【R18】特攻E小隊

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第二章 E小隊・南方作戦

第二十三話 竜族の姫

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 話はまた少し遡る。

 メルヘンの家を仮住まいにして、沙羅は竜族の最長老ドラゴン、ヒュージ・テンペストとの面会を待っていた。メルヘンのお母さんがいうには、ヒュージ様もすごく高齢で跡継ぎ問題とかもあり、そのヒュージ様配下の三賢と言われるドラゴンたちも、それぞれの思惑があっていろいろ牽制しあっているんだとか。
 その中で、昨年、中央平原に出てきてすいか姉ちゃんにやっつけられた、マルスフィアという三賢の一人が、人間を味方につけて勢力争いを優位に進めようとしたのだとか……
 そういう跡目争いみたいのに自分はまきこまれたことはないけど、仮にそうなったら、僕だったらこれ幸いと権利放棄して逃げ出すけどな―などと考える。

 数日が過ぎたある夕方。
「明日の明け方に、ヒュージ様がお会い下さるそうです。私は同行できませんが、エルフの姫様はメルヘンがご案内いたします」
 メルヘンのお母さんが沙羅にそう告げた。ようやく準備とやらが整ったようだ。
 それにしても明け方とは。夜陰に乗じていかなければいけないようなところなのかとも思う。

「沙羅。心配ない。私は何度も行っている。エルフの里に行く前も、ヒュージ様とは直接お話している」
「いや―、もう任せるよ。僕にはさっぱりわからないし」
 ヒュージ様と面会する前には、沐浴で身を清める必要があるんだそうだ。
 沙羅とメルヘンは真夜中に起きて、竜族たちが住む地下坑道の奥にある泉で身を清めた。
「沙羅のエッチ。またおっぱいみてる」
 うーん。やっぱり、メルヘンのほうが大きい……

 そして沐浴後に着る服を渡された。可愛いデザインの赤いワンピースだが、これが竜族の巫女服らしい。ちなみに下着はつけないとのことだった。

 その泉から先は、沙羅はもちろんはじめて入る区画だ。まだ夜明け前なので誰も歩いていない。しばらく歩くと、街はずれだろうか。道がそこで終わっている。しかしよく見ると、岩の壁に人が一人抜けられるくらいのすき間がある。

「これが、今の王宮の入り口」
「えっ、こんなのドラゴンさん通れないでしょ!」
「大丈夫。ドラゴンたちは空から出入り出来る」
そんなものかと思いすき間にはいったが、その光景に仰天した。

 これって、噴火口!?

 直径数百mくらいの竪穴で、上は確かに空が見える。でも足元は、真っ赤な溶岩がどろどろ動いていて、落ちたら即死だな。そしてその噴火口? の中央位に小高くなった島があり、その上に確かに宮殿が立っている。
 どこからあそこ行くの? と思ったら大きな鳥みたいな羽をもった竜族が飛んできた。

「これは飛竜」
「あ、ああ、これに乗っていくんだね」
「そう。しっかりつかまっててね。落ちたら絶対助からない」
 なんで、こんなところに長老様はいらっしゃるのかな――暑くてたまらん。

 宮殿の外はめちゃくちゃ暑かったが、不思議なことに宮殿内は快適だった。
 メルヘンに案内されて、ヒュージ様の部屋に入ったが、ヒュージ様は部屋の真ん中に伏せっていた。
 
 あれ! 思ってたよりちっちゃい……あのマルスフィア? のほうが二倍以上大きい。しかも皮膚もなんかボロボロで、痛々しげだ。お歳だからなのかな?

 ヒュージ様がこちらを見た。

「おお、エルフの姫様。こんなむさ苦しいところによくぞ参られた。
 しかもこんなボロボロの老体をさらし、お見苦しくて本当に申し訳ない」
「あ、始めまして、ヒュージ様。ぼ、私は、エルフの誉一族の沙羅と申します」
「わしももう体力もなくてな。長く話すこともままならん。なので結論を先に言う。ドラゴンは、今回の人間の戦争から手を引く。なので、エルフも手を引いてほしい。同じ魔族同志、今後ともよい関係でやっていきたい」

「はい、仲良くやっていくのは大歓迎なんですが、そもそも三賢のマルスフィアさん? が、共和国に肩入れしちゃったんで、ぼくらエルフが駆り出されたんですよ。だから、王国側はエルフから口利けますけど、共和国側が何て言うか……ただ、やーめたって放り投げるだけじゃ、戦争自体が終わらないと思うんですが……」

「お―さすが、エルフの姫じゃ。ちゃんと状況がわかっておられる。
 マルスフィアは、竜族の中でも人間に近づいた裏切り者のように言われているようじゃが、実際はわしのこの皮膚病を心配して、人間がつくるサルファ剤とかいう薬を手に入れたくて共和国との取引に応じたのだ。それにやつらは戦争が終わったらわれらの旧領である、山岳王城の一帯も返還してよいと言ったそうじゃ。まあどうせ資源を掘りつくして奴らには価値がなくなったのだとも思うが、その話を聞いて他の二賢もマルスフィアの行いを黙認したのだ。
 マルスフィアが手に入れた薬のおかげで、わしは数年ながらえることができたが、結局、マルスフィアは返らぬものとなった。本来ならわしがもっとしっかりしなくてはならないのに、三賢に任せきりにしていた罰じゃ。なので先日、共和国の使者が来たが、今後は援軍はださんと断った」
 ああ、あの温泉の泉のところにいたやつらか……

「でも、ヒュージ様。そうしたら、お薬と領土が……お薬は、まあ、王国側に頼めなくはないかも知れないけど」
「エルフの姫。もういいんじゃよ。わしはもう本当に今日の朝で終わるんじゃよ」
「え、それはどういう……」
「どうもこうも無い。寿命じゃよ。自分にはわかるんじゃ。寿命が今日のこの朝までなんじゃ。なので、これから後継者への引継ぎをしなくてはならない。それをエルフの姫に、立ち合い人として見ていただきたかったんじゃよ……ほら、他の二賢も来たようじゃ」

 ばさぁと大きな羽音がして、上からドラゴン二頭が降りてきた。
「こいつらが、三賢の残り二人、トロイランスとワ―ムクロノスじゃ」
 この二人は、マルスフィアに負けず劣らずの大きさだ。

 トロイランスと紹介されたドラゴンが、ヒュージ様に話かける。
「大長老、エルフの姫とのお話はうまくいきましたか?」
「うむ、エルフがどうされるか、まだお考えを聞いてはいないが、大層賢いお方の様じゃ。多分、わしの後継者とうまくやってくれるじゃろう」
「それはよかった。それではエルフの姫よ。これから竜族の後継の儀を始めます。
 立ち合いをお願いします」
「あ、はい……」

 このトロイさんが後継なのかな。
 ヒュージ様が口を開いた。
「それでは、後継の儀を始める。メルヘン。前へ」

 えっ!?。ええええええええ――――――?

「メルヘン。まだ幼いお前に重責を担われるのは本当に心苦しいが、この二賢はよく助けてくれるじゃろう。沙羅さんといったか……このエルフの姫君ともずーっと仲良くして、竜族はエルフやそして他の魔族たちとも協力して、世界を安寧に導いてくれ……」
「……はい、父上」
 えっ、ええっ、父上―――――――!?

 そうして、ヒュージ様がなにか祝詞のようなものを唱え、メルヘンの頭におおきな宝石のついた冠が載せられた。
「これで安心した。皆、あとのことは宜しく頼むぞ」
そう言いながら、ヒュージ様は静かに目を閉じ、おおきなため息を一つ吐きだし、そして二度と眼を開かなかった。

 しばらくその場でしんみりしていたが、トロイさんが声をかけてきた。
「エルフの姫様。いろいろ突然で驚かれたでしょう。ですが、今後ともうちの姫様のことを宜しくお願い致します」
「あ―、いや―、聞きたいことはいろいろあるんだけど、多すぎて収集がつかないや。でも、大丈夫。メルヘンとは仲良くできるさ。あいつ、僕より年下なのにしっかりしてるし……」

「ははは、ありがとうございます。それで、細かい話はまたゆっくりするとして、現在、王国と共和国がバルタン半島で大規模戦闘を行っているようで、それにマルスフィアの信徒たちが少なからず動員されているようです。
 我々は、これからヒュージ様の喪を発しますが、それでその信徒たちにも停戦するよう私が直接呼びかけに行こうと思います。いっしょにおいでになりますか?」

「! ひゃっほ―。歩いて帰らなくていいの? 
 そりゃ願ったりかなったり……」
「もう、沙羅ったら……もう少し、感傷にひたらせてよね」
 さっきまで泣いていたメルヘンが、微笑んでいる。
「でも、メルヘン。君ってヒュージ様の子供だったんだ」
「うん、でも愛とか結婚とかはあんまり関係なくて、何十年かに一度、集めた卵に大長老が放精するの。卵にはそれぞれ産んだ母親の名前が書いてあって……それで生まれたのが私。でも大長老が高齢だったこともあるのか、なかなか孵化しなかったり、かえっても大きくならずでいま存在している直系は私だけ」
「おお、なんか境遇にてるよな―」
「そうだね」

 トロイさんが背中に籠を背負ってくれ、その中に入れてもらった。
 メルヘンも一緒に来てくれるという。
 やった。これで戦争が終わるかも!

 小隊長に褒めてもらえるかな……いやー、やっぱり、まずは脱走兵扱いで懲罰房かな……

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