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第一章 本編
第28話 亡命
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ゆうたが軍養成所の卒業単位取得のため、必死に勉強していたころ、プルーンは。訓練時以外毎日、第四王女用の離宮一階部分の掃除に明け暮れていた。
建物は三階建てで、王女様は大抵上の階にいらっしゃるが、プルーンは許可なく階を上がることはできない。何回か、王女様が外出されるところを遠くから目にはしたが、遠すぎて、さすがのプルーンの野生の視力でも、なんか小柄な人だなという事位しかわからなかった。
商会宛てに手紙も書いてみたのだが、商会からもゆうたからも何も返事が来ない。
でも、これは自分だけではないらしく、軍が作為的に通信を遮断しているようだ。
その日、プルーンは、洗濯ものを貯めるランドリー室の掃除をしていた。
遠くから誰か走ってくる音がする。離宮内は駆け足禁止であり、誰だろうと廊下に出たところで、出会いがしらに誰かと衝突した。
ぶちゅー。
倒れるとまずいと、反射的に相手を抱きしめたが、勢い余って口と口が接触してしまった。
うわっ、偶然とはいえキスしちゃった! プルーンが慌てて離れようとするが、相手はますますプルーンにしがみついてくる。
「お願い! かくまって!」
そこにはエルフの少女がおびえて小さくなっていた。
えっ、この人、まさか……プルーンが確かめようとした時、廊下の奥から声がしてきた。
「おい、こっちでいいんだよな?」
「ああ、間違いない。早く探せ! アロン様がお怒りになるぞ!」
どうやら追手のようだ。それにしても何で男がこの離宮に?
プルーンは脇にあった大型の洗濯籠をひっくり返して中身をすべて出し、少女にこの中に入る様指示した。そして少女の上から洗濯物を再びかぶせる。
間一髪、追手たちがランドリー室に入ってきた。
「おい、そこの獣人! こっちにエルフの少女が来なかったか?」
「あっ、はい。それならそこの窓から中庭の方へ……でもあなた方はどなたです。ここは第四王女の離宮ですよ!」
「ええい、近衛風情が偉そうな口を叩くな。
私たちは親衛隊だ……おい、いくぞ!」
そう言って男たちは、プルーンが指さした方へ走っていった。
親衛隊ですって? さっきアロン様と言ってたけど、それって第二王子の?
とにかく、怪しい連中は離れて行った様なので、さっきの少女を籠から救いだした。
「あの、もしかしてあなた、姫様ですか?」
「うん。助けてくれてありがとう。私はアスカだよ」
やっぱり、第四王女のアスカ様だー。こんな間近でご尊顔を拝せるなんて……それにしても可愛いー……って、そうだ。さっき、事故とはいえキスしちゃった!
「あ、あの、王女様。先ほどは大変なご無礼を……」
「ん? 何の事? あー、あれか。私、あなたのファーストキス奪っちゃったかな。でも安心して。私もファーストキスだったから」そういって、王女はコロコロと笑った。
「それで、あの人達はいったい?」
「あっ、あなたは今見たこと忘れたほうがいいから……それで、その制服でここにいるってことは、あなた、私付きの近衛だよね。はじめて見る顔だね。お名前は?」
「はい、プルーンと言います。ここへはまだ先月配属になったばかりです」
「先月……それでかー。それにしてもあなた、獣人なのにすごい魔力持ちなのね」
「えっ、私、魔力なんて使えませんが」
「えー? あ、そういう事か! ブレイク!」
王女が呪文を唱えたとたん、プルーンが着ていた近衛の制服が弾け飛んだ。
「ひゃあっ!」プルーンが素っ頓狂な叫び声を上げる。
「あーゴメン。やりすぎちゃった。まだ微調整が苦手なのよ。でもこれだね、魔力の元!」
そう言って王女が、プルーンの例のネックレスを指さした。
「これ、すごくいいネックレスだね。私が欲しいくらいだよ。いただけない?」
「あ、でも、これは……恋人に買ってもらった大事なものですので……」
プルーンは歯切れ悪く、そう言った。
「そっか。大事なものなんだね。ごめんね、無理言って。でもこれは何? このネックレスにぶら下がっている黄色い丸いの」
「あっ、これは五円玉と言って……」
「姫様―。ああよかった。叫び声がしたんでまさかと……ここにいらっしゃいましたか」
後ろに人の気配がして、プルーンは下着姿のまま、王女の盾になるように立ちふさがった。
「ああ、この人は大丈夫だよ。私のばあやだから。それでお兄様は?」
「はい。この後別の打ち合わせがあるとかで、先ほど離宮をお離れになりました。にしても姫様。このありさまは何です? 近衛を裸にして……いたずらでもしていたのですか?」
「あー。これは事故だから。後で、プルーンちゃんに新しい制服を差し上げてね」
そうしてアスカ王女は、ばあやといっしょにその場を後にしたが、立ち去り際、プルーンの耳元でこう囁いた。
「いい事。ここで起こった事や、私に会った事。決して他人に言ってはダメよ。たとえ上官であってもね」
ふー。なんか嵐のようなお姫様だったなー。でも素敵な人。あんな人の肉盾になるのなら本望かも。プルーンはしばらくボーっとしていたが、自分が下着姿になっていることに気付き、洗濯物の中から適当なものを着て、慌てて宿舎に着替えに戻った。
その後、プルーンはその日の出来事を仲間や上官にも話す事はせず、一ヵ月ほど経過したある日のことだった。プルーンは、その日非番で、宿舎で自分の衣類の洗濯をしていた。
そこへ、クローデルと名乗る第四王女側付の近衛上官が私服で訪ねてきた。そしてその人に連れられ、プルーンも何か月かぶりに私服で城外に出た。うわー、どこかで商会に寄れないかなとも思ったが、クローデルの様子が重苦しく、常に何かに警戒しているようだったので、プルーンも警戒態勢を続けた。そして、クローデルは人目をはばかる様に王城から少し離れたまだ開店前の酒場にプルーンを連れて入った。
「もういいでしょう。肩の力を抜きなさい」
そういってクローデルは、炭酸水をプルーンにくれた。
「それで、クローデル様。いったいどんなご用件ですか」
「……プルーンさんでしたよね。あなたのお名前。それで、大変申し訳ないのですが、あなた、アスカ王女のために死んで下さりませんか?」
「えっ?」
「あ、すいません。言葉が足りませんね。本当に死んでしまうかは分かりませんもの。
言い直します。死ぬ覚悟でお手伝いいただけませんか?」
「えー?」
クローデルによると、詳しい説明は一切出来ないのだが、アスカ王女は早急に王城を離れる必要があるのだそうだ。でも、実際に離れると追手が掛かってしまうらしい。なので、何人か影武者を同時に王城から出発させ追手を攪乱したいのだそうで、その一人にプルーンが選ばれたとのことだった。理由としては、まだ入隊してから日が浅くあまり面が割れていないこと。
裏で貴族や有力商人と繋がっていないことなどがあり、なるほど、まさにプルーンにうってつけの任務ではある。しかし……。
「影武者として逃げて、万一追手に捕らえられた場合、命の保証はありませんので、どんな手段を使ってでも逃げ切って下さいとしか言えません。ですが、王女がちゃんと他の貴族領に逃げ込み、かくまってもらうのに成功した場合、近衛で一生働いても稼げないくらいの恩賞を約束します」
「それって、王城外の人の助けとかは借りてもいいのですか?」
「不可能ではないと思いますが、発覚したら連座で処刑されると思います」
そうか、それじゃ、ゆうたとか商会にも協力は頼めないか。
それにしても、なんて厄介な事に巻き込まれてしまったんだろう。
もうすぐ、メロンたちが王都に来るというのに。あの時、王女様と鉢合わせしてお顔を覚えていただいたばっかりに……でも、王女様、あの時からそんなに切羽詰まってたんだ。そう思うと力を貸してあげたい気持ちも強い。
「今ここでお返事しないとダメですか?」
「ごめんなさいプルーンさん。実は私、ここであなたに良い返事をいただけないと、ここから一人で帰れなければなりません」そう言いながら、クローデルは刀の束をちょっと動かす。
なによそれ。相談でも何でも無いじゃない! 最初から、私にはYesの選択肢しか用意されていない。
プルーンは熟考の末、結論を出した。
「わかりました。お引き受けいたします。ですが、条件を二点、呑んでいただけませんか?
一つ目は、私にも大事な家族がいます。任務の性質上、作戦前にそのことを伝える事はできないでしょうから、どんな結末になっても必ず、事の顛末を私の家族に知らせて下さい。ユーレール商会さんが窓口になってくれます。
二つ目は、成功報酬としてではなく、その半分でいいので前金で下さい。そしてそれを、顛末を伝える際、家族に渡してやってほしいのです」
「分かりました。その二点は、我がライスハイン伯爵家の名誉にかけてお約束致します。それでは詳細は改めて。この店からは、時間差をおいて外に出ましょう」
そう言って、クローデルはプルーンを先に王城へ返した。
王女亡命計画は、その後、クローデルを中心に慎重かつ秘密裡に進められ、いよいよ明日夜決行となった。しかしプルーンは、自分がどう動くのか以外、計画の全容を一切知らされていない。いや、そのほうがいいに決まっている。みんなが全部を知ってたら、一人裏切っただけでアウトだ。
すでに、影武者用の衣装は、例のランドリー室経由でプルーンの手にある。シルクの下着なんて初めて手にしたし、白いドレスもすごくきれい。獣人の耳を隠すため、おおきなつばに美しい刺繍が施してある帽子も貰った。だが王女様とは微妙にサイズが異なるのだろう。試着してみたら結構苦しかったので、多少胸のところに余裕が出る様、お裁縫をした。後は、指定された時刻に王城を抜け出し……なんとあのイルマンの領主様のところを目指せという事だった。
共添えはいないので、一人で走ってイルマンを目指さなくてはいけないが、イルマンの町中は全く知らない訳でもないので、町にさえ入ってしまえば何とかなりそうだ。
「ゆうた。みんな。イメンジ……私に加護を」
翌日の深夜。そう呟いてプルーンは王都を抜け出し、予めクローデルに指示されていた道を通って王都を出た。ある程度、目撃してもらわないと、オトリにはならないのだ。
城壁を越えて、王城外にでたころには、雨が降ってきた。
ここからは、クローデルによる経路指定はない。あとはひたすら、かかる追手を逃れるだけだ。ああ、せっかくのドレスが汚れちゃうなー。そんなことを考えながら、プルーンは馬車で二週間かかる先にある、イルマンの町を目指し、速足で闇の中を進んでいった。
そして王都を出て十日目の日中の事だったのだが、王都へ向かうゆうたが乗った馬車が、すぐ近くを通った事に、茂みに潜んで隠れていたプルーンは気が付かなかった。
建物は三階建てで、王女様は大抵上の階にいらっしゃるが、プルーンは許可なく階を上がることはできない。何回か、王女様が外出されるところを遠くから目にはしたが、遠すぎて、さすがのプルーンの野生の視力でも、なんか小柄な人だなという事位しかわからなかった。
商会宛てに手紙も書いてみたのだが、商会からもゆうたからも何も返事が来ない。
でも、これは自分だけではないらしく、軍が作為的に通信を遮断しているようだ。
その日、プルーンは、洗濯ものを貯めるランドリー室の掃除をしていた。
遠くから誰か走ってくる音がする。離宮内は駆け足禁止であり、誰だろうと廊下に出たところで、出会いがしらに誰かと衝突した。
ぶちゅー。
倒れるとまずいと、反射的に相手を抱きしめたが、勢い余って口と口が接触してしまった。
うわっ、偶然とはいえキスしちゃった! プルーンが慌てて離れようとするが、相手はますますプルーンにしがみついてくる。
「お願い! かくまって!」
そこにはエルフの少女がおびえて小さくなっていた。
えっ、この人、まさか……プルーンが確かめようとした時、廊下の奥から声がしてきた。
「おい、こっちでいいんだよな?」
「ああ、間違いない。早く探せ! アロン様がお怒りになるぞ!」
どうやら追手のようだ。それにしても何で男がこの離宮に?
プルーンは脇にあった大型の洗濯籠をひっくり返して中身をすべて出し、少女にこの中に入る様指示した。そして少女の上から洗濯物を再びかぶせる。
間一髪、追手たちがランドリー室に入ってきた。
「おい、そこの獣人! こっちにエルフの少女が来なかったか?」
「あっ、はい。それならそこの窓から中庭の方へ……でもあなた方はどなたです。ここは第四王女の離宮ですよ!」
「ええい、近衛風情が偉そうな口を叩くな。
私たちは親衛隊だ……おい、いくぞ!」
そう言って男たちは、プルーンが指さした方へ走っていった。
親衛隊ですって? さっきアロン様と言ってたけど、それって第二王子の?
とにかく、怪しい連中は離れて行った様なので、さっきの少女を籠から救いだした。
「あの、もしかしてあなた、姫様ですか?」
「うん。助けてくれてありがとう。私はアスカだよ」
やっぱり、第四王女のアスカ様だー。こんな間近でご尊顔を拝せるなんて……それにしても可愛いー……って、そうだ。さっき、事故とはいえキスしちゃった!
「あ、あの、王女様。先ほどは大変なご無礼を……」
「ん? 何の事? あー、あれか。私、あなたのファーストキス奪っちゃったかな。でも安心して。私もファーストキスだったから」そういって、王女はコロコロと笑った。
「それで、あの人達はいったい?」
「あっ、あなたは今見たこと忘れたほうがいいから……それで、その制服でここにいるってことは、あなた、私付きの近衛だよね。はじめて見る顔だね。お名前は?」
「はい、プルーンと言います。ここへはまだ先月配属になったばかりです」
「先月……それでかー。それにしてもあなた、獣人なのにすごい魔力持ちなのね」
「えっ、私、魔力なんて使えませんが」
「えー? あ、そういう事か! ブレイク!」
王女が呪文を唱えたとたん、プルーンが着ていた近衛の制服が弾け飛んだ。
「ひゃあっ!」プルーンが素っ頓狂な叫び声を上げる。
「あーゴメン。やりすぎちゃった。まだ微調整が苦手なのよ。でもこれだね、魔力の元!」
そう言って王女が、プルーンの例のネックレスを指さした。
「これ、すごくいいネックレスだね。私が欲しいくらいだよ。いただけない?」
「あ、でも、これは……恋人に買ってもらった大事なものですので……」
プルーンは歯切れ悪く、そう言った。
「そっか。大事なものなんだね。ごめんね、無理言って。でもこれは何? このネックレスにぶら下がっている黄色い丸いの」
「あっ、これは五円玉と言って……」
「姫様―。ああよかった。叫び声がしたんでまさかと……ここにいらっしゃいましたか」
後ろに人の気配がして、プルーンは下着姿のまま、王女の盾になるように立ちふさがった。
「ああ、この人は大丈夫だよ。私のばあやだから。それでお兄様は?」
「はい。この後別の打ち合わせがあるとかで、先ほど離宮をお離れになりました。にしても姫様。このありさまは何です? 近衛を裸にして……いたずらでもしていたのですか?」
「あー。これは事故だから。後で、プルーンちゃんに新しい制服を差し上げてね」
そうしてアスカ王女は、ばあやといっしょにその場を後にしたが、立ち去り際、プルーンの耳元でこう囁いた。
「いい事。ここで起こった事や、私に会った事。決して他人に言ってはダメよ。たとえ上官であってもね」
ふー。なんか嵐のようなお姫様だったなー。でも素敵な人。あんな人の肉盾になるのなら本望かも。プルーンはしばらくボーっとしていたが、自分が下着姿になっていることに気付き、洗濯物の中から適当なものを着て、慌てて宿舎に着替えに戻った。
その後、プルーンはその日の出来事を仲間や上官にも話す事はせず、一ヵ月ほど経過したある日のことだった。プルーンは、その日非番で、宿舎で自分の衣類の洗濯をしていた。
そこへ、クローデルと名乗る第四王女側付の近衛上官が私服で訪ねてきた。そしてその人に連れられ、プルーンも何か月かぶりに私服で城外に出た。うわー、どこかで商会に寄れないかなとも思ったが、クローデルの様子が重苦しく、常に何かに警戒しているようだったので、プルーンも警戒態勢を続けた。そして、クローデルは人目をはばかる様に王城から少し離れたまだ開店前の酒場にプルーンを連れて入った。
「もういいでしょう。肩の力を抜きなさい」
そういってクローデルは、炭酸水をプルーンにくれた。
「それで、クローデル様。いったいどんなご用件ですか」
「……プルーンさんでしたよね。あなたのお名前。それで、大変申し訳ないのですが、あなた、アスカ王女のために死んで下さりませんか?」
「えっ?」
「あ、すいません。言葉が足りませんね。本当に死んでしまうかは分かりませんもの。
言い直します。死ぬ覚悟でお手伝いいただけませんか?」
「えー?」
クローデルによると、詳しい説明は一切出来ないのだが、アスカ王女は早急に王城を離れる必要があるのだそうだ。でも、実際に離れると追手が掛かってしまうらしい。なので、何人か影武者を同時に王城から出発させ追手を攪乱したいのだそうで、その一人にプルーンが選ばれたとのことだった。理由としては、まだ入隊してから日が浅くあまり面が割れていないこと。
裏で貴族や有力商人と繋がっていないことなどがあり、なるほど、まさにプルーンにうってつけの任務ではある。しかし……。
「影武者として逃げて、万一追手に捕らえられた場合、命の保証はありませんので、どんな手段を使ってでも逃げ切って下さいとしか言えません。ですが、王女がちゃんと他の貴族領に逃げ込み、かくまってもらうのに成功した場合、近衛で一生働いても稼げないくらいの恩賞を約束します」
「それって、王城外の人の助けとかは借りてもいいのですか?」
「不可能ではないと思いますが、発覚したら連座で処刑されると思います」
そうか、それじゃ、ゆうたとか商会にも協力は頼めないか。
それにしても、なんて厄介な事に巻き込まれてしまったんだろう。
もうすぐ、メロンたちが王都に来るというのに。あの時、王女様と鉢合わせしてお顔を覚えていただいたばっかりに……でも、王女様、あの時からそんなに切羽詰まってたんだ。そう思うと力を貸してあげたい気持ちも強い。
「今ここでお返事しないとダメですか?」
「ごめんなさいプルーンさん。実は私、ここであなたに良い返事をいただけないと、ここから一人で帰れなければなりません」そう言いながら、クローデルは刀の束をちょっと動かす。
なによそれ。相談でも何でも無いじゃない! 最初から、私にはYesの選択肢しか用意されていない。
プルーンは熟考の末、結論を出した。
「わかりました。お引き受けいたします。ですが、条件を二点、呑んでいただけませんか?
一つ目は、私にも大事な家族がいます。任務の性質上、作戦前にそのことを伝える事はできないでしょうから、どんな結末になっても必ず、事の顛末を私の家族に知らせて下さい。ユーレール商会さんが窓口になってくれます。
二つ目は、成功報酬としてではなく、その半分でいいので前金で下さい。そしてそれを、顛末を伝える際、家族に渡してやってほしいのです」
「分かりました。その二点は、我がライスハイン伯爵家の名誉にかけてお約束致します。それでは詳細は改めて。この店からは、時間差をおいて外に出ましょう」
そう言って、クローデルはプルーンを先に王城へ返した。
王女亡命計画は、その後、クローデルを中心に慎重かつ秘密裡に進められ、いよいよ明日夜決行となった。しかしプルーンは、自分がどう動くのか以外、計画の全容を一切知らされていない。いや、そのほうがいいに決まっている。みんなが全部を知ってたら、一人裏切っただけでアウトだ。
すでに、影武者用の衣装は、例のランドリー室経由でプルーンの手にある。シルクの下着なんて初めて手にしたし、白いドレスもすごくきれい。獣人の耳を隠すため、おおきなつばに美しい刺繍が施してある帽子も貰った。だが王女様とは微妙にサイズが異なるのだろう。試着してみたら結構苦しかったので、多少胸のところに余裕が出る様、お裁縫をした。後は、指定された時刻に王城を抜け出し……なんとあのイルマンの領主様のところを目指せという事だった。
共添えはいないので、一人で走ってイルマンを目指さなくてはいけないが、イルマンの町中は全く知らない訳でもないので、町にさえ入ってしまえば何とかなりそうだ。
「ゆうた。みんな。イメンジ……私に加護を」
翌日の深夜。そう呟いてプルーンは王都を抜け出し、予めクローデルに指示されていた道を通って王都を出た。ある程度、目撃してもらわないと、オトリにはならないのだ。
城壁を越えて、王城外にでたころには、雨が降ってきた。
ここからは、クローデルによる経路指定はない。あとはひたすら、かかる追手を逃れるだけだ。ああ、せっかくのドレスが汚れちゃうなー。そんなことを考えながら、プルーンは馬車で二週間かかる先にある、イルマンの町を目指し、速足で闇の中を進んでいった。
そして王都を出て十日目の日中の事だったのだが、王都へ向かうゆうたが乗った馬車が、すぐ近くを通った事に、茂みに潜んで隠れていたプルーンは気が付かなかった。
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