勇者様、姫が処女を捧げに参りました!

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第9話 最初の手掛かり

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「バカハル―……もう嫌にゃ……また客室の床が、生臭い白いベタベタだらけにゃ!」
「あー、頑張って掃除して下さいねー。ごはんの為です。それから、シーツもちゃんと交換して、まとめて洗って下さいねー。うち、外のランドリー業者使う余裕ないんで……」

 連れ込み旅館の経営をマホミンとはじめてひと月たった。当初はこの一ヵ月でなんとかこちらでの活動にメドを付ける予定であったが、セシル姫に関する情報は全くなく、ここの試用期間が終わったらどうしようと内心悩んでいたのだが、やってみると旅館の経営もなかなか面白く、自分が結構熱中してしまっていることにマサハル自身が驚いていた。
 女将からも、これならもう少し任せてもいいだろうと言われ、当面の生活の心配はなくなったものの経営は結構ギリギリで、マホミンの過重労働によって結構なんとかなっているところもあるのは間違いない。

 マサハルも、三十年余のギャップを埋めるべく、このひと月、世の中の事を色々学んだ。
 どうやら今はスマホというもので、なんでも調べられるらしい。俺の若い時は、携帯電話すらあんまりなくて、ほとんどポケベルだったよなーなどど思ってはみるが、今の若者は、そのスマホの生活が主流で、テレビさえあまり観なくなっているらしい。

 それではと一念発起して、試用が終わった際に貰った最初の給料で、マホミンと二人でスマホを買いに行った。ショップの店員が何を言っているのかさっぱりわからなかったが最低限の機能で価格の安いものということで二人分購入したものの、使い方がさっぱりわからない。かといってお金を払って学校とかに習いに行く余裕もないしなー。
 そうして、結局スマホは宝の持ち腐れに近い状態になった。

 そのまま梅雨に入り、学生たちが期末試験の準備を始めたころ、夜中にテレビを見ながらフロント番をしていたマホミンがいきなり大声を出した。

「ななな、なんですか。いきなり大声を出して……お客さんが驚くでしょ!」
 帳場で帳面を付けていたマサハルが慌ててフロントに飛び出すと、マホミンがテレビを指さして言った。
「ゆゆゆゆゆゆゆ、勇者が映ってるにゃ……」
「えっ?」
 見ると、芸能バラエティ番組のようだが、マサハルは勇者に会ったことがないため、どれがそうなのか全く見当がつかない。

「マホミンさん。どれ? 一体どれが勇者なの!」
「もう映ってないにゃ……さっき、ちょっと出たにゃ。あたいは、召喚した時一番そばで見ていたから絶対間違わないにゃ……多分……」
「もう、絶対なのか、多分なのか……ですが、こんなバラエティに勇者さんが出てる? 
 まあ、可能性として無くはないでしょうが、他人のそら似の可能性だって……」
「あっ、また映ったにゃ! こいつこいつ……間違いないにゃ!」
「えっ、どれどれ?」
 そうしたら、脇から声がした。

「あのー、一泊したいんですけどー」
 しまった、お客さんだ! 
 マサハルはその対応に入ったため、結局その日、勇者の姿は確認できないままだった。
 マホミンが指さしたのが、はたして芸能人なのか、観客なのか、映り込んだスタッフなのか……それさえ分からない状況ではあるが、ここで捨て去るには惜しい情報なのは間違いない。勇者を張っていれば、いずれ必ずセシル姫が接触してくるはずだ。
 やはり、情報の検索スキルは必須ですか……そうしてマサハルはスマホの操作講習を受講する覚悟を決めた。

 マサハルの旅館は、十七時以降チェックインの十時チェックアウトのため、連泊の客がいなければ、日中に自分の時間が作れなくはない。そうした隙を見つけて、マホミンと、駅前のスマホショップがやっている無料講習に参加した。なんだ、タダのもあったんだ。
 ……そうならそうと最初に言ってくれればいいのに……とは思った。

 だが所詮、無料講習。一応、用語の理解とかキー操作の練習はそれなりに出来たが、使いこなすまでにはまったく至らない。やはり有料のスクールか……とも思いながらスマホショップを出たとき、声をかけられた。いや、正確にはマサハルではなく、マホミンが声をかけられた。

「あのー。お姉さんの猫耳、すっごく柔らかそうで、可愛くて……。
 普段からそのコスしてるんですか?」
「ふにゃ? コスって何にゃ?」
「あっ。失礼しました。私、小岩高校二年、美術部の浜松真理と言います。私もコスプレに興味あるんですが、なかなか人前でその恰好をするのは……なのに、お姉さんは堂々とされていて、うらやましいなーって……」
「別に、堂々とはしてないにゃ。これが地だし……」
「ああっ、本当になりきられているんですね……あの、お名前を是非! お友達になってほしいです! できればメアドも……」
「なんにゃこの子。ぐいぐい来るにゃ……」
「あの、ちょっと、お嬢さん。すいません。私、こいつの保護者みたいな者ですが……私が言うのもなんですが、こいつ怪しくないんですか?」マサハルが真理に話かける。
「えー、何がですか? とっても素敵な猫耳だと思いますよー」

 そうなんだ……ずっと変だとは思っていたんだ。誰もこいつの猫耳に突っ込んでこないの。どうやら、こうした獣人はすでに珍しくないのか? 
 だが待てよ。これは現役の女子高生と仲良しになるチャンスじゃないか? マサハルは瞬時に計算した。

「あの……浜松さんでしたっけ? メアドとおっしゃいましたけど、それって、このスマホの連絡先のことですよね? 私らこのスマホに全くの初心者でして、それで今も無料講習を受けていたんですが、どうにもチンプンカンプンで……よろしかったら、その辺教えていただけませんか? 
 あ、もちろんマホミンとはお友達になっていただくという事で……」
「ええ、スマホなら任せて下さい。お姉さん、マホミンさんとおっしゃるんですね。
 宜しくお願いします!」

 その後、三人で喫茶店に行き、お互いのメアドを交換し、SNSのアカウントも真理に作ってもらった。

「それじゃ、いろいろありがとう。そしてこれからも宜しくお願い致します。私達は線路わきの、寿屋という旅館で働いています。何かあれば訪ねて来ていただいてももちろんいいのですが……あの……」マサハルが言いずらそうにする。
「ああー、あの連れ込み旅館! はは、お客でお世話になることは当面ないかな……でも
ちょっと興味あったりして……まあ、スマホの相談なんかはメール下さい。RINEでもいいです。それで、今度は私も衣装作ってみますので、マホミンさんも一緒に、コミケとかにも参加しまょうね」
「コミケ? まあいいにゃ。真理にはいろいろ世話ににゃったし、あたいで出来る事なら付き合うにゃ」

 こうしてマサハルは、JKという強力な助っ人を手にいれた。
 真理ちゃんともう少し仲良くなれば、勇者やセシル姫のことを調べるのも手伝ってもらえるかもしれないな。

 そう考えると、マサハルは腹の底から笑いがこみあげてくるのを抑えられなかった。
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