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第一章 本編
第22話 見習い
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兵士見習いは、まず養成所で初級訓練課程を経なければならない。
朝起きてマラソンと柔軟体操、そして基本的なフィジカルトレーニングをし、午前中は学科授業。午後から兵士としての専門訓練というのが基本の日課だ。
俺が入ったのは新兵用の大部屋で、すでに五名の先輩兵士見習いがいたが、入隊時期がバラバラなので、学科と専門訓練の決められた単位を取得出来た者からここは卒業で兵士に正規採用となり、その人の適正により実際の部隊に配置される。
なお、六か月訓練しても卒業できない場合、自動的に除隊とのことだった。
プルーンとは、とにかく最初の一ヵ月は文句を言わずに軍の訓練に集中しようと決めていた。一日も早く軍になじんで正規採用されるのが優先目標で、みんなの家探しや元の世界への帰還の手掛かり探しはその後にするつもりだ。
正規採用されても、王都採用の新兵は、数年は王都近郊での勤務が通例らしいので、いずれその時間も作れるだろう。
俺の同部屋は、みな獣人であったが、どの人も辺境出身で、人間に対してあまり悪い認識は持っていない様で、トクラ村の人たちのように普通に接してくれたのは助かった。ここで孤立していても自分が苦労するだけなので、俺は意識的に彼らと仲良くなるよう振舞った。また、あとで余計な詮索をされないよう、プルーンのことも、将来つがいを約束した女の子と村を出てきたという感じで、先に宣伝しておき、彼らにうらやましがられた。
訓練は結構ハードだったが、シャーリンさんとずっと稽古していた事でかなり体力も付いていたようで、なんとかこなせたが、一日の訓練過程が終わると、ぶっ倒れる様に寝床についた。
そして入隊一ヵ月を経過してから最初の訓練休暇日が来た。ここの新兵は六日訓練して一日休みを繰り返すのだ。祝日は、国王様の誕生日だけとの事で、来年まで来ない。
「おっ、あの子か? あの噴水の脇に立ってる子!」
同室で年も近い獣人のヘルサルが俺に問う。今日はプルーンと待ち合わせて今後の作戦会議の予定なのだが、同部屋の仲間達がプルーンを見たがって、俺について来ている。
「すっげー可愛いじゃん。くそー、今日はあの子とずぶずぶかよ! うらやましすぎるぜ、ゆうた」
「そんなんじゃねーよ。俺達はまだ清い関係なの!」
「なんだよ。それって、自分でヘタレですって言ってんのと同じじゃん」
「いいから……これで気が済んだだろ。さっさとどっか行けよ!」
そう言って俺は野次馬達を追い払い、プルーンに近づいた。
「ゆうたー!」一ヵ月以上振りの再会に、プルーンもうれしそうだ。
入隊して最初の給料も貰ったばかりなので懐にはちょっと余裕があり、二人で喫茶店に入った。そしてお互いの近況を伝え合ったが、訓練内容などは、男女でほとんど変わらないようだ。まあ、初級訓練だしな。プルーンもちゃんと訓練についていけているらしく安心したが、むしろ俺の学科のほうが心配だとプルーンに言われた。確かに俺、この世界のことで、まだ知らないこと多いしな。
午前中は、お互い生活に必要なものの買い出しをして、午後からは、アパートなどの相場を調べるべく不動産屋を回った。
今の軍宿舎は三食付き家賃無しなので、すぐにアパートを借りるつもりはないのだが、星さんとメロンの渡航が近くなったら用意しないといけないので、早めに情報を集めるのだ。
不動産屋の窓に物件情報が貼ってあるのは俺の世界と同じで、ちょっと笑った。
「やっぱり、予想以上に相場が高いわねー。軍の給料で払っていけるかしら」
四軒目の不動産屋の前で、プルーンがつぶやいた。
「ゆうた。ちょっとここで待ってて。私、店の人に少し話を聞いてくる」
そう言ってプルーンはその不動産屋に入っていき、しばらくして出てきた。
「どうだった?」
「うん。まず私、人間用の安い物件はない? って聞いてみたのよ。そしたら、いきなり、うちに人間に貸す物件はない! ですって。それで、獣人用でいいので、もっと安い物件が無いか聞いたら、この辺じゃなくダウンタウンの方にいって聞いてみろってさ。そこなら人間でも借りられるかもって」
「ダウンタウンか……それって治安とか悪そうだよな。それにどの辺なんだろ」
「まー、もっと情報集めが必要ね。でも、それは次回にして、今日はこれくらいにしましょ」
「でも、まだ日も高いぞ」
「何言ってんのよ。せっかくの王都の休日なんだから、もっとデートしましょうよ。今日は『ずぶずぶ』するんじゃないの?」
「あっ、さっきの聞こえていたのか! でも、それはヘルサルが言ってたんで……」
「ぷっ。真っ赤になって、ゆうた可愛い! 大丈夫よ。まさか野外でつがう訳にもいかないし、今日は普通のデートで許してあげる」
「ははは……」
そうして、俺とプルーンは極力お金を使わないよう、ウィンドウショッピングをメインにしたデートを門限近くまで楽しみ、プルーンがしつこくせがむので、最後に軽く口づけをかわして、また一ヵ月後に会うことを約束して別れた。
◇◇◇
プルーンと会う約束をしていた、一ヵ月後の訓練休暇日が来た。
ダウンタウンの位置は、おれが先週の訓練休暇日に商会に赴き、フマリさんに情報をもらってきたが、彼女も、確かに人間だと物件借りるのも大変よねと同情してくれた。そして商会の知っている不動産屋に口利いてみようかとも言ってくれたが、値段までは値切れないとの事だったので、それはいよいよ切羽詰まったら頼むことにしようと思った。
もう、かなり秋も深まっていて、王都はトクラ村に比べ温暖らしいのだが、それでも日々寒くなってきていて、冬物の衣類が欲しいところだ。
どうやらプルーンも同じ考えだったようで、最初は二人で冬物の衣類を見にいった。
「今日はね。これ持ってきたんだ」
そう言ってプルーンは、胸のボタンを外して見せた。おれは一瞬ドキッとしたが、ああそういうことか。例のネックレスがぶら下がっている。
「前回、後で失敗したと思ったのよね。今後、交渉事の時は、これにも頼ることにしたから」
でも、チャームの加護って値引きにも効果あるのだろうか。まあ好感度が上がれば、交渉に応じてくれる人もいるかも知れないか。
ダウンタウンに女の子一人で行かせてはいけないとフマリさんに言われていたが、確かに、一目みて危なそうな所だ。酔っ払いみたいのが、上半身裸で道端に転がっていたりする。なるべく人目の多い場所を選んで歩き、フマリさんが教えてくれた不動産屋に到着した。
いや、仮にここで物件を用意出来ても、星さんとかメロンが歩けないだろ。そう思いながら、ダメ元で話を聞いてみようと思った。
プルーンを一人にしない様、今日は俺も一緒に店内に入った。
幸いなことに、応対してくれた店長のドワーフは親切な人で、人間だからという事での差別的発言はしてこず、プルーンの話を聞いて、それに合いそうな候補物件をちゃんと出してくれた。
「うん。この値段ならなんとかなるかな。でも、ここから軍に通うの結構大変だよね。それにあんな危なそうな通りだし……メロン大丈夫かな」
そのプルーンの言葉を聞いて、店長が訪ねてきた。
「どちらの方向から来られました?」
「あっ、はい。王都中央公園からまっすぐ西に向かって……」
「ああ、それで。この辺の住人でも、あのあたりはあまり通りませんよ。危ないですからね。ちょっと遠回りなんですが、一旦真北に上がって出た大通りを使うと大丈夫だと思いますよ。そっちの方がお店とかも多いです」
店長にお礼を言って店を後にし、彼の言っていた通りに進んだら、確かに危なげな感じはしない。スーパーマーケットや小売り店も多く、下町の人達の買い物で結構にぎわっている。
「どっちみち、本採用の後、どこに配属されるかもわかんないし、今通勤のこと考えても仕方ないよね。まあ、この辺に拠点を構える方向でいいかと思うよ」
俺もプルーンに賛成した。
これで住居のメドは立ったし、次はいよいよ帰還の手掛かり探しだな。ゴーテックさんに紹介された人を訪ねてみなくては。そう思ってプルーンにその話を持ちかけたのだが、彼女の返事はこうだった。
「ごめんね、ゆうた。実は、私。もうすぐ軍の本採用試験になりそうなの。だから先にそっちをやっつけちゃっていいかな?」
なんだと! 俺なんか、まだ予定単位の半分も取れていないのに……。
「……それじゃ、仕方ないな。訓練休暇日に、自分で先に当たりつけておくよ。伝言があれば、当面、宿舎の伝言版経由だな」
この世界、電話などが無いため、軍宿舎の入り口のところに伝言版があって、内部の人に伝えたいことをそこに書いておける。ただし、個人情報保護はまったく考慮されていない。
「わかった。何かあったら伝言版に書いておいて……それでゆうた。今日はどうする?」
「どうするって、またデートか?」
「うん。私、軍の先輩に、この辺にデート喫茶というのがあるって聞いてきたんだけど、いっしょに行かない?」
「デート喫茶? なんだそれ。まあ、デートでは普通に喫茶店に行くと思うけど、それをわざわざ看板にしてるって……なにかカップル用のサービスでもしてるのかな」
「うん、私もよく知らないんだけど、今日、用事があって彼氏とダウンタウンの方に行くって言ったら先輩が、そこがお勧めだって」
「そうか。それなら行ってみようか」
「わーい。それじゃ、レッツゴー」
そうして、プルーンが先輩に貰ってきた地図に従い、俺達はダウンタウンにあるデート喫茶に入った。入り口で二時間ワンドリンク分の料金を先払いし、中に入ってびっくりしたが、ほとんど真っ暗で、申し訳程度に小さなろうそくが置かれており、ようやく足元が見える程度だ。
「目が慣れるまで、足元気を付けて下さいねー」
男性の店員さんが、気を使いながら座席まで案内してくれた。
ちょっと大きめの二人掛けのソファーと小さなテーブルが置いてあって、なるほど、ここで二人きりでくつろぐのかなと思っていたら、なにやらうめき声が聞こえてくる。だれか体調でも悪くて休んでいるのだろうか。
ようやく目も慣れてきて周りを見ると、俺達が座っているようなソファーが並んでいて、特についたての様な物もないため、他のお客の様子も伺えるのだが……。
えっ? 俺は仰天した。
俺達の隣のソファーには、獣人の男女がいたのだが、明らかにすっぽんぽんで抱き合っていて、なんか下半身の見えてはいけない部分まで丸見えだ!
その瞬間、俺は、この店が喫茶店ではなく風俗店に類するものだと理解した。
(ここって、ヤバい店じゃん!)
「…………ゆうた。すごいねここ」プルーンが明らかに動揺しているのが判る。
「どうする? 今日の所は帰るか?」
「……でも、入場料払っちゃったし、とりあえず落ち着こうよ」
店の人がワンドリンクのハーブティーを持ってきてくれたが、プルーンはそれに手を付けることも忘れて、緊張しながら周りをガン見しているようだ。
隣の席は、ますます燃え上がってきたようで、獣人の男女が喘ぎ声を発しながらつがっているのがよく見える。当然、あっちからもこっちは丸見えだろうが、気にならないのかな。
「ゆ、ゆうた……私、人がつがっているの初めてみた……あんなことするんだ。それにこの匂い……すっごくエッチな匂い……王都に出発する前の日のゆうたとあかりママと同じ匂い……二人でこんなことしてたんだ……」
いかん。プルーンの様子が何かおかしい。
「おい、プルーン。大丈夫か? しっかりしろ」
「あんっ、ゆうた。私、なんか変。股間がムズムズして仕方ない。こんな季節はずれに発情しちゃったみたい……」
プルーンはそう言いながら、自分のショーツの中に手を入れて、自慰をしているようだ。例のネックレスのせいもあるのだろう。俺もめちゃくちゃたぎってしまっているが、この状況はダメだ!
俺は意を決してプルーンをお姫様抱っこし、店員に挨拶して店を出た。
そして店のすぐ近くに公園があったので、プルーンをベンチに座らせ休ませる。
「ゆうた……なんでお店出てきちゃったの? 勿体ないじゃない。私ならいつでもOKだよ。ほら……」
プルーンはトロンとした目をしながら俺の顔を両手で引き寄せ、自分の愛液で濡れた指を、俺の口の中に挿し入れてくる。
それを制して俺は言った。
「冷静になれプルーン。あそこは性欲を処理する場であって、愛を育む所じゃない! 俺もお前とエッチしたいとは思うが、お前とは身体だけの関係とは思っていない。
だから、初めてつがうときは、もっとちゃんとした所でやろうよ」
その俺の言葉に、プルーンは正気を取り戻したようで、ポロポロ泣き出した。
「うん……わかった。ゆうた……私、怖かったよー」
やれやれ、体は一人前になって、知ったような口ぶりをしていても、中身はまだまだ子供だな。その後、俺は宿舎までプルーンを送り、別れ際に軽くキスをして別れた。
でも、俺もどこかで抜かないと、今日は寝られそうにないかも知れないな。
朝起きてマラソンと柔軟体操、そして基本的なフィジカルトレーニングをし、午前中は学科授業。午後から兵士としての専門訓練というのが基本の日課だ。
俺が入ったのは新兵用の大部屋で、すでに五名の先輩兵士見習いがいたが、入隊時期がバラバラなので、学科と専門訓練の決められた単位を取得出来た者からここは卒業で兵士に正規採用となり、その人の適正により実際の部隊に配置される。
なお、六か月訓練しても卒業できない場合、自動的に除隊とのことだった。
プルーンとは、とにかく最初の一ヵ月は文句を言わずに軍の訓練に集中しようと決めていた。一日も早く軍になじんで正規採用されるのが優先目標で、みんなの家探しや元の世界への帰還の手掛かり探しはその後にするつもりだ。
正規採用されても、王都採用の新兵は、数年は王都近郊での勤務が通例らしいので、いずれその時間も作れるだろう。
俺の同部屋は、みな獣人であったが、どの人も辺境出身で、人間に対してあまり悪い認識は持っていない様で、トクラ村の人たちのように普通に接してくれたのは助かった。ここで孤立していても自分が苦労するだけなので、俺は意識的に彼らと仲良くなるよう振舞った。また、あとで余計な詮索をされないよう、プルーンのことも、将来つがいを約束した女の子と村を出てきたという感じで、先に宣伝しておき、彼らにうらやましがられた。
訓練は結構ハードだったが、シャーリンさんとずっと稽古していた事でかなり体力も付いていたようで、なんとかこなせたが、一日の訓練過程が終わると、ぶっ倒れる様に寝床についた。
そして入隊一ヵ月を経過してから最初の訓練休暇日が来た。ここの新兵は六日訓練して一日休みを繰り返すのだ。祝日は、国王様の誕生日だけとの事で、来年まで来ない。
「おっ、あの子か? あの噴水の脇に立ってる子!」
同室で年も近い獣人のヘルサルが俺に問う。今日はプルーンと待ち合わせて今後の作戦会議の予定なのだが、同部屋の仲間達がプルーンを見たがって、俺について来ている。
「すっげー可愛いじゃん。くそー、今日はあの子とずぶずぶかよ! うらやましすぎるぜ、ゆうた」
「そんなんじゃねーよ。俺達はまだ清い関係なの!」
「なんだよ。それって、自分でヘタレですって言ってんのと同じじゃん」
「いいから……これで気が済んだだろ。さっさとどっか行けよ!」
そう言って俺は野次馬達を追い払い、プルーンに近づいた。
「ゆうたー!」一ヵ月以上振りの再会に、プルーンもうれしそうだ。
入隊して最初の給料も貰ったばかりなので懐にはちょっと余裕があり、二人で喫茶店に入った。そしてお互いの近況を伝え合ったが、訓練内容などは、男女でほとんど変わらないようだ。まあ、初級訓練だしな。プルーンもちゃんと訓練についていけているらしく安心したが、むしろ俺の学科のほうが心配だとプルーンに言われた。確かに俺、この世界のことで、まだ知らないこと多いしな。
午前中は、お互い生活に必要なものの買い出しをして、午後からは、アパートなどの相場を調べるべく不動産屋を回った。
今の軍宿舎は三食付き家賃無しなので、すぐにアパートを借りるつもりはないのだが、星さんとメロンの渡航が近くなったら用意しないといけないので、早めに情報を集めるのだ。
不動産屋の窓に物件情報が貼ってあるのは俺の世界と同じで、ちょっと笑った。
「やっぱり、予想以上に相場が高いわねー。軍の給料で払っていけるかしら」
四軒目の不動産屋の前で、プルーンがつぶやいた。
「ゆうた。ちょっとここで待ってて。私、店の人に少し話を聞いてくる」
そう言ってプルーンはその不動産屋に入っていき、しばらくして出てきた。
「どうだった?」
「うん。まず私、人間用の安い物件はない? って聞いてみたのよ。そしたら、いきなり、うちに人間に貸す物件はない! ですって。それで、獣人用でいいので、もっと安い物件が無いか聞いたら、この辺じゃなくダウンタウンの方にいって聞いてみろってさ。そこなら人間でも借りられるかもって」
「ダウンタウンか……それって治安とか悪そうだよな。それにどの辺なんだろ」
「まー、もっと情報集めが必要ね。でも、それは次回にして、今日はこれくらいにしましょ」
「でも、まだ日も高いぞ」
「何言ってんのよ。せっかくの王都の休日なんだから、もっとデートしましょうよ。今日は『ずぶずぶ』するんじゃないの?」
「あっ、さっきの聞こえていたのか! でも、それはヘルサルが言ってたんで……」
「ぷっ。真っ赤になって、ゆうた可愛い! 大丈夫よ。まさか野外でつがう訳にもいかないし、今日は普通のデートで許してあげる」
「ははは……」
そうして、俺とプルーンは極力お金を使わないよう、ウィンドウショッピングをメインにしたデートを門限近くまで楽しみ、プルーンがしつこくせがむので、最後に軽く口づけをかわして、また一ヵ月後に会うことを約束して別れた。
◇◇◇
プルーンと会う約束をしていた、一ヵ月後の訓練休暇日が来た。
ダウンタウンの位置は、おれが先週の訓練休暇日に商会に赴き、フマリさんに情報をもらってきたが、彼女も、確かに人間だと物件借りるのも大変よねと同情してくれた。そして商会の知っている不動産屋に口利いてみようかとも言ってくれたが、値段までは値切れないとの事だったので、それはいよいよ切羽詰まったら頼むことにしようと思った。
もう、かなり秋も深まっていて、王都はトクラ村に比べ温暖らしいのだが、それでも日々寒くなってきていて、冬物の衣類が欲しいところだ。
どうやらプルーンも同じ考えだったようで、最初は二人で冬物の衣類を見にいった。
「今日はね。これ持ってきたんだ」
そう言ってプルーンは、胸のボタンを外して見せた。おれは一瞬ドキッとしたが、ああそういうことか。例のネックレスがぶら下がっている。
「前回、後で失敗したと思ったのよね。今後、交渉事の時は、これにも頼ることにしたから」
でも、チャームの加護って値引きにも効果あるのだろうか。まあ好感度が上がれば、交渉に応じてくれる人もいるかも知れないか。
ダウンタウンに女の子一人で行かせてはいけないとフマリさんに言われていたが、確かに、一目みて危なそうな所だ。酔っ払いみたいのが、上半身裸で道端に転がっていたりする。なるべく人目の多い場所を選んで歩き、フマリさんが教えてくれた不動産屋に到着した。
いや、仮にここで物件を用意出来ても、星さんとかメロンが歩けないだろ。そう思いながら、ダメ元で話を聞いてみようと思った。
プルーンを一人にしない様、今日は俺も一緒に店内に入った。
幸いなことに、応対してくれた店長のドワーフは親切な人で、人間だからという事での差別的発言はしてこず、プルーンの話を聞いて、それに合いそうな候補物件をちゃんと出してくれた。
「うん。この値段ならなんとかなるかな。でも、ここから軍に通うの結構大変だよね。それにあんな危なそうな通りだし……メロン大丈夫かな」
そのプルーンの言葉を聞いて、店長が訪ねてきた。
「どちらの方向から来られました?」
「あっ、はい。王都中央公園からまっすぐ西に向かって……」
「ああ、それで。この辺の住人でも、あのあたりはあまり通りませんよ。危ないですからね。ちょっと遠回りなんですが、一旦真北に上がって出た大通りを使うと大丈夫だと思いますよ。そっちの方がお店とかも多いです」
店長にお礼を言って店を後にし、彼の言っていた通りに進んだら、確かに危なげな感じはしない。スーパーマーケットや小売り店も多く、下町の人達の買い物で結構にぎわっている。
「どっちみち、本採用の後、どこに配属されるかもわかんないし、今通勤のこと考えても仕方ないよね。まあ、この辺に拠点を構える方向でいいかと思うよ」
俺もプルーンに賛成した。
これで住居のメドは立ったし、次はいよいよ帰還の手掛かり探しだな。ゴーテックさんに紹介された人を訪ねてみなくては。そう思ってプルーンにその話を持ちかけたのだが、彼女の返事はこうだった。
「ごめんね、ゆうた。実は、私。もうすぐ軍の本採用試験になりそうなの。だから先にそっちをやっつけちゃっていいかな?」
なんだと! 俺なんか、まだ予定単位の半分も取れていないのに……。
「……それじゃ、仕方ないな。訓練休暇日に、自分で先に当たりつけておくよ。伝言があれば、当面、宿舎の伝言版経由だな」
この世界、電話などが無いため、軍宿舎の入り口のところに伝言版があって、内部の人に伝えたいことをそこに書いておける。ただし、個人情報保護はまったく考慮されていない。
「わかった。何かあったら伝言版に書いておいて……それでゆうた。今日はどうする?」
「どうするって、またデートか?」
「うん。私、軍の先輩に、この辺にデート喫茶というのがあるって聞いてきたんだけど、いっしょに行かない?」
「デート喫茶? なんだそれ。まあ、デートでは普通に喫茶店に行くと思うけど、それをわざわざ看板にしてるって……なにかカップル用のサービスでもしてるのかな」
「うん、私もよく知らないんだけど、今日、用事があって彼氏とダウンタウンの方に行くって言ったら先輩が、そこがお勧めだって」
「そうか。それなら行ってみようか」
「わーい。それじゃ、レッツゴー」
そうして、プルーンが先輩に貰ってきた地図に従い、俺達はダウンタウンにあるデート喫茶に入った。入り口で二時間ワンドリンク分の料金を先払いし、中に入ってびっくりしたが、ほとんど真っ暗で、申し訳程度に小さなろうそくが置かれており、ようやく足元が見える程度だ。
「目が慣れるまで、足元気を付けて下さいねー」
男性の店員さんが、気を使いながら座席まで案内してくれた。
ちょっと大きめの二人掛けのソファーと小さなテーブルが置いてあって、なるほど、ここで二人きりでくつろぐのかなと思っていたら、なにやらうめき声が聞こえてくる。だれか体調でも悪くて休んでいるのだろうか。
ようやく目も慣れてきて周りを見ると、俺達が座っているようなソファーが並んでいて、特についたての様な物もないため、他のお客の様子も伺えるのだが……。
えっ? 俺は仰天した。
俺達の隣のソファーには、獣人の男女がいたのだが、明らかにすっぽんぽんで抱き合っていて、なんか下半身の見えてはいけない部分まで丸見えだ!
その瞬間、俺は、この店が喫茶店ではなく風俗店に類するものだと理解した。
(ここって、ヤバい店じゃん!)
「…………ゆうた。すごいねここ」プルーンが明らかに動揺しているのが判る。
「どうする? 今日の所は帰るか?」
「……でも、入場料払っちゃったし、とりあえず落ち着こうよ」
店の人がワンドリンクのハーブティーを持ってきてくれたが、プルーンはそれに手を付けることも忘れて、緊張しながら周りをガン見しているようだ。
隣の席は、ますます燃え上がってきたようで、獣人の男女が喘ぎ声を発しながらつがっているのがよく見える。当然、あっちからもこっちは丸見えだろうが、気にならないのかな。
「ゆ、ゆうた……私、人がつがっているの初めてみた……あんなことするんだ。それにこの匂い……すっごくエッチな匂い……王都に出発する前の日のゆうたとあかりママと同じ匂い……二人でこんなことしてたんだ……」
いかん。プルーンの様子が何かおかしい。
「おい、プルーン。大丈夫か? しっかりしろ」
「あんっ、ゆうた。私、なんか変。股間がムズムズして仕方ない。こんな季節はずれに発情しちゃったみたい……」
プルーンはそう言いながら、自分のショーツの中に手を入れて、自慰をしているようだ。例のネックレスのせいもあるのだろう。俺もめちゃくちゃたぎってしまっているが、この状況はダメだ!
俺は意を決してプルーンをお姫様抱っこし、店員に挨拶して店を出た。
そして店のすぐ近くに公園があったので、プルーンをベンチに座らせ休ませる。
「ゆうた……なんでお店出てきちゃったの? 勿体ないじゃない。私ならいつでもOKだよ。ほら……」
プルーンはトロンとした目をしながら俺の顔を両手で引き寄せ、自分の愛液で濡れた指を、俺の口の中に挿し入れてくる。
それを制して俺は言った。
「冷静になれプルーン。あそこは性欲を処理する場であって、愛を育む所じゃない! 俺もお前とエッチしたいとは思うが、お前とは身体だけの関係とは思っていない。
だから、初めてつがうときは、もっとちゃんとした所でやろうよ」
その俺の言葉に、プルーンは正気を取り戻したようで、ポロポロ泣き出した。
「うん……わかった。ゆうた……私、怖かったよー」
やれやれ、体は一人前になって、知ったような口ぶりをしていても、中身はまだまだ子供だな。その後、俺は宿舎までプルーンを送り、別れ際に軽くキスをして別れた。
でも、俺もどこかで抜かないと、今日は寝られそうにないかも知れないな。
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