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1章 すこやか食堂を作ろう
第7話 防犯カメラのお仕事
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「いやさ、ほら、俺ってイケメンやん? スタイルもええし、モデルみたいやん?」
赤塚さんはしれっとそんなことを言う。自分の容姿の良さを自覚している様だ。あまりにも堂々としていて、いっそ清々しい。
「せやから教室の生徒も女性が多い。それはかまへんねん。俺は料理に関しては中身もあるつもりやから」
それはそうだとみのりも思う。なので「はい」と素直に頷いた。
「生徒が身も心も男性やったら、俺もそこまで気にせぇへん。でも女性やったら距離はきちんと取る様にしとる。物理的にも心理的にも。今村さんはああいう人やから、自然に距離を詰めて来はるし手が出てくる。職業病もあるんやろうな。せやから細心の注意を払う」
赤塚さんは神妙な顔で淡々と語る。みのりは背筋が伸びる様な思いだった。悠ちゃんも真剣な顔で聞いている。
「常盤ちゃんは学校の紹介やし後輩やし、柏木くんもおるから言うけど、ちょっと前にな、トラブルがあって」
話を聞いて、みのりは戦慄した。そんなことがあるのかと。
とある女性の生徒さん。赤塚さんは節度を保って対応していた。だが相手が好意を抱いていたことには気付いていた。だから余計に注意していた。
ある日、告白されたそうだ。付き合って欲しいと。赤塚さんは丁重に断った。赤塚さんにとってその女性はあくまで生徒。それ以上でも以下でも無かったからだ。
するとその女性は、ご両親と警察にこう訴えたのだ。
「料理教室の赤塚先生に乱暴された!」
赤塚さんの元には警察が来た。教室で授業中だったので、本当に焦ったそうだ。だがそのときの生徒さんは奇しくも今村さんで、それは功を奏したらしい。
赤塚さんは必死で無実を説き、今村さんも口添えしてくれた。
だが今の日本はこういう場合、被害者とされる女性の訴えが優先される。それで冤罪も出ているかも知れない。日本はまだまだ男尊女卑の気配が残されていると思わせて、こういった部分では女尊男卑なのだ。
しかし何があったのか、数日後、警察から電話があり、疑いが晴れたと言われたのだ。詳細は聞かされていない。捜査情報などは聞いても教えてくれないだろう。
だから赤塚さんは「これは俺の想像やけどな」と前置きをして話をしてくれた。
ご両親はともかくこうして警察まで巻き込んだところを見ると、もしかしたらあの生徒さんは、これまでもこうしたトラブルを起こして来たのでは無いかと。
もやもやする感情はあるが、警察の事情聴取は数回で済んだことだし、自分を信頼してくれている生徒もいる、そう思って吹っ切ったそうだ。
「せやから今度からこんなことにならん様に、この教室には生徒に内緒で防犯カメラ付けてん。壁に埋め込んで分からん様にな。さすがに自宅に付けるんは抵抗あるからしてへんけど」
「ほな、今も撮影されてるんですか?」
「いや、今は切ってる。教室やってるときだけ、ちゅうか生徒とふたりのときだけな。俺も甘かったわ、マンツーマンやし俺はイケメンやねんから、最悪の事態も考えとかなあかんかったんやわ」
その生徒さんの行動はかなり特殊だとは思うが、男女がひとつの空間にいることのリスクは確かに考えなければならないことなのだろう。だがこの件に関しては、赤塚さんに同情しかできない。
「大変でしたね」
「まぁなぁ、ま、済んだこっちゃ。SNSとかで拡散されんかっただけ全然ましや。目的が俺を貶めることや無くて、責任取れっちゅうことやったんかも知れん。ちゅうことで、常盤ちゃんがうちに通ってくれるんやったら、防犯カメラがちゃんと仕事してくれるから、柏木くんも安心して欲しいわ。いるんやったら毎回の録画送るし」
「いや、さすがにそこまでは」
悠ちゃんが苦笑すると、赤塚さんは「うん」と満足げに頷いた。
「常盤ちゃん、うちは授業料も決して安ぅ無いけど、やり方は見てもろた通りや。考えてもろて、また連絡くれたら嬉しいわ」
「はい」
そう応えながら、みのりの心は決まっていた。この教室に通わせてもらおうと。コーンスープを飲んだだけだが分かる。赤塚さんは素材を活かすお料理をしている。みのりもそういうごはんを作りたい。心や身体が癒され、元気になれるものを作りたい。それがみのりの目標なのだ。
そしてみのりは、アルバイトがお休みの週に2日、赤塚さんのお料理教室に通う様になった。何を作るのかは生徒のリクエスト次第。なのでみのりは、その時々の旬のお野菜を使ったものをとお願いした。
みのりが通い始めたのは6月の初夏だったので、新生姜やズッキーニにパプリカなど。大阪しろ菜も忘れてはならない。
大阪しろ菜はなにわの伝統野菜に指定されている葉物野菜である。江戸時代から栽培が始まり、当時は天満橋付近での栽培が主だったので天満菜とも呼ばれている。
しっかりとした青い葉と白くて太い軸が特徴で、癖や灰汁がほとんど無く、煮物や炒め物に和え物など、いろいろなお料理に合うのだ。
天満橋の最寄り駅は大阪メトロ谷町線、京阪本線と京阪中之島線の天満橋駅。近くに日本円の硬貨を製造する造幣局があり、毎年春に実施される桜の通り抜けが有名である。140種ほど300本以上の桜が圧巻なのだ。
お店を開くとして、みのりはお野菜を使ったお惣菜をたくさん作りたいと思っていた。お肉類や魚介類も人間の身体を作る重要なたんぱく質などが含まれているが、やはりお野菜を多く取って欲しいと思っている。バランスが大事だから。
なのでどうしても題材がお野菜になってしまうのだ。赤塚さんもみのりの意図を汲んでくれて、和洋中問わずいろいろなおしながきを取り入れてくれた。
みのりは貧血で悩まされているが、それを和らげるために必要な食材は、レバやまぐろなどの動物性の食品だ。だがそれだけでは駄目なのだ。鉄の吸収を良くするためのビタミンCや葉酸などだって必要なのだ。
そして、鉄に必要なものばかりを摂っていては、他が疎かになる。だからバランスなのである。
みのりの作るものが少しでも将来のお客さまのためになりますように。そう願いながら、みのりは今日も赤塚さんの指導を受けるのだった。
赤塚さんはしれっとそんなことを言う。自分の容姿の良さを自覚している様だ。あまりにも堂々としていて、いっそ清々しい。
「せやから教室の生徒も女性が多い。それはかまへんねん。俺は料理に関しては中身もあるつもりやから」
それはそうだとみのりも思う。なので「はい」と素直に頷いた。
「生徒が身も心も男性やったら、俺もそこまで気にせぇへん。でも女性やったら距離はきちんと取る様にしとる。物理的にも心理的にも。今村さんはああいう人やから、自然に距離を詰めて来はるし手が出てくる。職業病もあるんやろうな。せやから細心の注意を払う」
赤塚さんは神妙な顔で淡々と語る。みのりは背筋が伸びる様な思いだった。悠ちゃんも真剣な顔で聞いている。
「常盤ちゃんは学校の紹介やし後輩やし、柏木くんもおるから言うけど、ちょっと前にな、トラブルがあって」
話を聞いて、みのりは戦慄した。そんなことがあるのかと。
とある女性の生徒さん。赤塚さんは節度を保って対応していた。だが相手が好意を抱いていたことには気付いていた。だから余計に注意していた。
ある日、告白されたそうだ。付き合って欲しいと。赤塚さんは丁重に断った。赤塚さんにとってその女性はあくまで生徒。それ以上でも以下でも無かったからだ。
するとその女性は、ご両親と警察にこう訴えたのだ。
「料理教室の赤塚先生に乱暴された!」
赤塚さんの元には警察が来た。教室で授業中だったので、本当に焦ったそうだ。だがそのときの生徒さんは奇しくも今村さんで、それは功を奏したらしい。
赤塚さんは必死で無実を説き、今村さんも口添えしてくれた。
だが今の日本はこういう場合、被害者とされる女性の訴えが優先される。それで冤罪も出ているかも知れない。日本はまだまだ男尊女卑の気配が残されていると思わせて、こういった部分では女尊男卑なのだ。
しかし何があったのか、数日後、警察から電話があり、疑いが晴れたと言われたのだ。詳細は聞かされていない。捜査情報などは聞いても教えてくれないだろう。
だから赤塚さんは「これは俺の想像やけどな」と前置きをして話をしてくれた。
ご両親はともかくこうして警察まで巻き込んだところを見ると、もしかしたらあの生徒さんは、これまでもこうしたトラブルを起こして来たのでは無いかと。
もやもやする感情はあるが、警察の事情聴取は数回で済んだことだし、自分を信頼してくれている生徒もいる、そう思って吹っ切ったそうだ。
「せやから今度からこんなことにならん様に、この教室には生徒に内緒で防犯カメラ付けてん。壁に埋め込んで分からん様にな。さすがに自宅に付けるんは抵抗あるからしてへんけど」
「ほな、今も撮影されてるんですか?」
「いや、今は切ってる。教室やってるときだけ、ちゅうか生徒とふたりのときだけな。俺も甘かったわ、マンツーマンやし俺はイケメンやねんから、最悪の事態も考えとかなあかんかったんやわ」
その生徒さんの行動はかなり特殊だとは思うが、男女がひとつの空間にいることのリスクは確かに考えなければならないことなのだろう。だがこの件に関しては、赤塚さんに同情しかできない。
「大変でしたね」
「まぁなぁ、ま、済んだこっちゃ。SNSとかで拡散されんかっただけ全然ましや。目的が俺を貶めることや無くて、責任取れっちゅうことやったんかも知れん。ちゅうことで、常盤ちゃんがうちに通ってくれるんやったら、防犯カメラがちゃんと仕事してくれるから、柏木くんも安心して欲しいわ。いるんやったら毎回の録画送るし」
「いや、さすがにそこまでは」
悠ちゃんが苦笑すると、赤塚さんは「うん」と満足げに頷いた。
「常盤ちゃん、うちは授業料も決して安ぅ無いけど、やり方は見てもろた通りや。考えてもろて、また連絡くれたら嬉しいわ」
「はい」
そう応えながら、みのりの心は決まっていた。この教室に通わせてもらおうと。コーンスープを飲んだだけだが分かる。赤塚さんは素材を活かすお料理をしている。みのりもそういうごはんを作りたい。心や身体が癒され、元気になれるものを作りたい。それがみのりの目標なのだ。
そしてみのりは、アルバイトがお休みの週に2日、赤塚さんのお料理教室に通う様になった。何を作るのかは生徒のリクエスト次第。なのでみのりは、その時々の旬のお野菜を使ったものをとお願いした。
みのりが通い始めたのは6月の初夏だったので、新生姜やズッキーニにパプリカなど。大阪しろ菜も忘れてはならない。
大阪しろ菜はなにわの伝統野菜に指定されている葉物野菜である。江戸時代から栽培が始まり、当時は天満橋付近での栽培が主だったので天満菜とも呼ばれている。
しっかりとした青い葉と白くて太い軸が特徴で、癖や灰汁がほとんど無く、煮物や炒め物に和え物など、いろいろなお料理に合うのだ。
天満橋の最寄り駅は大阪メトロ谷町線、京阪本線と京阪中之島線の天満橋駅。近くに日本円の硬貨を製造する造幣局があり、毎年春に実施される桜の通り抜けが有名である。140種ほど300本以上の桜が圧巻なのだ。
お店を開くとして、みのりはお野菜を使ったお惣菜をたくさん作りたいと思っていた。お肉類や魚介類も人間の身体を作る重要なたんぱく質などが含まれているが、やはりお野菜を多く取って欲しいと思っている。バランスが大事だから。
なのでどうしても題材がお野菜になってしまうのだ。赤塚さんもみのりの意図を汲んでくれて、和洋中問わずいろいろなおしながきを取り入れてくれた。
みのりは貧血で悩まされているが、それを和らげるために必要な食材は、レバやまぐろなどの動物性の食品だ。だがそれだけでは駄目なのだ。鉄の吸収を良くするためのビタミンCや葉酸などだって必要なのだ。
そして、鉄に必要なものばかりを摂っていては、他が疎かになる。だからバランスなのである。
みのりの作るものが少しでも将来のお客さまのためになりますように。そう願いながら、みのりは今日も赤塚さんの指導を受けるのだった。
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