忠犬ハジッコ

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第七話 連続美少女変死事件

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 ハジッコはブチャと知り合い、人間とは出来ない内容の話が出来たのがうれしくて仕方なかった。たいていの悩みというものは、他人に話すだけで心が軽くなるというのもあながち間違いでは無い様だ。そして翌週の日曜。理恵に頼み込んで、またブチャに会える様にしてもらった。

「ははは、すみっ子。すっかりブチャを気に入ったみたいだね。でもあんまり仲良くなりすぎると、あいつも結構いい歳だからまた別れがつらくなるぞー」理恵がそんな事を言っておどしたが、まあゆっくりしていきなよと、ブチャとハジッコを置いて家族と買い物に出かけて行った。

「あの。ブチャ先生! 先日は貴重なアドバイス有難うございました!」
「先生とはずいぶん出世させてくれた様じゃが……わしはそんなにお主の役にたったか?」
「はい! 人間としての適切なアドバイスもそうですが、私の悩みを聞いていただき、すごく心が軽くなりました!」
「じゃが、前にも言ったが聞く事しか出来んぞ……それにアドバイスとか言っても、単にニャン生経験が長いだけじゃ」
「ああ、そんなご謙遜けんそんを。私もワン生経験は、先生とはさほど変わらないのですが、そんなに鋭く人間を観察出来ていなくて……これからもアドバイス宜しくお願い致します!」
「まあ好きにしニャさい。それで今日も溜まった鬱憤うっぷんを語りにきたのじゃろ? 聞いてやるから話して見ろ」

 そしてハジッコは、前回踏み込めなかった詳細までをブチャに話した。

「ニャるほどのう。その希来里きらりという人間は、悪い奴ではないが的外まとはずれか……仕方ないのではニャいか? 所詮しょせん人間などに、我らの様にファンタジーでスピリチュアルな世界は理解出来まい。それよりも気にニャったのじゃが……お主、その虎と希来里の関係をそのまま認めてしまっていいのか?」
「はい? とおっしゃいますと?」ハジッコが怪訝けげんそうな顔をする。
「いや。その、お主の飼い主でその身体の持ち主の澄子は、虎が好きニャのじゃろう? このまま虎と希来里の中が進展してしまってから、澄子に身体を返した時、すでに自分の想いがげられニャいと分かった澄子は嘆かニャいかのう」
「ああ、そうなのですか!? すいません。私もそうしたれたれたの所にめっぽう弱くて……自分自身、子犬の際に不妊ふにん手術をほどこされていまして色恋ごとはとんと……」
「ああ、すまん。嫌な事を思い出させたかの?」
「いいえそれは全く……ですが先生。それでは私はどうすればよいのでしょうか?」
「いや。露骨に希来里の恋路を邪魔しては馬にられてしまう。正々堂々と、人間の女の魅力で虎にアタックするしかニャいのではニャいか?」
「はあ……それはいったいどうすれば」
「わしにもわからん。わしも長く生きたがほとんど家猫で、色恋事に縁はニャかったのでな。まあテレビの昼ドラという奴はよく見ていたが……」

「たっだいまー」そんな話をしていたら理恵が帰ってきた。

「すみっ子、どう。ブチャとたくさんお話出来た?」
「ああ、有難う理恵。お陰様でストレスが解消したみたい。ブチャ先生もありがとうね」
「ブチャ? はは、ブチャよ。お前ついに、すみっ子の心の師になったか。でも……それなら丁度いいかな」

「丁度いいって、何が?」

「あのね。すみっ子にお願いがあるんだけど……今度のゴールデンウィークの間、ブチャ預かってくれないかな?」
「えっ!? それは構わないけど。どうして?」
「今、買い物行きがてら両親と話してたんだけど、二人でサイパンにゴルフしに行く計画立ててんのよ。それで私も行くかって聞かれたんだけど、ブチャ置いてけないしって言ったら、ペットホテルでいいじゃないってさ。ああ、それならすみっ子に預かってもらってもいいかなって思ったんだ」
「ああ。そういう事なら大歓迎だよ。ブチャ先生もいいよね?」
「にゃーーー!」
「いいってさ」
「ははは。それじゃ決まりだね。お父さんに伝えて来る」
 そう言って理恵は下に降りていった。

 ◇◇◇

 ハジッコがいなくなり、二人ともモフモフ不足がひどかった事もあったのか、ブチャ先生を預かる件は、お父さんとおばあちゃんも二つ返事で了解してくれた。
 連休GWの前日、虎兄の車で理恵の家に行き、ブチャ先生をお迎えした。

(これが虎か。いい男じゃの)
 ブチャ先生がそう言うが、もちろん虎兄には、ニャーニャーとしか聞こえない。
 車はそのうち九重家に到着した。

「それじゃ俺はこれで……ああスミ。あさって希来里が、また調査報告にくるってさ。お前、家にいるよな?」虎兄が、別れ際にスマホを見ながらそう言った。
「うん。ブチャ先生もいるし、どこにもいかないよ」ハジッコがそう答えた。

「先生。狭い家だけどゆっくりして下さいね」そういいながらブチャ先生を家の中に案内したが、早速おばあちゃんが触りに来た。
「あらあら、可愛いねー。ぷよぷよだねー」
 猫はお腹を触られるのが嫌なはずだが、ブチャ先生は我慢してくれている様だ。

 やがてお父さんも帰ってきて、おばあちゃんと同じ様にブチャ先生のお腹を撫でていた。いやそれ、私だったらうれしいんだけど……ハジッコはそう思いながら、我慢してくれているブチャに感謝した。

 夕食を終え、ブチャ先生といっしょにお風呂に入ったハジッコは、浴衣姿でブチャと縁側で涼んでいた。今日は日中かなり気温が上がったためか、まだちょっと蒸し暑く、縁側が心地よい。

「いい家ではニャいか。庭も広いし風通しもいい」
 ブチャ先生も気に入ってくれた様だ。
「でしょ? それでその垣根かきねの向こうが虎之助さんの家なんですよ」
「ニャんと! それではいつでも夜いに行けるではニャいか!」
「そんな先生! 夜這いだなんて……そんなはしたない事はしません!」
「いや、犬ならするじゃろ?」
「だから。今は犬じゃありません!」

 その時、二人の眼の前を、ひらひらと黒いものが通り過ぎた。

「アゲハ蝶?」ハジッコが気付いた。
「うむ。カラスアゲハじゃのう。まだこの時期に珍しいが……そう言えばこの前も……」
「この前も? 何かあったのですか?」
「いや、何でもニャい。ただの偶然じゃろう」

 そして夜も更け、ハジッコはブチャ先生といっしょの布団に入って休んだ。

 ◇◇◇

 二日後の午後。希来里がやってきた。お父さんとおばあちゃんは千葉のおじさんの家に用があって出かけていたが、虎兄は日中バイトだけど三時には終わるとの事で、そしたら顔出してくれると言っていた。

「あれ、スミちゃん。その猫どうしたの? えらい不細工だねぇ」
 希来里がそう言うと、ブチャ先生が怒っている。
(ふん。これが希来里か。やっぱり気がかなそうな感じだね。これじゃあの虎には釣り合わニャいよ!)ニャーニャー言いながらブチャ先生が悪態をついていた。
「ああ、この子はブチャっていいます。友達んちの子なんですが、連休中預かってるんです」
 
「そっか。それでねスミちゃん。例の件なんだけど……」
「何か分かりましたか?」ハジッコがテーブル越しに身体を乗り出す。
 すると、希来里が新聞の切り抜きをスクラップした様なもののコピーを数枚広げた。

「これは?」
「連続美少女変死事件のスクラップよ」
「連続美少女変死事件!?」ハジッコは驚いて声がうわずった。
 その膝の上にいたブチャ先生も思わす顔をあげる。

「そう。もうずっと以前から続いているらしいんだけれど、毎年春に数名。美人のほまれ高い女性が原因不明の心肺停止で変死する事件が連続していて……さかのぼれる限りでその情報を集めてみたの。どれも多分お花見の時、突然パタリといっちゃってて……まあ、スミちゃんは無事だったんだけど、なんかちょっと似てるなって思ったんだ」

 いや、無事じゃなかったのよ! 
 のどまで出かかった言葉を飲み込んで、ハジッコが希来里に質問した。

「で、でも、そんな大事件。なんでみんな騒がないの?」
「いやー。もちろん警察は調べていると思うけど、それぞれの事件は散発的で関連性も認められず外傷もないとかで、なにかのたたりとかじゃないかって……私もこの話、都市伝説扱うサイトで見つけたんだけどね。そのコピー見てもらうと分かるけど、なにせ判っただけでも五十年位前の記録もあったし……」

 新聞の切り抜きコピーに順番に目を通しながら、ハジッコは思う。
 ああ、なんて恐ろしい。でも、それがもし本当にあの夜桜の仕業しわざだったとしたら……そんな恐ろしい相手に私がかなうのだろうか。あっ! 事件って事は……もしかして、豊川さんはこの件を調べているかも! ああ。やっぱり私は豊川刑事に会わないと。そして……ああ、でもなんて言うの? 
 実は私がハジッコで、スミちゃんの魂が取られましたって? それはダメなのよ!

 でも……そう思ってハジッコが立ち上がった時だった。
「ふうぅううううっ!!」いきなりブチャ先生が警戒音を発した。

「ありゃ。なんだあれ。うわー蝶々だね。今時期めずらしい」希来里がそう言いながら指をさした方向に、カラスアゲハが舞っており、それが庭から居間に入ってきた。

「ありゃりゃ。入ってきちゃたよ。外に出してあげないと、猫ちゃんに捕られちゃうかも」そう言いながら希来里が手で蝶を追い払おうとしたその時、ブチャ先生がいきなりその蝶々に飛び掛かった。
「あーだめだよ! 蝶々さんが死んじゃうよ」希来里がそう言った瞬間、蝶に飛び掛かったブチャ先生が、バットで撃ち返されたかのように、居間の柱にたたきつけられた。

「ブチャ先生!!」ハジッコは慌ててブチャ先生に駆け寄るが、意識が無いようだ。
「ちょっと! 何が起きたの!」希来里が慌てて立ち上がると、どこかでチーンとおりんの様な音がして、次の瞬間、周りが暗闇に包まれた。
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