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序章 迷宮脱出編
火を囲んで団欒?
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「…そういえば、ここって神殿って言ってたけど、人工物なことに変わりはないよね。さっき、どこかから棺も出してきてたし、他にも何かないのかな?」
国分がポツリとそう言って、キョロキョロと辺りを見回す。
「…あ。」
騎士たちの姿が視界に入ると、フォルガーと目が合った。既にこちらを見ていたのか、目が合うと気まずそうな顔で近づいてきた。
「…よければ、なんだが。これから少し食事を取ろうと話をしていたのだが、君たちも一緒にどうだろうか。粗末なものしか用意はできないが」
例えどのような物であっても、今の状況でそれは正に濡れ手に粟だった。
皆がそれに頷くのを確認すると、国分が立ち上がってそのまま返答した。
「ありがとうございます。私たちもたった今その話をしていて。ただ、皆身一つなものですから、どうしようかと困っていたところでした。なのでお誘いはとても有難いです。そちらがよろしければ、ぜひご相伴に与らせてください」
国分は丁寧にお辞儀をしてそう快諾すると、フォルガーはホッとしたように緊張した顔を綻ばせた。
「もちろんだ。さぁ、皆こちらへ来てくれ。できる限りもてなしたい」
フォルガーは自分たちがいた方へ招き寄せるように、少し横にずれて先を促した。皆それに従ってぞろぞろとその場から移動を始めた。
♦︎
そこでは、ちょっとしたキャンプ場のようになっていた。
どこから出してきたのか、既に簡易的な石かまどが組まれていて、その上には大きな鉄製の鍋が置かれている。その周囲は薄い敷物が広げられていて、王子と王女はそこにちょこんと座り込んでいた。その前では騎士たち二人がせっせと食事の準備を進めている。
皮袋の水筒からジャバジャバと鍋に水を注いでいるが、明らかに水筒の容量を超えて水が出てきていた。〈鑑定〉では、その水筒は魔道具と呼ばれるもの—便利機能が魔法付与された道具—であるようだった。
薪や小枝をかまどにセットすると、棒状のような道具を小枝に翳して着火した。息の吹きかけや手うちわで徐々に火種から煙が立ち上り、火が大きくなって、焚き火のように安定した。
その手際の良さに感心していた一同だったが、ハッとして相馬が声をかけた。
「あの…何かお手伝いできることはありますか」
「いや、それには及ばない。空いている敷物に座って寛いでいてくれ」
タダ飯食らいになるのに、何もせず待つだけというのはさすがに気が引ける気持ちになる面々だったが、目の前で広がる隙のない動きを見ていると却って邪魔になるかもしれないとも感じた。
結局、手持ち無沙汰のまま、作業をただ眺めて静かに待つことしかできなかった。
その間に、タオルサイズの布を人数分譲ってもらう。
布は体拭きに使って良いそうで、別の鍋で沸かして少し冷ましていたお湯に浸し、肌に付着した目立つ汚れを丁寧に落としていく。
それどころではなく気にしていなかったが、それだけでもかなりサッパリとした。
ぐつぐつと煮立ってきたお湯の中に刻んだ薄い干し肉をパラパラと放り込んでしばらくすると、乾燥させた野菜類をいくつか足し入れて、お玉のような物で少しずつかき混ぜていく。充分に煮込んだあと、鍋をかまどから外して一旦脇に置いた。
次に大きめの黒パンを薄くスライスして次々と軽く炙っていき、できた順からそれを二枚ずつ手渡していく。これまたどこから取り出したのか、人数分の木製の器にスープをよそってスプーンと共に順に回していった。
「こんなものしか用意ができないが、遠慮せず食べてくれ。スープは少しならお代わりもある」
クラスメイトらは作法がわからずそれに戸惑っていると、騎士たちが先に手をつけて口に入れ始めた。王子と王女もそれに続いて口をつける。
黒パンは手掴みでスープにじっくりと浸して、少しずつ噛みちぎりながらゆっくり咀嚼している。
それに倣ってクラスメイト一同も次々と口をつけ始めた。
味付けは干し肉の塩分のみだが、溶け込んだ肉と野菜の旨味が良い塩梅に混ざり合っていて、優しい味わいだ。硬い肉も噛み切れるほどには柔らかくなっていて、食べやすくなっている。
黒パンはそのままだと硬くてパサパサしている上に酸味も強くて食べ辛かったが、スープに浸すことで口当りが良くなった。中は意外と柔らかい。
素朴な食事ではあるが、空きっ腹にはとても美味しく感じられた。何より、温かいスープは体も気持ちもほっこりとさせてくれた。
食事が終わるころには、この場の唯一の光量だった陽はすっかり落ちて、月明かりだけとなってしまっていた。
辺りは暗闇に包まれたが、かまどを少し組み替えて焚き火のようにしたことで、人が集っている場所の周囲は程々に明るい。その上にはポットを吊るしてお湯を沸かし、木製のコップを人数分並べると紅茶まで用意してくれた。
お腹も満たされ、温かいお茶を飲みながら薪の爆ぜるパチパチとした音と共に燃える炎の揺らめきを見つめていると、段々と気持ちも落ち着いて安らぎまで感じ始めてきていた。
空気が弛緩してきた頃合いを見計らって、フォルガーが話しかけてきた。
「不躾なことを聞くようだが、君たちはこれまでどの辺りに住んでいたのだろうか。身なりや言動からして、とても平民には見えない。それに生徒と言っていたが、我が国だと身分がそれなりに高いか裕福な者しか教育は受けられないんだ。全ての国々を知っているわけではないから事情はそれぞれ違うのかもしれないが、もしかして、やんごとなき出自であったりはしないだろうか」
他の騎士二人は王子と王女の世話を焼いている。その顔はうとうとしており、もうすぐ寝落ちしてしまいそうだ。いくら傷心していても、子どもの体力ではそろそろ限界なのだろう。
(やっぱり、異世界から召喚されたことまでは知らないのかな。どうする?正直に話すことで何かデメリットとかありそう?)
(んー…今はまだよくわかんないな。知らないなら、余計なことは言わずに、とりあえずこれも秘密にしとく?)
(この変な能力に目を付けられても困るよ。戦争に利用されたりとか、絶対やだ)
(僕ら見て身分高そうとか、ここの文明レベルはたかが知れてそう。野蛮なことに関わりたくない)
(お前らどの口が…)
(はいはい。じゃあ適当に答えとくから、今後の設定合わせてね)
少し間ができてしまったが、代表して相馬が返答する。
詳しいことはぼかして、ボロが出ないよう嘘は含めないようにした。
「…いえ、本当にその辺にいるような、ただの一般人でしかないんです。この国がどこかもわからないくらいなので、多分、故郷はここからかなり遠方にあるのではないかと思っています。私たちの国はとても平和で、教育は誰でも受けられます。争い事とはずっと無縁な環境で育ってきました」
「そうなのか…。教育を受けていて我が国を知らないとなると、よほど遠いのだろうな。海を渡ったずっと先には他の大陸もあると聞くが…。もしそのようなところであるならば、我らの力だけで帰してやることは難しいかもしれないな」
力無くそう言うフォルガーだったが、この国が焦土となっている状況でそのようなことを考えてくれていたことに驚きを隠せない。
他の騎士たちはまだよくわからないが、フォルガーの善人性を垣間見るたびに、モヤモヤとした感情の行き場がなくなり、複雑な気持ちになってくる。
「お気遣いありがとうございます。いずれ必ず故郷に帰るつもりですが、ここがどこか分からない以上、それまでの今後のことはまだ決めかねているんです。地上も危ないようですし…。フォルガーさんたちはしばらくここに籠城されるということですが、どこかのタイミングでまた移動されますよね?脱出経路など、あるのでしょうか」
口が緩みそうな今がチャンスとばかりに情報収集を始める相馬に、舌を巻くクラスメイト一同。黙して流れを見守る。
「あぁ、我々がやってきたところとは別の出入り口もあるとは聞いている。体力が充分回復したら、早ければ明日にでもこの地下の他の場所を探索しようかと思っている。残念ながら、残った今のメンバーはこの遺跡の地図までは持っていなくてね。この神殿は偶然見つけたものだった。何か大きな音がしたので偵察として私が様子を見に行けば、君たちがいたというわけだ。一応、ここの三階層が最下層だということは把握しているつもりだ」
「なるほど…。でも、まだもう一つ下層があるみたいですよ。実は私たちは正確にはこの広間ではなく、この真下にある洞窟のような場所に閉じ込められていたんです。あちらの、出入り口の方から階段を上って入ってきました」
フォルガーは目を見張って、相馬が指差した方の出入り口あたりを見遣った。今は暗くてその外観は見えていないはずだ。隅の方に目立たないようにあった小さな穴だったので、今まで気づかなかったのだろう。
このまま黙っていても、隠しきれない穴は遅かれ早かれその存在に気付くだろうと考え、変に勘繰られないよう自ら打ち明けた。
「そうだったのか…。明日確認してくるとしよう。だが閉じ込められていたとは一体…よく無事に出て来れたものだ」
「そこは少し色々ありまして…。一部が崩落したのをきっかけになんとか抜け出すことができました。下はほとんど何もない空洞で、出入り口が一つしかなかったものですから、自然とここに辿り着けたんです」
相馬は、脱出できた経緯をかなりぼやかした。
野蛮人のごとき所業のことは不本意極まりないので説明したくなかったのもあるが、自分たちの特殊そうな能力はギリギリまで勘付かれたくなかった。何より、おそらく今も沙奈が隠し持っているだろう鍵束は、安全に脱出できる目処が付くまで、まだ渡すわけにはいかない。
あの牢の中は相当めちゃくちゃになっていたので、確認しに行ったところで鍵のことまでは気付かれないだろう。
(あ、美濃さん。そういえば、あそこにあった錠は回収済み?鍵の方はまだ持ってるよね?)
(うん、どっちも持ってるよ)
(ありがとー、助かる)
「私が聞いたのはその音だったのかもしれないな。何はともあれ無事で良かったよ。探索に関しては、君たちはどうする?もし同じようなことを考えているなら、共に行動してもらえた方が心強いのだが」
(セーーフ。バレてないバレてない)
(いやあれどう見ても出入り口の穴なんかよりも目立ってるし、明るい時に冷静に見れば絶対バレると思うよ)
(そんなこと言うなよぉ)
(もう、うるさい。オッケーって返事するね)
「おかげ様で落ち着くことができましたし、明日改めて皆と相談したいと思いますが、ご一緒させてもらえるのは私たちの方こそ助かります。その時はよろしくお願いします」
「あぁ。安全を確保して脱出する今の目的はお互い同じだと思う。せめてそれまでは協力し合えるとこちらも助かるよ」
国分がポツリとそう言って、キョロキョロと辺りを見回す。
「…あ。」
騎士たちの姿が視界に入ると、フォルガーと目が合った。既にこちらを見ていたのか、目が合うと気まずそうな顔で近づいてきた。
「…よければ、なんだが。これから少し食事を取ろうと話をしていたのだが、君たちも一緒にどうだろうか。粗末なものしか用意はできないが」
例えどのような物であっても、今の状況でそれは正に濡れ手に粟だった。
皆がそれに頷くのを確認すると、国分が立ち上がってそのまま返答した。
「ありがとうございます。私たちもたった今その話をしていて。ただ、皆身一つなものですから、どうしようかと困っていたところでした。なのでお誘いはとても有難いです。そちらがよろしければ、ぜひご相伴に与らせてください」
国分は丁寧にお辞儀をしてそう快諾すると、フォルガーはホッとしたように緊張した顔を綻ばせた。
「もちろんだ。さぁ、皆こちらへ来てくれ。できる限りもてなしたい」
フォルガーは自分たちがいた方へ招き寄せるように、少し横にずれて先を促した。皆それに従ってぞろぞろとその場から移動を始めた。
♦︎
そこでは、ちょっとしたキャンプ場のようになっていた。
どこから出してきたのか、既に簡易的な石かまどが組まれていて、その上には大きな鉄製の鍋が置かれている。その周囲は薄い敷物が広げられていて、王子と王女はそこにちょこんと座り込んでいた。その前では騎士たち二人がせっせと食事の準備を進めている。
皮袋の水筒からジャバジャバと鍋に水を注いでいるが、明らかに水筒の容量を超えて水が出てきていた。〈鑑定〉では、その水筒は魔道具と呼ばれるもの—便利機能が魔法付与された道具—であるようだった。
薪や小枝をかまどにセットすると、棒状のような道具を小枝に翳して着火した。息の吹きかけや手うちわで徐々に火種から煙が立ち上り、火が大きくなって、焚き火のように安定した。
その手際の良さに感心していた一同だったが、ハッとして相馬が声をかけた。
「あの…何かお手伝いできることはありますか」
「いや、それには及ばない。空いている敷物に座って寛いでいてくれ」
タダ飯食らいになるのに、何もせず待つだけというのはさすがに気が引ける気持ちになる面々だったが、目の前で広がる隙のない動きを見ていると却って邪魔になるかもしれないとも感じた。
結局、手持ち無沙汰のまま、作業をただ眺めて静かに待つことしかできなかった。
その間に、タオルサイズの布を人数分譲ってもらう。
布は体拭きに使って良いそうで、別の鍋で沸かして少し冷ましていたお湯に浸し、肌に付着した目立つ汚れを丁寧に落としていく。
それどころではなく気にしていなかったが、それだけでもかなりサッパリとした。
ぐつぐつと煮立ってきたお湯の中に刻んだ薄い干し肉をパラパラと放り込んでしばらくすると、乾燥させた野菜類をいくつか足し入れて、お玉のような物で少しずつかき混ぜていく。充分に煮込んだあと、鍋をかまどから外して一旦脇に置いた。
次に大きめの黒パンを薄くスライスして次々と軽く炙っていき、できた順からそれを二枚ずつ手渡していく。これまたどこから取り出したのか、人数分の木製の器にスープをよそってスプーンと共に順に回していった。
「こんなものしか用意ができないが、遠慮せず食べてくれ。スープは少しならお代わりもある」
クラスメイトらは作法がわからずそれに戸惑っていると、騎士たちが先に手をつけて口に入れ始めた。王子と王女もそれに続いて口をつける。
黒パンは手掴みでスープにじっくりと浸して、少しずつ噛みちぎりながらゆっくり咀嚼している。
それに倣ってクラスメイト一同も次々と口をつけ始めた。
味付けは干し肉の塩分のみだが、溶け込んだ肉と野菜の旨味が良い塩梅に混ざり合っていて、優しい味わいだ。硬い肉も噛み切れるほどには柔らかくなっていて、食べやすくなっている。
黒パンはそのままだと硬くてパサパサしている上に酸味も強くて食べ辛かったが、スープに浸すことで口当りが良くなった。中は意外と柔らかい。
素朴な食事ではあるが、空きっ腹にはとても美味しく感じられた。何より、温かいスープは体も気持ちもほっこりとさせてくれた。
食事が終わるころには、この場の唯一の光量だった陽はすっかり落ちて、月明かりだけとなってしまっていた。
辺りは暗闇に包まれたが、かまどを少し組み替えて焚き火のようにしたことで、人が集っている場所の周囲は程々に明るい。その上にはポットを吊るしてお湯を沸かし、木製のコップを人数分並べると紅茶まで用意してくれた。
お腹も満たされ、温かいお茶を飲みながら薪の爆ぜるパチパチとした音と共に燃える炎の揺らめきを見つめていると、段々と気持ちも落ち着いて安らぎまで感じ始めてきていた。
空気が弛緩してきた頃合いを見計らって、フォルガーが話しかけてきた。
「不躾なことを聞くようだが、君たちはこれまでどの辺りに住んでいたのだろうか。身なりや言動からして、とても平民には見えない。それに生徒と言っていたが、我が国だと身分がそれなりに高いか裕福な者しか教育は受けられないんだ。全ての国々を知っているわけではないから事情はそれぞれ違うのかもしれないが、もしかして、やんごとなき出自であったりはしないだろうか」
他の騎士二人は王子と王女の世話を焼いている。その顔はうとうとしており、もうすぐ寝落ちしてしまいそうだ。いくら傷心していても、子どもの体力ではそろそろ限界なのだろう。
(やっぱり、異世界から召喚されたことまでは知らないのかな。どうする?正直に話すことで何かデメリットとかありそう?)
(んー…今はまだよくわかんないな。知らないなら、余計なことは言わずに、とりあえずこれも秘密にしとく?)
(この変な能力に目を付けられても困るよ。戦争に利用されたりとか、絶対やだ)
(僕ら見て身分高そうとか、ここの文明レベルはたかが知れてそう。野蛮なことに関わりたくない)
(お前らどの口が…)
(はいはい。じゃあ適当に答えとくから、今後の設定合わせてね)
少し間ができてしまったが、代表して相馬が返答する。
詳しいことはぼかして、ボロが出ないよう嘘は含めないようにした。
「…いえ、本当にその辺にいるような、ただの一般人でしかないんです。この国がどこかもわからないくらいなので、多分、故郷はここからかなり遠方にあるのではないかと思っています。私たちの国はとても平和で、教育は誰でも受けられます。争い事とはずっと無縁な環境で育ってきました」
「そうなのか…。教育を受けていて我が国を知らないとなると、よほど遠いのだろうな。海を渡ったずっと先には他の大陸もあると聞くが…。もしそのようなところであるならば、我らの力だけで帰してやることは難しいかもしれないな」
力無くそう言うフォルガーだったが、この国が焦土となっている状況でそのようなことを考えてくれていたことに驚きを隠せない。
他の騎士たちはまだよくわからないが、フォルガーの善人性を垣間見るたびに、モヤモヤとした感情の行き場がなくなり、複雑な気持ちになってくる。
「お気遣いありがとうございます。いずれ必ず故郷に帰るつもりですが、ここがどこか分からない以上、それまでの今後のことはまだ決めかねているんです。地上も危ないようですし…。フォルガーさんたちはしばらくここに籠城されるということですが、どこかのタイミングでまた移動されますよね?脱出経路など、あるのでしょうか」
口が緩みそうな今がチャンスとばかりに情報収集を始める相馬に、舌を巻くクラスメイト一同。黙して流れを見守る。
「あぁ、我々がやってきたところとは別の出入り口もあるとは聞いている。体力が充分回復したら、早ければ明日にでもこの地下の他の場所を探索しようかと思っている。残念ながら、残った今のメンバーはこの遺跡の地図までは持っていなくてね。この神殿は偶然見つけたものだった。何か大きな音がしたので偵察として私が様子を見に行けば、君たちがいたというわけだ。一応、ここの三階層が最下層だということは把握しているつもりだ」
「なるほど…。でも、まだもう一つ下層があるみたいですよ。実は私たちは正確にはこの広間ではなく、この真下にある洞窟のような場所に閉じ込められていたんです。あちらの、出入り口の方から階段を上って入ってきました」
フォルガーは目を見張って、相馬が指差した方の出入り口あたりを見遣った。今は暗くてその外観は見えていないはずだ。隅の方に目立たないようにあった小さな穴だったので、今まで気づかなかったのだろう。
このまま黙っていても、隠しきれない穴は遅かれ早かれその存在に気付くだろうと考え、変に勘繰られないよう自ら打ち明けた。
「そうだったのか…。明日確認してくるとしよう。だが閉じ込められていたとは一体…よく無事に出て来れたものだ」
「そこは少し色々ありまして…。一部が崩落したのをきっかけになんとか抜け出すことができました。下はほとんど何もない空洞で、出入り口が一つしかなかったものですから、自然とここに辿り着けたんです」
相馬は、脱出できた経緯をかなりぼやかした。
野蛮人のごとき所業のことは不本意極まりないので説明したくなかったのもあるが、自分たちの特殊そうな能力はギリギリまで勘付かれたくなかった。何より、おそらく今も沙奈が隠し持っているだろう鍵束は、安全に脱出できる目処が付くまで、まだ渡すわけにはいかない。
あの牢の中は相当めちゃくちゃになっていたので、確認しに行ったところで鍵のことまでは気付かれないだろう。
(あ、美濃さん。そういえば、あそこにあった錠は回収済み?鍵の方はまだ持ってるよね?)
(うん、どっちも持ってるよ)
(ありがとー、助かる)
「私が聞いたのはその音だったのかもしれないな。何はともあれ無事で良かったよ。探索に関しては、君たちはどうする?もし同じようなことを考えているなら、共に行動してもらえた方が心強いのだが」
(セーーフ。バレてないバレてない)
(いやあれどう見ても出入り口の穴なんかよりも目立ってるし、明るい時に冷静に見れば絶対バレると思うよ)
(そんなこと言うなよぉ)
(もう、うるさい。オッケーって返事するね)
「おかげ様で落ち着くことができましたし、明日改めて皆と相談したいと思いますが、ご一緒させてもらえるのは私たちの方こそ助かります。その時はよろしくお願いします」
「あぁ。安全を確保して脱出する今の目的はお互い同じだと思う。せめてそれまでは協力し合えるとこちらも助かるよ」
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