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5章 親愛なる3人目

第3話 不思議なご縁

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 みのりはどう捉えれば良いのだろう。いろいろなものががらがらと崩れていく様な感覚はするのだが、芯のところは揺るがない、不思議とそんな確信がある。

 お父さんが血の繋がったお父さんでは無かった。だがお父さんは本当にみのりを可愛がってくれた。娘として愛してくれた。それが信じられるぐらいには、みのりとお父さんの絆には確かなものがあった。

 お父さんもお母さんも、これまでみのりに本当のことを言わなかった。だがそれにだって事情があったのだ。もう大人になった今だから良いものの、これが多感な、思春期のころに知っていたら、みのりはどうなっていたか。

 ……そうして両親を擁護ようごできるほどに、みのりは両親の愛情を感じてこれていた。だからみのりは両親との関係を疑うことなんて無かった。それは今も変わらない。

 両親はみのりのことを思って、真実を言わなかった。それだけは確かなのだろうと思う。もっと若いときに実の父親がトランスジェンダーだと言われ、今よりも未熟だったみのりは冷静でいられたか。

 個人的には偏見などあまり無いと自負している。今は多様性の時代だと言われていて、いろいろな価値観が認められ、また、拒絶される世の中なのだと思う。みのりは「すこやか食堂」でいろいろなお客さまに触れ合うのだから、その視野は広く持たなければと思っている。

 それはみのりなりの広い世界で培われたものだ。だが学生のころではそうは行かない。家庭と学校をメインとした小さな世界で、みのりは今の様に思えたか。テレビや動画などでタレントさんなどの他人を見ているのはわけが違う。血の繋がった肉親がそうであったと知れば、もしかしたら嫌だと思っていたかも知れない。だが成長できた今では。

「……お父さん、お母さん、あんね、許すとか許さんとか、そういう話や無いんやと思う。びっくりしたしショックやったけど、お父さんとお母さんが私を大事にしてくれてることだけはちゃんと分かってるから」

 お父さんとお母さんが顔を上げた。その目は赤くなってしまっている。冷静を装いながらもきっと心は激しく揺れている。

「血の繋がりとか関係あれへんとか、ちゃうな、そういうんや無いねん。私はお父さんとお母さんが向けてくれるもんを疑いもせんかったんやから、それでええんやと思う」

 まだ完全に飲み込むには、少し時間が掛かると思う。だが両親が与えてくれたものは紛れも無く本物だ。みのりはお父さんとお母さんを信じる。それだけだ。

 お父さんもお母さんも肩を震わせ、お母さんは両手で顔を覆った。

「みのり、ありがとう」

「ありがとうねぇ……」

 そう言う両親に、みのりはただ穏やかな笑みを浮かべた。ゆうちゃんはそんなみのりの頭をぽんぽんと叩き、「うん」と小さく口角を上げた。



「ねぇ、私の血の繋がったお父さんて、どんな人なん?」

 みのりとお母さんでお昼ごはんを用意し、4人で食卓を囲む。お昼はいつも簡単に、今日はニラ入り豚キムチとしめじのお味噌汁、白米である。

 お母さんはお父さんと顔を見合わせて「う~ん」と首をひねった。もうすっかりと涙は乾いている。

「何ちゅうか、天真爛漫てんしんらんまんちゅうか、明るい人やったで。でも今にして思えば、不安な気持ちを隠そうと思ってたんかも知れへんねって。お父さんとそんなことを言うてたんよ」

「うん。私はたっちゃん、あ、実のお父さんの名前な、竜樹たつきっちゅうんやけど、小さいころは結構おとなしめな子やったからな。大学デビューっちゅうん? そんなんやったわ。もともと中性的やったなぁ」

 ではもしかしたら血の繋がったお父さんは、そのあたりから違和感を感じ始めていたのだろうか。

「へえぇ。今どうしてはるんかとかって、知ってるん?」

「うん。私がたまに連絡取り合っとるからな。今は堂山どうやまで同性愛者向けのバーのママやってるんや。もう何年も会ってへんけど元気なはずや」

 何と。自分と同じ飲食店経営をしているのか。お酒の取り扱いの有無はあるものの、血は争えないということなのだろうか。みのりは「そうなんや」と目を丸くした。

 そのとき、ふと頭の中の記憶が揺り起こされる。そう昔では無いときに、同じ様に梅田うめだ堂山町のお店でバーをやっている女装家の男性に会ったことがある。そう、「すこやか食堂」を始める前、赤塚あかつかさんのお料理教室の見学にお邪魔したときだ。

「ねぇ、お母さんの前の苗字、ええっと、前のお父さんの苗字は何やったん?」

 みのりの心臓がどくどくと大きく打つ。まさかそんな偶然があるわけが無いと思いながら。

今村いまむら。あの母子手帳にはもともと今村て書いてあったんよ。それを消して常盤ときわに書き直したん」

 まさか。みのりは愕然がくぜんとして目を見張った。隣から「嘘やん」と呟きが聞こえたので見ると、悠ちゃんも唖然としてしまっていた。
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