上 下
10 / 25

第10話 夏休みの思い出

しおりを挟む
 勇者さんを釣るためのエサ投稿をしてから約三か月が経過した。カスミの人脈により、かなりSNS上で拡散され、投稿サイト上での評価もそれなりに上昇している。しかし、肝心の勇者さんが気づいてくれないと何にもならないのと、気づいても黙殺されてしまうリスクは当然ある。
 一応、ワードを組み合わせるとこの投稿が検索エンジンに引っかかるくらいにはなっているが、「ノボル」だけだと全然だめなので、勇者さんのエゴサに引っかかる可能性も未知数だ。
 こちらから積極的にアクションできないのが、この作戦の最大の欠点だな。
 そう考えながら、りんたろーは、自分の部屋でパソコンとにらめっこしていた。

 姫様も、ただ家でじっとしているのも退屈なのか、ブレタムさんと同じところでバイトを始めた。秋葉原のコスプレカフェらしいので、まあ、あの人たちにはピッタリだとは思うが、さすがカス姉は顔が広いや‥‥‥一度行ってみたいが、お小遣いが‥‥‥僕もなんかバイトしようかなー‥‥‥などど考えていたら、カスミからRINEが入った。
 手が空いたら直電くれとの事なので、さっそくかけてみる。

「あー、りんたろー。あのね。勇者探しもちょっと行き詰った感があるし、かといってうじうじしてても仕方ないし……姫様たちも収入が入ってきて余裕出てきたし‥‥‥
 夏休み、気分転換しに、みんなで房総行かない?」
「はい? それって海水浴ってこと?」
「うーんとね。正確にいうと、勝浦で海の家のバイト。サークルの先輩にヘルプを頼まれちゃってさ。私は夏コミあるんで無理ですーって言ったんだけど、七月中だけでいいって言うし、姫様たちにも、たまには息抜きさせてあげたいじゃない? 一週間くらいだからあんたもいっしょにバイトしなよ!」
「息抜きって……結局働くんでしょ? でも、いいかも。僕もこの夏休み、なんかバイトしようかと、ついさっき考えてたとこなんだ」
「きまりね。それじゃ、夏休み七月中は予定空けといて!」
 そう言って通話が切れた。

 へー、勝浦か‥‥‥姫様とブレタムさんも当然水着だよな……そう考えると、なんだかとっても楽しみになってきて、りんたろーはニヤけ顔が止まらなかった。

 ◇◇◇

「はいっ? 四人で、この部屋で寝泊まりするの?」
 夏休みに入ってすぐ。海の家でのバイトの為、りんたろーはカスミ、セシル、ブレタムとともに、勝浦の海辺の民宿を訪れた。

「あー、めんご、りんたろー。ほんとは女子四人募集だったんだけど、あんたは私の弟ってことで……無理やり了解もらったんだ……」
「えー! 何それ……カス姉はまあいいとして、姫様とブレタムさんは、僕と相部屋なんて嫌ですよね?」

「いいえ。私は別に気になりませんが……」セシルは別に何でもない事のように言う。
「私もだ、りんたろー殿。でもまあ、仮に君が姫様に変な事をしようとしたなら、即座に私が討ち取るので心配無用だ!」
「いや……討ち取られるような事はしませんけど……」

 セシルに、ちゃんとした男として見られてないのかと思い、りんたろーはちょっと悔しい。しかし、いまさら一人で帰るわけにもいかないので、仕方なく? あきらめた。

「心配しなくても、お風呂はちゃんと男女に分かれているから……明日からバイトがんばろうね! ふふーん、りんたろーと並んで寝るの、結構久しぶりかも……」
 カスミはなんだか上機嫌だった。

 結局、その晩は、カスミがりんたろーの隣になり、その向こう側にブレタム、セシルと並んで、川の字で寝た。

(そりゃ、姫様の隣になんか寝せてもらえないよなー)
とは思ったが、隣で寝ているカスミも、着ている浴衣の前が大きくはだけていて、なんか直視できない……りんたろーは、悶々としてあまり寝られず、かなり寝不足で翌日からのバイトに取り掛かる事となった。

 ◇◇◇

「はーい、りんたろー。焼きそば二つ! カドのテーブルね! あ、ブレたん、そこのテーブルの上片付けて、拭いといて……」カスミが、厨房側で調理をしながら、フロアにテキパキと指示を出している。セシルは奥で洗い物専任だ。

 まだ、夏休みは始まったばかりだが、天気がいいこともあって、海の家は、早くからお客さんが詰めかけていた。もちろんカスミ達四人以外にもバイトはいるのだが、みんなカスミの指揮で動いていて、いい感じで店が回っているように感じられ、忙しくはあるが、それほどテンパった感じではなかった。
 午後三時を回ったあたりから、客足もまばらになってきたので、バイトは交替で休憩に入っていいよという事になった。

「そんじゃー、りんたろーと姫様。先に一時間休憩ね。泳いできていいよ……あー、りんたろー。姫様、その肌で日焼けすると大変だと思うから、気を付けてねー」

 海の家の更衣室を借り、りんたろーは水着に着替えた。外で待っているとセシルも着替えて出てきた……えっ、何これ! めっちゃ可愛いワンピースの水着なんですけど……。
 りんたろーがポカンと口を開いてガン見していたら、セシルが恥ずかしそうに言った。
「あ、あの、りんたろーさん。そんなに見つめられたら恥ずかしいです……変ですか、これ? 先日、カスミさんに連れられて、ブレタムと一緒に買って来たんですが……」
「あー、いえ。どこも変じゃないです。すっごく素敵です!」
「ああ、よかった。それじゃ……これ。背中に塗ってもらっていいですか? カスミさんから、絶対全身に塗らないとあとでひどいことになるって、脅されていまして……」
 そう言いながら、セシルは日焼け止めオイルをりんたろーに差し出した。
「ふえー、こここ、これを僕が……あの……塗ってよろしいんで?」
「はい、お願いします!」

 正直、どのように姫様の背中にオイルを塗ったのか、りんたろーは後からまったく思い出せなかった。よほどのぼせあがっていたのだろう。
 その後、セシルが泳げないと言っていたので、二人で波打ち際で、水の掛け合いをしたことだけが、強く記憶に残っていた。
 海の家を締め、民宿に帰ってきたときは七時を回っていた。夕食後、お風呂も済ませ、みんなで部屋でダラダラしていたら、カスミがセシルに話しかけた。

「うわー、姫様。今日一日ですごく日焼けしてない? お風呂で痛かったでしょ?」
「あー、はい……顔とか腕とか……自分で塗ったところは、ちゃんと塗れてなかったかも……りんたろーさんに塗っていただいた背中は何ともないみたいなんですが……」
「なにー! りんたろーに塗らせたの? 変なところ触られなかった?」
「カス姉! いくら僕でもそんなことしないよ!」りんたろーがあわてて否定する。
「大丈夫です。りんたろーさんは背中だけ優しく塗って下さいました。ちょっと手が震えていて、くすぐったかったですが……」
「ああーん。ロクでもない……りんたろー、明日は私と休憩だかんね!」
 カスミが、りんたろーの頭をつかんで、わしわし振りながらそう言った。

 そんなこんなで海の家のバイトは順調に日数を重ねていった。当初、同室の女子たちが気になって寝つけなかったりんたろーであったが、昼間のバイトと休憩が結構ハードで、夜は布団に入ると即落ちするようになっていた。

 そして明日がバイト最後の日となり、夕方の休憩時間になったが、レジ金が合わないとかで、カスミが離れられないため、初日以来、二度目の、りんたろーとセシルでの休憩となった。

 オイル塗りはもう慣れたとのことで、今日は背中に塗らせてくれなかったが、セシルがカスミに少し泳ぎを教えてもらったので、ちょっと沖合にある岩場に行こうと言った。
 沖合といっても、歩いて行ける程度の深さのところなのだが、彼女にとってはそれでも結構な冒険なのだろう。りんたろーは、小学校の時、スイミングスクールに通っていた事もあり、泳ぎには苦労しない。

 顔を水の上にあげたまま平泳ぎをするセシルの手を引きながら、りんたろーはゆっくり歩いて、岩場に向かう。ほどなく岩場にたどり着いて、りんたろーが先に上がり、セシルの腕を引っ張った瞬間、セシルがバランスを崩し、りんたろーに重なる様にして、二人は岩場の上に倒れた。
幸いにして、りんたろーが下になったため、姫様は無傷だったが、大きくはないが柔らかい姫様の胸がポヨンとりんたろーに押し付けられ、リンタローは慌てて飛び起きた。

「痛てっ!」見るとりんたろーの右の親指が切れて出血している。
「ああっ、りんたろーさん。大丈夫ですか? かなり血が……」
「大丈夫ですよ、姫様。ここのフジツボで切っちゃっただけですから……」
「だめです! 膿んだりしたら大変です。こちらに指を出して下さい」そういいながらセシルは、何か詠唱を始めた。
「ヒール!」傷の痛みがちょっと引いたが、出血はまだ止まらない。

「ああん。やっぱり威力が足りないや……」
「ありがとう姫様。大分痛くはなくなりましたよ。塩水だと血は止まりにくいんですよ」
「でも……それじゃ、えい!」
 そういいながら、セシルはりんたろーの親指をかぷっと口に含み、傷口をちゅーちゅーと吸い始めた。
「ああ、姫様! そこまでしなくても……」
 りんたろーの制止も聞かず、セシルは指先を舐め続けた。

 ちゅぱっ、くちゅっ。
(あ、あ、これって、指〇ェラ?)
 りんたろーの下半身が固くなるが、セシルに悟られないよう身をよじった。

「ふう。どうやら血は止まったようですね。私がそそっかしくてすいませんでした。それじゃ、仕事に戻りましょうか」そう言いながら、二人は海の中を歩いて浜に向かった。

(うおー、僕、この親指一生洗わないぞ! って、このままじゃ更衣室でシャワーか……
ええい!)りんたろーは思い切り自分の親指を口に含んだ。

 その夜は、バイト最後の晩という事で、浜に出て四人で花火大会をした。
 昼間のケガの事もあり、セシルがやたらにりんたろーのそばにいて心配している。
 カスミがブレタムに話掛けた。
「ねえ。なんかあの二人。距離近くない?」
「そうですか? なんでも昼間、りんたろーさんがケガされたらしくて……お優しい姫様は、その傷を心配されているのでしょう」

 ああ、ブレたんに聞いた私がアホだった……にしても、もう少しりんたろーと一緒に過ごせると思ったんだけどなー。ちょっと仕事に気合入れ過ぎたかしら? 
 そう思いながら、カスミは内心ちょっと心穏やかではなかった。

 翌日は、夕方までバイトしそのまま家に帰る事になっていて、海の家を夕方五時であがり、上りの特急電車に乗り込んだ。
 もうみんなかなりお疲れで、電車が走り出して間もなく、セシルもブレタムもカスミも寝息を立てていた。りんたろーは、窓の外を眺めながら、一人考え事をしている。

(どうしよ。僕、姫様が気になって仕方ないや……これって、まさか……でも、姫様は勇者さんと……)
 やるせない気持ちで、ふうっとため息をついたら、スマホがメールの着信を告げた。
 こんな時分に誰だろ……そう思いながらスマホを開いた。

「え? ええー!」りんたろーが大声を上げ、その声に驚いてカスミとセシルが目を覚ました。周りの乗客もビックリしたようで、りんたろーは、周囲に詫びたが、ブレタムはまだ大いびきだった。

「どした? りんたろー」カスミが眠そうな眼で言う。
「いや、カス姉……これ。投稿サイトの運営経由なんだけど……」
 そういいながらりんたろーがスマホに着ているメールをカスミに見せた。

『勇者ノボル……楽しく読ませて頂きました。ですがこれ。実話ですよね? 私、勇者ノボルの情報を持ってます。できればお会いしてお話したいのですが、いかがでしょうか?
 リンクル』

「えっ、これって……」
「そうだよ! あの投稿に反応があったんだ! このリンクルさんが何者なのかまだ分からないけど……」

 興奮気味に話すりんたろーの顔を、カスミとセシルがまじまじと眺めていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...