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#27 王都、襲撃!

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「何事だ!」

 響き渡る轟音に国王陛下が声を荒げた途端、サミエルの横で控えていたキャスパが緊迫した声を上げる。

「確認して参ります!」

 そう言ってドアを開けた瞬間、マロがその隙間から一目散に飛び出して行った。

「マロ!?」

「マロさま!」

 サミエルもキャスパも驚いて、その後を走って追い掛ける。ドアのすぐ脇でメイドふたりが抱き合って困惑、そして恐怖の表情を浮かべていた。

「マロ、どうした!」

「この気配は……!」

 サミエルの問い掛けにも全ては応えず、そのままエレベータの前へ。

「下に、外に出ますカピ!」

「わ、解りました!」

 キャスパがエレベータを操作すると、この階にとどまったままだったので、直ぐにドアが開かれる。

 即座に乗り込み、下へ設定。間も無くドアが閉じられ、エレベータが下降し出す。

 その間もマロはドアを睨み付け、落ち着き無さげに前足で足踏みをする。そんなマロに、サミエルとキャスパは顔を見合わせ、眉間をひそめて首を傾げるばかり。

 ……いや、サミエルは薄っすらと感付いている。マロがこうなる理由。それは。

 1階に到着しドアが開くと、またマロが先頭になって走り出す。そして城の外に出て空を見上げると。

「悪魔!」

 そう叫んだ。

 そうだ、カロリーナだ。普段礼儀正しく温厚で、誰にでも可愛がられるマロが怒気をあらわにするのは、カロリーナ、悪魔が関わる時だけだ。

 サミエルとキャスパも見上げると、成る程、結界の外にいるのは間違い無くカロリーナ。そして、悪魔はもう2人いた。

 少女とも言える容姿のカロリーナとは違い大人っぽく、片方は黒いエアラインドレス、真っ直ぐな金髪がさらりと流れていた。

 もうひとりも黒の、こちらはマーメイドラインのドレス。ウエーブ掛かった黒髪がふわりと揺れている。

 羽根は勿論ふたりとも黒い。

 王都の結界はかなり強固で、高位な悪魔でもそう簡単に破れはしない。だがこの王都で1番高い建物は城で、結界は城の屋根ぎりぎりの高さで張られている。

 あまり大きくすると術者にも負担が掛かるので、それは大変に効率的だ。

 仕掛けている悪魔たちはその結界の1番高いところ、要は城の最上階近くにいる。だから城の最上階の食堂にいたサミエルや国王陛下たちへの被害が大きかったのだ。

「何をしているのだカピ! 悪魔!」

 マロが怒鳴ると、カロリーナはけろりとした表情で言った。

「私は何もしていないわよ。私はただ、サミエルの事をお姉さま方に言っただけ。そして今日は城で豪華な食事を作るらしいわよって言っただけ」

「くっ……!」

 マロが悔しげに顔を歪める。サミエルも顔を顰めるしか無く、その横ではキャスパが呆然と天を見上げていた。

「さ、サミエルさま、あれは、あ、悪魔でございますか?」

「そうだ。悪い、俺が厄介ごとを持ち込んじまったみたいだ」

「サミエルさんは悪く無いのですカピ。悪いのはどこまでも厚顔無恥こうがんむちなあの悪魔なのですカピ!」

 マロが叫ぶと、ふたりの女性悪魔はさも可笑しそうにころころと笑い、カロリーナは「何ですって!?」と怒りを表した。

「厚顔無恥って何よ! 本当に腹が立つわね! でももうそんな大きな口を叩いてはいられないわよ。お姉さまたちが来たんだもの、こんな結界すぐに破られるんだから!」

 カロリーナが得意げに言うと、金髪の悪魔が少し困った様に言う。

「でもカロリーナ、この結界はなかなかのものよ~。私たちでもそう簡単には破られないわよ~」

「そうですわ」

 黒髪の悪魔も口を開く。

「少し時間が掛かりますわね。でも、ここを頑張ったら美味しいお食事がいただけるのですから、頑張りますわ」

 そう言うと、ふたりは結界に向かって両のてのひらかざす。するとまた音が響いた。今は外にいるので先程まででは無いが、それでも回りでは城勤めの者たちが不安げ肩を震わせ、表情を固くしている。

「止めろカピ!」

 マロがそう怒鳴るが、そこで「はい解りました」と言う様な相手なら、今こんな事態にはなっていない。

 その時、背後から「マロさま! サミエルさま! キャスパさん!」と高い女性の声が響いた。

 振り返ると、城抱えの祓魔師エクソシスト結界師バリアマスターが息急き切って駆け付けて来た。

「アラン、ブレア、貴方方も是非マロさまに加勢を!」

 アランとブレア、キャスパが発したこの名前がふたりの名前らしい。ブレアははぁはぁと息を荒くして俯き、アランもぜいぜい言いながらも口を開く。このふたりはどうやらあまり体力が無い様だ。

「も、勿論です。お、お城の最上階に、お、お出でください。あ、あの、バルコニーがございます!」

 するとブレアもまだ整わない息の中、言葉を発した。

「そ、そこからでしたら、あの悪魔たちからの近いところから撃退、出来ます」

「解りましたカピ!」

 言うや否や、マロはまた駆け出して行き、サミエルとキャスパも続く。アランとブレアも走ろうとしたが、体力が戻らないのでどうしても遅れた。

「貴方方はご自分のペースで! バルコニーではしっかりとお仕事をしていただきますよ!」

「は、はい!」

「はいー!」

 ふたりの振り絞った声の返事を尻目に、サミエルたちは城に走る。

 1階に止まったままのエレベータに乗り込み最上階へ。食堂までまた駆ける。そしてノックをする間も惜しく、キャスパはドアを開け放った。

「国王陛下! ご無礼をおゆるしください!」

 そう叫ぶ様に言い、バルコニーへのドアへ足を早め、サミエルとマロも続く。バルコニーに出て上を見ると、確かにカロリーナたちとの距離はぐんと縮まった。

 その時、また轟音が響く。食堂からは「きゃあ!」「わぁ!」と悲鳴が届いた。

「もう少しかしら~?」

 金髪の悪魔のそんな台詞を受け、マロは右の前足を上げて宙に五芒星を描いた。すると「あら?」と黒髪の悪魔。

「結界の力が強まりましたわ。あら、あのカピバラが祓魔師ですのね。それもとても力の強い」

「そうね~。あの祓魔師相手なら、カロリーナなんて赤子同然よね~」

「お姉さまっ!」

 揶揄からかう様に言うふたりの悪魔に、カロリーナがとがめる様な声を上げる。

 ここでアランとブレアが追い付いて来た。

「アランさん、貴方が結界師ですカピね? 最大限結界を強めてくださいカピ!」

「は、はい!」

 アランが大至急息を整え、上空に両手を翳す。

「あら、また結界が強くなったわね~」

 金髪の悪魔の呟きに、アランが更に力を込める。

「このまま持久戦に持ち込む気はありませんカピ。ブレアさん、僕と力の出力を合わせて欲しいのですカピ!」

「はい! マロさまのお力に及ぶか判りませんが、頑張ります!」

 そしてマロとブレアがほぼ同時に五芒星を描く。するとまた結界が強まったのか、悪魔ふたりが渋面じゅうめんを作った。

「お姉さま?」

「これはなかなか厄介ですわよ。流石王都の結界ですわね」

「そうねぇ~」

「お姉さま方なら大丈夫よ!」

 これはなかなか優勢なのでは無いか? サミエルが僅かに頬を緩めてマロを見ると、マロは固い表情のままカロリーナたちを見つめている。

「これでは駄目ですカピ……」

 マロは呟くと、ブレアに向き直る。

「ブレアさん貴方、力の調整装置を付けていますカピね?」

「あ、はい。私は出力が不安定なので、安定させる為に付けています。なので最大が下がってしまっているのです」

「なら……」

 マロは一瞬考え込む様に眼を伏せるが、顔を上げて叫んだ。

「王女さま! 恐れながらお力をお貸しいただきたいのですカピ!」

「え、え? わ、私?」

 思ったより近くから声が聞こえたので驚いて振り返ると、好奇心をちらつかせながらも不安げな表情の国王陛下に背後から抑えられながら、好奇心を全面に露わしてこちらに来たがる様に前のめりになっている王女が、きょとんとした表情になった。

「王女さまは、他の能力者の能力を増幅させる事が出来る能力をお持ちですカピね?」

「あ、ああ、そうだ」

 代わりに応えたのは国王陛下だった。

「王族は可能性や片鱗へんりんの有無に関わらず、必ず能力測定者に見て貰う。確かにこのマリーアンジェは能力増幅の能力者だ。良く判ったな、マロよ」

「先程王女さまに撫でていただいた時に、自身の力の増幅を感じたのですカピ。なのでもしかしたらと思ったのですカピ。王女さま、ブレアさんの身体のどこでも良いですカピ、触れてくださいカピ!」

「そ、それであの怖い悪魔たちがいなくなるのかしら?」

「そうですカピ」

「なら勿論力をお貸しするわ! れるのはどこでも良いのかしら?」

「はいカピ」

 国王陛下の力が弱まった隙を付いて、王女がブレアの腰にしがみ付いた。国王陛下も後を追い、王女を守る様に両肩に手を乗せる。

「お、王女さま、恐れ入ります!」

 ブレアの声が上擦うわずった。

「大丈夫ですわブレア。存分にその力をふるってくださいな」

 王女は顔を紅潮させ、眼を輝かせている。興奮している様だ。関わる事が出来て嬉しいのだろう。先程もこちらに来たがっていたのだから。怖いもの知らずなのか。

「有難きお言葉でございます。力がみなぎって参ります!」

 ブレアが嬉しそうに口角を上げる。

「ブレアさん、同時に術を掛けますカピ。せぇので、良いですカピか?」

「はい、いつでもどうぞ!」

「では行きますカピ。せぇの!」

 マロの合図で、マロとブレアはほぼ同時に五芒星を描いた。すると。

「きゃっ!」

「きゃあ!」

「きゃん!」

 カロリーナたちの周りに稲妻の様な黄色い光がほとばしり、悲鳴とともに身体が大きく弾かれ、その姿は彼方に消えて行った。

 瞬間、しん、と音が聞こえるかの様な静寂が訪れる。

「お、終わった、のか?」

 サミエルがそろりと言うと、マロが息を吐きながら応えた。

「はいカピ。もう大丈夫ですカピ。さてあの悪魔、どうしてくれようカピか」

 あ、カロリーナ死亡のお知らせ。眼を尖らせたマロの台詞に、サミエルの頭の中にそんな言葉が浮かんだ。
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