『元』魔法少女デガラシ

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十一.魔法使いの事

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 その後も資料整理の様な日々が続いたが、なんか吉崎が「社長に呼ばれた」と言って、ちょくちょく部屋を出て行く。まあ、二人で何して様が俺には関係ないな。
 だがこの仕事ほんとに退屈だなーと思っていたら、八月に入ってすぐ外勤が発生した。いや、インペリアルではなく、元の会社で火の手が上がったのだ。
 俺と吉崎がロクに引継ぎもせず後任に渡してしまった『夢たこ』から、結構激しいクレームを頂戴したとの事で、急遽、俺と吉崎が足利社長の所に、お詫びとご説明に上がる事になったのだが……あれー。吉崎は?
 秘書さんに聞いたら、何でも坂出社長に連れられて外資の会社との打ち合わせに行ってしまって、今日は帰社しない予定との事だ。全く、どこにシケ込んでんだよ!?

 だが、足利社長なら俺だけの方が話は早そうだ。そう思いながら新橋へ赴いた。

「まったく……そんな事になってたなんて。
 田中君。メールでもいいから先にちゃんと教えてよ!」
 足利社長ことマジノ・ノルマンディも当初は怒っていたみたいだが、俺から、ここ一連の出来事を教えられ、鉾を収めてくれた様だ。

「それにしても吉崎さん。許せないわね。私よりそんな中年男を選ぶとは。しかもアルデの旦那でしょ?」はは、ひっかかるのはそこですか。
「吉崎には、よーっく言っておきます。あと引継ぎが不十分だった件も善処致しますので、何卒ご勘弁下さい」
「わかったわ。仕事の方は、田中君に任せる!
 それにしてもアルデンヌがまさかカズくんとくっついていたとは……まあ、彼女が彼を好いていたのは知ってたけど。ダンケから寝取ったとは知らなかったわー。でもまあ、あの状況なら無きにしも非ずか……」
 やはりノルマンディも、事件の事は知っている様だ。でもやっぱり聞けない。

「あの足利社長。その辺の過去のいきさつに関しては細かく聞く気はないんですが、どうしても気になっている事がありまして」
「何かしら。国家機密に触れない部分なら答えてあげるけど」
「いや、国家機密かどうかは分からないんですが、デガラシは三十歳まで処女を守って、魔法使いになろうと本気で考えている様でして……それってどういう意味なのかなって」
「あー、その事。そっか。ダンケはまだそんな事考えてたんだ。でもそれだと、それまで田中君があいつとエッチ出来なくて困るよね?」
「いや。困るかって言われるとそうでもないんですが、ほら、よくアニメとかでもあるでしょ? 魔法少女が成長して魔女になっちゃうとか……もしかして魔王ってそれなのかなとか一瞬考えちゃうんですよ」
「ははは。確かにねー。数年前に大ヒットした魔法少女アニメとかはそうだったわよね。でも安心して。そういう事じゃないから」
「そうですか。それならいいんですが……」

「三十過ぎると……って言うのは、まあ魔法少女の内輪の口伝くでんというか都市伝説見たいなものなんだけど、卒業して一旦魔力のほとんどを失うんだけど、処女のまま三十歳を超えると、一瞬魔力が戻るらしいのよ。それで自分の夢が一個だけ叶うってね。でも統計を取っていた訳でも誰かが追跡調査をした訳でもなく……実態はよく分からないの。成功事例らしき話を聞いた事もあるんだけど、そもそも事例自体が少ないんじゃないかな」

「そうなんだ。それじゃその話を聞いて、アルデンヌは何であんなに慌てたんだろ」
「うーん。もしかしてダンケが『カズくんとやり直せます様に』って願うのを恐れたとか?」
「そうかもですね。でもあのご夫婦、今の感じじゃお互い別にどうでも良さそうですけどね」
「まあ。人の心のそんなところまでは分からないわよ。それにしても三十歳かぁ……私もあと一年ちょっとだわ。ほんとに魔力戻ったら何しようかな?」
 ああ、やっぱりノルマンディもバージンなんだな。

「どうか、世界平和に役立てて下さい」
「はは。そう言われるとプレッヤーだね。
 めんどくさいから、私のバージン田中君にあげちゃおうかな?」
「はい!? あの……それは是非、吉崎に……」
「馬鹿! 何言ってんのよ。冗談に決まってるでしょ! だいたい吉崎、女だし……」
 
 そしてあらかた話が終わって社長室を出ようとしたら、足利社長に呼び止められた。
「ああ、田中君。あの、さっきの三十歳越えたらってやつ。
 出来ればでいいんだけど……あなたが阻止してくれないかな?」
「えっ、でも魔王化したりはしないって……それに、それって俺にあいつとエッチしろって事ですよね?」
「うん。あいつの自分探しとも関係あるかもなんだけど、お願いだからあいつ……ダンケルクに優しくしてあげて。そしてあいつの心がが満たされて幸せになって、三十過ぎて魔法使おうなんて考えなくなる方がずっといいかなって……ああ、はっきり言えなくてゴメンね」
「……そうですか。約束は出来ませんが善処はしてみます。ちなみにその事をデガラシに話してもいいですか?」
「そうね……私がそう言っていたって、あの子に伝えていいわ」

 ◇◇◇

 そしてノルマンディと会った日の夜、その言葉をデガラシにそのまま伝えた。
 そしてデガラシが俺の顔を見ながら尋ねる。

「……田中は……私とエッチしたい?」
「うーん。いや特にそうは……でもデガラシに優しくしてあげてとはノルマに言われた」
「そうなんだ。でも無理しないでいいよ。田中が本当に、私が好きだー。ヤラせてくれーって言うんなら、私も女の子だし? 考えない事もないけど、そうでないなら私は田中に無理にはエッチしてほしくないかな。だいたい田中は今でも十分優しいよ」

 ……どうなんだろ。ここは嘘でも「お前が好きだー。ヤラせてくれーっ」と言った方がいいシーンなのだろうか? だがそれを迷っている時点でダメだよな。
 そもそもこいつは俺ん中では、どう見ても姉ちゃんポジションだし。
 いつか俺は、心からデガラシを抱きたいと思う日が来るのだろうか……そんな事を一寸考えながら、すでにビールで酔っ払って寝落ちしているデガラシの顔をまじまじと眺めた。

 ◇◇◇

「どうした? 元気ないな」坂出一輝が俺の事を心配してくれている。

 来年の年明けから、かの有名な起業家イーストマン・ロックス氏とインペリアルが共同で、現在ロックス氏が保有しているXXサービスに代わる、安全で革新的なSNSサービスの開発を試験的に始める事が決定し、なぜかその企画は世界戦略構想部がぶち上げた事になっているが、正直俺は何もしていないし、吉崎も何もしていない……はずだ。これも魔法少女のラッキー効果なのだろうか。

 そして今日はそのプロジェクト選抜メンバーらとの決起大会が名目の飲み会なのだが、珍しく吉崎は欠席だ。何故かというと、いよいよ業を煮やした足利社長に、マーケティング視察同行の名目で、ハワイに連れて行かれているのだ。あーあ、ちゃんとガス抜きしないからだぜ。
 そんな訳で、今日は良識のある女性しかおらず、坂出社長も気楽に楽しんでいる様だ……と思っていたら、突然俺の隣に座って心配してくれ出したのだが、社長、ちょっと酔ってる?

「はあ。問題ありません。そんなに元気がない様に見えますか?」
 周りの人が自分達の会話を気に留めていない事を確認して坂出社長が言った。
「ああ。君が悩むとすると、かえでの事かと思ってね。これでも昔は名サポーターだったんだぜ。そうした気配は敏感に判るんだ」
 なるほど。確かにそうかもしれない。
 あの不器用で距離感のむずかしい魔法少女らを……しかも思春期真っ盛りの時期にマネジメントしていたのだから、そうした嗅覚はするどいんだろうな。

「まっ、相談したくなったらいつでも僕の所にこいよ。これでもあいつらの扱いに関しては、超先輩だから!」そう言いながら、俺の肩をバンバン叩いた。
「そうですね。そのうち教えを請いに伺うかも知れません」
「ああ、まかせろ。そうだ田中。これから二人で別の店行こうや」
「はい!? あの、でも俺……私はそっちの気はないんですが……」
「馬鹿野郎。勘違いするな! すっごい美人しかいない会員制クラブがあるんだ。
吉崎、俺が取っちまったみたいになっちゃってるし、たまには君も外で抜いたほうがいい」
「はあ……」
 坂出社長に連れられて、決起大会の店からほど遠くない赤坂の裏路地の飲み屋街に行き、小ぎれいな雑居ビルの五階にあがった。

 うわー、すげー。客よりホステスさんのほうが断然多い!
 しかもみんな美人なんてもんじゃねえぞ。顔はもちろんスタイルも抜群だし、日本人だけじゃなくていろんな国の人がいる。案内されて、半分輪になった長ソファーに腰かけると、その両側に女の子がピタっと張り付いた。あれ? 社長は? と思ったら、隣のブースの違う椅子に座ってるぞ。そして社長にも女の子が群がっている。いやこれ、俺にどうしろと? 両側に二人、対面に三人。計五人の美女が、おしぼりで手を拭いてくれたり、水割りを作ってくれたりしている。でも、いや……何話せばいいんだよこれ。俺には無理じゃね?

 そうしたら、社長が向こうから声をかけてきた。
「おーい。田中―。大丈夫かぁ。そんなに緊張しなくていいぞぉ。君、キャバクラ位は行った事あるんだろ? あのノリでいいから。それで気にいった女の子がいたら、何人でもお持ち帰りして大丈夫だから!! ホテルも含めて、金の事は心配するな!!」
 確かにキャバクラは、入社したての新人の頃、先輩とかに連れてってもらったりしたが……ここ全然違くないか!?
「ねえ君。幾つ? この店、こんな感じでセレブしか来ないんだけれど、みんなおじ様ばかりで君みたいな若者、超めずらしいのよ。だからほら! みんな興味深々!!」そんな事を言われ、なんかホステスさんがどんどん集まってきているような気がする。いやこれ、吉崎が何人もいるみたいな状況か?

 どうする。こんな事一生のうちにそう何度もないぞ。男だったら覚悟を決めて三人くらいは……いや! ダメだダメだ。社長は俺を懐柔して、デガラシを手元に置こうとしてるかも知れんのだぞ。ここで他の女性に手を出したら、それ見たことかと言わんばかりに、デガラシを取り上げられるのではないか?
 でもあれ? 俺、デガラシを取られる事を恐れてる? もしかして、これって……。

「社長!! せっかくの御厚意、大変申し訳ございませんが、私、かえでじゃないと勃たないんです!! すいません。ここで失礼いたします!!」
 勢いよく立ち上がってそう叫んだ後、俺は後ろを見ずに一目散にその店から逃げ出した。

「ありゃりゃ。逃げられたか……別にこれでダンケを取り上げたりはしないよ田中君。でもまあ、彼にはそう言う読みをされているという事だな。となると、やはり慎重に囲い込んでいかないとダメそうだな」そう独り言ちて坂出一輝は椅子に座り直した。

「それじゃ仕方ない。おい君たち。君たちは今夜僕が全員お相手つかまつろう!!」
「きゃーっ!!」店の中のホステス達が全員黄色い声をあげた。
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