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第三話 手掛かりはどこ?
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翌朝。検査の結果に異常なしと言う事で、澄子の身体に入ったハジッコは、病院から最寄りの警察署に案内され、そこで事情聴取を受けた。そして澄子の魂を奪われたとは言えず、単に魂を抜かれそうになったという事で、付喪神の女の容姿や、夜桜と名乗った事などを自分が見聞きしたままに話したのだがどうやら警官は信じてくれない様だ。目撃者もいないらしい。
取り調べの警官はそばにいたお父さんと何か話している。
「あの。こちらのお嬢さんは、普段からこういうスピリチュアルな感じで?」
「いえ、そうではないと思うのですが……」お父さんも困惑気味だ。
「だとすると、まだ意識や記憶に混乱があるのかも知れませんね。ストーカーだったりしたらまずいので、しばらくは周辺に気を配りながらゆっくりおうちで休ませてあげてください。我々もご自宅周辺の警備を強化しますが、何か気づいたことがあれば連絡ください」
こうして、ハジッコがお父さんといっしょに自宅に帰ろうと部屋を出ると、廊下の所に虎之助がいた。
「スミ。大丈夫か?」
「ああ、虎之助さん。私は大丈夫です。心配してくれてありがとう」
「虎之助さん? あ、いや。すまない。ハジッコがあんな事になって、お前も気落ちしてるんだよな」
「えっ? 私がどうかしましたか?」
「?? いやお前じゃなくて、ハジッコだよ。まだ意識が混乱してるのか?
まあいいや。ハジッコの遺骸は今、警察が司法解剖して、今回の事件の手がかりを探しているんだ。戻ってくるまで一週間くらい待ってくれってさ」
「ああ、そうなんですか……」
澄子の反応があまりに淡々としていて虎之助は若干違和感を覚えたが、まあ相当ショックなのは間違いないだろうし、心のどこかで、ハジッコの死を拒絶しているのかもしれないなと、虎之助はその時そう思った。
しかしその時、ハジッコは全く別の事を考えていた。
どうしましょう。付喪神の事をそのまま人間に伝えても全く信じてもらえません。
急いでスミちゃんの魂を取り戻さねばならないのに……。
とはいっても、事情を虎之助さんにお話しする訳にもいきませんし……ああ、私はどうすればいいのでしょうか……。
何をすればよいのか全く見当がつかず、ハジッコは途方に暮れていた。
◇◇◇
夕方家に戻り、おばあちゃんにも中央公園で起こった事を話したが、事前にあらかた虎之助さんから聞いていた様だった。
「ハジッコ……解剖とかされて、ちゃんと成仏出来るのかねえ」
おばあちゃんが心配そうにそう言ったが……すいません。まだここにいます……
晩御飯を食べながら、お父さんが言った。
「澄子。今回の犯人が通り魔なのかストーカーなのかもわからん状況だから、警察の言う様に当分家でじっとしていろ。まあ春休みだし丁度いいか。ハジッコの事は残念だったが……あいつの身体が戻ってきたら、ちゃんとお葬式しような」そしてお父さんは、今日は疲れただろうし風呂に入って早く休めと言ってくれた。
「あっ。それじゃお父さんが私の身体洗って下さい!」
ハジッコにそう言われたお父さんは、いきなり「ブッ!!」っと、飲みかけていたビールを噴き出した。
あれ? 私何か変な事言った? お風呂で私を洗ってくれるのはいっつもお父さんだった……って、あっ、そうだった! 今、私、スミちゃんなんだっけ!!
ハジッコと仲の良い澄子ではあったが、やはりお年頃の女の子。お風呂では色々自分の事もしなくてはならず、ハジッコが一緒だとゆっくりお風呂に入れないとの事で、ハジッコのお風呂は大概お父さんの役目だったのだ。
「あらあら澄子。ハジッコが死んじゃって、寂しくて子供に戻っちゃったみたいだねえ」おばあちゃんがほほ笑みながらそう言った。
お父さんも眼を白黒させていたが、やがてビールのコップを置いてこういった。
「澄子。さびしいのは分かるが……やはりお風呂は一人で入りなさい」
こうして事なきを得て、ハジッコは一人でお風呂に入った。
風呂場の鏡には、澄子の姿が映っている。こうしてみると自分はが間違いなく澄子になってしまっているのが分かる。私が変な事しちゃったら、スミちゃんの名誉にかかわるわね。ハジッコは、ちょっと気を引き締めようと思った。だが、水道やシャンプーの使い方は、さんざん見て来ているので知ってはいたが、いざ自分でやるとなるとそれなりに難しく、シャンプーの泡が目に入ってとても痛い。
やっぱりお父さんに洗ってもらった方が良かったかなとちょっと思ってしまった。
お風呂から上がったら、おばあちゃんが換えの下着と浴衣を出してくれていた。
ほんと、前から感じてたけど、人間ってなんでこんな下着付けてるのかしら。
面倒くさいわよね。向きはこれでいいんだっけ?
四苦八苦しながらなんとか下着と浴衣を装着し、居間に戻ったら「もうお布団しいてあるから、早くお休み」とおばあちゃんが言った。
「はーい」そう言いながら、ハジッコは、濡れ縁の所にしいてあった毛布の上にゴロンと仰向けに寝転がった。
「えっ!? 澄子。そこはハジッコの……」居間でテレビを見ていたお父さんが、あられもない娘の姿にびっくりして声をかけた。
ああっ! しまった。またやっちゃった。
ハジッコは、あわてて澄子の部屋に入っていった。
その様子を見てお父さんがつぶやく。
「どうしちゃったんだよ、澄子は……ハジッコが取り憑いたか?」
「何言ってんだい。ハジッコが澄子に仇なす訳ないだろう。あの子、強がってるけど、やっぱり寂しくて動揺してるんだよ」おばあちゃんがそうフォローした。
◇◇◇
翌日は朝から良く晴れていたが、お父さんに当面外出するなと言われていて、散歩に行きたいのを我慢しながら、ハジッコは縁側にぼーっと座っていた。
もちろん、考えているのは澄子の事ばかりなのだが、どうすればよいのか全く見当がつかない。
犬神様もあれっきり顔を見せないし、心の中で思い切り呼び掛けても応答がない。
「おーい。ずっとそこにいたら日焼けするぞー」
そういいながら庭の垣根越しに虎之助が顔を出した。隣の柿沼家との境の垣根はそんなに高くないので、身長が185cmある虎之助だと直接顔が出せる。
そしてそれがひょいっと引っ込んだかと思ったら、玄関を回って庭に入ってきた。
いっしょにビスマルクもついてきた。ビスマルクは現在柿沼家が飼っている犬のうちのオスの一頭で、ハジッコの弟の孫にあたるが、途中でシェパードの血が混ざったMixだ。若くて体格もよく、柿沼家の番犬の主力になっている。
そのビスマルクがそわそわしながら、澄子の姿をしたハジッコの前に来たかと思ったら、いきなり警戒体勢で「ウウウウッ!」とうなりだした。
「あれ、どうしたビスマルク。スミは大好きだったろ?」
虎之助がいなすが、ビスマルクは全く警戒を解かない。
そっか、犬にはなんとなくわかるんだよね。私がスミちゃんじゃないって。でも、わたしだって事はわからないみたいね。そう思ったハジッコは、えいっとビスマルクに抱き着き、耳元でささやいた。
(ビスくん。わたしだよ! ハジッコ!)
やにわに抱き着かれて、びっくりして暴れていたビスマルクだったが、その一言でピタリとおとなしくなった。
あら、判ったのかしら? だが確かめ様がない。とりあえずおとなしくなったのだから、何かは伝わったのだろう。
「はは。落ち着いたな。スミ、おまえがあんまりしょげてるから、ビスマルクも他人と勘違いしたんじゃないか?」
「そうかな。私、そんなにしょげてた?」
「ああ。でも仕方ないさ。あんな事があった後だし……まあ当分外出も禁止されているんだろうし、ストレス溜まるだろうが、バイトじゃない日は俺が話相手位はしてやるさ」
「ありがとう。虎之助さん」
「おいおい。またさんかよ。そんな他人行儀な。いつもみたいに虎兄でいいんだぞ。
それとも何か、なんか悩みでもあんのか?」
「あっ、うん。とらのす……虎兄ちゃん。あのね……付喪神って知ってる?」
「えっ!? なんだよ、藪から棒に。それってなんだったっけ。聞いた事あるぞ。
あー、そうそう。妖怪の一種だろ? こう鏡とか櫛とかの道具が長い年月を経て妖怪化するってやつ。昔、アニメとかでやってたかも」
「そうなの!? そのアニメとか見られる?」
「あ、いや。なんてタイトルだったかもわからないよ。なんだお前、そんなのに興味があるのか? まあ気晴らしになるんなら何でもいいけど……そうだな。俺の大学のサークルの後輩で、人文学部なんだが、そうした話が好きな奴がいる。なんなら紹介しようか?」
「えっ! いいの?」
「ああ。ちょっと変わり者だが悪い奴じゃないし、見た目だけは結構かわいい女子大生だ。この春休み。バイトじゃなければヒマしてると思うんで、声かけてみるよ」
「ありがとう、とらのす……虎兄ちゃん!」
いや、言ってみるものだわ。これなら私の正体に関係なく、付喪神の事が調べられるかも知れない。千里の犬も棒にあたる……だったかしら。
とにかく出来る事を進めましょう。
こうしてハジッコは、一歩前進した。
取り調べの警官はそばにいたお父さんと何か話している。
「あの。こちらのお嬢さんは、普段からこういうスピリチュアルな感じで?」
「いえ、そうではないと思うのですが……」お父さんも困惑気味だ。
「だとすると、まだ意識や記憶に混乱があるのかも知れませんね。ストーカーだったりしたらまずいので、しばらくは周辺に気を配りながらゆっくりおうちで休ませてあげてください。我々もご自宅周辺の警備を強化しますが、何か気づいたことがあれば連絡ください」
こうして、ハジッコがお父さんといっしょに自宅に帰ろうと部屋を出ると、廊下の所に虎之助がいた。
「スミ。大丈夫か?」
「ああ、虎之助さん。私は大丈夫です。心配してくれてありがとう」
「虎之助さん? あ、いや。すまない。ハジッコがあんな事になって、お前も気落ちしてるんだよな」
「えっ? 私がどうかしましたか?」
「?? いやお前じゃなくて、ハジッコだよ。まだ意識が混乱してるのか?
まあいいや。ハジッコの遺骸は今、警察が司法解剖して、今回の事件の手がかりを探しているんだ。戻ってくるまで一週間くらい待ってくれってさ」
「ああ、そうなんですか……」
澄子の反応があまりに淡々としていて虎之助は若干違和感を覚えたが、まあ相当ショックなのは間違いないだろうし、心のどこかで、ハジッコの死を拒絶しているのかもしれないなと、虎之助はその時そう思った。
しかしその時、ハジッコは全く別の事を考えていた。
どうしましょう。付喪神の事をそのまま人間に伝えても全く信じてもらえません。
急いでスミちゃんの魂を取り戻さねばならないのに……。
とはいっても、事情を虎之助さんにお話しする訳にもいきませんし……ああ、私はどうすればいいのでしょうか……。
何をすればよいのか全く見当がつかず、ハジッコは途方に暮れていた。
◇◇◇
夕方家に戻り、おばあちゃんにも中央公園で起こった事を話したが、事前にあらかた虎之助さんから聞いていた様だった。
「ハジッコ……解剖とかされて、ちゃんと成仏出来るのかねえ」
おばあちゃんが心配そうにそう言ったが……すいません。まだここにいます……
晩御飯を食べながら、お父さんが言った。
「澄子。今回の犯人が通り魔なのかストーカーなのかもわからん状況だから、警察の言う様に当分家でじっとしていろ。まあ春休みだし丁度いいか。ハジッコの事は残念だったが……あいつの身体が戻ってきたら、ちゃんとお葬式しような」そしてお父さんは、今日は疲れただろうし風呂に入って早く休めと言ってくれた。
「あっ。それじゃお父さんが私の身体洗って下さい!」
ハジッコにそう言われたお父さんは、いきなり「ブッ!!」っと、飲みかけていたビールを噴き出した。
あれ? 私何か変な事言った? お風呂で私を洗ってくれるのはいっつもお父さんだった……って、あっ、そうだった! 今、私、スミちゃんなんだっけ!!
ハジッコと仲の良い澄子ではあったが、やはりお年頃の女の子。お風呂では色々自分の事もしなくてはならず、ハジッコが一緒だとゆっくりお風呂に入れないとの事で、ハジッコのお風呂は大概お父さんの役目だったのだ。
「あらあら澄子。ハジッコが死んじゃって、寂しくて子供に戻っちゃったみたいだねえ」おばあちゃんがほほ笑みながらそう言った。
お父さんも眼を白黒させていたが、やがてビールのコップを置いてこういった。
「澄子。さびしいのは分かるが……やはりお風呂は一人で入りなさい」
こうして事なきを得て、ハジッコは一人でお風呂に入った。
風呂場の鏡には、澄子の姿が映っている。こうしてみると自分はが間違いなく澄子になってしまっているのが分かる。私が変な事しちゃったら、スミちゃんの名誉にかかわるわね。ハジッコは、ちょっと気を引き締めようと思った。だが、水道やシャンプーの使い方は、さんざん見て来ているので知ってはいたが、いざ自分でやるとなるとそれなりに難しく、シャンプーの泡が目に入ってとても痛い。
やっぱりお父さんに洗ってもらった方が良かったかなとちょっと思ってしまった。
お風呂から上がったら、おばあちゃんが換えの下着と浴衣を出してくれていた。
ほんと、前から感じてたけど、人間ってなんでこんな下着付けてるのかしら。
面倒くさいわよね。向きはこれでいいんだっけ?
四苦八苦しながらなんとか下着と浴衣を装着し、居間に戻ったら「もうお布団しいてあるから、早くお休み」とおばあちゃんが言った。
「はーい」そう言いながら、ハジッコは、濡れ縁の所にしいてあった毛布の上にゴロンと仰向けに寝転がった。
「えっ!? 澄子。そこはハジッコの……」居間でテレビを見ていたお父さんが、あられもない娘の姿にびっくりして声をかけた。
ああっ! しまった。またやっちゃった。
ハジッコは、あわてて澄子の部屋に入っていった。
その様子を見てお父さんがつぶやく。
「どうしちゃったんだよ、澄子は……ハジッコが取り憑いたか?」
「何言ってんだい。ハジッコが澄子に仇なす訳ないだろう。あの子、強がってるけど、やっぱり寂しくて動揺してるんだよ」おばあちゃんがそうフォローした。
◇◇◇
翌日は朝から良く晴れていたが、お父さんに当面外出するなと言われていて、散歩に行きたいのを我慢しながら、ハジッコは縁側にぼーっと座っていた。
もちろん、考えているのは澄子の事ばかりなのだが、どうすればよいのか全く見当がつかない。
犬神様もあれっきり顔を見せないし、心の中で思い切り呼び掛けても応答がない。
「おーい。ずっとそこにいたら日焼けするぞー」
そういいながら庭の垣根越しに虎之助が顔を出した。隣の柿沼家との境の垣根はそんなに高くないので、身長が185cmある虎之助だと直接顔が出せる。
そしてそれがひょいっと引っ込んだかと思ったら、玄関を回って庭に入ってきた。
いっしょにビスマルクもついてきた。ビスマルクは現在柿沼家が飼っている犬のうちのオスの一頭で、ハジッコの弟の孫にあたるが、途中でシェパードの血が混ざったMixだ。若くて体格もよく、柿沼家の番犬の主力になっている。
そのビスマルクがそわそわしながら、澄子の姿をしたハジッコの前に来たかと思ったら、いきなり警戒体勢で「ウウウウッ!」とうなりだした。
「あれ、どうしたビスマルク。スミは大好きだったろ?」
虎之助がいなすが、ビスマルクは全く警戒を解かない。
そっか、犬にはなんとなくわかるんだよね。私がスミちゃんじゃないって。でも、わたしだって事はわからないみたいね。そう思ったハジッコは、えいっとビスマルクに抱き着き、耳元でささやいた。
(ビスくん。わたしだよ! ハジッコ!)
やにわに抱き着かれて、びっくりして暴れていたビスマルクだったが、その一言でピタリとおとなしくなった。
あら、判ったのかしら? だが確かめ様がない。とりあえずおとなしくなったのだから、何かは伝わったのだろう。
「はは。落ち着いたな。スミ、おまえがあんまりしょげてるから、ビスマルクも他人と勘違いしたんじゃないか?」
「そうかな。私、そんなにしょげてた?」
「ああ。でも仕方ないさ。あんな事があった後だし……まあ当分外出も禁止されているんだろうし、ストレス溜まるだろうが、バイトじゃない日は俺が話相手位はしてやるさ」
「ありがとう。虎之助さん」
「おいおい。またさんかよ。そんな他人行儀な。いつもみたいに虎兄でいいんだぞ。
それとも何か、なんか悩みでもあんのか?」
「あっ、うん。とらのす……虎兄ちゃん。あのね……付喪神って知ってる?」
「えっ!? なんだよ、藪から棒に。それってなんだったっけ。聞いた事あるぞ。
あー、そうそう。妖怪の一種だろ? こう鏡とか櫛とかの道具が長い年月を経て妖怪化するってやつ。昔、アニメとかでやってたかも」
「そうなの!? そのアニメとか見られる?」
「あ、いや。なんてタイトルだったかもわからないよ。なんだお前、そんなのに興味があるのか? まあ気晴らしになるんなら何でもいいけど……そうだな。俺の大学のサークルの後輩で、人文学部なんだが、そうした話が好きな奴がいる。なんなら紹介しようか?」
「えっ! いいの?」
「ああ。ちょっと変わり者だが悪い奴じゃないし、見た目だけは結構かわいい女子大生だ。この春休み。バイトじゃなければヒマしてると思うんで、声かけてみるよ」
「ありがとう、とらのす……虎兄ちゃん!」
いや、言ってみるものだわ。これなら私の正体に関係なく、付喪神の事が調べられるかも知れない。千里の犬も棒にあたる……だったかしら。
とにかく出来る事を進めましょう。
こうしてハジッコは、一歩前進した。
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