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21章 美ボディへの道

第3話 ダイエット指南

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 豆腐の雑炊風を食べ終えた駒田さんは、満足げな笑顔で「ごちそうさまでした」と手を合わせた。

 少しでも食べられたからか、煮物屋さんに来られた時より顔色も良くなっている様に見える。身体が温まったのかほんの少し頬に朱が差しているいる様だ。

「落ち着かれましたか?」

「はい。凄っごく身体に優しそうなお味で、本当に美味しかったです。ありがとうございます」

「いえいえ。食べてくださって良かったです」

「なんだか……久しぶりに温かいものを食べた様な気がします。温かい食べ物ってこんなに心がほっとするものなんですね」

 駒田さんはしみじみと言ってそっと目を細めた。

「私、太らない様にしなきゃ、痩せなきゃってそればっかりで、食べることの大切さを忘れていた様な気がします。だからいつもぎすぎすしちゃって……。駄目ですね」

 駒田さんはうなだれて苦笑する。

「食べることは生きて行くことの基本です。なので適量を美味しく食べていただきたいです。でもその方なりの事情がおありでしょうから、それに合わせて、でも健康を害しない様な食べ方をしていただきたいです」

「はい。肝に命じます」

 駒田さんはゆるやかな笑みで頷く。佳鳴はにっこりと微笑んだ。

「では、駒田さんに合ったお食事の仕方を考えて行きましょう」



 駒田さんは佳鳴から話を聞きながら、熱心にスマートフォンのメモアプリに入力して行く。その横で旭日さんも「ふんふん」と耳を澄ました。

 佳鳴がお伝えしたのは簡単なことばかり。その中に豆腐の味噌雑炊風のレシピもある。

 豆腐そのものの味は淡白なので、具材の応用が効く。肉類や魚介類、野菜に海藻などもできたら入れて欲しい。

 大事なのは身体を冷やさないこと。身体が冷えてしまうと代謝が落ちて太りやすくなってしまう。

 暑い時季以外の冷たい飲み物はできるだけ避ける、料理も温かいものを摂る。野菜は生では無く火を通したが好ましい。

 そしてできたら毎日、インスタントでも良いので味噌汁を飲むこと。ホルモンバランスを整えるのも重要だ。そこにできたら乾燥わかめを加えて欲しい。乾燥わかめは保存もしやすいし湯に入れればすぐに戻ってくれる。

 質の良いオイル類を摂ることも大事である。ダイエットに良いと有名なのはアマニオイル。

 アマニオイルは加熱に弱い。だがそのままでは飲みづらい人もいると思うので、器に移した味噌汁に落としたり、温野菜などに掛けるドレッシングを作るのに使うのが良いだろう。アマニオイルにお酢と塩こしょうを加えるだけでシンプルなフレンチドレッシングになる。

 肉類は太ると避けていた駒田さんだが、動物性たんぱく質もしっかりと摂って欲しい。

 脂身が気になるならサラダチキンが良いだろう。鶏の胸肉やささみを買って自分で作っても良い。電子レンジで簡単に作れる。

 牛肉や豚肉も赤身を摂れば問題無い。卵も摂りやすいだろう。

 乳製品を摂るならチーズやホットミルクなど。だがこれは肌状態をキープするために摂り過ぎは要注意である。

 そして実は和食は糖質が高めなのである。調味に使う醤油には小麦粉が含まれているし、砂糖やみりん、日本酒は糖類だ。

 なので糖質をできる限り避けたいのなら、洋風の味付けが良い。塩とこしょうだけでも食べられるものだって多い。ドレッシングも和風やごまよりフレンチなどがおすすめだ。

 繊維質も重要だ。野菜や海藻、こんにゃくなどをしっかりと摂ること。

 だが結局大事なのは、様々な食材をバランス良く摂取することだ。そして常温以上の温度の水分をしっかりと摂ること。コーヒーやお茶などの利尿作用があるものでは無く、水や白湯、麦茶などのカフェインが無いものを。

 特に麦茶にはミネラルも含まれており、抗酸化作用もあるので美を意識されるモデルさんにはぴったりでは無いだろうか。

 そして食事の時はまずお野菜から食べるのが良い。汁物のお汁だけを飲むのも良いだろう。

 そもそもそれが糖質制限ダイエットの肝なのだ。炭水化物などに多く含まれる糖質が血糖値を急激に上げる。血糖値の上昇が体脂肪の増加に繋がるのだ。

 だから糖質を控え、その中からさらに血糖値が上がりにくいものから食べ始めるのが良い。

 そうして佳鳴は駒田さんに、自分が知り得る知識をお伝えして行ったのだが。

「駒田さん、確かに糖質を控えれば痩せますし太りにくくもなると思います。ですが過度にし過ぎると体調を崩すことがあります。筋肉も作りにくくなります。身体を動かすエネルギーも不足しがちになります。なのでできましたら、朝ご飯にはお米をお茶碗1杯食べていただきたいです。駒田さんはもう充分細くいらっしゃいますので、必要なのはダイエットでは無く維持です。駒田さんは太ってしまうのがお嫌なんですよね?」

「そ、そうです」

 駒田さんはスマートフォンを手に真剣な表情で頷く。

「朝ご飯はその日動くための大切なエネルギーです。なのでしっかりと食べていただきたいです。今まで朝ご飯はどうされてましたか?」

「無糖の野菜ジュースを飲んでました」

「それだけですか?」

「はい」

「それだとエネルギー不足ですし、腹持ちも悪かったんじゃありませんか?」

「はい。すぐにお腹が空いちゃって」

 駒田さんはそっとお腹に触れる。

「その野菜ジュースは続けていただいて大丈夫ですけども、お米、ご飯を食べていただきたいです。それとお味噌汁。こちらはインスタントのもので大丈夫です。それこそ理想は旅館の朝ご飯ですけど、朝はあまり時間が無いのが定番ですからねぇ」

「そうですね。時間が無いのもありますけど、ひとり暮らしってこともあって、ちょっといろいろ作ったりするのが面倒だなって思っちゃって」

 駒田さんは自嘲じちょうする様に苦笑する。

「ご飯はまとめて炊いて冷凍ができますし、小さな炊飯器で食べる分だけ炊くこともできますし、そうですねぇ、パックのご飯でも良いですよ。炊くよりお金は掛かってしまいますけど」

「まだそんなに余裕があるわけじゃ無いので、まとめ炊きしてみます。レンジで温めたら良いんですよね?」

「はい。冷凍をする時に平たくしてラップに包んだらレンジで温めやすくなりますよ。平たいタッパーでも良いですね。そうしたらそのまま食べられますからね」

「あ、なるほどです」

 駒田さんは「うんうん」と頷きながらスマートフォンの操作を続ける。

「あ、そうだ。あの、冷凍のご飯にインスタントのお味噌汁を掛けて温めたら、お雑炊みたいになります?」

 駒田さんのアイデアに、佳鳴は「それは良いですね」と笑顔になる。

「白いご飯のままでも、お味噌雑炊でも、お好きな味で食べてみてください。お雑炊はご飯がお出汁を吸って膨らみますから、ご飯が同じ量でも満足感が出ますよ」

「そうですね! それは嬉しいかも」

 駒田さんが嬉しそうにぱっと笑顔になって、胸元で手を合わせた。食べることに大分前向きになってきている様だ。良い傾向である。

「なぁなぁ店長さん、その食い方したら俺でも痩せられるか? 酒とかはどうだ? 毎日晩酌してるんだけどさぁ」

 旭日さんが身を乗り出して聞いて来る。佳鳴の話を聞きながら箸を動かしていた旭日さんは、すっかりと料理を食べ終えていた。

「あら、旭日さんもダイエットをされているんですか?」

 佳鳴の言葉に旭日さんは少しばかりふっくらとしているお腹をさする。

「いやぁさぁ、最近腹が気になるんだよなぁ」

「お腹だけですか?」

「だと思うんだが」

「お腹だけでしたら、もしかしたら姿勢が悪いことが原因かも知れませんよ。ある程度年齢を重ねると、どうしてもお腹周りに脂肪が付きやすくなってしまうみたいなんですけども、姿勢の悪さで骨盤が歪んでしまって、内臓を下げてしまうらしいんです。旭日さんお座りになる時に足を組んだり猫背になったりしませんか?」

「あ、あるある。楽だからどうしてもさぁ」

「お食事もそうなんですけども、姿勢も気をつけてみてください。できるだけ足を組まない、猫背にならない、横坐りをしない様に。駒田さんもですよ」

「おう」

「はい」

「お酒はですねぇ、旭日さんがいつも飲まれているビールは太りやすいです。日本酒もそうですね。太りにくいお酒はワインでしょうか。安心なのは焼酎やウイスキー、ウオッカとかのスピリッツ類ですよ」

 すると旭日さんは「うわー」と切なげに頭を抱えた。

「俺ビール大好きなのにー」

「お好きなものを無理に我慢されることは無いと思いますよ。飲み過ぎなければ大丈夫かと」

「そう? 大丈夫か?」

「はい。それと旭日さん、晩ご飯の時にお米食べられてます?」

「おう。飯は嫁さんに任せっきりだけどな」

「晩ご飯のお米を控えられるだけでも変わって来るかも知れません。その分お野菜と海藻類を多めに摂っていただくのが良いかも知れませんね。奥さまには少し面倒かも知れませんが」

「おかずを多めに作ってもらえるか聞いてみるぜ」

「はい。確かに糖質は太ってしまう原因を作ってしまいますけども、かたよった食生活が1番の大敵なんです。なのでいろいろな食材をバランス良く摂っていただきたいです。

「おう」

「はい」

 駒田さんと旭日さんは揃って神妙な面持ちで頷いた。
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