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第一章 本編
第53話 限界
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危ないところだったが、近衛のみんなが、ゲート室の寸前でナスキンポス将軍の拘束に成功した。これで俺達のゲートでの帰還を邪魔するものは何もなくなった。
外から来た諸侯連合の軍勢も王城に入城しだしており、そのまま本丸の武装解除も進んでいるようだ。
俺達は、新王とともにゲート室に入り、灯、エルルゥやシステンメドルといった、城外で待機していたメンバ―が来るのを待った。
「王様。王様も私たちと一緒に亡命します?」
おいおい、星さん。いくら何でもそれはダメだろ。
「はは、そんなつもりはまったくない。俺はまだ、腐っても国王だからな。
この先の顛末を見届ける義務がある」
そう言いながら新王は花梨を抱き抱えた。
「お前は私と同じなのに、みんなに愛されていてうらやましいぞ。
……いや、私も周りから愛されていたのに気づかなかっただけなのだろうな……」
やがてプルーンが灯達を引き連れてゲート室にやってきた。
はは、メロンまで付いてきた。
灯が星に駆け寄って抱きついた。
「お母さん……よかった。無事でよかったよー」
その灯に新王が話かけた。
「お前がともりか? 率直に聞きたい。
自分の思い人を母親に取られた気分はどんなものなのだ?」
新王の言葉を俺が訳して灯に伝えた。
「何よこの人。失礼じゃない?」
いやいやこの人王様だから、と俺が灯に説明した。
「ふん、あんたがこの騒ぎの張本人ってわけね……そりゃ悔しくない訳ないじゃない! でもね。遊びとかじゃなく、本気で好きになっちゃったらしようがないよ。
人の気持ちなんて、倫理やルールで決められないんじゃない?」
「そうか……そうだな。お前にも教えられたな……」
灯の回答も新王の意に沿うものだったようだ。
◇◇◇
ゲート室に新王がいて最初は驚いた様だったが、システンメドルが早速、制御装置の確認を始めた。
しばらくして彼が言った。
「二名だ!」
「えっ? それって、ゲートを通れる人数ってこと?」プルーンが問う。
「そうだ。今のマナ蓄積量だとそれが限界だ」
「えー! それだとみんなで帰れないじゃん。
ちっこい人なら三人とかは出来ないの?」エルルゥが質問した。
「無理だ。多少余力は見ているが、そこの子供でも三人目は無理だ」
その場の皆が顔を見合わせ、沈黙してしまった。
「でも、時間が立てばまた通れるようになるんですよね?」
俺の問いにシステンメドルが答える。
「そうだ。だがあと一人通れるのが五年後なのか十年後なのかデータが少なくてわからん」
「うん、それじゃ仕方ないか。私はあきらめるよ」エルルゥが言った。
「でも、それでも後四人いるよ……ゆうた、どうする?」
プルーンが気の毒そうに言う。
一旦引き上げて検討しなおそうかとも思ったが、灯が声を上げた。
「あのさ、みんな。勝手な事言っていいかな?
雄太とお母さんと花梨は一緒じゃなきゃダメだと思うの……それで……。
私とエルルゥがあっちに行くんじゃダメかな?」
「灯! それじゃ私はあなたと……」星さんが声を詰まらせる。
「うん、もちろん私も帰らないでみんなこっちに残るって選択肢もあると思う。
でもやっぱり私、あっちに帰って自分の人生リセットしたい。お母さんもゆうくんも嫌いになった訳じゃないのは分かって……」
「ああ、わかってるさ。お前、あっちに帰ったら俺を振って新しい恋人作るって言ってたもんな。俺は一度帰還をあきらめた身だし、こっちに残る事に何の悔いもない。
星さん、どうだろう。灯の意見に従うのは?」
「……灯がそれで幸せになれるなら……」
「大丈夫だよ。お母さん。あなたの娘はそんなにヤワじゃないから……。
こんな第三夫人までいるスケベ男はお母さんに進呈して、私はもっといい人見つけるからさ!」
「ううっ……灯ぃ……」そのまま、星さんと灯はしばらく抱き合って泣いていた。
◇◇◇
「それでは準備はよろしいかな」
システンメドルが、タグを灯とエルルゥに装着した。
「それじゃ、灯。俺の両親に宜しく。そんで俺の荷物も宜しく頼むわ。グレゴリーさんの軍票とか、世に出すタイミングが難しいかもしれないけど、オヤジとよく相談してくれ。エルルゥも元気でな。いつでも挫折して帰ってきていいからな」
俺は灯とエルルゥに順番にキスをした。
「私も……挫折したら戻ってきていいかな?」灯がおどけてそう言った。
「ああ、もちろんだ! それに、もしかしたらゲートの研究が進んで、俺達も帰れるようになるかもしれない。そん時はまたよろしく頼むな」
そして、灯とエルルゥは、みんなに見送られながら、ゲートの中に消えていった。
外から来た諸侯連合の軍勢も王城に入城しだしており、そのまま本丸の武装解除も進んでいるようだ。
俺達は、新王とともにゲート室に入り、灯、エルルゥやシステンメドルといった、城外で待機していたメンバ―が来るのを待った。
「王様。王様も私たちと一緒に亡命します?」
おいおい、星さん。いくら何でもそれはダメだろ。
「はは、そんなつもりはまったくない。俺はまだ、腐っても国王だからな。
この先の顛末を見届ける義務がある」
そう言いながら新王は花梨を抱き抱えた。
「お前は私と同じなのに、みんなに愛されていてうらやましいぞ。
……いや、私も周りから愛されていたのに気づかなかっただけなのだろうな……」
やがてプルーンが灯達を引き連れてゲート室にやってきた。
はは、メロンまで付いてきた。
灯が星に駆け寄って抱きついた。
「お母さん……よかった。無事でよかったよー」
その灯に新王が話かけた。
「お前がともりか? 率直に聞きたい。
自分の思い人を母親に取られた気分はどんなものなのだ?」
新王の言葉を俺が訳して灯に伝えた。
「何よこの人。失礼じゃない?」
いやいやこの人王様だから、と俺が灯に説明した。
「ふん、あんたがこの騒ぎの張本人ってわけね……そりゃ悔しくない訳ないじゃない! でもね。遊びとかじゃなく、本気で好きになっちゃったらしようがないよ。
人の気持ちなんて、倫理やルールで決められないんじゃない?」
「そうか……そうだな。お前にも教えられたな……」
灯の回答も新王の意に沿うものだったようだ。
◇◇◇
ゲート室に新王がいて最初は驚いた様だったが、システンメドルが早速、制御装置の確認を始めた。
しばらくして彼が言った。
「二名だ!」
「えっ? それって、ゲートを通れる人数ってこと?」プルーンが問う。
「そうだ。今のマナ蓄積量だとそれが限界だ」
「えー! それだとみんなで帰れないじゃん。
ちっこい人なら三人とかは出来ないの?」エルルゥが質問した。
「無理だ。多少余力は見ているが、そこの子供でも三人目は無理だ」
その場の皆が顔を見合わせ、沈黙してしまった。
「でも、時間が立てばまた通れるようになるんですよね?」
俺の問いにシステンメドルが答える。
「そうだ。だがあと一人通れるのが五年後なのか十年後なのかデータが少なくてわからん」
「うん、それじゃ仕方ないか。私はあきらめるよ」エルルゥが言った。
「でも、それでも後四人いるよ……ゆうた、どうする?」
プルーンが気の毒そうに言う。
一旦引き上げて検討しなおそうかとも思ったが、灯が声を上げた。
「あのさ、みんな。勝手な事言っていいかな?
雄太とお母さんと花梨は一緒じゃなきゃダメだと思うの……それで……。
私とエルルゥがあっちに行くんじゃダメかな?」
「灯! それじゃ私はあなたと……」星さんが声を詰まらせる。
「うん、もちろん私も帰らないでみんなこっちに残るって選択肢もあると思う。
でもやっぱり私、あっちに帰って自分の人生リセットしたい。お母さんもゆうくんも嫌いになった訳じゃないのは分かって……」
「ああ、わかってるさ。お前、あっちに帰ったら俺を振って新しい恋人作るって言ってたもんな。俺は一度帰還をあきらめた身だし、こっちに残る事に何の悔いもない。
星さん、どうだろう。灯の意見に従うのは?」
「……灯がそれで幸せになれるなら……」
「大丈夫だよ。お母さん。あなたの娘はそんなにヤワじゃないから……。
こんな第三夫人までいるスケベ男はお母さんに進呈して、私はもっといい人見つけるからさ!」
「ううっ……灯ぃ……」そのまま、星さんと灯はしばらく抱き合って泣いていた。
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「ああ、もちろんだ! それに、もしかしたらゲートの研究が進んで、俺達も帰れるようになるかもしれない。そん時はまたよろしく頼むな」
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