異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome

文字の大きさ
上 下
17 / 68
序章 迷宮脱出編

訳ありの臭いがする

しおりを挟む

 —-ゴゴ…ゴ…ゴォォン…、ガシャンッ

 大きな両開きの扉とかんぬきで広間は固く閉ざされた。
 洞窟で閉じ込められていた時にあれだけ出たかった事を思えば、なんだか複雑な気持ちになる。

「…ふぅ。待っててくれてたけど、最後だったからなんか焦ったぁ」
「はぁ…、ふふ、久しぶりに、ちょっと走ったかも」

 乃愛はなんだか可笑しくなって、小さな笑い声がつい出てしまった。体を動かしたことで緊張感が緩んだのかもしれない。

「えー?そうなの。じゃあまた一緒に走ろうよ、ね」

 君島はニカッと笑って掴んでいた手を挙げたかと思えば、少し揺らしてからパッとその手を離した。
 冗談だとは思うが、家族以外で誰かと一緒に行動したのはいつぶりだろうかと思い出しかけて、気恥ずかしい気持ちになる。
 何となく微笑み合っていると、揶揄した声がかけられてハッとした。

「おーい、アオハル組。紹介始めるからこっち来い」

 河内がじとっとした目を向けているのを見て、きまり悪くそそくさと近寄っていく。この場の空気は全然笑い合っている場合ではなかった。乃愛は小さくなって輪に紛れた。

♦︎

「この御方は、我がアーシア王国、第三王子殿下のハーラルト=クリスター•ヘルム•アーシア様、そしてこちらは、第一王女殿下のレオノーラ=ナーテ•ヘルム•アーシア様であらせられる」

 騎士三人の前に、小さな男の子と女の子が並び立つ。二人とも身綺麗な出立ちで、サラサラの鮮やかな赤髪に整った風貌をしている。だがその顔色はまだ青褪めており、どこか俯きがちだ。
 ずっと黙したままだが、それが礼式なのか、幼き故か、或いは言葉を発せられる精神状態ではないのか、そこまでは読み取れない。

・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
 名前: ハーラルト=クリスター•ヘルム•アーシア
 年齢: 7
 性別: 男
 出身: 第三王子<アーシア王国<ピセス<KC3631-Qj82

 種族: ヒューマン
 天職: -
 魔法: 風属性、地属性、無属性
 能力: 風魔術、地魔術、護身術
 才能: 魔力感知、王威

 魔力: 30
 気力: 20
 知力: 20
 視力: 10
 聴力: 10
 筋力: 10
 持久力: 10
 瞬発力: 10
 柔軟性: 10
 敏捷性: 10

 装備: 王位継承指輪、癒しの首飾り

 状態: 心身疲労
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

 思っていた以上に幼い。女の子の方はまだ五歳だった。それに、王族。王子が持つ指輪はすごく訳ありの臭いがする。

 騎士二人が兜を手に少し横にずれて、それぞれ口を開いた。

「私は、王国騎士団近衛隊所属のヴァレアス=コンラート•アルファン」
「右に同じく、ギルベルト=レーメンスだ」

 どちらも青年男性で、ステータスはフォルガーと似通っていた。
 おそらく覚えきれないだろうが、礼儀としてクラスメイトも順に前へ出て、ステータスにある自分の名を告げていく。

「あとこちらは…我が近衛隊の隊長フィリッツ=ローベルト•バスティンだ。私と別れた時点ではご存命だったのだが、合流した時にはもう…。古代のものだがここはちょうど神殿になっているようだから、略式で先に弔いたい。少し時間をもらえるかな」
「…そうでしたか。お悔やみ申し上げます。私たちにお気遣いなく、どうぞ」

 フォルガーが一礼して、騎士三人で遺体を祭壇の方へ運んでいく。王子と王女は少し離れたところでそれを見守っている。
 クラスメイト一同は邪魔にならないようにさらに距離を取り、遠目にその様子を見ながら静かに待つ。

(やっぱりここは神殿だったようね。人の手入れはされていたようだけど、古代と言っていたし、この辺一帯は遺跡か何かかな)
(適当な物に鑑定をかけたけど、王城地下遺跡って出てるやつがあった)
(え、てことはこの真上は城ってこと?あ、だから王子とかいるんだ。向こうから見たら私らってもしかして不法侵入者?)
(あー…まじでやべぇ…あの像崩れたままだし絶対あとで怒られる)
(叱られるだけならまだマシだろ。敢えてこちらから言う必要もないが、もし指摘されたら変に言い訳せずにきちんと謝れよ。痕跡見たら最近のものだってすぐわかりそうだし)
(はぁ…だよなぁ…分かったよ)
(お前、なんで像狙って試しちゃったの?)
(別に狙ったわけじゃなくて…。こう使うのかなぁって思いながら手を出した先にたまたまあの像があったというか…)
(おいおい…勘弁してくれよ…。もしその先に人がいたらと思うとゾッとしたわ)
(スキル確認まだ途中だったけど、続きやるなら人がいるところで攻撃系を試すのは絶対禁止。わかった?)

 その時に埴生の一番近くにいた有原が、顔を引き攣らせてそう念を押す。それには皆青褪めながらこくこくと頷いた。

 一方、騎士たちは非常にテキパキとした動きを見せていた。祭壇上に安置していたローブの遺体はどこからか引っ張り出してきた棺に移し替え、祭壇には新たに隊長の遺体を仰向きに横たえさせた。甲冑は取り外され、胸に組んだ手には隊長の所持品だろう剣を体に添わせて握らせている。

(マップだけどさ。近くにいる人には共有できそうなんだ。見え方は鑑定っぽくなるかも。だから傍からは見えないと思うけど…。試してみてもいい?)
(うん、それくらいなら大丈夫かな。距離も向こうから充分離れてるし)
(じゃあやってみるね)
(…お?おぉ、見えた。こんな風になってたのか)
(わぁ、なんかすごいね。スマホにあるマップみたいなのイメージしてたけど、レーダー地図?ぽいんだね)
(私もそっちの方が見慣れてるはずなんだけど、何でかこうなっちゃうみたいで。パパの職場で航空管制レーダーのスクリーンを見たことあるんだけど、それに似てるような気がしてる)
(かっこいいなぁ。鑑定みたいに見ただけでは詳細までわからないのか)
(そうなの?スキル使ってる私はなんとなく分かるんだけど)
(共有されている方は視覚情報のみみたいだな。見方がよくわからないが…中央の印があずまなのか?その周りに固まってる三角形の点が俺らか)
(まぁ、うん。そんな感じ。今はちょっと拡大してて、最大広域にすると、こう。使い慣れるともっと範囲は広げられそうだけど今はこれが限界かな)
(うん?距離感がいまいちピンとこない…あ、でも点が小さくなってごちゃごちゃした。…なるほど、これは慣れないと点も見落とすか)
(…うん。もうちょっと使い勝手良くしたくはある)

 一通り準備が整ったのか、気づけば王子王女含め騎士たちが祭壇を囲んで黙祷を捧げていた。離れたところからだが、クラスメイトらもそれに倣う。
 しばらく静寂が続いた後、また別の棺に遺体を納めて、元ある場所に戻した。通常は墓地などに移すのだろうが、そのような余裕は今はなさそうだ。晒しておくこともできないだろうから、これは応急的な処置といったところなのだろうか。

 王子と王女を端の方で座って休ませると、騎士二人はまだ何かあるのか、奥の方で作業を始めた。フォルガーだけがこちらに近寄ってくる。

「待たせたな。おかげで一息入れられそうだ。それで、君たちのことで分かる限りのことを話そう。我々が置かれている状況に絡んでもいそうなので、先にそちらから順に説明をしたい」

 そう言って、フォルガーは淡々と事情を話し始めた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神によって転移すると思ったら異世界人に召喚されたので好きに生きます。

SaToo
ファンタジー
仕事帰りの満員電車に揺られていたサト。気がつくと一面が真っ白な空間に。そこで神に異世界に行く話を聞く。異世界に行く準備をしている最中突然体が光だした。そしてサトは異世界へと召喚された。神ではなく、異世界人によって。しかも召喚されたのは2人。面食いの国王はとっととサトを城から追い出した。いや、自ら望んで出て行った。そうして神から授かったチート能力を存分に発揮し、異世界では自分の好きなように暮らしていく。 サトの一言「異世界のイケメン比率高っ。」

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

うどん五段
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

神様がチートをくれたんだが、いやこれは流石にチートすぎんだろ...

自称猫好き
ファンタジー
幼い頃に両親を無くし、ショックで引きこもっていた俺、井上亮太は高校生になり覚悟をきめやり直そう!!そう思った矢先足元に魔法陣が「えっ、、、なにこれ」 意識がなくなり目覚めたら神様が土下座していた「すまんのぉー、少々不具合が起きてのぉ、其方を召喚させてしもたわい」 「大丈夫ですから頭を上げて下さい」 「じゃがのぅ、其方大事な両親も本当は私のせいで死んでしもうてのぉー、本当にすまない事をした。ゆるしてはくれぬだろうがぁ」「そんなのすぎた事です。それに今更どうにもなりませんし、頭を上げて下さい」 「なんて良い子なんじゃ。其方の両親の件も合わせて何か欲しいものとかは、あるかい?」欲しいものとかねぇ~。「いえ大丈夫ですよ。これを期に今からやり直そうと思います。頑張ります!」そして召喚されたらチートのなかのチートな能力が「いや、これはおかしいだろぉよ...」 初めて書きます!作者です。自分は、語学が苦手でところどころ変になってたりするかもしれないですけどそのときは教えてくれたら嬉しいです!アドバイスもどんどん下さい。気分しだいの更新ですが優しく見守ってください。これから頑張ります!

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

処理中です...