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第九話 幽世(かくりょ)
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「ここはいったい……」
手鏡の中に入ったハジッコはその光景に驚いた。
砂利道の脇が濠になっていて、間隔をおいて柳の木が植えられている。
夜だと思うのだが街灯はなく、それでいて月夜の様に薄ほんのりと景色が見える。
「気を付けなさい。ここはすでに敵の腹ん中よ。大きな声は絶対だめよ!」
まつりが周囲を警戒しつつゆっくり進んで行くのでハジッコもその後をゆっくりついていく。豊川刑事は後ろを警戒しながら最後について来る。
「あの……お二人は一体……」ハジッコが声をかけるが、まつりに拒否された。
「身の上話は後。今は最大限警戒して! 最悪自分の身は自分で守ってね」
そう言われ、ハジッコも最大限の警戒をする。
しばらく行くと、大きな木の門があり、その中に木造の建物がひしめいている。
そしてその入り口付近には、灯りがともされ、格子戸の中に着物を着た女性が並んで座っていた。こんな景色をハジッコは見た事があった。これって時代劇とかの……
「はは。まさに遊郭そのものですね」豊川刑事がそう言った。
そうそう遊郭。たしか男性がお金を払って女性と遊びに来るところよね。
「入るわよ」そう言って、まつりが門をくぐって街中に入っていくが、よく見ると遊女はいるが客と思われる者が誰もいない。
「まったく悪趣味ね。こうやって自分好みの女の子をここに並べているのね」まつりがそう言った。
「それじゃ、この人達は!?」
「そうよ。夜桜が集めた美女達の魂よ」
「でも、それじゃ……助けないと……」
「今は無理。全員はね。助け出すには憑代がいるし……今日のところは、私のお姉ちゃんとあんたのスミちゃんがターゲットよ。さっさと探しなさい! ただしさっきも言ったけど大きな声を出しちゃだめよ」
そう言われて、二人とはあまり離れない様に注意しつつ順番に格子戸の中を覗いていく。それにしてもこの数は……いったい、何百人囚われているのかしら。ハジッコは、数えるのも恐ろしくなったが、勇気を振り絞って澄子を探した。
しかし、一通り見て回った様に思うが、澄子は見当たらなかった。まつりもお姉ちゃんとやらを発見出来ないでいた。
「もう、一体どこに。この中なのは間違いないと思うんだけれど……」
まつりがじれったそうにそう言った。
「表にいないとなると、裏とか?」豊川がつぶやく。
「なんでそんなところに?」
「いや。ほら昔の遊郭でも、健康を害した人は表には出ないでしょ?」
「そうか……それじゃ急いで確認するわよ。私の法力もそろそろ危うい」
そして当たりを見渡すと、ああ、裏に回る小路がある!
三人で急いでそこに入り、裏に回った。
ビンゴだ。
大きなお寺の様な建物があって、その境内に数名いた!
「あっ! お姉ちゃん!?」まつりがそのうちの一人に駆け寄る。
豊川刑事もあわててその後を追った。
ハジッコがそこに一人残される形になったが、二人の後を追おうとした時、別の方向に懐かしい気配を感じた。
あっ! スミちゃん!? いてもたってもいられなくなって、ハジッコはその気配に向かって一目散に駆け出した。
そしてあの後ろ姿、この匂い……間違いない!!
「あっ、あっ……スミちゃーーーーん!」
ハジッコは澄子と思われる人物に、思わず大声で呼びかけた。
「あっ、だめよ。大声出しちゃ!!」まつりが慌てるが後の祭りだった。
ハジッコに呼ばれて、澄子と思われる女性が振り返る。
「えっ!?」
そこにいるのは確かに澄子だ……‥だが……。
その顔が醜くひび割れていしまっていて、あの美少女の面影が全くない。
眼も見えていない様だ。
「スミちゃん!?」
「えっ……あなた、もしかしてハジッコ!?」澄子が反応した。
ああ! スミちゃんだ。顔はあんなになっちゃっているけど間違いない。
この人はスミちゃんだ!
「スミちゃーん」ハジッコは思い切り駆け寄った。
そして、澄子の肩に手が届こうかという瞬間。
チーンとおりんの音がして、周り全てが暗闇に包まれた。
◇◇◇
「ワンワンワンワンッ!」
九重家の玄関をくぐってからも、ビスマルクは落ち着くどころかますます興奮して来ている様だ。虎之助も、ビスマルクが勝手に走りださない様に慎重にリードをコントロールする。
そして庭に回って縁側に向かう。
「おーい、スミ。希来里まだいるかー」だが、何も返事が無い。
「なんだ留守か。不用心だな。でもまあ、いつもの事か……いや、ハジッコがいる時ならこれでもいいけど……番犬なしじゃな」などど独り言をいいながら、縁側から居間を覗く。
すでに陽も暮れていて、灯りがついていない居間の中の様子がよく分からないが……なんだ? 人が倒れている!?
「スミ! 希来里!」虎之助は慌てて縁側から居間に上がり、電灯を付けた。
そして床に希来里が倒れているのが目に入った。
「希来里!!」
さらに戸口側を見ると、誰だ? この人は……スミじゃない!?
しかも手錠をはめられ、腰ひもで拘束されている。
「何があったんだ!!」虎之助が大声をあげたその時、居間の隅っこが輝きだしたかと思ったら、いきなりバーンと大きな音がして、まばゆいばかりの光にあたり一面が覆われた。
「痛ったたたた・・・・」
視界を回復した虎之助が最初に見たのは、自分の足元に転がっている澄子だった。
ええっ!? こいつどこから湧いてきた?
そして、澄子の脇に目をやると……見知らぬ男と少女も倒れている。そしてその脇にはブチャもいた。
「おい、スミ。こりゃ一体……この人達は?」
「あれっ。虎兄!? ここは……居間? あっ! という事は……」
ハジッコは、自分が澄子の救出に失敗した事を悟った。
手鏡の中に入ったハジッコはその光景に驚いた。
砂利道の脇が濠になっていて、間隔をおいて柳の木が植えられている。
夜だと思うのだが街灯はなく、それでいて月夜の様に薄ほんのりと景色が見える。
「気を付けなさい。ここはすでに敵の腹ん中よ。大きな声は絶対だめよ!」
まつりが周囲を警戒しつつゆっくり進んで行くのでハジッコもその後をゆっくりついていく。豊川刑事は後ろを警戒しながら最後について来る。
「あの……お二人は一体……」ハジッコが声をかけるが、まつりに拒否された。
「身の上話は後。今は最大限警戒して! 最悪自分の身は自分で守ってね」
そう言われ、ハジッコも最大限の警戒をする。
しばらく行くと、大きな木の門があり、その中に木造の建物がひしめいている。
そしてその入り口付近には、灯りがともされ、格子戸の中に着物を着た女性が並んで座っていた。こんな景色をハジッコは見た事があった。これって時代劇とかの……
「はは。まさに遊郭そのものですね」豊川刑事がそう言った。
そうそう遊郭。たしか男性がお金を払って女性と遊びに来るところよね。
「入るわよ」そう言って、まつりが門をくぐって街中に入っていくが、よく見ると遊女はいるが客と思われる者が誰もいない。
「まったく悪趣味ね。こうやって自分好みの女の子をここに並べているのね」まつりがそう言った。
「それじゃ、この人達は!?」
「そうよ。夜桜が集めた美女達の魂よ」
「でも、それじゃ……助けないと……」
「今は無理。全員はね。助け出すには憑代がいるし……今日のところは、私のお姉ちゃんとあんたのスミちゃんがターゲットよ。さっさと探しなさい! ただしさっきも言ったけど大きな声を出しちゃだめよ」
そう言われて、二人とはあまり離れない様に注意しつつ順番に格子戸の中を覗いていく。それにしてもこの数は……いったい、何百人囚われているのかしら。ハジッコは、数えるのも恐ろしくなったが、勇気を振り絞って澄子を探した。
しかし、一通り見て回った様に思うが、澄子は見当たらなかった。まつりもお姉ちゃんとやらを発見出来ないでいた。
「もう、一体どこに。この中なのは間違いないと思うんだけれど……」
まつりがじれったそうにそう言った。
「表にいないとなると、裏とか?」豊川がつぶやく。
「なんでそんなところに?」
「いや。ほら昔の遊郭でも、健康を害した人は表には出ないでしょ?」
「そうか……それじゃ急いで確認するわよ。私の法力もそろそろ危うい」
そして当たりを見渡すと、ああ、裏に回る小路がある!
三人で急いでそこに入り、裏に回った。
ビンゴだ。
大きなお寺の様な建物があって、その境内に数名いた!
「あっ! お姉ちゃん!?」まつりがそのうちの一人に駆け寄る。
豊川刑事もあわててその後を追った。
ハジッコがそこに一人残される形になったが、二人の後を追おうとした時、別の方向に懐かしい気配を感じた。
あっ! スミちゃん!? いてもたってもいられなくなって、ハジッコはその気配に向かって一目散に駆け出した。
そしてあの後ろ姿、この匂い……間違いない!!
「あっ、あっ……スミちゃーーーーん!」
ハジッコは澄子と思われる人物に、思わず大声で呼びかけた。
「あっ、だめよ。大声出しちゃ!!」まつりが慌てるが後の祭りだった。
ハジッコに呼ばれて、澄子と思われる女性が振り返る。
「えっ!?」
そこにいるのは確かに澄子だ……‥だが……。
その顔が醜くひび割れていしまっていて、あの美少女の面影が全くない。
眼も見えていない様だ。
「スミちゃん!?」
「えっ……あなた、もしかしてハジッコ!?」澄子が反応した。
ああ! スミちゃんだ。顔はあんなになっちゃっているけど間違いない。
この人はスミちゃんだ!
「スミちゃーん」ハジッコは思い切り駆け寄った。
そして、澄子の肩に手が届こうかという瞬間。
チーンとおりんの音がして、周り全てが暗闇に包まれた。
◇◇◇
「ワンワンワンワンッ!」
九重家の玄関をくぐってからも、ビスマルクは落ち着くどころかますます興奮して来ている様だ。虎之助も、ビスマルクが勝手に走りださない様に慎重にリードをコントロールする。
そして庭に回って縁側に向かう。
「おーい、スミ。希来里まだいるかー」だが、何も返事が無い。
「なんだ留守か。不用心だな。でもまあ、いつもの事か……いや、ハジッコがいる時ならこれでもいいけど……番犬なしじゃな」などど独り言をいいながら、縁側から居間を覗く。
すでに陽も暮れていて、灯りがついていない居間の中の様子がよく分からないが……なんだ? 人が倒れている!?
「スミ! 希来里!」虎之助は慌てて縁側から居間に上がり、電灯を付けた。
そして床に希来里が倒れているのが目に入った。
「希来里!!」
さらに戸口側を見ると、誰だ? この人は……スミじゃない!?
しかも手錠をはめられ、腰ひもで拘束されている。
「何があったんだ!!」虎之助が大声をあげたその時、居間の隅っこが輝きだしたかと思ったら、いきなりバーンと大きな音がして、まばゆいばかりの光にあたり一面が覆われた。
「痛ったたたた・・・・」
視界を回復した虎之助が最初に見たのは、自分の足元に転がっている澄子だった。
ええっ!? こいつどこから湧いてきた?
そして、澄子の脇に目をやると……見知らぬ男と少女も倒れている。そしてその脇にはブチャもいた。
「おい、スミ。こりゃ一体……この人達は?」
「あれっ。虎兄!? ここは……居間? あっ! という事は……」
ハジッコは、自分が澄子の救出に失敗した事を悟った。
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