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第10話 夏休みの思い出
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勇者さんを釣るためのエサ投稿をしてから約三か月が経過した。カスミの人脈により、かなりSNS上で拡散され、投稿サイト上での評価もそれなりに上昇している。しかし、肝心の勇者さんが気づいてくれないと何にもならないのと、気づいても黙殺されてしまうリスクは当然ある。
一応、ワードを組み合わせるとこの投稿が検索エンジンに引っかかるくらいにはなっているが、「ノボル」だけだと全然だめなので、勇者さんのエゴサに引っかかる可能性も未知数だ。
こちらから積極的にアクションできないのが、この作戦の最大の欠点だな。
そう考えながら、りんたろーは、自分の部屋でパソコンとにらめっこしていた。
姫様も、ただ家でじっとしているのも退屈なのか、ブレタムさんと同じところでバイトを始めた。秋葉原のコスプレカフェらしいので、まあ、あの人たちにはピッタリだとは思うが、さすがカス姉は顔が広いや‥‥‥一度行ってみたいが、お小遣いが‥‥‥僕もなんかバイトしようかなー‥‥‥などど考えていたら、カスミからRINEが入った。
手が空いたら直電くれとの事なので、さっそくかけてみる。
「あー、りんたろー。あのね。勇者探しもちょっと行き詰った感があるし、かといってうじうじしてても仕方ないし……姫様たちも収入が入ってきて余裕出てきたし‥‥‥
夏休み、気分転換しに、みんなで房総行かない?」
「はい? それって海水浴ってこと?」
「うーんとね。正確にいうと、勝浦で海の家のバイト。サークルの先輩にヘルプを頼まれちゃってさ。私は夏コミあるんで無理ですーって言ったんだけど、七月中だけでいいって言うし、姫様たちにも、たまには息抜きさせてあげたいじゃない? 一週間くらいだからあんたもいっしょにバイトしなよ!」
「息抜きって……結局働くんでしょ? でも、いいかも。僕もこの夏休み、なんかバイトしようかと、ついさっき考えてたとこなんだ」
「きまりね。それじゃ、夏休み七月中は予定空けといて!」
そう言って通話が切れた。
へー、勝浦か‥‥‥姫様とブレタムさんも当然水着だよな……そう考えると、なんだかとっても楽しみになってきて、りんたろーはニヤけ顔が止まらなかった。
◇◇◇
「はいっ? 四人で、この部屋で寝泊まりするの?」
夏休みに入ってすぐ。海の家でのバイトの為、りんたろーはカスミ、セシル、ブレタムとともに、勝浦の海辺の民宿を訪れた。
「あー、めんご、りんたろー。ほんとは女子四人募集だったんだけど、あんたは私の弟ってことで……無理やり了解もらったんだ……」
「えー! 何それ……カス姉はまあいいとして、姫様とブレタムさんは、僕と相部屋なんて嫌ですよね?」
「いいえ。私は別に気になりませんが……」セシルは別に何でもない事のように言う。
「私もだ、りんたろー殿。でもまあ、仮に君が姫様に変な事をしようとしたなら、即座に私が討ち取るので心配無用だ!」
「いや……討ち取られるような事はしませんけど……」
セシルに、ちゃんとした男として見られてないのかと思い、りんたろーはちょっと悔しい。しかし、いまさら一人で帰るわけにもいかないので、仕方なく? あきらめた。
「心配しなくても、お風呂はちゃんと男女に分かれているから……明日からバイトがんばろうね! ふふーん、りんたろーと並んで寝るの、結構久しぶりかも……」
カスミはなんだか上機嫌だった。
結局、その晩は、カスミがりんたろーの隣になり、その向こう側にブレタム、セシルと並んで、川の字で寝た。
(そりゃ、姫様の隣になんか寝せてもらえないよなー)
とは思ったが、隣で寝ているカスミも、着ている浴衣の前が大きくはだけていて、なんか直視できない……りんたろーは、悶々としてあまり寝られず、かなり寝不足で翌日からのバイトに取り掛かる事となった。
◇◇◇
「はーい、りんたろー。焼きそば二つ! カドのテーブルね! あ、ブレたん、そこのテーブルの上片付けて、拭いといて……」カスミが、厨房側で調理をしながら、フロアにテキパキと指示を出している。セシルは奥で洗い物専任だ。
まだ、夏休みは始まったばかりだが、天気がいいこともあって、海の家は、早くからお客さんが詰めかけていた。もちろんカスミ達四人以外にもバイトはいるのだが、みんなカスミの指揮で動いていて、いい感じで店が回っているように感じられ、忙しくはあるが、それほどテンパった感じではなかった。
午後三時を回ったあたりから、客足もまばらになってきたので、バイトは交替で休憩に入っていいよという事になった。
「そんじゃー、りんたろーと姫様。先に一時間休憩ね。泳いできていいよ……あー、りんたろー。姫様、その肌で日焼けすると大変だと思うから、気を付けてねー」
海の家の更衣室を借り、りんたろーは水着に着替えた。外で待っているとセシルも着替えて出てきた……えっ、何これ! めっちゃ可愛いワンピースの水着なんですけど……。
りんたろーがポカンと口を開いてガン見していたら、セシルが恥ずかしそうに言った。
「あ、あの、りんたろーさん。そんなに見つめられたら恥ずかしいです……変ですか、これ? 先日、カスミさんに連れられて、ブレタムと一緒に買って来たんですが……」
「あー、いえ。どこも変じゃないです。すっごく素敵です!」
「ああ、よかった。それじゃ……これ。背中に塗ってもらっていいですか? カスミさんから、絶対全身に塗らないとあとでひどいことになるって、脅されていまして……」
そう言いながら、セシルは日焼け止めオイルをりんたろーに差し出した。
「ふえー、こここ、これを僕が……あの……塗ってよろしいんで?」
「はい、お願いします!」
正直、どのように姫様の背中にオイルを塗ったのか、りんたろーは後からまったく思い出せなかった。よほどのぼせあがっていたのだろう。
その後、セシルが泳げないと言っていたので、二人で波打ち際で、水の掛け合いをしたことだけが、強く記憶に残っていた。
海の家を締め、民宿に帰ってきたときは七時を回っていた。夕食後、お風呂も済ませ、みんなで部屋でダラダラしていたら、カスミがセシルに話しかけた。
「うわー、姫様。今日一日ですごく日焼けしてない? お風呂で痛かったでしょ?」
「あー、はい……顔とか腕とか……自分で塗ったところは、ちゃんと塗れてなかったかも……りんたろーさんに塗っていただいた背中は何ともないみたいなんですが……」
「なにー! りんたろーに塗らせたの? 変なところ触られなかった?」
「カス姉! いくら僕でもそんなことしないよ!」りんたろーがあわてて否定する。
「大丈夫です。りんたろーさんは背中だけ優しく塗って下さいました。ちょっと手が震えていて、くすぐったかったですが……」
「ああーん。ロクでもない……りんたろー、明日は私と休憩だかんね!」
カスミが、りんたろーの頭をつかんで、わしわし振りながらそう言った。
そんなこんなで海の家のバイトは順調に日数を重ねていった。当初、同室の女子たちが気になって寝つけなかったりんたろーであったが、昼間のバイトと休憩が結構ハードで、夜は布団に入ると即落ちするようになっていた。
そして明日がバイト最後の日となり、夕方の休憩時間になったが、レジ金が合わないとかで、カスミが離れられないため、初日以来、二度目の、りんたろーとセシルでの休憩となった。
オイル塗りはもう慣れたとのことで、今日は背中に塗らせてくれなかったが、セシルがカスミに少し泳ぎを教えてもらったので、ちょっと沖合にある岩場に行こうと言った。
沖合といっても、歩いて行ける程度の深さのところなのだが、彼女にとってはそれでも結構な冒険なのだろう。りんたろーは、小学校の時、スイミングスクールに通っていた事もあり、泳ぎには苦労しない。
顔を水の上にあげたまま平泳ぎをするセシルの手を引きながら、りんたろーはゆっくり歩いて、岩場に向かう。ほどなく岩場にたどり着いて、りんたろーが先に上がり、セシルの腕を引っ張った瞬間、セシルがバランスを崩し、りんたろーに重なる様にして、二人は岩場の上に倒れた。
幸いにして、りんたろーが下になったため、姫様は無傷だったが、大きくはないが柔らかい姫様の胸がポヨンとりんたろーに押し付けられ、リンタローは慌てて飛び起きた。
「痛てっ!」見るとりんたろーの右の親指が切れて出血している。
「ああっ、りんたろーさん。大丈夫ですか? かなり血が……」
「大丈夫ですよ、姫様。ここのフジツボで切っちゃっただけですから……」
「だめです! 膿んだりしたら大変です。こちらに指を出して下さい」そういいながらセシルは、何か詠唱を始めた。
「ヒール!」傷の痛みがちょっと引いたが、出血はまだ止まらない。
「ああん。やっぱり威力が足りないや……」
「ありがとう姫様。大分痛くはなくなりましたよ。塩水だと血は止まりにくいんですよ」
「でも……それじゃ、えい!」
そういいながら、セシルはりんたろーの親指をかぷっと口に含み、傷口をちゅーちゅーと吸い始めた。
「ああ、姫様! そこまでしなくても……」
りんたろーの制止も聞かず、セシルは指先を舐め続けた。
ちゅぱっ、くちゅっ。
(あ、あ、これって、指〇ェラ?)
りんたろーの下半身が固くなるが、セシルに悟られないよう身をよじった。
「ふう。どうやら血は止まったようですね。私がそそっかしくてすいませんでした。それじゃ、仕事に戻りましょうか」そう言いながら、二人は海の中を歩いて浜に向かった。
(うおー、僕、この親指一生洗わないぞ! って、このままじゃ更衣室でシャワーか……
ええい!)りんたろーは思い切り自分の親指を口に含んだ。
その夜は、バイト最後の晩という事で、浜に出て四人で花火大会をした。
昼間のケガの事もあり、セシルがやたらにりんたろーのそばにいて心配している。
カスミがブレタムに話掛けた。
「ねえ。なんかあの二人。距離近くない?」
「そうですか? なんでも昼間、りんたろーさんがケガされたらしくて……お優しい姫様は、その傷を心配されているのでしょう」
ああ、ブレたんに聞いた私がアホだった……にしても、もう少しりんたろーと一緒に過ごせると思ったんだけどなー。ちょっと仕事に気合入れ過ぎたかしら?
そう思いながら、カスミは内心ちょっと心穏やかではなかった。
翌日は、夕方までバイトしそのまま家に帰る事になっていて、海の家を夕方五時であがり、上りの特急電車に乗り込んだ。
もうみんなかなりお疲れで、電車が走り出して間もなく、セシルもブレタムもカスミも寝息を立てていた。りんたろーは、窓の外を眺めながら、一人考え事をしている。
(どうしよ。僕、姫様が気になって仕方ないや……これって、まさか……でも、姫様は勇者さんと……)
やるせない気持ちで、ふうっとため息をついたら、スマホがメールの着信を告げた。
こんな時分に誰だろ……そう思いながらスマホを開いた。
「え? ええー!」りんたろーが大声を上げ、その声に驚いてカスミとセシルが目を覚ました。周りの乗客もビックリしたようで、りんたろーは、周囲に詫びたが、ブレタムはまだ大いびきだった。
「どした? りんたろー」カスミが眠そうな眼で言う。
「いや、カス姉……これ。投稿サイトの運営経由なんだけど……」
そういいながらりんたろーがスマホに着ているメールをカスミに見せた。
『勇者ノボル……楽しく読ませて頂きました。ですがこれ。実話ですよね? 私、勇者ノボルの情報を持ってます。できればお会いしてお話したいのですが、いかがでしょうか?
リンクル』
「えっ、これって……」
「そうだよ! あの投稿に反応があったんだ! このリンクルさんが何者なのかまだ分からないけど……」
興奮気味に話すりんたろーの顔を、カスミとセシルがまじまじと眺めていた。
一応、ワードを組み合わせるとこの投稿が検索エンジンに引っかかるくらいにはなっているが、「ノボル」だけだと全然だめなので、勇者さんのエゴサに引っかかる可能性も未知数だ。
こちらから積極的にアクションできないのが、この作戦の最大の欠点だな。
そう考えながら、りんたろーは、自分の部屋でパソコンとにらめっこしていた。
姫様も、ただ家でじっとしているのも退屈なのか、ブレタムさんと同じところでバイトを始めた。秋葉原のコスプレカフェらしいので、まあ、あの人たちにはピッタリだとは思うが、さすがカス姉は顔が広いや‥‥‥一度行ってみたいが、お小遣いが‥‥‥僕もなんかバイトしようかなー‥‥‥などど考えていたら、カスミからRINEが入った。
手が空いたら直電くれとの事なので、さっそくかけてみる。
「あー、りんたろー。あのね。勇者探しもちょっと行き詰った感があるし、かといってうじうじしてても仕方ないし……姫様たちも収入が入ってきて余裕出てきたし‥‥‥
夏休み、気分転換しに、みんなで房総行かない?」
「はい? それって海水浴ってこと?」
「うーんとね。正確にいうと、勝浦で海の家のバイト。サークルの先輩にヘルプを頼まれちゃってさ。私は夏コミあるんで無理ですーって言ったんだけど、七月中だけでいいって言うし、姫様たちにも、たまには息抜きさせてあげたいじゃない? 一週間くらいだからあんたもいっしょにバイトしなよ!」
「息抜きって……結局働くんでしょ? でも、いいかも。僕もこの夏休み、なんかバイトしようかと、ついさっき考えてたとこなんだ」
「きまりね。それじゃ、夏休み七月中は予定空けといて!」
そう言って通話が切れた。
へー、勝浦か‥‥‥姫様とブレタムさんも当然水着だよな……そう考えると、なんだかとっても楽しみになってきて、りんたろーはニヤけ顔が止まらなかった。
◇◇◇
「はいっ? 四人で、この部屋で寝泊まりするの?」
夏休みに入ってすぐ。海の家でのバイトの為、りんたろーはカスミ、セシル、ブレタムとともに、勝浦の海辺の民宿を訪れた。
「あー、めんご、りんたろー。ほんとは女子四人募集だったんだけど、あんたは私の弟ってことで……無理やり了解もらったんだ……」
「えー! 何それ……カス姉はまあいいとして、姫様とブレタムさんは、僕と相部屋なんて嫌ですよね?」
「いいえ。私は別に気になりませんが……」セシルは別に何でもない事のように言う。
「私もだ、りんたろー殿。でもまあ、仮に君が姫様に変な事をしようとしたなら、即座に私が討ち取るので心配無用だ!」
「いや……討ち取られるような事はしませんけど……」
セシルに、ちゃんとした男として見られてないのかと思い、りんたろーはちょっと悔しい。しかし、いまさら一人で帰るわけにもいかないので、仕方なく? あきらめた。
「心配しなくても、お風呂はちゃんと男女に分かれているから……明日からバイトがんばろうね! ふふーん、りんたろーと並んで寝るの、結構久しぶりかも……」
カスミはなんだか上機嫌だった。
結局、その晩は、カスミがりんたろーの隣になり、その向こう側にブレタム、セシルと並んで、川の字で寝た。
(そりゃ、姫様の隣になんか寝せてもらえないよなー)
とは思ったが、隣で寝ているカスミも、着ている浴衣の前が大きくはだけていて、なんか直視できない……りんたろーは、悶々としてあまり寝られず、かなり寝不足で翌日からのバイトに取り掛かる事となった。
◇◇◇
「はーい、りんたろー。焼きそば二つ! カドのテーブルね! あ、ブレたん、そこのテーブルの上片付けて、拭いといて……」カスミが、厨房側で調理をしながら、フロアにテキパキと指示を出している。セシルは奥で洗い物専任だ。
まだ、夏休みは始まったばかりだが、天気がいいこともあって、海の家は、早くからお客さんが詰めかけていた。もちろんカスミ達四人以外にもバイトはいるのだが、みんなカスミの指揮で動いていて、いい感じで店が回っているように感じられ、忙しくはあるが、それほどテンパった感じではなかった。
午後三時を回ったあたりから、客足もまばらになってきたので、バイトは交替で休憩に入っていいよという事になった。
「そんじゃー、りんたろーと姫様。先に一時間休憩ね。泳いできていいよ……あー、りんたろー。姫様、その肌で日焼けすると大変だと思うから、気を付けてねー」
海の家の更衣室を借り、りんたろーは水着に着替えた。外で待っているとセシルも着替えて出てきた……えっ、何これ! めっちゃ可愛いワンピースの水着なんですけど……。
りんたろーがポカンと口を開いてガン見していたら、セシルが恥ずかしそうに言った。
「あ、あの、りんたろーさん。そんなに見つめられたら恥ずかしいです……変ですか、これ? 先日、カスミさんに連れられて、ブレタムと一緒に買って来たんですが……」
「あー、いえ。どこも変じゃないです。すっごく素敵です!」
「ああ、よかった。それじゃ……これ。背中に塗ってもらっていいですか? カスミさんから、絶対全身に塗らないとあとでひどいことになるって、脅されていまして……」
そう言いながら、セシルは日焼け止めオイルをりんたろーに差し出した。
「ふえー、こここ、これを僕が……あの……塗ってよろしいんで?」
「はい、お願いします!」
正直、どのように姫様の背中にオイルを塗ったのか、りんたろーは後からまったく思い出せなかった。よほどのぼせあがっていたのだろう。
その後、セシルが泳げないと言っていたので、二人で波打ち際で、水の掛け合いをしたことだけが、強く記憶に残っていた。
海の家を締め、民宿に帰ってきたときは七時を回っていた。夕食後、お風呂も済ませ、みんなで部屋でダラダラしていたら、カスミがセシルに話しかけた。
「うわー、姫様。今日一日ですごく日焼けしてない? お風呂で痛かったでしょ?」
「あー、はい……顔とか腕とか……自分で塗ったところは、ちゃんと塗れてなかったかも……りんたろーさんに塗っていただいた背中は何ともないみたいなんですが……」
「なにー! りんたろーに塗らせたの? 変なところ触られなかった?」
「カス姉! いくら僕でもそんなことしないよ!」りんたろーがあわてて否定する。
「大丈夫です。りんたろーさんは背中だけ優しく塗って下さいました。ちょっと手が震えていて、くすぐったかったですが……」
「ああーん。ロクでもない……りんたろー、明日は私と休憩だかんね!」
カスミが、りんたろーの頭をつかんで、わしわし振りながらそう言った。
そんなこんなで海の家のバイトは順調に日数を重ねていった。当初、同室の女子たちが気になって寝つけなかったりんたろーであったが、昼間のバイトと休憩が結構ハードで、夜は布団に入ると即落ちするようになっていた。
そして明日がバイト最後の日となり、夕方の休憩時間になったが、レジ金が合わないとかで、カスミが離れられないため、初日以来、二度目の、りんたろーとセシルでの休憩となった。
オイル塗りはもう慣れたとのことで、今日は背中に塗らせてくれなかったが、セシルがカスミに少し泳ぎを教えてもらったので、ちょっと沖合にある岩場に行こうと言った。
沖合といっても、歩いて行ける程度の深さのところなのだが、彼女にとってはそれでも結構な冒険なのだろう。りんたろーは、小学校の時、スイミングスクールに通っていた事もあり、泳ぎには苦労しない。
顔を水の上にあげたまま平泳ぎをするセシルの手を引きながら、りんたろーはゆっくり歩いて、岩場に向かう。ほどなく岩場にたどり着いて、りんたろーが先に上がり、セシルの腕を引っ張った瞬間、セシルがバランスを崩し、りんたろーに重なる様にして、二人は岩場の上に倒れた。
幸いにして、りんたろーが下になったため、姫様は無傷だったが、大きくはないが柔らかい姫様の胸がポヨンとりんたろーに押し付けられ、リンタローは慌てて飛び起きた。
「痛てっ!」見るとりんたろーの右の親指が切れて出血している。
「ああっ、りんたろーさん。大丈夫ですか? かなり血が……」
「大丈夫ですよ、姫様。ここのフジツボで切っちゃっただけですから……」
「だめです! 膿んだりしたら大変です。こちらに指を出して下さい」そういいながらセシルは、何か詠唱を始めた。
「ヒール!」傷の痛みがちょっと引いたが、出血はまだ止まらない。
「ああん。やっぱり威力が足りないや……」
「ありがとう姫様。大分痛くはなくなりましたよ。塩水だと血は止まりにくいんですよ」
「でも……それじゃ、えい!」
そういいながら、セシルはりんたろーの親指をかぷっと口に含み、傷口をちゅーちゅーと吸い始めた。
「ああ、姫様! そこまでしなくても……」
りんたろーの制止も聞かず、セシルは指先を舐め続けた。
ちゅぱっ、くちゅっ。
(あ、あ、これって、指〇ェラ?)
りんたろーの下半身が固くなるが、セシルに悟られないよう身をよじった。
「ふう。どうやら血は止まったようですね。私がそそっかしくてすいませんでした。それじゃ、仕事に戻りましょうか」そう言いながら、二人は海の中を歩いて浜に向かった。
(うおー、僕、この親指一生洗わないぞ! って、このままじゃ更衣室でシャワーか……
ええい!)りんたろーは思い切り自分の親指を口に含んだ。
その夜は、バイト最後の晩という事で、浜に出て四人で花火大会をした。
昼間のケガの事もあり、セシルがやたらにりんたろーのそばにいて心配している。
カスミがブレタムに話掛けた。
「ねえ。なんかあの二人。距離近くない?」
「そうですか? なんでも昼間、りんたろーさんがケガされたらしくて……お優しい姫様は、その傷を心配されているのでしょう」
ああ、ブレたんに聞いた私がアホだった……にしても、もう少しりんたろーと一緒に過ごせると思ったんだけどなー。ちょっと仕事に気合入れ過ぎたかしら?
そう思いながら、カスミは内心ちょっと心穏やかではなかった。
翌日は、夕方までバイトしそのまま家に帰る事になっていて、海の家を夕方五時であがり、上りの特急電車に乗り込んだ。
もうみんなかなりお疲れで、電車が走り出して間もなく、セシルもブレタムもカスミも寝息を立てていた。りんたろーは、窓の外を眺めながら、一人考え事をしている。
(どうしよ。僕、姫様が気になって仕方ないや……これって、まさか……でも、姫様は勇者さんと……)
やるせない気持ちで、ふうっとため息をついたら、スマホがメールの着信を告げた。
こんな時分に誰だろ……そう思いながらスマホを開いた。
「え? ええー!」りんたろーが大声を上げ、その声に驚いてカスミとセシルが目を覚ました。周りの乗客もビックリしたようで、りんたろーは、周囲に詫びたが、ブレタムはまだ大いびきだった。
「どした? りんたろー」カスミが眠そうな眼で言う。
「いや、カス姉……これ。投稿サイトの運営経由なんだけど……」
そういいながらりんたろーがスマホに着ているメールをカスミに見せた。
『勇者ノボル……楽しく読ませて頂きました。ですがこれ。実話ですよね? 私、勇者ノボルの情報を持ってます。できればお会いしてお話したいのですが、いかがでしょうか?
リンクル』
「えっ、これって……」
「そうだよ! あの投稿に反応があったんだ! このリンクルさんが何者なのかまだ分からないけど……」
興奮気味に話すりんたろーの顔を、カスミとセシルがまじまじと眺めていた。
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