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第一章 本編
第11話 これからの道
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ゴブリンキングとの闘いの翌日。バルアの遺体はこの夏の陽気で痛まない様にと、村のはずれで早々に野辺送りにされた。そして村の周りのゴブリンの死骸やら畑の後処理が優先とのことで、村での正式な葬儀は一週間後となった。なんともやるせないが致し方ない。
バルアを奥さんのお墓の隣に埋葬した後、俺と星さん、プルーン姉妹たちは、くたくたになって家に戻ってきた。
メロンも、父親の死をちゃんと認識しているようだが、今日一日ぐずったりせずよく頑張ったと思う。いや、必死に悲しみをこらえていたというのが正解か。
皆で簡単に夕食を取り、二人のことは星さんにまかせて、俺は里長のところへ無事埋葬が終わった事を報告にいった。家に戻ったころには、もう三人で納屋で寝付いているようだったので、そおっとしておく。
村の周りは、まだゴブリンの死骸が全部片付いたわけではなく、我慢できないほどではないが、腐臭がただよっている。家の近くにそんなのが転がっていないか見回っていたら、プルーンが呼びに来た。納屋に入ってみると、星さんがうなされていた。
眠ってはいるようだが声は出さず、なにか苦しそうに動いている。こんなことは久しぶりだが、やはりバルアのことがショックだったのだろう。
「悪い夢でもみてるのだろうが、大丈夫だよ」
俺の言葉に安心したのか、プルーンが星さんの脇に添い寝して頭を撫で始め、やがて、星さんは大きく息を吐いて落ち着いたようだった。
次の日、俺は村の人達の片付けを手伝い、プルーンも、じっとしていると気がめいると、畑の畝の修繕を手伝い始めた。さすがにメロンはまったく元気がなく、星さんに預かってもらった。そして夜は、昨夜のこともあったので、子供たちと星さんは一旦別に寝るようにし、母屋で子供たちが寝付くまで、俺がそばについていてやることにした。理由を話したら、星さんは申し訳なさそうに俺に礼をいった。
「ゆうた。どこもいかないでね」
メロンが母屋のベッドの上で俺の腕にしがみつく。
「ああ、どこにも行きはしないよ」
そういいながら俺は、メロンの頭を撫でてやる。
安心したのか、ほどなくメロンは寝入ったようだった。
プルーンが小さい声で俺に話かけてくる。
「ねえ、ゆうた。でも、ゆうたはいつか自分が元いた世界に、あかりママと帰るんだよね……」
「ん? ああ、それはそうなんだが、そんなにすぐじゃないよ。だいたい、どうやって帰ればいいかもまったくわかんないしな」
「それじゃ、せめて私やメロンが大人になるまでいっしょにいられる?」
「はは、心配するな。お前たちとはもう家族だ。たとえ帰る算段が付いても、放って行ったりはしないさ」
「本当?」
「ああ、本当だ。バルアやお前たちは俺と星さんの命の恩人で、大事な家族だ!
これからも助け合って暮らしていこうな」
「ゆうた……」
プルーンが目に一杯涙をためながら俺にギューっとしがみついてくる。
あ、プルーンの柔らかな胸があたってる……こいつ、ここ一年くらいで背も胸もほんとに大きくなったなと思った瞬間、うしろにバルアが立っているような気がして、あわてて妄想を振り払った。
プルーンは俺の胸の中で声を殺して泣いている。
泣きたいのをずっと我慢してたんだろうな。
ひとしきり泣いたら落ち着いたようで、俺の顔をみてプルーンが言った。
「ゆうた。ありがと……メロンは寝ちゃったし、私ももう大丈夫だから、あかりママについていてあげて」
「ああ、そうさせてもらうよ」
納屋に戻ると、戸がちょっと開いていた。星さん不用心だなと思ったが、寝付いているのを起こしても悪いので、そっと入っていく。
ん? なんか声がしてる。
まだ起きているのか、それともまたうなされているのか……。
戸口からこっそり藁床の方を見ると、星さんが裸で藁床に仰向けに転がっているのが見えた。びっくりしたが、ああ、これは……。
星さんは左手の人差し指で自分の乳首を転がしながら、右手を股間にあてゆっくり動かしている。
「んっ、ゆうた……ああっ、ゆうくん……くふー」
これは、俺の名を呼びながらオナニーしているんだと理解した。それから俺は、星さんに気付かれないよう、そっと納屋の外に出た。
そりゃ、星さんだって一人の人間だ。性的欲求だって普通にあるだろうし、こんな気持ちの切羽詰まった状況ならなおさらだろう。
オナニーの回数なら多分俺の方が負けない自信もある。
でも、綺麗だったなーーー。
俺は、納屋から少し離れた木の陰で一発抜いてから、バルア家の中庭にゴロンと寝転がった。
晴れていて雲一つなく、星が綺麗に見える。天頂の明るい星の帯は、自分の世界の天の川と似ている気もしたが、そもそもオリジナルの天の川はどんな形だったかと、ふっと笑った。
俺は、夜空を眺めながら思いを巡らす。
今日、里長のところに行った際、今後の話をいろいろしてきた。
里長からはストレートに、今後、親代わりに二人の面倒をみてやってほしいと頼まれた。そうでなければ、村では面倒を見れず、どこかに里子に出すしかないかも知れないという。
親代わりの件は二つ返事でOKしたが、そうなると自分の世界への帰還がますます難しくなる。帰還の手立てを探すにしても、二人を育てながらだと……いや、ここであれこれ考えても仕方ないか。選択肢をちゃんとそろえて、みんなと話合わないとな。
星さんが事を終えているのを確認し、藁床に戻った。星さんはもう寝付いているようだが、あたりに得も言われぬ女性の匂いがほんのり漂っていて、また興奮しそうになったが深呼吸してなんとか平常心を保った。
三日ぐらいして、辺境守備隊の兵士が村に到着し、片付けのサポートや状況調査を始めたが、俺が期待していたゴーテックさんは同行していなかった。
そして、村の片づけのメドがついたころ、村主催のバルアの葬儀が盛大に行われた。酒もふるまわれたが、気持ち的に、いつぞやの宴会のときのようにはいかず、俺も星さんもほとんど飲み食いしなかった。
そしてその翌朝の朝食後、俺は三人に向かってこう言った。
「俺、ちょっと辺境守備隊の本部まで行ってくるから」
プルーンがびっくりして俺に確認した。
「ちょっと、ゆうた。いきなりどうしたのよ。守備隊本部なんて、ちょっとって言っても往復で二か月位かかるわよ。何が目的なの?」
「いや、今回、ゴーテックさんがいっしょに来てれば話は早かったんだけど、いっしょについて来てないし……なので、こちらから会いに行こうと思う」
「ちょっと、ゆうくん! 何をそんなに慌てているのよ。まだバルアさんの喪も明けてないのに、私たちの帰る算段がそんなに大事なの?」
「いや、違うんだ星さん。慌てている訳じゃないんだ。プルーンも聞いてくれ。俺は、この間、プルーンとメロンの親代わりになることを里長に宣言して来たんだ」
「だったら、なおさら……」星さんが不満そうに言う。
「だから、すぐ元の世界に帰るつもりはまったくないんだ! でも、いつかその時のために何を準備しておくべきかの情報は早めに集めておきたい。ゴーテックさんとの約束まであと一年あるけど、バルアがこんなことになって、相談できる人が減ってしまった。
もう会話は問題ないレベルだと思うし、早くゴーテックさんに具体的な方策を相談したいんだ」
「でもどうやって行くのよ。うちには馬もいないし……。
一人だと危険だよ」
プルーンが言う。
「それなんだ!
今ちょうど守備隊が村に来ているだろ?
彼らにくっついていけば、自動的に本部に着く。
それで、今回の被害報告を元に支援物資を届ける部隊が、時を置かず守備隊本部からこの村に向かうらしいんだ。それと一緒に戻ってくる。里長やオキアはそのプランで問題ないだろうと言ってくれた」
「でもー、プルーンちゃんやメロンちゃん、ついでに私まで、このお葬式の翌日から、そんなに長い間放っておくつもり?」星さんが食い下がる。
「あかりママ。まあ落ち着いて。守備隊兵がいっしょなら安心だし、ゆうたのプランはいいと思う。私たちも当分二人にお世話にならないといけないんだけど、私たちが足枷になって、二人の帰還が遅れるのは気が重い。すぐに帰るということでなく、情報を先に集めるというのなら私は大歓迎よ」
プルーンの意見に、もう星さんは口を挟まなかった。
◇◇◇
二日後、俺は本部に戻る辺境守備隊の兵士に混ざって、トクラ村を後にした。
基本的に辺境守備隊本部まで歩いていく。いや俺だけではなく、歩兵の人達はみんな徒歩だ。人といっても、俺以外に人間はおらず、守備隊は指揮官のエルフと、いろんな種類の獣人およびドワーフといった人達で構成されている。ドワーフという種族は、小柄ながら力持ちで手先も器用なのだそうで、武器の手入れとか工作に長けているらしい。
俺も、お客様というわけではないため仕事が与えられ、夜間に見張りの交替があるし、食事の支度なども手伝った。行軍しながら仲良くなった人達もいて、人間が珍しいこともあるのか、いろいろ身上話をさせられた。
俺も何か情報がないかと、異世界やゲートの話を出してみるが誰も何も知らず、ゴブリンキングを倒した時の話のほうが彼らにはウケた。
「ははー、ゆうた。こんなんで二か月も家空けたら、お前のつがいは浮気しちゃうんじゃねーか? 獣人と違って、人間って一年中発情しているバケモンだって聞いたことあるぞ」夕食を共にしながら、こんな感じでいつもからかわれる。はは、獣人さん達には明確に発情期があるらしい。
それに比べて人間は、確かにいつでもOKだよなー。俺がいなくて、星さんまた一人エッチしちゃってるかなーなどど考える。
他の者が言う。
「それで、ゆうた。あの村でつがい以外の愛人とかはつくらねえのかよ。あそこもオスが結構少なくなっちゃってて、メスが余っているみたいだし、お前なら何人かついてくるんじゃねーのか?」
なんとも品が無いなー。でも少なくともプルーンとメロンはその対象じゃないぞ。
「いやー。でも不倫は……」
「不倫? なにエルフみたいな事言ってやがる。
獣人は一夫多妻だ。力あるオスにメスが集まる!
いいか。獣人の発情期は春先だ!
そのころ、お前の前でもじもじするメスがいたら脈ありだから、さっさとヤッちまえ。がはははははは」
と、肩をバンバン叩かれた。
「そうですか。覚えておきます……」
そうなんだ、獣人はハーレムOKなんだ……。
でも俺、人間だし……。
ずっと雑木林が続く道中、そうした男同志の下品な会話を繰り返しつつ、約一ヵ月後、辺境守備隊本部に到着した。
早速俺は、ゴーテックさんとの面会を希望したが、その日は近隣の森へ、偵察部隊といっしょに出かけているらしく、夜になれば帰ってくるだろうということだった。
そして夜になって、伝言を聞いたゴーテックさんが俺の宿所を訪ねてくれた。
「うむ。元気だったか、ゆうた。
お前のつがいも元気か?」
「はい、おかげさまで。それであと一年待てずに、ゴーテックさんに会いにきました」
「うむ。言葉はすっかり大丈夫な様だな。バルアの事は聞いた。返す返すも残念じゃ。やつなら将来里長も務まっただろうに」
「それで……」
俺は、この二年間のいきさつを説明し、戻れたとしてもすぐに元の世界には戻らないかも知れないが選択肢は持っておきたいと、ゴーテックさんに改めて王都の件を相談した。
ひとしきり考えてゴーテックさんは語りだした。
「うむ。ここへの道中、兵士達とも仲良くやれたようだし、軍志願で王都へ行ってみても良いかも知れんな。そして生活の拠点として王都に居を構え、そこを足掛かりに
お前の言っていた異世界とかゲートのことを調査してみるといい。ただ、具体的に軍志願で王都に行く手続きは、里長でないと出来ん。それに金もかかる」
「はは、お金ですか……」
「うむ。申請手続きとか身元保証とか、王都での就職は何かと金がかかるんじゃよ。それに、王都へ行くのも一筋縄ではいかん。それは、行商の者に同行することになるだろうが、あの村のそこらあたりの事情は正直わしもよく知らん。金の事と合わせて、里長に相談してみろ」
「あのー、お金以外に手はないですか! 俺、生活がバルアにおんぶにだっこで、お金なんて持っていないんです」
「うむ。今回のゴブリンキングの退治で多少なり報奨金が出るはずだ。やつを退治したのはお前なのだろう。それなりに分け前は貰えるはずだが」
「いや、あれは一人で出来たことではないですし……仮に戴けても、バルアの娘たちに使ってやりたいです」
「うむ。金の工面や算段はわしにもよくわからん。そうしたことも、お金のプロである行商のものに相談するのが良いかもしれんな」
「わかりました……」
とりあえず、王都へいってよいというお墨付きはもらえたようで、ちょっとほっとしたところで、ゴーテックさんが付け加えた。
「それでな、ゆうた。わしの昔の部下を一人紹介してやるので、王都へいったら尋ねてみるといい。ちょっとクセの強いやつだが、頭は切れる。昔、王都で異世界から転移してきた人間の統計をまとめる仕事をしていたやつだ。お前の調査に何かの役に立つかもしれん」
「それはありがたいです!」
うん、これは朗報だ。やみくもに手掛かりを探すより、少しでも異世界転移とかに知見がある人がいるなら、話を聞かない手はない。こうしてみると、あの時、ゴーテックさんに助けてもらったのはやはり天祐なのだろう。
ゴーテックさんは、その場で紹介状をしたため、俺に渡してくれた。
「うむ。今も同じところに住んでいるかはちょっと怪しいが、まあ、そこに書いた住所を訪ねてみなさい。テシルカンという奴だ」
俺は、ゴーテックさんがくれた紹介状を大事に懐にしまい込み、二日後には、トクラ村支援物資輸送隊といっしょに帰路についた。
バルアを奥さんのお墓の隣に埋葬した後、俺と星さん、プルーン姉妹たちは、くたくたになって家に戻ってきた。
メロンも、父親の死をちゃんと認識しているようだが、今日一日ぐずったりせずよく頑張ったと思う。いや、必死に悲しみをこらえていたというのが正解か。
皆で簡単に夕食を取り、二人のことは星さんにまかせて、俺は里長のところへ無事埋葬が終わった事を報告にいった。家に戻ったころには、もう三人で納屋で寝付いているようだったので、そおっとしておく。
村の周りは、まだゴブリンの死骸が全部片付いたわけではなく、我慢できないほどではないが、腐臭がただよっている。家の近くにそんなのが転がっていないか見回っていたら、プルーンが呼びに来た。納屋に入ってみると、星さんがうなされていた。
眠ってはいるようだが声は出さず、なにか苦しそうに動いている。こんなことは久しぶりだが、やはりバルアのことがショックだったのだろう。
「悪い夢でもみてるのだろうが、大丈夫だよ」
俺の言葉に安心したのか、プルーンが星さんの脇に添い寝して頭を撫で始め、やがて、星さんは大きく息を吐いて落ち着いたようだった。
次の日、俺は村の人達の片付けを手伝い、プルーンも、じっとしていると気がめいると、畑の畝の修繕を手伝い始めた。さすがにメロンはまったく元気がなく、星さんに預かってもらった。そして夜は、昨夜のこともあったので、子供たちと星さんは一旦別に寝るようにし、母屋で子供たちが寝付くまで、俺がそばについていてやることにした。理由を話したら、星さんは申し訳なさそうに俺に礼をいった。
「ゆうた。どこもいかないでね」
メロンが母屋のベッドの上で俺の腕にしがみつく。
「ああ、どこにも行きはしないよ」
そういいながら俺は、メロンの頭を撫でてやる。
安心したのか、ほどなくメロンは寝入ったようだった。
プルーンが小さい声で俺に話かけてくる。
「ねえ、ゆうた。でも、ゆうたはいつか自分が元いた世界に、あかりママと帰るんだよね……」
「ん? ああ、それはそうなんだが、そんなにすぐじゃないよ。だいたい、どうやって帰ればいいかもまったくわかんないしな」
「それじゃ、せめて私やメロンが大人になるまでいっしょにいられる?」
「はは、心配するな。お前たちとはもう家族だ。たとえ帰る算段が付いても、放って行ったりはしないさ」
「本当?」
「ああ、本当だ。バルアやお前たちは俺と星さんの命の恩人で、大事な家族だ!
これからも助け合って暮らしていこうな」
「ゆうた……」
プルーンが目に一杯涙をためながら俺にギューっとしがみついてくる。
あ、プルーンの柔らかな胸があたってる……こいつ、ここ一年くらいで背も胸もほんとに大きくなったなと思った瞬間、うしろにバルアが立っているような気がして、あわてて妄想を振り払った。
プルーンは俺の胸の中で声を殺して泣いている。
泣きたいのをずっと我慢してたんだろうな。
ひとしきり泣いたら落ち着いたようで、俺の顔をみてプルーンが言った。
「ゆうた。ありがと……メロンは寝ちゃったし、私ももう大丈夫だから、あかりママについていてあげて」
「ああ、そうさせてもらうよ」
納屋に戻ると、戸がちょっと開いていた。星さん不用心だなと思ったが、寝付いているのを起こしても悪いので、そっと入っていく。
ん? なんか声がしてる。
まだ起きているのか、それともまたうなされているのか……。
戸口からこっそり藁床の方を見ると、星さんが裸で藁床に仰向けに転がっているのが見えた。びっくりしたが、ああ、これは……。
星さんは左手の人差し指で自分の乳首を転がしながら、右手を股間にあてゆっくり動かしている。
「んっ、ゆうた……ああっ、ゆうくん……くふー」
これは、俺の名を呼びながらオナニーしているんだと理解した。それから俺は、星さんに気付かれないよう、そっと納屋の外に出た。
そりゃ、星さんだって一人の人間だ。性的欲求だって普通にあるだろうし、こんな気持ちの切羽詰まった状況ならなおさらだろう。
オナニーの回数なら多分俺の方が負けない自信もある。
でも、綺麗だったなーーー。
俺は、納屋から少し離れた木の陰で一発抜いてから、バルア家の中庭にゴロンと寝転がった。
晴れていて雲一つなく、星が綺麗に見える。天頂の明るい星の帯は、自分の世界の天の川と似ている気もしたが、そもそもオリジナルの天の川はどんな形だったかと、ふっと笑った。
俺は、夜空を眺めながら思いを巡らす。
今日、里長のところに行った際、今後の話をいろいろしてきた。
里長からはストレートに、今後、親代わりに二人の面倒をみてやってほしいと頼まれた。そうでなければ、村では面倒を見れず、どこかに里子に出すしかないかも知れないという。
親代わりの件は二つ返事でOKしたが、そうなると自分の世界への帰還がますます難しくなる。帰還の手立てを探すにしても、二人を育てながらだと……いや、ここであれこれ考えても仕方ないか。選択肢をちゃんとそろえて、みんなと話合わないとな。
星さんが事を終えているのを確認し、藁床に戻った。星さんはもう寝付いているようだが、あたりに得も言われぬ女性の匂いがほんのり漂っていて、また興奮しそうになったが深呼吸してなんとか平常心を保った。
三日ぐらいして、辺境守備隊の兵士が村に到着し、片付けのサポートや状況調査を始めたが、俺が期待していたゴーテックさんは同行していなかった。
そして、村の片づけのメドがついたころ、村主催のバルアの葬儀が盛大に行われた。酒もふるまわれたが、気持ち的に、いつぞやの宴会のときのようにはいかず、俺も星さんもほとんど飲み食いしなかった。
そしてその翌朝の朝食後、俺は三人に向かってこう言った。
「俺、ちょっと辺境守備隊の本部まで行ってくるから」
プルーンがびっくりして俺に確認した。
「ちょっと、ゆうた。いきなりどうしたのよ。守備隊本部なんて、ちょっとって言っても往復で二か月位かかるわよ。何が目的なの?」
「いや、今回、ゴーテックさんがいっしょに来てれば話は早かったんだけど、いっしょについて来てないし……なので、こちらから会いに行こうと思う」
「ちょっと、ゆうくん! 何をそんなに慌てているのよ。まだバルアさんの喪も明けてないのに、私たちの帰る算段がそんなに大事なの?」
「いや、違うんだ星さん。慌てている訳じゃないんだ。プルーンも聞いてくれ。俺は、この間、プルーンとメロンの親代わりになることを里長に宣言して来たんだ」
「だったら、なおさら……」星さんが不満そうに言う。
「だから、すぐ元の世界に帰るつもりはまったくないんだ! でも、いつかその時のために何を準備しておくべきかの情報は早めに集めておきたい。ゴーテックさんとの約束まであと一年あるけど、バルアがこんなことになって、相談できる人が減ってしまった。
もう会話は問題ないレベルだと思うし、早くゴーテックさんに具体的な方策を相談したいんだ」
「でもどうやって行くのよ。うちには馬もいないし……。
一人だと危険だよ」
プルーンが言う。
「それなんだ!
今ちょうど守備隊が村に来ているだろ?
彼らにくっついていけば、自動的に本部に着く。
それで、今回の被害報告を元に支援物資を届ける部隊が、時を置かず守備隊本部からこの村に向かうらしいんだ。それと一緒に戻ってくる。里長やオキアはそのプランで問題ないだろうと言ってくれた」
「でもー、プルーンちゃんやメロンちゃん、ついでに私まで、このお葬式の翌日から、そんなに長い間放っておくつもり?」星さんが食い下がる。
「あかりママ。まあ落ち着いて。守備隊兵がいっしょなら安心だし、ゆうたのプランはいいと思う。私たちも当分二人にお世話にならないといけないんだけど、私たちが足枷になって、二人の帰還が遅れるのは気が重い。すぐに帰るということでなく、情報を先に集めるというのなら私は大歓迎よ」
プルーンの意見に、もう星さんは口を挟まなかった。
◇◇◇
二日後、俺は本部に戻る辺境守備隊の兵士に混ざって、トクラ村を後にした。
基本的に辺境守備隊本部まで歩いていく。いや俺だけではなく、歩兵の人達はみんな徒歩だ。人といっても、俺以外に人間はおらず、守備隊は指揮官のエルフと、いろんな種類の獣人およびドワーフといった人達で構成されている。ドワーフという種族は、小柄ながら力持ちで手先も器用なのだそうで、武器の手入れとか工作に長けているらしい。
俺も、お客様というわけではないため仕事が与えられ、夜間に見張りの交替があるし、食事の支度なども手伝った。行軍しながら仲良くなった人達もいて、人間が珍しいこともあるのか、いろいろ身上話をさせられた。
俺も何か情報がないかと、異世界やゲートの話を出してみるが誰も何も知らず、ゴブリンキングを倒した時の話のほうが彼らにはウケた。
「ははー、ゆうた。こんなんで二か月も家空けたら、お前のつがいは浮気しちゃうんじゃねーか? 獣人と違って、人間って一年中発情しているバケモンだって聞いたことあるぞ」夕食を共にしながら、こんな感じでいつもからかわれる。はは、獣人さん達には明確に発情期があるらしい。
それに比べて人間は、確かにいつでもOKだよなー。俺がいなくて、星さんまた一人エッチしちゃってるかなーなどど考える。
他の者が言う。
「それで、ゆうた。あの村でつがい以外の愛人とかはつくらねえのかよ。あそこもオスが結構少なくなっちゃってて、メスが余っているみたいだし、お前なら何人かついてくるんじゃねーのか?」
なんとも品が無いなー。でも少なくともプルーンとメロンはその対象じゃないぞ。
「いやー。でも不倫は……」
「不倫? なにエルフみたいな事言ってやがる。
獣人は一夫多妻だ。力あるオスにメスが集まる!
いいか。獣人の発情期は春先だ!
そのころ、お前の前でもじもじするメスがいたら脈ありだから、さっさとヤッちまえ。がはははははは」
と、肩をバンバン叩かれた。
「そうですか。覚えておきます……」
そうなんだ、獣人はハーレムOKなんだ……。
でも俺、人間だし……。
ずっと雑木林が続く道中、そうした男同志の下品な会話を繰り返しつつ、約一ヵ月後、辺境守備隊本部に到着した。
早速俺は、ゴーテックさんとの面会を希望したが、その日は近隣の森へ、偵察部隊といっしょに出かけているらしく、夜になれば帰ってくるだろうということだった。
そして夜になって、伝言を聞いたゴーテックさんが俺の宿所を訪ねてくれた。
「うむ。元気だったか、ゆうた。
お前のつがいも元気か?」
「はい、おかげさまで。それであと一年待てずに、ゴーテックさんに会いにきました」
「うむ。言葉はすっかり大丈夫な様だな。バルアの事は聞いた。返す返すも残念じゃ。やつなら将来里長も務まっただろうに」
「それで……」
俺は、この二年間のいきさつを説明し、戻れたとしてもすぐに元の世界には戻らないかも知れないが選択肢は持っておきたいと、ゴーテックさんに改めて王都の件を相談した。
ひとしきり考えてゴーテックさんは語りだした。
「うむ。ここへの道中、兵士達とも仲良くやれたようだし、軍志願で王都へ行ってみても良いかも知れんな。そして生活の拠点として王都に居を構え、そこを足掛かりに
お前の言っていた異世界とかゲートのことを調査してみるといい。ただ、具体的に軍志願で王都に行く手続きは、里長でないと出来ん。それに金もかかる」
「はは、お金ですか……」
「うむ。申請手続きとか身元保証とか、王都での就職は何かと金がかかるんじゃよ。それに、王都へ行くのも一筋縄ではいかん。それは、行商の者に同行することになるだろうが、あの村のそこらあたりの事情は正直わしもよく知らん。金の事と合わせて、里長に相談してみろ」
「あのー、お金以外に手はないですか! 俺、生活がバルアにおんぶにだっこで、お金なんて持っていないんです」
「うむ。今回のゴブリンキングの退治で多少なり報奨金が出るはずだ。やつを退治したのはお前なのだろう。それなりに分け前は貰えるはずだが」
「いや、あれは一人で出来たことではないですし……仮に戴けても、バルアの娘たちに使ってやりたいです」
「うむ。金の工面や算段はわしにもよくわからん。そうしたことも、お金のプロである行商のものに相談するのが良いかもしれんな」
「わかりました……」
とりあえず、王都へいってよいというお墨付きはもらえたようで、ちょっとほっとしたところで、ゴーテックさんが付け加えた。
「それでな、ゆうた。わしの昔の部下を一人紹介してやるので、王都へいったら尋ねてみるといい。ちょっとクセの強いやつだが、頭は切れる。昔、王都で異世界から転移してきた人間の統計をまとめる仕事をしていたやつだ。お前の調査に何かの役に立つかもしれん」
「それはありがたいです!」
うん、これは朗報だ。やみくもに手掛かりを探すより、少しでも異世界転移とかに知見がある人がいるなら、話を聞かない手はない。こうしてみると、あの時、ゴーテックさんに助けてもらったのはやはり天祐なのだろう。
ゴーテックさんは、その場で紹介状をしたため、俺に渡してくれた。
「うむ。今も同じところに住んでいるかはちょっと怪しいが、まあ、そこに書いた住所を訪ねてみなさい。テシルカンという奴だ」
俺は、ゴーテックさんがくれた紹介状を大事に懐にしまい込み、二日後には、トクラ村支援物資輸送隊といっしょに帰路についた。
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Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
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シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
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