賜物との事だった。
「それじゃ、ばあちゃん。僕が先頭に立ちます!」
いきなりビスマルクがしゃべったので、ハジッコは腰を抜かしそうになった。
「えっ、ちょっとビス君。あなたしゃべれるの?」
驚くハジッコにカキツバタが説明した。
「別に、ここでは不思議でもなんでもないでありんす。ここは幽世でありんすよ」
「……はあ。そういうものなのですか。ですが、会話が出来るのはうれしいです。
それじゃビス君。スミちゃんの匂いは追える?」
「はは、ばあちゃん。さすがにそれは……あなたの身体の匂いが強すぎます」
「ああ……そっか」
「ですが、気配は何となく感じます。犬の第六感ってやつですね。案内しますのでついてきて下さい」
そうしてハジッコはカキツバタとともに、ビスマルクに先導されて遊郭の建屋の裏の方へ回って行った。
「豊川。それじゃ私達も行くわよ。一番怪しそうなのは、街の中心にある大きな館かしらね」
「それでは、慎重にそこから探りに参りましょうか」
自分の正体がハジッコである事を虎之助に知られてしまったショックで、ハジッコは立っている事が出来ず、その場にしゃがみこんでしまった。
そんなハジッコを憐れむかの様に夜桜が話掛けた。
「なんだ……そんなに澄子に成りすまして、この男と添い遂げたかったのか? まあ、残念だがここまでだ。それでは、これでもう邪魔もはいらんし、お前の容姿と魂を戴くとしよう」
夜桜は再び手鏡を取り出し、座り込んでしまっているハジッコにゆっくり近づく。
(ああ……これでもう、スミちゃんの魂はこの身体には戻れない……
ならばせめて魂は……あの魂の顔だけでも元の可愛いスミちゃんに戻るなら…………スミちゃん。ごめんなさい!)
暗闇の中、夜桜も半ば手探りでハジッコに近づき、その頭に手が触れた。
「ふっ、ここにいたか。それではツラを出せ!!」
そう言いながら夜桜が手鏡をハジッコの顔にかざした瞬間、突然、パーンという音と共に、ものすごい光があたりを包み、夜桜もハジッコも何も見えなくなった。
「なんだこれは!? ややっ! しまった!!」
夜桜が何か叫んでいるが、ハジッコには何も見えない。
やがてだんだんと光が落ち着いて来て、眼も慣れてきた様なので、ゆっくりあたりを見渡すと……ああ、まつりちゃん! 豊川刑事!!
……って、それに……ブチャ先生!?
まつりの手にはブチャ先生がしっかり抱きかかえられていた。
「いやー、間一髪だったんじゃない? ハジッコ。まだ魂抜けてないわよね?」
「えっ? あ、はい……でも、まつりちゃん。よくここが……」
「あー。夜桜は人目につかない様に山ん中に誘い込んだつもりだったんでしょうけど……ここのお山の天狗様は私の知り合いでね。怪しい奴が山に来てるって、昼すぎに連絡くれたのよ。それで慌てて丹波篠山から……」
「ああ、そんな事が……でも夜桜はどうなったのですか? それになんでブチャ先生……じゃないカキツバタさんまで、どうしてここに?」
「あー、慌てないで。ちゃんと説明するから」
まつりがそう言いハジッコが顔をあげると、目の前に希来里と虎之助とビスマルクが気を失って倒れていた。そして豊川刑事の手には何やら箱の様なものがあり、その中身がわずかに光を発している。
「夜桜の手鏡はこの箱に封印しました。ほら、この真ん中でうっすら光ってるやつ」
ああ。箱の中で光っているのは夜桜が持っていた手鏡だとハジッコは気が付いた。
豊川が続ける。
「もともとこの手鏡は、私がいた稲荷神社の祭具だったんです。それが付喪神化したのに私が気づかず夜桜に仲間として取り込まれてしまい、その責めを負う形で、私が宇迦様から命ぜられ夜桜を追っていたのです。そしてこの箱は、元々こいつが収まっていたもので、宇迦様に霊力を込めていただいておりますから、もうこいつはここから自力では出られませんよ」
「それでは……これから皆さんで幽世へ行かれるのですね?」
「そうよ。だからあんたも心の準備をなさい。そう思って、お姉ちゃんも、あの理恵って娘の家からこっそり拉致ってきたのよ!」
「ああ、そうなんですね……でも、まつりちゃん……私はもう……私がハジッコだと虎之助さんに知られてしまいました。これではこの身体をスミちゃんに返す事が出来ないのです!」ハジッコがそう言うと、カキツバタが声をかけた。
(とりあえず、幽世にいって、スミちゃんの魂と会ってみなんしょ。もしかしたら大丈夫かもしれません)
「……そうでしょうか?」
(はい。虎之助さんが夜桜に操られた状態であったなら、夜桜さえやっつければ、あとに記憶も残りませんから……それに賭けてみませんか?)
「そうですね……でも、このからだを返せなければスミちゃんの魂は……」
不安で仕方がないハジッコをまつりが励ます。
「ほらほら。案ずるより産むが易しっていうでしょ? 可能性にかけて前進するわよ! でも十分注意してね。私も大分法力を強化出来たんだけど、決戦はあいつの腹の中よ。くれぐれも油断しないでね!」
「あの……虎之助さん達は?」
「このまま寝かせておいて大丈夫よ。これ夜桜の結界だけど、まだ使える様に私の支配下に置いたから!」
そう言いながらまつりは、前回同様何かの詠唱をして幽世への道を開いた。するとその時、突然ハジッコの脇をすり抜け、いつの間にか目を覚ましていたビスマルクがそこに飛び込んだ。
「ああ、ビス君!」慌てるハジッコをなだめる様に豊川が言った。
「ハジッコさん。この際、味方は一匹でも多い方がいいですよ」
そう言われたハジッコは、カキツバタの言う可能性に賭けようと意を決して、幽世に足を踏み入れた。
◇◇◇
幽世は相変わらず薄暗く、夜なのか昼なのかもよく分からない。
すでにハジッコ達の幽世への侵入は夜桜の知るところに違いないのだ。いつ何が起こるのか……そんな中を一行は慎重に進んでいく。
そして前回同様、遊郭の様な街並みが現れ、その木戸口に一行は到着した。
「どうやら、すぐに我々をはじき出すだけの霊力は無い様ですね。前回の時からまだ回復しきってなかったのでしょう。私達がいない間にと焦ったんでしょうね」
豊川刑事がそうつぶやいた。
「油断しちゃだめよ。今回は決着をつける為に来たんだから。
だからまず、この幽世内のどこかにいると思われる夜桜の本体を探さなくっちゃ」
そう言うまつりにハジッコが話かける。
「あの、まつりちゃん。私は、スミちゃんとブチャ先生を探していいでしょうか?」
「でもバラバラで行動するのは……」渋るまつりにカキツバタが言った。
「二手に分かれるでありんす。わちきは、ハジッコさんとこのビス君? といっしょにスミちゃんとブチャ先生を探します。何かあれば念話を飛ばしますので……」
「そうね。時間も限られるし、私達が先に夜桜やっつけちゃってスミちゃんや不細工猫の魂まで輪廻に帰っちゃったらハジッコも困るわよね。いいわ二手に別れましょう。でもくれぐれも慎重にね」
カキツバタとまつりは、この幽世内ならテレパシーの様に意思疎通ができるのだそうだ。まつりが言うには二人のきずなの賜物との事だった。
「それじゃ、ばあちゃん。僕が先頭に立ちます!」
いきなりビスマルクがしゃべったので、ハジッコは腰を抜かしそうになった。
「えっ、ちょっとビス君。あなたしゃべれるの?」
驚くハジッコにカキツバタが説明した。
「別に、ここでは不思議でもなんでもないでありんす。ここは幽世でありんすよ」
「……はあ。そういうものなのですか。ですが、会話が出来るのはうれしいです。
それじゃビス君。スミちゃんの匂いは追える?」
「はは、ばあちゃん。さすがにそれは……あなたの身体の匂いが強すぎます」
「ああ……そっか」
「ですが、気配は何となく感じます。犬の第六感ってやつですね。案内しますのでついてきて下さい」
そうしてハジッコはカキツバタとともに、ビスマルクに先導されて遊郭の建屋の裏の方へ回って行った。
「豊川。それじゃ私達も行くわよ。一番怪しそうなのは、街の中心にある大きな館かしらね」
「それでは、慎重にそこから探りに参りましょうか」
10
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
放課後モンスタークラブ
まめつぶいちご
児童書・童話
タイトル変更しました!20230704
------
カクヨムの児童向け異世界転移ファンタジー応募企画用に書いた話です。
・12000文字以内
・長編に出来そうな種を持った短編
・わくわくする展開
というコンセプトでした。
こちらにも置いておきます。
評判が良ければ長編として続き書きたいです。
長編時のプロットはカクヨムのあらすじに書いてあります
---------
あらすじ
---------
「えええ?! 私! 兎の獣人になってるぅー!?」
ある日、柚乃は旧図書室へ消えていく先生の後を追って……気が付いたら異世界へ転移していた。
見たこともない光景に圧倒される柚乃。
しかし、よく見ると自分が兎の獣人になっていることに気付く。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる