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3章 とある食材の探求者
第4話 探求者のこだわり
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満足げにツナチヂミ、白ごはん、チヂミ、チヂミ、ごはん、お味噌汁、と食べていたツナさんだったが。
「……あの、少しわがまま言うてええですか?」
ツナさんが遠慮がちながらも、はっきりとした調子で言う。
「はい、何でしょう」
「このツナチヂミ、めっちゃ美味しいんですけど、私がツナ好きやからか、もっとツナが多くてもええんや無いかって思ってしもて」
「なるほどです」
実はお昼営業のとき、このツナチヂミを、お客さまとして来た赤塚さんと沙雪さんにも食べてもらっていた。
「うん、ツナとニラがええバランスやな。ニラは香りが強いから、あんま入れすぎたらツナの味壊すしな」
「せやな。これやったらツナにうるさいやつにも納得してもらえそうやな」
そうなのだ。良く食べられているチヂミは、ニラがたっぷり入っているものが多いイメージである。だがこのチヂミの主役はツナだ。なのでツナを多めにしていて、ニラは控えめにしてある。
実はニラを短めに切ってある理由はここにもあって、多く無い量でも全体に行き渡らせるためなのだ。
だったのだが、ツナ好きツナさんにとっては、もっとツナを多くしても良いと。やはりいちばん大事なのはお客さまのご意見である。
「ほな、2枚目からちょっと考えてみますね」
「でももう焼いてくれてはるんでしょ? これ、充分おいしいですよ」
「ちょっと工夫してみます。マヨネーズは大丈夫ですか?」
「……もしかして」
ツナさんが目を丸くする。きっとお察しの通りだ。みのりは「ふふ」と微笑む。
小さなボウルにツナを入れ、マヨネーズとポン酢を少量入れて混ぜ、焼き上がって丸皿に移したツナチヂミの上に塗った。パセリの素揚げも添える。
「はい、2枚目のツナチヂミです。ツナマヨをトッピングしました。たれには付けずにお召し上がりくださいね」
「やったぁ!」
やはり思った通り、ツナ好きならツナマヨもお好きだった。特にツナ好きで無くともツナマヨは人気があるのだ。みのりもツナマヨは良くサンドイッチなどで食べている。
ツナは日本語でまぐろである。なのでその名の通りまぐろが使われる。だがかつおを使っているものも多い。どちらが使われているかは、パッケージの原材料名のところを見たら分かる様になっている。
まぐろ使用のものはかつお使用のものより少しばかりお値段が高く、そして臭みがほとんど無い。かつおはやはり独特のくせがあるのだ。とはいえツナフレークになるとそれほど気にはならないが。オイル漬けの方ならなおさらだ。
まぐろもかつおもヘム鉄を多く含むので、お母さんも良くツナマヨにして、おやつなどで食べさせてくれていた。ロールパンなどに挟めば立派な一品になる。食パンに塗ってトースターで焼いても美味しい。もちろんおむすびにしても美味だ。
「すこやか食堂」ではまぐろのツナフレークを使うことにしている。ツナさんなら大丈夫だと思うのだが、他のお客さまが気になってしまってはいけないからだ。
ツナさんはツナマヨトッピングのツナチヂミをもりもりと食べている。さて、3枚目を焼かなくては。
どうしようか。ツナがもっと多くても良いと思われた理由は、きっとバランスだ。今のツナとニラのバランスは、ツナの好物度合いが普通の人ならきっと満足してもらえるものだ。だがお好きな人には物足りない。
だからと言って、単純に比重を変えれば良いのかと言われれば、それも違う気がする。ニラを使うならその良さも活かしたいのだ。みのりはどうしようかと冷蔵庫を開け、食材庫を開け、そして。
これやったら。そう思って取り出したのはとあるお野菜だった。それを粗みじん切りにする。ボウルで絹ごし豆腐を滑らかにして片栗粉と卵を混ぜ込み、少し多めにしたツナとお野菜を入れた。味付けは変わらず鶏がらスープの素と少量のお塩。
そうしてできた生地を、ごま油を引いたフライパンに流し込む。じゅわじゅわと焼けていくチヂミを見ながら、みのりは「今度こそは」と願う。
2枚目のツナチヂミを早々に食べ終え、3枚目を今か今かとそわそわ待っているツナさん。空いた丸皿はすでに悠ちゃんが引き上げてくれていて、スタンバイも万全だ。みのりはさっくりと焼き上がった新たなツナチヂミを新しい丸皿に移し、パセリの素揚げを添えた。
「お待たせしました。お野菜を変えてみました。お口に合うとええんですけど。たれ付けてみてくださいね」
「楽しみです! ありがとうございます! ほんまや、ニラがあれへん」
満面の笑みで応えるツナさん。期待に満ちている様に見える。
「何が入ってるんやろ。あらためて、いただきます」
そうしてさくっとお箸を入れ、ひと口大をたれに付けて、熱々のそれをはふはふと口に入れた。そして「ん! なるほどなぁ!」と目を輝かせた。
「玉ねぎですね!」
「その通りです」
ツナの味を邪魔しない、だが旨味になるものとして、みのりが選んだのは玉ねぎなのだった。
「……あの、少しわがまま言うてええですか?」
ツナさんが遠慮がちながらも、はっきりとした調子で言う。
「はい、何でしょう」
「このツナチヂミ、めっちゃ美味しいんですけど、私がツナ好きやからか、もっとツナが多くてもええんや無いかって思ってしもて」
「なるほどです」
実はお昼営業のとき、このツナチヂミを、お客さまとして来た赤塚さんと沙雪さんにも食べてもらっていた。
「うん、ツナとニラがええバランスやな。ニラは香りが強いから、あんま入れすぎたらツナの味壊すしな」
「せやな。これやったらツナにうるさいやつにも納得してもらえそうやな」
そうなのだ。良く食べられているチヂミは、ニラがたっぷり入っているものが多いイメージである。だがこのチヂミの主役はツナだ。なのでツナを多めにしていて、ニラは控えめにしてある。
実はニラを短めに切ってある理由はここにもあって、多く無い量でも全体に行き渡らせるためなのだ。
だったのだが、ツナ好きツナさんにとっては、もっとツナを多くしても良いと。やはりいちばん大事なのはお客さまのご意見である。
「ほな、2枚目からちょっと考えてみますね」
「でももう焼いてくれてはるんでしょ? これ、充分おいしいですよ」
「ちょっと工夫してみます。マヨネーズは大丈夫ですか?」
「……もしかして」
ツナさんが目を丸くする。きっとお察しの通りだ。みのりは「ふふ」と微笑む。
小さなボウルにツナを入れ、マヨネーズとポン酢を少量入れて混ぜ、焼き上がって丸皿に移したツナチヂミの上に塗った。パセリの素揚げも添える。
「はい、2枚目のツナチヂミです。ツナマヨをトッピングしました。たれには付けずにお召し上がりくださいね」
「やったぁ!」
やはり思った通り、ツナ好きならツナマヨもお好きだった。特にツナ好きで無くともツナマヨは人気があるのだ。みのりもツナマヨは良くサンドイッチなどで食べている。
ツナは日本語でまぐろである。なのでその名の通りまぐろが使われる。だがかつおを使っているものも多い。どちらが使われているかは、パッケージの原材料名のところを見たら分かる様になっている。
まぐろ使用のものはかつお使用のものより少しばかりお値段が高く、そして臭みがほとんど無い。かつおはやはり独特のくせがあるのだ。とはいえツナフレークになるとそれほど気にはならないが。オイル漬けの方ならなおさらだ。
まぐろもかつおもヘム鉄を多く含むので、お母さんも良くツナマヨにして、おやつなどで食べさせてくれていた。ロールパンなどに挟めば立派な一品になる。食パンに塗ってトースターで焼いても美味しい。もちろんおむすびにしても美味だ。
「すこやか食堂」ではまぐろのツナフレークを使うことにしている。ツナさんなら大丈夫だと思うのだが、他のお客さまが気になってしまってはいけないからだ。
ツナさんはツナマヨトッピングのツナチヂミをもりもりと食べている。さて、3枚目を焼かなくては。
どうしようか。ツナがもっと多くても良いと思われた理由は、きっとバランスだ。今のツナとニラのバランスは、ツナの好物度合いが普通の人ならきっと満足してもらえるものだ。だがお好きな人には物足りない。
だからと言って、単純に比重を変えれば良いのかと言われれば、それも違う気がする。ニラを使うならその良さも活かしたいのだ。みのりはどうしようかと冷蔵庫を開け、食材庫を開け、そして。
これやったら。そう思って取り出したのはとあるお野菜だった。それを粗みじん切りにする。ボウルで絹ごし豆腐を滑らかにして片栗粉と卵を混ぜ込み、少し多めにしたツナとお野菜を入れた。味付けは変わらず鶏がらスープの素と少量のお塩。
そうしてできた生地を、ごま油を引いたフライパンに流し込む。じゅわじゅわと焼けていくチヂミを見ながら、みのりは「今度こそは」と願う。
2枚目のツナチヂミを早々に食べ終え、3枚目を今か今かとそわそわ待っているツナさん。空いた丸皿はすでに悠ちゃんが引き上げてくれていて、スタンバイも万全だ。みのりはさっくりと焼き上がった新たなツナチヂミを新しい丸皿に移し、パセリの素揚げを添えた。
「お待たせしました。お野菜を変えてみました。お口に合うとええんですけど。たれ付けてみてくださいね」
「楽しみです! ありがとうございます! ほんまや、ニラがあれへん」
満面の笑みで応えるツナさん。期待に満ちている様に見える。
「何が入ってるんやろ。あらためて、いただきます」
そうしてさくっとお箸を入れ、ひと口大をたれに付けて、熱々のそれをはふはふと口に入れた。そして「ん! なるほどなぁ!」と目を輝かせた。
「玉ねぎですね!」
「その通りです」
ツナの味を邪魔しない、だが旨味になるものとして、みのりが選んだのは玉ねぎなのだった。
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