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第二章 E小隊・南方作戦
第十六話 侵入路
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西半島大規模奪還作戦の開始は明朝六時と決まっていた。
すでに友軍の布陣が始まっていて、敵側もそれに合わせて半島内の兵を動かしているようで、現地潜入工作員からの報告では、ウォレント監獄前面の守備隊も少なからず北方に移動を開始しているようだ。しかし今のところ、エルたちが連れ出された形跡はないようだ。なので、俺達救出部隊は予定通り今夜、監獄内に侵入し、侵攻作戦の開始と同時に行動を開始する。
ローアイは、監獄内のマップを繰り返し眺めていた。
もうすぐ二十二時になる。潜入メンバーは、俺とカレン、コトブキ。推し兵小隊のマイケル他四名の計八名だ。アイリス中尉たちA小隊は、最前線支援にすでに向かっており、監獄潜入組は東半島南端の小さな漁村の物置小屋にいた。
「大規模奪還作戦開始まで、あと八時間くらいですね」マイケル達も緊張気味だ。
「準備ができました」
リヒトガルムに促されて、近くの倉庫に向かう。
その中には、いわゆる小型潜水艇があった。これでウォレント監獄の南西崖下の海面下にある秘密通路から、監獄の地下通路に入るのだ。
なるほど、この船では十人が限界だな。大規模奪還作戦が我が軍の勝利で電撃的に終わったりしない限り、これで帰ってこないといけないわけだ。
「最新情報だと、監獄の外にはまだ守備兵がそれなりに詰めていますが、監獄内にはほとんどいない様です。外で北面を警備しているやつらにさえ気づかれなければうまくいくでしょう。皆ご武運を!」
リヒトガルムの励ましを受けながら、各自狭い艦内に入っていく。
最後にポコが続いたが、万一、監獄内の防御結界停止に失敗した場合、お荷物にしかならないということで、ポコは秘密通路までの侵入支援だけで、留守番を兼ねて艇の中に残ることになっている。
「やだ、ちょっと……あんまり男の人と近いのは……」
案の定、カレンが文句を言っている。
「ブリーフィングの時、再三お願いしただろ。ちょっとだけ我慢してくれ!」
「あいあい、あちきがカレンはんの隣に密着してあげなんしゃすので、我慢しておくんなまし。小隊長も我慢してあちきに密着してねー……。
ほらほら、小隊長さんも我慢しておりなんすよ、カレンはん!」
「そんな子供だましみたいな……もう、エルちゃんたち救出したら、帰りは、エルちゃんに密着しますからね!」
「ソレデハ、出発シマス」
海底の秘密通路まではポコが潜水艇を操作してくれるため、乗っている者たちは基本、狭いのをじっと我慢だ。
「小隊長はん、もすこしあちきに密着していただいてもかまわんでありんす。なんなら胸の谷間に手でも挟みます? ああ、股間でもええですわ」
「やめて下さい。シャレになりません!」
「もう、いけず。周りの若い方たちがあんじょう緊張さらはってるんで、場を和ませようかと……」
「いやいや、かえって股間が固くなります!」
めずらしいマイケルの冗談に、艦内のみんなが爆笑した。
カレンもつられて笑っているが、それを見てコトブキがカレンに話かける。
「カレンはん。まあ好き嫌いは人それぞれやけど、そう男、男と目くじら立てんでも、男は男で、女とは違った良いところもありんしゃすんで、身近な仲間で慣れていくのもありではあらしゃいませんかの?」
「はあ……そうかも……でありんすかね?」
半島は周りが遠浅なため、昼間だとこの潜水艇などすぐに陸上から発見されてしまうに違いない。ということは帰る時も夜まで待たねばならない可能性があるな、などと考えていたら、ポコが明滅した。
「目標座標ニ到着。浮上ヲ開始シマス」
なるべく音を立てない様、ゆっくりと潜水艇が浮上する。
「浮上完了! はっちろっく解除」
外は真っ暗で何も見えない。とりあえず敵兵がいない様祈りながら、一人ずつ外に出る。
「小隊長、ヤハリまな濃度ガ、ココデモカナリ希薄デス。私は、艦内デ待機しまス。トリアエズ、半径二十m以内ニ敵性反応ナシ。ゴ武運ヲ!」
「留守番よろしく! ポコ」
近くに敵がいないなら、多少明かりをつけてもいいだろう。
ペンライトをつけ、点呼を取る。
「それでは、これより、リヒトガルム主幹が用意してくれたマップに従い、秘密通路を監獄の動力室まで進軍する。現在時刻、午前三時、作戦開始は六時だ、慌てる必要はない。慎重に進もう」
「了解!」
例によってほぼ視界が効かない暗闇なので、俺とカレンが先導、コトブキがしんがりで、細い通路をゆっくり上へ昇っていった。そして途中何事もなく、五時半に目的の動力室にたどりついた。敵の気配はなく、爆薬類をセットし、作戦開始と同時に爆破出来る様準備する。
ここの対エルフ用防御結界はその機能維持にとんでもなくエネルギーを食うものらしく、動力源が停止すればすぐにも使いものにならなくなるはずだ。またエネルギー節約のためか、監房の一区画にしか防御結界が施されていないとのことなので、エルたちはそこにいる可能性が高い。
爆破後、すぐにそこへ向かえる様、何度も移動のシュミレーションを頭の中でしてきた。
エル、メグ、待ってろ。もうすぐだ!
◇◇◇
その時、ウォレント監獄内の監視室。
二人の男が監視カメラの映像を見ている。
「ほらほらほら、いらっしゃいましたよ! これがローアイさん? まあ、資料通り、いい男ですね。エルちゃんがぞっこんなのも判ります。それにしても、私はついていますね。まさか戦略兵器の鍵になるお方が、自らいらっしゃってくれるとは。丁重にお迎えしなくては。まあそうじゃないかって予感はありましたけどね」
「でも、よろしいんですか。このままお通ししちゃって。 あの人数なら左右から挟み撃ちにすれば一網打尽ですが」
「いいんですよ。ローアイさんには是非エルちゃんと感動の再会をしていただいて、出来れば愛の営みをこの目で確認したいんです」
「ですが……まあ彼女のマナはそんなに残ってないでしょうが、それでも壁吹っ飛ばされたりしたら……」
「なにいってるんですか、グスター所長。こんな監獄。壊れても別に痛くもかゆくもありません。エルフ用だかなんだか知りませんが、コストがかかりすぎです。外に出ても逃がさなければいいだけですよ。」
「はは、それもそうですね……」
(いや、俺一応、ここの所長なんだけどな―。壊さないでほしいな―)
グスターと呼ばれた男は、そう思ったが親衛隊長には逆らえない。
そう、このまま泳がせれば、彼らは動力室を破壊して防御結界を解き、エルフ監房に彼女たちを救出にいくだろう。そこを再度追い込んだら……
ワイズマンは、それを想像すると楽しくて仕方がなかった。
すでに友軍の布陣が始まっていて、敵側もそれに合わせて半島内の兵を動かしているようで、現地潜入工作員からの報告では、ウォレント監獄前面の守備隊も少なからず北方に移動を開始しているようだ。しかし今のところ、エルたちが連れ出された形跡はないようだ。なので、俺達救出部隊は予定通り今夜、監獄内に侵入し、侵攻作戦の開始と同時に行動を開始する。
ローアイは、監獄内のマップを繰り返し眺めていた。
もうすぐ二十二時になる。潜入メンバーは、俺とカレン、コトブキ。推し兵小隊のマイケル他四名の計八名だ。アイリス中尉たちA小隊は、最前線支援にすでに向かっており、監獄潜入組は東半島南端の小さな漁村の物置小屋にいた。
「大規模奪還作戦開始まで、あと八時間くらいですね」マイケル達も緊張気味だ。
「準備ができました」
リヒトガルムに促されて、近くの倉庫に向かう。
その中には、いわゆる小型潜水艇があった。これでウォレント監獄の南西崖下の海面下にある秘密通路から、監獄の地下通路に入るのだ。
なるほど、この船では十人が限界だな。大規模奪還作戦が我が軍の勝利で電撃的に終わったりしない限り、これで帰ってこないといけないわけだ。
「最新情報だと、監獄の外にはまだ守備兵がそれなりに詰めていますが、監獄内にはほとんどいない様です。外で北面を警備しているやつらにさえ気づかれなければうまくいくでしょう。皆ご武運を!」
リヒトガルムの励ましを受けながら、各自狭い艦内に入っていく。
最後にポコが続いたが、万一、監獄内の防御結界停止に失敗した場合、お荷物にしかならないということで、ポコは秘密通路までの侵入支援だけで、留守番を兼ねて艇の中に残ることになっている。
「やだ、ちょっと……あんまり男の人と近いのは……」
案の定、カレンが文句を言っている。
「ブリーフィングの時、再三お願いしただろ。ちょっとだけ我慢してくれ!」
「あいあい、あちきがカレンはんの隣に密着してあげなんしゃすので、我慢しておくんなまし。小隊長も我慢してあちきに密着してねー……。
ほらほら、小隊長さんも我慢しておりなんすよ、カレンはん!」
「そんな子供だましみたいな……もう、エルちゃんたち救出したら、帰りは、エルちゃんに密着しますからね!」
「ソレデハ、出発シマス」
海底の秘密通路まではポコが潜水艇を操作してくれるため、乗っている者たちは基本、狭いのをじっと我慢だ。
「小隊長はん、もすこしあちきに密着していただいてもかまわんでありんす。なんなら胸の谷間に手でも挟みます? ああ、股間でもええですわ」
「やめて下さい。シャレになりません!」
「もう、いけず。周りの若い方たちがあんじょう緊張さらはってるんで、場を和ませようかと……」
「いやいや、かえって股間が固くなります!」
めずらしいマイケルの冗談に、艦内のみんなが爆笑した。
カレンもつられて笑っているが、それを見てコトブキがカレンに話かける。
「カレンはん。まあ好き嫌いは人それぞれやけど、そう男、男と目くじら立てんでも、男は男で、女とは違った良いところもありんしゃすんで、身近な仲間で慣れていくのもありではあらしゃいませんかの?」
「はあ……そうかも……でありんすかね?」
半島は周りが遠浅なため、昼間だとこの潜水艇などすぐに陸上から発見されてしまうに違いない。ということは帰る時も夜まで待たねばならない可能性があるな、などと考えていたら、ポコが明滅した。
「目標座標ニ到着。浮上ヲ開始シマス」
なるべく音を立てない様、ゆっくりと潜水艇が浮上する。
「浮上完了! はっちろっく解除」
外は真っ暗で何も見えない。とりあえず敵兵がいない様祈りながら、一人ずつ外に出る。
「小隊長、ヤハリまな濃度ガ、ココデモカナリ希薄デス。私は、艦内デ待機しまス。トリアエズ、半径二十m以内ニ敵性反応ナシ。ゴ武運ヲ!」
「留守番よろしく! ポコ」
近くに敵がいないなら、多少明かりをつけてもいいだろう。
ペンライトをつけ、点呼を取る。
「それでは、これより、リヒトガルム主幹が用意してくれたマップに従い、秘密通路を監獄の動力室まで進軍する。現在時刻、午前三時、作戦開始は六時だ、慌てる必要はない。慎重に進もう」
「了解!」
例によってほぼ視界が効かない暗闇なので、俺とカレンが先導、コトブキがしんがりで、細い通路をゆっくり上へ昇っていった。そして途中何事もなく、五時半に目的の動力室にたどりついた。敵の気配はなく、爆薬類をセットし、作戦開始と同時に爆破出来る様準備する。
ここの対エルフ用防御結界はその機能維持にとんでもなくエネルギーを食うものらしく、動力源が停止すればすぐにも使いものにならなくなるはずだ。またエネルギー節約のためか、監房の一区画にしか防御結界が施されていないとのことなので、エルたちはそこにいる可能性が高い。
爆破後、すぐにそこへ向かえる様、何度も移動のシュミレーションを頭の中でしてきた。
エル、メグ、待ってろ。もうすぐだ!
◇◇◇
その時、ウォレント監獄内の監視室。
二人の男が監視カメラの映像を見ている。
「ほらほらほら、いらっしゃいましたよ! これがローアイさん? まあ、資料通り、いい男ですね。エルちゃんがぞっこんなのも判ります。それにしても、私はついていますね。まさか戦略兵器の鍵になるお方が、自らいらっしゃってくれるとは。丁重にお迎えしなくては。まあそうじゃないかって予感はありましたけどね」
「でも、よろしいんですか。このままお通ししちゃって。 あの人数なら左右から挟み撃ちにすれば一網打尽ですが」
「いいんですよ。ローアイさんには是非エルちゃんと感動の再会をしていただいて、出来れば愛の営みをこの目で確認したいんです」
「ですが……まあ彼女のマナはそんなに残ってないでしょうが、それでも壁吹っ飛ばされたりしたら……」
「なにいってるんですか、グスター所長。こんな監獄。壊れても別に痛くもかゆくもありません。エルフ用だかなんだか知りませんが、コストがかかりすぎです。外に出ても逃がさなければいいだけですよ。」
「はは、それもそうですね……」
(いや、俺一応、ここの所長なんだけどな―。壊さないでほしいな―)
グスターと呼ばれた男は、そう思ったが親衛隊長には逆らえない。
そう、このまま泳がせれば、彼らは動力室を破壊して防御結界を解き、エルフ監房に彼女たちを救出にいくだろう。そこを再度追い込んだら……
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