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序章 迷宮脱出編
探索一日目: 居残り組
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♦︎
「…なぁ、やっぱ下行ってから、試した方が良くないか?」
「ぜったい、いや。二度と戻りたくないから」
居残り組は、小高から他にもいくつか簡単な魔術を聞き出し、魔法を発動する感触を掴もうとしていた。
スキル習得は、やろうと思ってすぐにどうにかなるものではなさそうだった。
一部の者はスキルを扱ってみせていたが、それでも才能の一端でしかない上にスキルとしても発展途上なのか、使い勝手もまだ悪そうで使いこなしているとは言い難い。
昨日は混乱していたどさくさ紛れに数人が偶然得たスキルだったので、改めて意識して向き合ってみると、漠然としか理解できない才能というものの扱いの難しさに皆早くも辟易としていた。
センスがありそうで必要な道具が揃っていても、ある日突然絵が上手く描けるはずもない。実践で経験を積み重ねて、試行錯誤していかなくてはならないだろう。
そんな中、知識が体系化されていて効果が確立された魔術というものは、とても手をつけやすかった。
知識は小高頼りになるものの、単純な繰り返し作業として魔術を利用してみることは〈魔力感知〉や〈魔力操作〉の鍛錬に繋がる。そうすればいずれイメージをするだけで、自由自在に魔法を使いこなせそうな感覚を誰もが得ていた。
小高の話によると、魔法はイメージ力が最も重要なので、既成概念にとらわれそうな既存の魔術はあまり勧めたくなさそうだったが、今はそんなことを言っていられないので実用重視で皆取り組んでいる。
「あの人たち、チラチラこっち見てきてる気がするんだけど…なんか不審がれてない?」
「じゃあ見えないようにそこで衝立になっててよ」
多賀谷の目の前には、小さな光球が一つ浮いていた。小さくても光量はそれなりにあるようで、隅の方で隠れるように魔法の練習をしていたのが台無しになってしまっている。
騎士たちからの視線に耐えきれなくなった埴生が、場所を変えてここの真下にある洞窟で練習しようと提案するも、断固として拒否されていた。
練習で繰り返し使うものに、自分や誰かにかけるような魔術は、負担が大きくてあまり向いているとは言えなかった。そのため、危険ではないものの中から現象がわかりやすい呪文を数種試していたのだが、効果が目で見えてしまうので、全てを傍から隠し切るのは困難だった。
「あれもソッコーでバレてて既に変な目で見られてるのに…もう耐えられそうにない…」
「それはあんたのせいでしょ。そんなに気になるなら、さっさと謝ってきなさいよ」
あれとは昨日埴生が破壊した彫像のことで、朝食が済んだ頃には騎士たちが訝しげな目をそれに向けていた。特に何か指摘されたわけではないが、気まずい空気が流れた気がしたのか、それから埴生はずっとソワソワと落ち着きがない。
周囲も冷めた目をしているだけで、この件で埴生の味方になってくれる者はいそうになかった。
「まだ何も言われてないんだから、とりあえずそれは無視しておけよ。俺はスキルの確認もしときたいから、下に行くわ。埴生も来るか?」
「おう!行こうぜ!」
河内がそう誘うと、埴生はコロッと態度を変えて元気よく出入り口の方へ歩き出した。
「調子のいいやつ…」
多賀谷は呆れた目を向けたが、すぐに興味を失って、練習を再開した。
全属性の基礎的な魔術が成功したことで一段落すると、各々で集中しやすい形で散らばって、スキル確認に移った。攻撃系は危険なため、特に気にしない者から洞窟へと向かう。
「僕のウィザードって、魔法使いじゃなくて、アプリソフトの対話形式のやつじゃない…?」
やっと全てから解放された小高は、ぶつくさと何かぼやきながら仮眠を取り始めた。
有原は見張り中に魔術の確認は一通り終えていたようで、先に仮眠を取っていた。
今朝、体拭き用の布を綺麗にしてくれていたのは有原で、練習がてらに〈洗浄〉をかけていた結果だったようだ。
小高と入れ違いになるように有原が起き出すと、スキル確認をしている輪に入って行った。
他方、東はマッピング役として、自分も先行組に入るべきだったかを気にしていた。
だが、相馬は気にする必要はないと言う。既に今いる階層は昨日のうちに全てマッピングされていたし、午前中の短時間ではそれ以上先には進めないだろう。〈気配察知〉ができる武石や、先行してこの先を確認済みの沙奈もいることだし、任せておけば大丈夫なはずだ。
そう言われてしまえば、東はそれもそうかとそのことは一旦忘れて、改めてマップを眺めていた。使い勝手が悪いように感じていたので、改良できないかと考えていたのだ。
そこでふと違和感を覚える。
昨日見たときより、全体の建物の構造が少し違っているように見えた。何かが違う気がするが、簡易図ではどこも似たように見えてしまい、たとえ変化があったとしても、具体的にどの部分かまではこれでは気づきにくい。
マップ情報は一定間隔で更新されていて、古い情報と比較しようと思えば記憶力だけが頼りになる。一晩で建物の構造が変わるなどあり得ないが、なんとなく気にかかったので、この件も改良対象にして暗中模索していく。
集中していると、いつの間にかお昼になっていた。
昼食をもらって、そのまま皆で一息入れる。
そろそろ先行組が帰ってくるだろうと思っていたが、なかなか現れない。
日が傾くころには流石に心配になってきて、探しに行くかどうかの相談が周囲では始まっていた。
その頃には東はマップの改良に一部成功して、過去数日分の更新履歴をストックしておける機能をつけることができていた。
スキャンした昨日の分は遡ることができたので、気になっていた違和感を解消したくて、何か変化が起こっていないか、昨日と今日の情報を見比べた。
「…うそ…全然違ってる…」
「…なぁ、やっぱ下行ってから、試した方が良くないか?」
「ぜったい、いや。二度と戻りたくないから」
居残り組は、小高から他にもいくつか簡単な魔術を聞き出し、魔法を発動する感触を掴もうとしていた。
スキル習得は、やろうと思ってすぐにどうにかなるものではなさそうだった。
一部の者はスキルを扱ってみせていたが、それでも才能の一端でしかない上にスキルとしても発展途上なのか、使い勝手もまだ悪そうで使いこなしているとは言い難い。
昨日は混乱していたどさくさ紛れに数人が偶然得たスキルだったので、改めて意識して向き合ってみると、漠然としか理解できない才能というものの扱いの難しさに皆早くも辟易としていた。
センスがありそうで必要な道具が揃っていても、ある日突然絵が上手く描けるはずもない。実践で経験を積み重ねて、試行錯誤していかなくてはならないだろう。
そんな中、知識が体系化されていて効果が確立された魔術というものは、とても手をつけやすかった。
知識は小高頼りになるものの、単純な繰り返し作業として魔術を利用してみることは〈魔力感知〉や〈魔力操作〉の鍛錬に繋がる。そうすればいずれイメージをするだけで、自由自在に魔法を使いこなせそうな感覚を誰もが得ていた。
小高の話によると、魔法はイメージ力が最も重要なので、既成概念にとらわれそうな既存の魔術はあまり勧めたくなさそうだったが、今はそんなことを言っていられないので実用重視で皆取り組んでいる。
「あの人たち、チラチラこっち見てきてる気がするんだけど…なんか不審がれてない?」
「じゃあ見えないようにそこで衝立になっててよ」
多賀谷の目の前には、小さな光球が一つ浮いていた。小さくても光量はそれなりにあるようで、隅の方で隠れるように魔法の練習をしていたのが台無しになってしまっている。
騎士たちからの視線に耐えきれなくなった埴生が、場所を変えてここの真下にある洞窟で練習しようと提案するも、断固として拒否されていた。
練習で繰り返し使うものに、自分や誰かにかけるような魔術は、負担が大きくてあまり向いているとは言えなかった。そのため、危険ではないものの中から現象がわかりやすい呪文を数種試していたのだが、効果が目で見えてしまうので、全てを傍から隠し切るのは困難だった。
「あれもソッコーでバレてて既に変な目で見られてるのに…もう耐えられそうにない…」
「それはあんたのせいでしょ。そんなに気になるなら、さっさと謝ってきなさいよ」
あれとは昨日埴生が破壊した彫像のことで、朝食が済んだ頃には騎士たちが訝しげな目をそれに向けていた。特に何か指摘されたわけではないが、気まずい空気が流れた気がしたのか、それから埴生はずっとソワソワと落ち着きがない。
周囲も冷めた目をしているだけで、この件で埴生の味方になってくれる者はいそうになかった。
「まだ何も言われてないんだから、とりあえずそれは無視しておけよ。俺はスキルの確認もしときたいから、下に行くわ。埴生も来るか?」
「おう!行こうぜ!」
河内がそう誘うと、埴生はコロッと態度を変えて元気よく出入り口の方へ歩き出した。
「調子のいいやつ…」
多賀谷は呆れた目を向けたが、すぐに興味を失って、練習を再開した。
全属性の基礎的な魔術が成功したことで一段落すると、各々で集中しやすい形で散らばって、スキル確認に移った。攻撃系は危険なため、特に気にしない者から洞窟へと向かう。
「僕のウィザードって、魔法使いじゃなくて、アプリソフトの対話形式のやつじゃない…?」
やっと全てから解放された小高は、ぶつくさと何かぼやきながら仮眠を取り始めた。
有原は見張り中に魔術の確認は一通り終えていたようで、先に仮眠を取っていた。
今朝、体拭き用の布を綺麗にしてくれていたのは有原で、練習がてらに〈洗浄〉をかけていた結果だったようだ。
小高と入れ違いになるように有原が起き出すと、スキル確認をしている輪に入って行った。
他方、東はマッピング役として、自分も先行組に入るべきだったかを気にしていた。
だが、相馬は気にする必要はないと言う。既に今いる階層は昨日のうちに全てマッピングされていたし、午前中の短時間ではそれ以上先には進めないだろう。〈気配察知〉ができる武石や、先行してこの先を確認済みの沙奈もいることだし、任せておけば大丈夫なはずだ。
そう言われてしまえば、東はそれもそうかとそのことは一旦忘れて、改めてマップを眺めていた。使い勝手が悪いように感じていたので、改良できないかと考えていたのだ。
そこでふと違和感を覚える。
昨日見たときより、全体の建物の構造が少し違っているように見えた。何かが違う気がするが、簡易図ではどこも似たように見えてしまい、たとえ変化があったとしても、具体的にどの部分かまではこれでは気づきにくい。
マップ情報は一定間隔で更新されていて、古い情報と比較しようと思えば記憶力だけが頼りになる。一晩で建物の構造が変わるなどあり得ないが、なんとなく気にかかったので、この件も改良対象にして暗中模索していく。
集中していると、いつの間にかお昼になっていた。
昼食をもらって、そのまま皆で一息入れる。
そろそろ先行組が帰ってくるだろうと思っていたが、なかなか現れない。
日が傾くころには流石に心配になってきて、探しに行くかどうかの相談が周囲では始まっていた。
その頃には東はマップの改良に一部成功して、過去数日分の更新履歴をストックしておける機能をつけることができていた。
スキャンした昨日の分は遡ることができたので、気になっていた違和感を解消したくて、何か変化が起こっていないか、昨日と今日の情報を見比べた。
「…うそ…全然違ってる…」
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