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後日談:エルルゥのツェルラント通信
第8話 ゲートの事
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灯とジョージさんは、短大を出てすぐにタクシーを拾い、自宅に向かった。
タクシーの中で灯は、自分が例の水着のままであることに気が付いた。
(しまったー……私、慌てすぎだよ……)
隣に座っているジョージさんも、どこを見ていいか分からない様で、困ったように眼を泳がせている。もう、こうなったら……。
灯はジョージの腕をグイっと抱きかかえてこう言った。
「あの、ジョージさん。他人だと思うから恥ずかしいので……。
他人じゃないということで……」
ジョージもビックリしたようだったが、やがて笑顔でこういった。
「そうですね。そのほうが私も任務を全うしやすい……」
タクシーが佐倉家の前に着いた。
あ、そうだ。先におばさんに連絡しておけばよかったか。
(本当に私、慌てすぎ……)
とにかく、ジョージさんといっしょに裏庭に向かったら……いた! エルルゥだ。スタンフォードと思われる男もいっしょだ。首筋にナイフを押し当てて、なにかわめいているようだが、英語なのでエルルゥにはわからないのだろう。
「HOLD UP!」ジョージさんがスタンフォードに警告を発した。
えっ? 銃なんていつの間に……どこに持ってたのかしら?
スタンフォードが何か言っている。英語は余り得意ではないが、動けば殺すと言ったところか。スタンフォードの眼は焦点があっておらず、確かに正常な精神状態ではないのだろう。
「ジョージさん。彼にこう伝えて下さい。
エルルゥを開放すれば、あっちに行く方法を教えると。
ただし、行ったら二度と戻ってこられないと。
モー博士が亡くなっているのは間違いない。
それでもあなたはあっちに行くのかと……」
ジョージさんがそれをスタンフォードに伝えると、彼は猛烈な勢いで語りだした。
「彼はこう言っています。
カトレアは俺のものだ。死んでいようが生きていようが関係ない。
生きていればそれがどこであろうと二人一緒でなくてはならないし、もし死んで墓の下なら、その隣には俺がいるべきだ。彼女は寂しがり屋なのだと」
ああ、これはこれでなんと強烈な愛情なのだろう。
灯はちょっと感心してしまった。
「わかったわ。あなたをあっちに送ってあげる。だからその子を放しなさい!」
「だめだ、ちゃんと方法を教えてもらってから解放する」と言っているようだ。
「……ちょっと待ってなさい」
灯はそう言って、隣の雄太の家の物置にしまってあったタグを一つ持ってきた。
「これを首にかけなさい。そしてここに立って……そうそうその辺」
「ちょっと、灯。
この人このまま送ったら、王城のゲートに出ちゃうけどいいの?」
エルルゥが心配そうに言う。
「緊急事態だし、別に大丈夫でしょ。
システンメドルはびっくりするかもしれないけど……。
あっちは人一人が飛ばされて、すぐに何か出来るほど簡単じゃないわ」
そう、それは自分が一番よく知っている。
「Hurry Up!」スタンフォードがせかす。
「それじゃ、そのあなたの眼の前に転送ゲートがあるの。
それ、私とエルルゥには、はっきり見えてるんだけど……。
あると信じて見ないと見えないものらしいわ。
信じられなければあきらめなさい」
スタンフォードは最初は怪訝な顔をしていたが、眼を細めたり片目をつぶったりしていた。
「OH! LightCycle!」
どうやら見えたようだ。
こういうのは、狂人のほうが見えやすいかもしれないわね。
「そこに入れば、あっちの王城のゲート室に着くわ。
出会った人に挨拶を忘れないでね」
「Oh……Thank you…………and with me!」
そう言ってスタンフォードがゲートに飛び込みざま、傍にいたエルルゥのウェディングドレスを掴んだ。
「あっ、だめー! エルルゥにはタグが付いてない!」灯が叫ぶ。
しかし、プチプチっという音と共に、エルルゥのウェディングドレスが背中から破れ、スタンフォードと一緒に衣装の黒いレース部分だけがゲートに落ちて行った。
後には、ノーブラでショーツ一丁になったエルルゥが残されていた。
「Oh! モーレツ!」ジョージさんが大声で叫んだ。
ははは……さっすがショー用の衣装。縫製が雑で助かったわ。
「私、腰回りがきつく感じて、スカートや腰回りの糸何本か抜いて、付け直そうとしてたら、あいつにつかまったのよ」エルルゥが笑顔でそう言った。
タクシーの中で灯は、自分が例の水着のままであることに気が付いた。
(しまったー……私、慌てすぎだよ……)
隣に座っているジョージさんも、どこを見ていいか分からない様で、困ったように眼を泳がせている。もう、こうなったら……。
灯はジョージの腕をグイっと抱きかかえてこう言った。
「あの、ジョージさん。他人だと思うから恥ずかしいので……。
他人じゃないということで……」
ジョージもビックリしたようだったが、やがて笑顔でこういった。
「そうですね。そのほうが私も任務を全うしやすい……」
タクシーが佐倉家の前に着いた。
あ、そうだ。先におばさんに連絡しておけばよかったか。
(本当に私、慌てすぎ……)
とにかく、ジョージさんといっしょに裏庭に向かったら……いた! エルルゥだ。スタンフォードと思われる男もいっしょだ。首筋にナイフを押し当てて、なにかわめいているようだが、英語なのでエルルゥにはわからないのだろう。
「HOLD UP!」ジョージさんがスタンフォードに警告を発した。
えっ? 銃なんていつの間に……どこに持ってたのかしら?
スタンフォードが何か言っている。英語は余り得意ではないが、動けば殺すと言ったところか。スタンフォードの眼は焦点があっておらず、確かに正常な精神状態ではないのだろう。
「ジョージさん。彼にこう伝えて下さい。
エルルゥを開放すれば、あっちに行く方法を教えると。
ただし、行ったら二度と戻ってこられないと。
モー博士が亡くなっているのは間違いない。
それでもあなたはあっちに行くのかと……」
ジョージさんがそれをスタンフォードに伝えると、彼は猛烈な勢いで語りだした。
「彼はこう言っています。
カトレアは俺のものだ。死んでいようが生きていようが関係ない。
生きていればそれがどこであろうと二人一緒でなくてはならないし、もし死んで墓の下なら、その隣には俺がいるべきだ。彼女は寂しがり屋なのだと」
ああ、これはこれでなんと強烈な愛情なのだろう。
灯はちょっと感心してしまった。
「わかったわ。あなたをあっちに送ってあげる。だからその子を放しなさい!」
「だめだ、ちゃんと方法を教えてもらってから解放する」と言っているようだ。
「……ちょっと待ってなさい」
灯はそう言って、隣の雄太の家の物置にしまってあったタグを一つ持ってきた。
「これを首にかけなさい。そしてここに立って……そうそうその辺」
「ちょっと、灯。
この人このまま送ったら、王城のゲートに出ちゃうけどいいの?」
エルルゥが心配そうに言う。
「緊急事態だし、別に大丈夫でしょ。
システンメドルはびっくりするかもしれないけど……。
あっちは人一人が飛ばされて、すぐに何か出来るほど簡単じゃないわ」
そう、それは自分が一番よく知っている。
「Hurry Up!」スタンフォードがせかす。
「それじゃ、そのあなたの眼の前に転送ゲートがあるの。
それ、私とエルルゥには、はっきり見えてるんだけど……。
あると信じて見ないと見えないものらしいわ。
信じられなければあきらめなさい」
スタンフォードは最初は怪訝な顔をしていたが、眼を細めたり片目をつぶったりしていた。
「OH! LightCycle!」
どうやら見えたようだ。
こういうのは、狂人のほうが見えやすいかもしれないわね。
「そこに入れば、あっちの王城のゲート室に着くわ。
出会った人に挨拶を忘れないでね」
「Oh……Thank you…………and with me!」
そう言ってスタンフォードがゲートに飛び込みざま、傍にいたエルルゥのウェディングドレスを掴んだ。
「あっ、だめー! エルルゥにはタグが付いてない!」灯が叫ぶ。
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後には、ノーブラでショーツ一丁になったエルルゥが残されていた。
「Oh! モーレツ!」ジョージさんが大声で叫んだ。
ははは……さっすがショー用の衣装。縫製が雑で助かったわ。
「私、腰回りがきつく感じて、スカートや腰回りの糸何本か抜いて、付け直そうとしてたら、あいつにつかまったのよ」エルルゥが笑顔でそう言った。
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