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第11話 不穏な接触

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 その後、りんたろーとリンクルは、何度かメールでの交渉を重ね、いよいよ一度、面会しましょうということになった。遠隔地だった如何ともし難かったのだが、相手は小岩駅前のファミレスを指定してきた。よかった。小岩ならいつでも行ける……。

 しかし、相手の正体もわからないところへいきなり姫様を連れていくのはまずいだろうと、カスミが言うのももっともなので、りんたろーとブレタムが面会に臨むことになった。ブレタムがいれば、勇者の細かい事や、あちらの世界独自の情報も確認できる。

 八月最初の水曜日のお昼に、りんたろーとブレタムが、約束のファミレスに入ったところで、向こうが気づいたのか、ぴろんっとショートメールが入った。
 奥の角のテーブルにいるとの事なので、そちらに向かう。

 そこには、高校生位の女の子と……なんだあれ? ケモミミのお姉さんが座っていた。それを見たブレタムが一気に警戒体勢に入る。
「だめだ、りんたろー殿。あいつは、あっちの世界のやつだ。私にはわかる。もしかしたら、王国からの追手かも知れん!」

 追手? そうか、その考えは全くなかった……りんたろーは、お人よしの自分が情けなくなった。そうならば、直ぐにここを立ち去らなくては……そう思って店を出ようとした時、高校生位の女の子が慌てて駆け寄ってきて叫んだ。

「ああ、逃げないで! 私達、敵じゃないから! 話だけでも聞いて下さい!」
「あの……リンクルさん?」りんたろーが用心深く尋ねた。
「はい、わたしがリンクルです。是非、勇者ノボルのお話を……」
「でも、あの猫姉さんは何? ……こっちの人じゃないよね」
「……それは……そっちだって、犬姉さん連れてるじゃないですか!」
「うっ、ははは……そうだね……」

 りんたろーとブレタムは顔を見合わせ、とりあえず話だけでも聞いてみようかという事になった。

「私がリンクル……名前は、浜松真理と言います。小岩高校の二年生です。で、こっちの猫姉さんがマホミンさん」
「あ、僕は青葉林太郎。新宿幕張高校の二年生です。それで、こっちの犬姉さんはブレタムさん」
「ええ! 新幕? めっちゃ優等生じゃん……位負けしそう……」
 りんたろーの高校を知って、突然、真理のトーンが下がってしまった。
「なーに、ビビってるにゃん。優しそうな男の子だにゃん」マホミンが真理を励ます。
「にゃん?」ブレタムが怪訝そうに顔をしかめると、マホミンが大きな声で言った。
「仕方ないにゃん! バカハルの記憶を元に作った魔法院の言語学習術式がそうなってたにゃん! おかげで、こっちの世界で馬鹿にされまくりにゃん!」

「やはりお前、魔法院の……りんたろー殿。やはりこの者と関わるべきではなかった。
 私が今ここで口封じを……」
 ブレタムがいきり立ってマホミンにつかみかかろうとするのをりんたろーが制した。
「落ち着いて、ブレタムさん! 
 こんなところで暴力はだめだよ……それに、猫姉さんはともかく、浜松さんまで抹殺は出来ないって!」
「あたいはいいのかにゃん!」マホミンがマジ切れしている。

 ブレタムがなんとか落ち着いたので、りんたろーが会話の口火を切った。
「それで浜松さん。勇者ノボルの情報って?」
「それは……今ここでは言えません。やはりセシル姫にも立ち会っていただかないと。
 というのも、確かにこのマホミンさん。姫を連れ戻す役目でこっちに来たんだけど、手ぶらでは帰れないの。でも私も、あの投稿小説で姫様の心境が分かっちゃったから、全面的にマホミンさんを手伝うのも気が引けて……だから、みんなで話合って、どこかいい落としどころはないかなって……そう思うの」
「なるほど……それで、君はどうやってマホミンさんと知り合って、この話信じたの?」
「それは……今は重要じゃないかな。なんか関わっちゃったし……。
 投げ出すのも可哀そうで」
「ふうー、そうなんだ。でも僕たちもここでOKとは言えないよ。
 一度戻って相談してみる。連絡先はリンクルさんのメアドでいいよね?」
「ええ、それでいいわ」

 そこで話し合いは終了となり、りんたろーとブレタムは店を出た。
「ねえ、ブレタムさん。あの猫姉さんは本物なんだよね。とすると、浜松さんが言ってた事も信ぴょう性がある……」
「うん。あの猫。確かにあっちの獣人で間違いない。それよりもりんたろー……お前、気づいているか?」
「ん? 何を?」
「店を出てから、付けられている……あっ、後ろを向くな!」
「えー、どういうこと?」
「あの真理とかいう娘。手の内をすべて我々に見せた訳ではなさそうだな。
 やはり信用出来ないと言う事だろう」
「ああ、そうか……それで、どうする?」
「とにかく……私に合わせて、キョロキョロせずについてこい」
 そういいながら、ブレタムは小岩駅に向かい、改札を抜けホームに上がった。

 やがて千葉行の各駅停車が来たのでそれに乗り……椅子に腰かけたかと思ったら、ドアが閉まる寸前、りんたろーの手を強引に引っ張ってホームに飛び出した。

 うわっ、ギリギリだよ! 
 そう思いながら走り出した電車を見て、りんたろーが言う。
「どう? 捲けた?」
「ああ、付けてきたやつは電車の中だ。私もバイト帰りに、変な奴に付けられることが結構あってな。この技を身に付けたんだ!」
 ブレタムは、ドヤ顔でそう言った。

 ◇◇◇

 しまった。捲かれましたか……まるで、学生運動全盛期の過激派の人みたいですね。
 マサハルは、まんまとブレタムの作戦に引っかかってしまった。しかし……りんたろーさんでしたっけ。彼のしっぽは掴みました。あとは姫の居場所にたどり着ければ……そう考えて、市川で電車を乗り換え、小岩駅まで戻った。
 ファミレスには、まだ真理とマホミンが残っていた。

「新宿幕張? なんですかそれ。千葉なのか東京なのか……私が昔住んでた頃、そんな学校聞いた事ないんですが……」
「何言ってるんですかマサハルさん。めちゃくちゃ進学高ですよ。あー、せっかく新幕の男の子とお近づきになれるチャンスだったのに……けっこう、好みのタイプだったし……でも尾行がバレたら、信用してもらえないですよー」
 真理が本当に残念そうにそう言った。

 真理とは、何回かスマホの講習をしてもらううちに、最初は架空の話としてこちらの事情を話し、仮にという事で勇者や姫様の事を検索してもらった経緯がある。
 しかし、実際に姫様の作と思われる勇者ノボルの投稿小説が出てきて、それがマサハルやマホミンの話と寸分たがわない事に真理のほうが驚き、結局、全部本当の話と理解してもらって、協力してくれるという事になったのだが……。

「でも、人のよさそうな男の子だったにゃ。真理ちゃん、頑張って口説き落とすにゃ! いっそ、この夏中にエッチするくらいまで……そうすればこっちの計画もスムーズにいくにゃ!」 
 アホミンが安易なことを言っているが……確かにそうかもと、マサハルも考えた。
 ここで真理を敵に回す必要はない。むしろ彼女がその、りんたろー君とくっつくのを応援すれば、自分たちにもメリットがあるんじゃないか? 
 荒事に出るより、リスクも少なそうだ。

「ねえねえ、真理さん。そしたらおじさんとマホミンで、君がりんたろー君と仲良くなれる様、協力するからさー。機嫌直してくれないかな? 尾行の件も彼にちゃんと謝るし。
 多分、真理さんとりんたろー君がくっつく事が、みんなの幸せに繋がると思うんだ」
「……何それ……でも……ほんとに応援してくれるの? ま、まあ、エッチとかは別にどうでもいいけど……でも、彼と仲良くなれるのはうれしい……かな?」
「よっしゃ。それじゃあ、まり・りんたろー・ぬぷぬぷ作戦開始にゃ!」
「ちょっと! マホミンさん! そんな恥ずかしい作戦名やめて下さい!」

 ふふふ、このお嬢さんがあの善良そうな童貞君を口説くなんて、私の手練手管をもってすればお茶の子さいさい……。

 マサハルはそう考えて、また腹の中で笑った。
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