上 下
14 / 25

第14話 勇者の正体

しおりを挟む
 夏休みもあと一週間くらいで終わろうかという、平日のお昼近く。
 りんたろーは、カスミ、セシル、ブレタムとともに小岩駅に降り立った。今日は、真理たち追手チームとの初会合だ。
 真理から来たメールには、集合場所として線路脇にある旅館が示されていた。

「えー、ここって、怪しい旅館だよねー」カスミが変な顔で寿旅館を見上げた。
 入るのをためらっていたら、中からマホミンが出てきた。
「あー、みにゃさん。こんにゃところで立ち止まってたら、旅館に入ってエッチしようか悩んでるアベックみたいにゃんで……早々に中にお入り下さいにゃ!」
 マホミンに促されて、旅館の奥の大きな和室に案内されたが、奥の間には、やはり大きな布団が敷かれていて、枕が二つ並んで置いてあった。
「うわー、やっぱ連れ込み旅館なんだー。りんたろー。あとであれで一緒に寝ようか?」
「カス姉、からかわないでよ!」先日の真理の浴衣姿が思い出され、ちょっと興奮してしまったタイミングで、カスミにそんなことを言われ、りんたろーは鼻血が出そうな気がした。

「それで、あなたがマサハルさん? 私、真理ちゃんは信用したけど、あなたをまだ信用したわけではないから……あまり迂闊なおふざけはしない方がいいわよ」
 カスミがすごんだ。
「この人が、あんた達が探しているセシル姫。ここまで連れてきたんだから、あんた達が持ってる情報を全部出しなさい。その上で、今後どうするか、姫様交えて話合いましょ」
 カスミの言葉に、真理とマサハルがお互いの顔をみながら頷き、真理が、一冊の雑誌をテーブルの上に取り出した。

 りんたろーがそれを手に取ってみると、去年の年末に発行された『来年ブレイク必至なロックバンド特集』と題された音楽情報雑誌だった。その中の一ページに附箋が張ってあり、見るとマホガニーというビジュアル系ロックバンドの特集記事のようだった。

「これは?」りんたろーの問いに、真理が答えた。
「そのバンドの……記事読んでみて下さい」
 りんたろーが声に出して記事を読み始めた。

「『今年の春過ぎに突然現れた謎多きビジュアル系バンド、マホガニーだが、リーダーで
ボーカル兼リードギターのセシルを中心に……』って、セシル?」
「そう。その人が、勇者ノボルです!」真理が断言した。

「いやいや、たまたまセシルってだけで……」と言うりんたろーから、ガバっと雑誌を取り上げて、セシルが食い入る様にグラビアを眺めている。
「りんたろーさん……確かにメイクとかがすごくて何ですが……間違いないです。この人勇者ノボル様です!」セシルもそう断言した。
「何ですってぇ!」りんたろーとカスミの声がハモッた。

「最初に気が付いたのはマホミンさんです。TVに出ていたのに気が付いて、その場では調べられなかったんですが、日にちとチャンネルをマサハルさんが控えていたので私が検索しました。その番組の出演者達を片っ端からマホミンさんに見てもらって……。
 この人の本名は、海藤 登といいます」

「すごいじゃないですか! これで姫様が本懐を遂げられる日もそう遠くない……」
「そうはいかないわよ、ブレたん。なんで元勇者がこんなタレントやってるのか分からないけど、このバンドは私も知ってるわ。友達にも好きな子いるし……。
 今、すっごい人気なの。だから、それだけに……どうやって近づくの?」
 カスミも途方に暮れているようだ。
「でも……勇者さんが、このセシルさんだって判明しただけでも上出来だよ。
 これからどうするかは、また考えないといけないけど……」
 りんたろーもまだ興奮が収まらないようだ。

「それで、りんたろーさん。こちらのお二人の事情なんですが、一年以内に成果を上げないといけないらしいのです。こちらにいらっしゃったのが今年二月だそうですので、あと半年もないのですが……」真理がそう語った。
「うーん。それまでに勇者にたどり着くのは難しくないかなー」りんたろーも頭を捻る。

「別に多少期限に遅れても、君たちが怒られるのを我慢すればいいだけではないか? 
 報酬なら姫様が帰られた際、裏から用立てる事も出来よう」
 ブレタムがそう言うと、マホミンが答えた。
「それだと、あたいらは良くても、あんたらのお友達がダメにゃん。
 あの……ミルダだっけ? あんたらをこっちに送った魔導士。
 私らが期限までに帰らないと、それが死刑になるにゃん!」
「なんですって!」セシルが思わず立ち上がった。
「お、落ち着いて下さい、姫様。多分、王子のブラフです。いくらなんでも、死刑は……」
「馬鹿犬にはわからにゃいかもしれないけど、あれは重罪にゃん! 
 未承認の術式が事後OKなんてなったら、無法がまかり通っちゃうにゃん!」

「だが、お前達もその術式でこちらに来たのだろう?」
 ブレタムも食い下がるが、セシルがそれを制した。
「ブレタム、落ち着いて。確かに兄上のブラフかも知れませんが、確かめる術がありません。万一、本当にミルダが処刑されてしまったりしたら……私は……」
 セシルがまた膝を落として床に座りこんだ。

「あー、ですので皆さん。できれば年内に姫様が思いを遂げられ、年明けに私達と一緒にお国にお帰りいただくのが、当面の目標という事ではどうですか? 
 それに向かって、みんなで力を合わせましょうよ」
 サハルがそう提案し、みんながそれに同意して、その日の打ち合わせは終わった。

 帰り際に、マサハルがカスミに声をかけた。

「あの……先ほどのお部屋を気にいっていただけたみたいなので……つかぬ事をお伺いしますが、カスミさんとりんたろーさんは、お付き合いなさってるんで? であれば、たまにご利用いただければ、安くしておきますよ……とまあ、こうしていろんな人に営業しないとならない位、経営厳しいんですけどね」
「はは……ただの幼なじみで……別に、男女として付き合っているわけでは……」
 そう言って旅館を後にしたが、自室に戻ってカスミは深いため息をついた。

(あーあ。りんたろー、勝浦で姫様と近くなっちゃったかと思ったら、今度は真理ちゃんか……私は……いったい、どうしたいんだろ?)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル

ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。 しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。 甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。 2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

母娘丼W

Zu-Y
恋愛
 外資系木工メーカー、ドライアド・ジャパンに新入社員として入社した新卒の俺、ジョージは、入居した社宅の両隣に挨拶に行き、運命的な出会いを果たす。  左隣りには、金髪碧眼のジェニファーさんとアリスちゃん母娘、右隣には銀髪紅眼のニコルさんとプリシラちゃん母娘が住んでいた。  社宅ではぼさぼさ頭にすっぴんのスウェット姿で、休日は寝だめの日と豪語する残念ママのジェニファーさんとニコルさんは、会社ではスタイリッシュにびしっと決めてきびきび仕事をこなす会社の二枚看板エースだったのだ。  残業続きのママを支える健気で素直な天使のアリスちゃんとプリシラちゃんとの、ほのぼのとした交流から始まって、両母娘との親密度は鰻登りにどんどんと増して行く。  休日は残念ママ、平日は会社の二枚看板エースのジェニファーさんとニコルさんを秘かに狙いつつも、しっかり者の娘たちアリスちゃんとプリシラちゃんに懐かれ、慕われて、ついにはフィアンセ認定されてしまう。こんな楽しく充実した日々を過していた。  しかし子供はあっという間に育つもの。ママたちを狙っていたはずなのに、JS、JC、JKと、日々成長しながら、急激に子供から女性へと変貌して行く天使たちにも、いつしか心は奪われていた。  両母娘といい関係を築いていた日常を乱す奴らも現れる。  大学卒業直前に、俺よりハイスペックな男を見付けたと言って、あっさりと俺を振って去って行った元カノや、ママたちとの復縁を狙っている天使たちの父親が、ウザ絡みをして来て、日々の平穏な生活をかき乱す始末。  ママたちのどちらかを口説き落とすのか?天使たちのどちらかとくっつくのか?まさか、まさかの元カノと元サヤ…いやいや、それだけは絶対にないな。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

異世界踊り子見習いの聞き語り マルチカダムの恩返し~魔輝石探索譚異聞~

3・T・Orion
ファンタジー
踊り子リビエラに弟子入り真っ最中のウィア。 憧れて…家族説き伏せ進んだ道…ではあるが、今日も目指すべき本職と言える踊り子の修練より…つい性分に合う雑用働きに力を入れてしまう。 勿論…任されている師匠家族の子守り役もキッチリこなすが、何故か子守り対象から外れたはずの2歳下のニウカが以前にも増し絡んで来る。 ニウカにも何か理由があるのかもしれない…が、自身の正義に反する理不尽をウィアは許さない。 異議は山ほど申し立てる! ドタバタと過ごす日々ではあるが、出来るだけ穏便に過ごすべく努力は惜しまない。実家の宿屋手伝いで聞き集めた魔物話を聞き語る事で、心動かしたり…言い聞かせたり…。 基本的には…喧嘩売ってくるニウカをギャフンと遣り込めるべく、ウィアは今日も楽しみながら語り始める。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...