20 / 25
第20話 勇者の本音
しおりを挟む
そして大晦日の午後十一時過ぎ、三人は原宿駅を降り立った。すでに周りは、明治神宮に初詣に向かう人であふれていた。
「どうする? まだ約束の時間まで二時間以上あるけど」カスミが問う。
「これなら、神宮に初詣してからでもいいかもね。約束の場所は、新宿の南口側だから、
歩いてもそんなにかからないよ……にしても、これ。ライブハウスか何かかな? 特に大晦日でライブやるとかは、ファンサイトにも書いてなかったけど……」
「まあ、行ってみればわかるでしょ」一人で来いと言われているが、真理もカスミも
近くまでいっしょに行ってくれる予定だ。
そのまま、神宮の参拝者の列に並び、やがて年が明けた。参拝の列が前進しだす。
人に揉まれながら、ゆっくり全身するが、しばらくして……あれ? カス姉は?
「どうしよ。りんたろーさん。カスミ様、はぐれちゃったみたい!」真理も慌てているが、周りを探そうにも身動きが取れず、人の流れに身を任せるしかない。
「仕方ないよ、真理ちゃん。勇者との約束の場所はカス姉もわかっているし、最悪、そこで落ち合えるでしょ……真理ちゃんも、はぐれないでね」そう言いながら、りんたろーが真理の手を握った。
「ひゃ!」真理はびっくりしたが、まあ、これ以上離ればなれにならないようにとの配慮だろう。ドキドキしながら、人混みの中を、りんたろーにくっついてゆっくり進んだ。
プールの様な賽銭箱になんとかお賽銭を投げ入れて、人混みから解放された時、午前一時を過ぎていた。りんたろーと真理は、手をつないだまま、新宿に向かって山手線の脇を歩いている。
深夜で人通りもまばらであり、りんたろーは心配して手を握ってくれているのだろう。
さっき真理は、神様に「りんたろーさんと親しくなれますように」とお願いした。
それが、もうかなってしまっているみたいで、これならもっと欲張ってもよかったかなと、ちょっと後悔していた。
「ここだよね……」
午前二時ちょっと前、りんたろーと真理は、新宿三丁目にほど近い路地裏の、カサンドラというお店の前に来た。ドアには準備中の看板がかかっている。
カスミの姿は見当たらないなと思ったら、RINEが入っていた。
「えー! カス姉、間違って恵比寿の方に歩いて行っちゃったみたい……仕方ないから先に帰るってさ」
はは、りんたろーさんと二人っきりになっちゃったぞ。私のお願い……神様、まだまだ頑張ってくれてるんだ……と真理は思わずにはいられなかった。
「でも、ここ。なんか雰囲気よくないよね……ヤンキーみたいのもうろついてるし……。
一人でって言われたけど、真理ちゃん一人には出来ないや。怒られてもいいから、二人で入ろう」そう言って、りんたろーは、真理を伴って店に入った。
中は普通の喫茶店風だったが、準備中とあったせいか誰もいない。
いや……奥のシートに一人……ああ、勇者ノボルに間違いない。
「なんだ、お前。一人でって言ったのに……女連れとはいい度胸だな」
「すいません。外で待ってもらおうと思ってたんですが、このあたり、なんか治安が悪そうで……だめでしょうか?」
「ふっ。いきなり姫様連れてきてたら叩き出したけど……まあいいや。あんたも、前橋にいたよな?」
「はい。私は、浜松真理と言います。
あっちの世界から来た姫様の追手と組んでいる人間です」
「えっ? 真理ちゃん? 突然、それ勇者さんに言う?」りんたろーが動揺する。
「多分、勇者さんにブラフは通用しなさそうなんで、こちらの手の内先に見せたほうがいいですよね?」
「ははは、お嬢さんのほうがよっぽど肝が据わってやがる。なるほど、了解だ……。
それで……お前達は、どうしたいんだ?」
「率直に言います。姫様に直接会って、貴方の気持ちをはっきり伝えて下さい!」
りんたろーが勇者ノボルに告げた。
「先日のノボルさんの様子だと、もう姫様に未練はないのでしょう?
それをはっきり伝えて、きっぱり振ってあげて下さい。姫様もそれを望んでいます」
「……ふー。前橋で、あきらめて帰ってくれた方がよかったんだがな……また会えってか……なー、真理ちゃん。あんたのところに追手来てるんだろ? そいつらにさっさと姫様連れてってもらえないかな?」
「いえ……追手の方達もいい人で、今少し、姫様の御心が定まるまで待ってくれるようでして……」
「ちっ、使えねえ追手だな……そう……お前、りんたろーだっけ。おまえ、姫様が好きなんだろ? そうでなければ、あんなに身体張らないよな? 俺の事は気にしなくていいから、お前が姫様貰ってくれ! ヤッちゃっていいから」
「なっ! ふざけてるんですか! 仮にも勇者様なんでしょ? あんな女の子一人くらい、ちゃんとお断りすればいいんじゃないですか!」
憤るりんたろーを制して真理が言った。
「あの、勇者様。どうして、姫様と直接お会いになりたがらないのですか? 前橋では、
あんなにはっきり拒絶されたのに……もしかして……まだ、姫様への思いが残ってる?」
「!」勇者が言葉に詰まった。
「えっ? 真理ちゃん。何言ってんの?」
「りんたろーさんは、黙ってて! あの……もしかして、二人きりで会ったら思いが再燃しちゃうとか……そういうのを恐れているのですか?」
「…………やれやれ。やっぱ女の子は鋭いな。だから小僧一人で来いって言ったんだ。
チェリーボーイ一人位なら簡単に煙に巻けると思ったんだが…………。
そうさ! その通りさ。俺はまだ、彼女を慕っている。
二人っきりで会ったら最後、押し倒さない自信がない。だから……会いたくないんだ」
「そんな……それって両想いですよね! なんで……」
「だから、りんたろーさんは黙ってて! 勇者さん……怖いんですか?」
真理が真剣な眼差しで勇者を見つめる。
「ああ、そうだよ。俺は、彼女と人生を共にするのが怖いんだ。
勇者なのに……なさけないよな」
「怖いって……? あんなに可愛くて優しい姫様じゃないですか。いったい……」
「りんたろー。人生を共にするってのは、今だけじゃないんだよ。そりゃセシルは可愛いさ。一緒に居たいし、キスもしたい。セックスもしたい……でもな、五十年後に、あいつは今のまま、ほとんど何も変わらないんだ。こっちはもうヨボヨボのシワシワ。下手すりゃ墓の下ってな。そんなんで、本当にあいつを幸せに出来るのか? 寂しい想いをさせるだけじゃないのか? 少なくとも俺には今、あいつを生涯幸せにする自信がない。そうならば、あいつの恋心がどこかの中坊みたいに、恋に恋しているような今の状況なら……あいつは、自分の世界で、ちゃんとしたエルフと結ばれた方が幸せなんじゃないか?」
「……」りんたろーも真理も何も言い返せない。言い返すほどの人生経験も蘊蓄もない。
「そんでな。勇者の魔王討伐の報酬ってなんだか知ってるか?
夢を一つ叶えてくれるんだよ。こう、魔力を封印した宝玉があってな……まあ、それはどうでもいいか。それで、俺は、メジャーなミュージシャンになりたいと願った。そして今こうなってる。
群馬の山奥出身だった俺は、メジャーなミュージシャンになりたくて、親に無理言って東京の三流大学に通いながら、どこにでもある学生バンドやってたんだ。
そしてあの日。メッセでコンサートがあって、俺、バイトで機材運びやってる途中で召喚されちゃって……で、まあ、あっちでいろいろあって、こっち帰って来てからメジャーデビュー出来たんだが……姫様に付き合ったら、それも手放さなくちゃならん。
……まあ、これは姫様にもらった様なものでもあるんで、返せって言われたら、そりゃ仕方ないけどな」
そこまでしゃべってから、勇者ノボルは、水割りを飲みながら、だんまりになった。
「それでも……」りんたろーが口を開いた。
「それでも、今の話は、勇者さんが直接姫様にしたほうがいいと思います!
彼女は馬鹿ではありません。
多分、今の勇者さんの気持ちを理解してくれるはずです!」
「……そうかもな。だがさっきも言ったろ。会ったら最後、押し倒さない自信が無いって……それで振っちゃうんだから……そうだな。俺に押し倒されて、ヤラれちゃった後で、振られてもいいって言うんなら、会わない事もないか……ははは、馬鹿らしい」
「馬鹿らしいかどうかはわかりませんよ。今のお話を、僕は姫様に伝えます。
それで、姫様がそれでもいいと言うなら、二人で会ってくれますか?」
「おいおい。お前正気か?」
「そうよ、りんたろーさん。それはいくら何でも姫様が可哀そう……」
「ううん、真理ちゃん。僕には、姫様が、そんな体の関係云々よりも、勇者さんと会話して筋を通す事を望んでいるようにも思えるんだ。だから、話してみる。
まあ、嫌だっていったらそれで終わりなんで、素直にマホミンさんと帰って貰おうよ。
でも……もしそれでも会いたいと言ったら、会っていただけますよね。勇者さん!」
「……ああ。それは……約束する。男に二言はない」
カサンドラを出たときは、すでに午前三時を回っていたが、さすがにもう始発を待たないと家には帰れない。あと二時間ない位なので、新宿駅近くの公園のベンチに、りんたろーと真理は腰かけた。
「りんたろーさん……姫様、あれで勇者と会うっていうかしら?」
「うーん。何とも言えないけど……でも、何て言おう。犯されちゃうけど振られちゃいますって……さすがにまずい気がしてきた」
「ふふ、りんたろーさんって、ああいう場面で、変に度胸がいいですよね。あんなに自信たっぷりに言われたら、勇者でもビビっちゃいますよ。でも……私はそんなあなたが好きですよ!」
「えっ? 真理ちゃん……」
「……ごめん。りんたろーさん。今、神様が応援してくれてたような気がしてて……。
いやいや、言い訳じゃないし……カスミ様いがいないところで、抜け駆けみたいで何なんですが……あ、あの寿旅館の時は、何も覚悟ないまま、マサハルさんに言われてあんな事しましたけど……今ははっきり言えます。私、あなたの事が好きです。
なんかさっきの勇者とのやり取り見てたら……やっぱり自分の気持ちをはっきり伝える事って重要かなーって……」
「……真理ちゃん、有難う。すごくうれしいです……でも、何か……ごめん」
「あー、いいの、いいの。わかってたから。りんたろーさん、姫様のこと気になってるし、カスミ様もりんたろーさんが大好きだし……」
「えっ? カス姉も?」
「……あー、やっぱり気づいてないんだ……。カスミ様も、一人の男性として、あなたの事が好きなんだよ。気づいていないの多分あなただけ……」
「そ、そうなんだ……あまりに身近すぎて、考えた事もなかったけど……」
「そういうところが、りんたろーさんらしいな……でもまあ、始発までまだちょっとあるし、結構冷え込んできたし……今しばらくは、私があなたを独占してていいかな?」
そういいながら、真理は思い切り、りんたろーの腕にしがみついてきた。
「はは、あったかいや」
しばらくすると、東の空が白んできて、やがて初日の出が見られた。
女の子と腕組ながら見る初日の出って、なんかいいなと、りんたろーは思った。
「どうする? まだ約束の時間まで二時間以上あるけど」カスミが問う。
「これなら、神宮に初詣してからでもいいかもね。約束の場所は、新宿の南口側だから、
歩いてもそんなにかからないよ……にしても、これ。ライブハウスか何かかな? 特に大晦日でライブやるとかは、ファンサイトにも書いてなかったけど……」
「まあ、行ってみればわかるでしょ」一人で来いと言われているが、真理もカスミも
近くまでいっしょに行ってくれる予定だ。
そのまま、神宮の参拝者の列に並び、やがて年が明けた。参拝の列が前進しだす。
人に揉まれながら、ゆっくり全身するが、しばらくして……あれ? カス姉は?
「どうしよ。りんたろーさん。カスミ様、はぐれちゃったみたい!」真理も慌てているが、周りを探そうにも身動きが取れず、人の流れに身を任せるしかない。
「仕方ないよ、真理ちゃん。勇者との約束の場所はカス姉もわかっているし、最悪、そこで落ち合えるでしょ……真理ちゃんも、はぐれないでね」そう言いながら、りんたろーが真理の手を握った。
「ひゃ!」真理はびっくりしたが、まあ、これ以上離ればなれにならないようにとの配慮だろう。ドキドキしながら、人混みの中を、りんたろーにくっついてゆっくり進んだ。
プールの様な賽銭箱になんとかお賽銭を投げ入れて、人混みから解放された時、午前一時を過ぎていた。りんたろーと真理は、手をつないだまま、新宿に向かって山手線の脇を歩いている。
深夜で人通りもまばらであり、りんたろーは心配して手を握ってくれているのだろう。
さっき真理は、神様に「りんたろーさんと親しくなれますように」とお願いした。
それが、もうかなってしまっているみたいで、これならもっと欲張ってもよかったかなと、ちょっと後悔していた。
「ここだよね……」
午前二時ちょっと前、りんたろーと真理は、新宿三丁目にほど近い路地裏の、カサンドラというお店の前に来た。ドアには準備中の看板がかかっている。
カスミの姿は見当たらないなと思ったら、RINEが入っていた。
「えー! カス姉、間違って恵比寿の方に歩いて行っちゃったみたい……仕方ないから先に帰るってさ」
はは、りんたろーさんと二人っきりになっちゃったぞ。私のお願い……神様、まだまだ頑張ってくれてるんだ……と真理は思わずにはいられなかった。
「でも、ここ。なんか雰囲気よくないよね……ヤンキーみたいのもうろついてるし……。
一人でって言われたけど、真理ちゃん一人には出来ないや。怒られてもいいから、二人で入ろう」そう言って、りんたろーは、真理を伴って店に入った。
中は普通の喫茶店風だったが、準備中とあったせいか誰もいない。
いや……奥のシートに一人……ああ、勇者ノボルに間違いない。
「なんだ、お前。一人でって言ったのに……女連れとはいい度胸だな」
「すいません。外で待ってもらおうと思ってたんですが、このあたり、なんか治安が悪そうで……だめでしょうか?」
「ふっ。いきなり姫様連れてきてたら叩き出したけど……まあいいや。あんたも、前橋にいたよな?」
「はい。私は、浜松真理と言います。
あっちの世界から来た姫様の追手と組んでいる人間です」
「えっ? 真理ちゃん? 突然、それ勇者さんに言う?」りんたろーが動揺する。
「多分、勇者さんにブラフは通用しなさそうなんで、こちらの手の内先に見せたほうがいいですよね?」
「ははは、お嬢さんのほうがよっぽど肝が据わってやがる。なるほど、了解だ……。
それで……お前達は、どうしたいんだ?」
「率直に言います。姫様に直接会って、貴方の気持ちをはっきり伝えて下さい!」
りんたろーが勇者ノボルに告げた。
「先日のノボルさんの様子だと、もう姫様に未練はないのでしょう?
それをはっきり伝えて、きっぱり振ってあげて下さい。姫様もそれを望んでいます」
「……ふー。前橋で、あきらめて帰ってくれた方がよかったんだがな……また会えってか……なー、真理ちゃん。あんたのところに追手来てるんだろ? そいつらにさっさと姫様連れてってもらえないかな?」
「いえ……追手の方達もいい人で、今少し、姫様の御心が定まるまで待ってくれるようでして……」
「ちっ、使えねえ追手だな……そう……お前、りんたろーだっけ。おまえ、姫様が好きなんだろ? そうでなければ、あんなに身体張らないよな? 俺の事は気にしなくていいから、お前が姫様貰ってくれ! ヤッちゃっていいから」
「なっ! ふざけてるんですか! 仮にも勇者様なんでしょ? あんな女の子一人くらい、ちゃんとお断りすればいいんじゃないですか!」
憤るりんたろーを制して真理が言った。
「あの、勇者様。どうして、姫様と直接お会いになりたがらないのですか? 前橋では、
あんなにはっきり拒絶されたのに……もしかして……まだ、姫様への思いが残ってる?」
「!」勇者が言葉に詰まった。
「えっ? 真理ちゃん。何言ってんの?」
「りんたろーさんは、黙ってて! あの……もしかして、二人きりで会ったら思いが再燃しちゃうとか……そういうのを恐れているのですか?」
「…………やれやれ。やっぱ女の子は鋭いな。だから小僧一人で来いって言ったんだ。
チェリーボーイ一人位なら簡単に煙に巻けると思ったんだが…………。
そうさ! その通りさ。俺はまだ、彼女を慕っている。
二人っきりで会ったら最後、押し倒さない自信がない。だから……会いたくないんだ」
「そんな……それって両想いですよね! なんで……」
「だから、りんたろーさんは黙ってて! 勇者さん……怖いんですか?」
真理が真剣な眼差しで勇者を見つめる。
「ああ、そうだよ。俺は、彼女と人生を共にするのが怖いんだ。
勇者なのに……なさけないよな」
「怖いって……? あんなに可愛くて優しい姫様じゃないですか。いったい……」
「りんたろー。人生を共にするってのは、今だけじゃないんだよ。そりゃセシルは可愛いさ。一緒に居たいし、キスもしたい。セックスもしたい……でもな、五十年後に、あいつは今のまま、ほとんど何も変わらないんだ。こっちはもうヨボヨボのシワシワ。下手すりゃ墓の下ってな。そんなんで、本当にあいつを幸せに出来るのか? 寂しい想いをさせるだけじゃないのか? 少なくとも俺には今、あいつを生涯幸せにする自信がない。そうならば、あいつの恋心がどこかの中坊みたいに、恋に恋しているような今の状況なら……あいつは、自分の世界で、ちゃんとしたエルフと結ばれた方が幸せなんじゃないか?」
「……」りんたろーも真理も何も言い返せない。言い返すほどの人生経験も蘊蓄もない。
「そんでな。勇者の魔王討伐の報酬ってなんだか知ってるか?
夢を一つ叶えてくれるんだよ。こう、魔力を封印した宝玉があってな……まあ、それはどうでもいいか。それで、俺は、メジャーなミュージシャンになりたいと願った。そして今こうなってる。
群馬の山奥出身だった俺は、メジャーなミュージシャンになりたくて、親に無理言って東京の三流大学に通いながら、どこにでもある学生バンドやってたんだ。
そしてあの日。メッセでコンサートがあって、俺、バイトで機材運びやってる途中で召喚されちゃって……で、まあ、あっちでいろいろあって、こっち帰って来てからメジャーデビュー出来たんだが……姫様に付き合ったら、それも手放さなくちゃならん。
……まあ、これは姫様にもらった様なものでもあるんで、返せって言われたら、そりゃ仕方ないけどな」
そこまでしゃべってから、勇者ノボルは、水割りを飲みながら、だんまりになった。
「それでも……」りんたろーが口を開いた。
「それでも、今の話は、勇者さんが直接姫様にしたほうがいいと思います!
彼女は馬鹿ではありません。
多分、今の勇者さんの気持ちを理解してくれるはずです!」
「……そうかもな。だがさっきも言ったろ。会ったら最後、押し倒さない自信が無いって……それで振っちゃうんだから……そうだな。俺に押し倒されて、ヤラれちゃった後で、振られてもいいって言うんなら、会わない事もないか……ははは、馬鹿らしい」
「馬鹿らしいかどうかはわかりませんよ。今のお話を、僕は姫様に伝えます。
それで、姫様がそれでもいいと言うなら、二人で会ってくれますか?」
「おいおい。お前正気か?」
「そうよ、りんたろーさん。それはいくら何でも姫様が可哀そう……」
「ううん、真理ちゃん。僕には、姫様が、そんな体の関係云々よりも、勇者さんと会話して筋を通す事を望んでいるようにも思えるんだ。だから、話してみる。
まあ、嫌だっていったらそれで終わりなんで、素直にマホミンさんと帰って貰おうよ。
でも……もしそれでも会いたいと言ったら、会っていただけますよね。勇者さん!」
「……ああ。それは……約束する。男に二言はない」
カサンドラを出たときは、すでに午前三時を回っていたが、さすがにもう始発を待たないと家には帰れない。あと二時間ない位なので、新宿駅近くの公園のベンチに、りんたろーと真理は腰かけた。
「りんたろーさん……姫様、あれで勇者と会うっていうかしら?」
「うーん。何とも言えないけど……でも、何て言おう。犯されちゃうけど振られちゃいますって……さすがにまずい気がしてきた」
「ふふ、りんたろーさんって、ああいう場面で、変に度胸がいいですよね。あんなに自信たっぷりに言われたら、勇者でもビビっちゃいますよ。でも……私はそんなあなたが好きですよ!」
「えっ? 真理ちゃん……」
「……ごめん。りんたろーさん。今、神様が応援してくれてたような気がしてて……。
いやいや、言い訳じゃないし……カスミ様いがいないところで、抜け駆けみたいで何なんですが……あ、あの寿旅館の時は、何も覚悟ないまま、マサハルさんに言われてあんな事しましたけど……今ははっきり言えます。私、あなたの事が好きです。
なんかさっきの勇者とのやり取り見てたら……やっぱり自分の気持ちをはっきり伝える事って重要かなーって……」
「……真理ちゃん、有難う。すごくうれしいです……でも、何か……ごめん」
「あー、いいの、いいの。わかってたから。りんたろーさん、姫様のこと気になってるし、カスミ様もりんたろーさんが大好きだし……」
「えっ? カス姉も?」
「……あー、やっぱり気づいてないんだ……。カスミ様も、一人の男性として、あなたの事が好きなんだよ。気づいていないの多分あなただけ……」
「そ、そうなんだ……あまりに身近すぎて、考えた事もなかったけど……」
「そういうところが、りんたろーさんらしいな……でもまあ、始発までまだちょっとあるし、結構冷え込んできたし……今しばらくは、私があなたを独占してていいかな?」
そういいながら、真理は思い切り、りんたろーの腕にしがみついてきた。
「はは、あったかいや」
しばらくすると、東の空が白んできて、やがて初日の出が見られた。
女の子と腕組ながら見る初日の出って、なんかいいなと、りんたろーは思った。
30
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる