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#18 さようなら故郷、こんにちは隣村
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朝、サミエルはまたモリアに起こされる。
「兄さん起きて! 朝ご飯!」
こいつの頭の中には飯の事しか無いのか。サミエルはそんな事を思いながら、開かない眼を擦った。
「ほらほら、兄さん今日村を出るんでしょ? 食べ納めご飯、楽しみにしてるんだからね」
「ん~……」
呻きながらのっそりと上半身を起こす。眼はまだいまいち開かない。
「ほーらー兄さん! しっかり起きて!」
両肩を掴まれて揺さ振られる。寝起きの頭にはきつかった。
「解った……解ったから揺らすな……」
ガクガクと震える声で言うと、モリアはにっこりと笑って解放してくれた。
「早くね!」
明るく言うと、モリアは部屋を出て行った。
「お、おはようございますカピ」
「おはよう……」
既にしゃっきりと起きているマロの挨拶。それに応えるサミエルの声はまだぼんやりしていた。
「起きなきゃな……」
言いながら首を振ると、幾分か頭がはっきりとして来る。サミエルはもぞもぞとベッドから足を下ろした。
モリアに期待されようが何だろうが、朝のサミエルはろくに頭が働かない。それでも一応努力はする。
鍋にオリーブオイルを引き、スライスした玉葱に塩を振って、飴色になるまで中火で手早く炒める。
そこに水を入れて、沸いたらブイヨン顆粒を入れ、くつくつと煮込む。
次に小麦粉、卵、砂糖、ミルクを混ぜ合わせ、オリーブオイルを引いたフライパンで丸く焼いておく。それを数枚。
フライパンの汚れを拭い、オリーブオイルを引いて目玉焼きを焼いて行く。
また同じフライパンを使う。汚れを取って、あらためてオリーブオイルを引き、にんにくの微塵切りをじっくり炒め、香りが立ったらアンチョビとブラックオリーブの粗微塵切りを加えて、更に炒める。少量のビネガーで味を締めて。
皿に小麦粉を焼いたものを乗せ、上に目玉焼きを盛り、そこにブラックオリーブのソースを掛け、レタスを添える。
玉葱の鍋は塩と胡椒、バターで調味して。
目玉焼きとブラックオリーブソースのパンケーキ、オニオンスープの朝ご飯の出来上がり。
「やったぁ! パンケーキ!」
モリアが歓声を上げる。両親も「おお」と皿を覗き込む。
「モリア、これで勘弁してくれ」
サミエルが言うと、モリアは嬉しそうに「勿論!」と笑顔。
「じゃあいただこうか。今朝も美味しそうだ」
父親が言い、皆で手を合わせる。
「いただきます」
早速フォークで目玉焼きの黄身を割る。とろりと半熟状の黄身をふっくらと焼きあがった白身に纏わせ、ブラックオリーブソース、パンケーキを合わせて口に入れる。
ブラックオリーブのコク、アンチョビの塩気、卵の甘さが一体になって味わい深い。甘さを控えたパンケーキに良く合っている。
「やっぱり美味し~い!」
「また暫くサミエルのご飯が食べられなくなるのね~」
「今夜から母さんのご飯で我慢かぁ」
「何を言うんだ。母さんのご飯だって旨いじゃ無いか」
「あらやだ、サミエルには負けるのよね~」
そんな事を言いながら口を動かしている両親たち。マロも嬉しそうに皿に向かっている。
「美味しいですカピ!」
「そりゃあ良かった」
自分でも良い出来だと思う。まずモリアの課題をクリア出来た事は良しとしよう。食べ物の恨みは恐ろしいのだ。
父親とモリアが出掛けて行き、朝食の片付けを母親に任せ、サミエルは出立の準備。
出来たらトランクを担いでリビングへと降りた。
「母さん、そろそろ行くよ」
「あらぁ。気を付けてね」
「おう。次はそんな開かずに帰って来るよ。あ、食材少し貰ってって良いか? 今日の昼用」
「良いわよ。あ、そうだわ、言うの忘れてた。思い出して良かったわ~」
「何?」
サミエルが食材庫などを物色しながら応える。
「電話を引く事にしたのよ~。明日には工事に来てくれる筈よ」
「お、そうなんだ」
この世界の電話普及率はそう高くは無い。導入しない理由の主たるものは「面倒」「無くても困らない」からだ。
サミエルの実家もこれまで入れなかったのはそう言った訳だったのだが。
「電話入れたら、兄さんと連絡しやすくなるんじゃない?」
モリアのこの一言で、設置を決めた。
「だから、気が向いたら電話ちょうだいよ」
「おう」
電話は、受話器を上げたらまず交換代に繋がり、そこで住所と名前を伝えて、目的の場所に繋いで貰うのだ。
「じゃ、行ってくるわ」
「お邪魔しましたカピ」
サミエルが手を振り、マロが礼儀正しくお辞儀をすると、母親も手を振って見送ってくれた。
「は~い、行ってらっしゃ~い。マロくんもまた帰って来てね~」
「は、はいカピ!」
母親の言葉に、マロが嬉しそうに眸を輝かせた。
次の村に行くまでの馬車を借りる。また小型の馬車だ。餌の人参を買って。
後ろにトランクとマロを乗せ、サミエルは操縦席に着いて、さぁ出発だ。
茶色いサクと言う名の馬が引く馬車は、順調に進んでいる。
昼になった頃、馬車を止めて昼食の準備をする。
実家で貰って来た食材を使って、簡単に手早く。
食パンにマスタードを塗り、豚肉の塩漬けのスライスとゴーダチーズ、レタスを挟んでサンドイッチを作った。
「簡単なもので悪いな」
「とんでも無いですカピ。とても美味しいですカピ!」
マロは嬉しそうにがっついている。サミエルも一口。ぴりりとしたマスタード、塩漬けとは言えまろやかな豚の味がして、ゴーダチーズのコク、しゃきしゃきレタスのアクセント。
間違いの無い組み合わせである。とても美味しい。
サクにも人参と水をやって。
またトコトコと進む馬車。途中休憩を入れながら、マカロワの村に無事到着した。早い目に実家を出たからか、まだ陽は落ちていない。
馬車を返し、まずは宿を取る。いつも世話になっている宿に行くと、キッチン付きの部屋は空いていて、当然の様にそこを借りた。
マロを連れトランクを引いてエレベータに乗って3階に到着。部屋はすぐそこである。
荷物を置いて一息着くと、サミエルは声を上げた。
「よっしゃ、じゃあ晩飯の買い物に行くか!」
「はいカピ」
サミエルはマロをバッグに入れて肩に担ぎ、市場へと向かった。
「今夜は移動疲れもあるから、手軽なものな」
キッチンに立つサミエルは、鍋に湯を沸かして塩を入れ、タリアテッレを茹で始める。
フライパンにオリーブオイルを引き、小振りの一口大にカットして塩と白ワインで下味を付けた鶏肉を炒める。
炒まったら、ざく切りにして水で灰汁抜きをしたほうれん草を入れ、更に炒める。
ほうれん草がしんなりしたら、タリアテッレの茹で汁を加え、鍋底に付いた旨味を刮げながら少し煮詰めて。
ミルクと生クリームを加える。塩と粒の黒胡椒、擂り下ろしたパルミジャーノ・レッジャーノで調味をして。
茹で上がったタリアテッレを入れて、良く絡める。
鶏肉とほうれん草のクリームパスタ、出来上がり。
そしてそのタイミングでやって来るのがカロリーナなのである。
「来てあげたわ!」
「本当にお前さん、毎度毎度タイミング良いなぁ」
「あらそうなの? いつも来られる時間に来ているだけなんだけど」
言いながら、椅子に掛ける。マロは無表情、そして無言。
「それより食事よ! 今日も良い匂いね」
「はいよ、どうぞ」
器に盛ったパスタをカロリーナ、そしてマロの前に置いてやる。
「いただくわ」
「いただきますカピ」
カロリーナは早速フォークを手に。マロも皿に顔を埋める。
競う様に口に運んで。
「美味し~い!」
「美味しいですカピ!」
そう歓声を上げるふたりを横目に、サミエルも一口。
ソースにはミルクだけでは無く生クリームも使っているので、しっかりと濃く、パルミジャーノ・レッジャーノがコクを生み出す。
鶏肉はふっくらと、ほうれん草はしっとりと仕上がっていた。クリームソースに良く合っている。
粒の黒胡椒が良いアクセントになっている。
「ところでサミエル、次の営業はいつなのかしら?」
「明日か明後日かな。ま、明日次第だな」
「そう。ま、仕方が無いわ、また探してあげるわよ」
「そうしてくれ」
ぽつりぽつりと会話をしつつ、眼の前の器に熱中しながら、食事を進めて行った。
「兄さん起きて! 朝ご飯!」
こいつの頭の中には飯の事しか無いのか。サミエルはそんな事を思いながら、開かない眼を擦った。
「ほらほら、兄さん今日村を出るんでしょ? 食べ納めご飯、楽しみにしてるんだからね」
「ん~……」
呻きながらのっそりと上半身を起こす。眼はまだいまいち開かない。
「ほーらー兄さん! しっかり起きて!」
両肩を掴まれて揺さ振られる。寝起きの頭にはきつかった。
「解った……解ったから揺らすな……」
ガクガクと震える声で言うと、モリアはにっこりと笑って解放してくれた。
「早くね!」
明るく言うと、モリアは部屋を出て行った。
「お、おはようございますカピ」
「おはよう……」
既にしゃっきりと起きているマロの挨拶。それに応えるサミエルの声はまだぼんやりしていた。
「起きなきゃな……」
言いながら首を振ると、幾分か頭がはっきりとして来る。サミエルはもぞもぞとベッドから足を下ろした。
モリアに期待されようが何だろうが、朝のサミエルはろくに頭が働かない。それでも一応努力はする。
鍋にオリーブオイルを引き、スライスした玉葱に塩を振って、飴色になるまで中火で手早く炒める。
そこに水を入れて、沸いたらブイヨン顆粒を入れ、くつくつと煮込む。
次に小麦粉、卵、砂糖、ミルクを混ぜ合わせ、オリーブオイルを引いたフライパンで丸く焼いておく。それを数枚。
フライパンの汚れを拭い、オリーブオイルを引いて目玉焼きを焼いて行く。
また同じフライパンを使う。汚れを取って、あらためてオリーブオイルを引き、にんにくの微塵切りをじっくり炒め、香りが立ったらアンチョビとブラックオリーブの粗微塵切りを加えて、更に炒める。少量のビネガーで味を締めて。
皿に小麦粉を焼いたものを乗せ、上に目玉焼きを盛り、そこにブラックオリーブのソースを掛け、レタスを添える。
玉葱の鍋は塩と胡椒、バターで調味して。
目玉焼きとブラックオリーブソースのパンケーキ、オニオンスープの朝ご飯の出来上がり。
「やったぁ! パンケーキ!」
モリアが歓声を上げる。両親も「おお」と皿を覗き込む。
「モリア、これで勘弁してくれ」
サミエルが言うと、モリアは嬉しそうに「勿論!」と笑顔。
「じゃあいただこうか。今朝も美味しそうだ」
父親が言い、皆で手を合わせる。
「いただきます」
早速フォークで目玉焼きの黄身を割る。とろりと半熟状の黄身をふっくらと焼きあがった白身に纏わせ、ブラックオリーブソース、パンケーキを合わせて口に入れる。
ブラックオリーブのコク、アンチョビの塩気、卵の甘さが一体になって味わい深い。甘さを控えたパンケーキに良く合っている。
「やっぱり美味し~い!」
「また暫くサミエルのご飯が食べられなくなるのね~」
「今夜から母さんのご飯で我慢かぁ」
「何を言うんだ。母さんのご飯だって旨いじゃ無いか」
「あらやだ、サミエルには負けるのよね~」
そんな事を言いながら口を動かしている両親たち。マロも嬉しそうに皿に向かっている。
「美味しいですカピ!」
「そりゃあ良かった」
自分でも良い出来だと思う。まずモリアの課題をクリア出来た事は良しとしよう。食べ物の恨みは恐ろしいのだ。
父親とモリアが出掛けて行き、朝食の片付けを母親に任せ、サミエルは出立の準備。
出来たらトランクを担いでリビングへと降りた。
「母さん、そろそろ行くよ」
「あらぁ。気を付けてね」
「おう。次はそんな開かずに帰って来るよ。あ、食材少し貰ってって良いか? 今日の昼用」
「良いわよ。あ、そうだわ、言うの忘れてた。思い出して良かったわ~」
「何?」
サミエルが食材庫などを物色しながら応える。
「電話を引く事にしたのよ~。明日には工事に来てくれる筈よ」
「お、そうなんだ」
この世界の電話普及率はそう高くは無い。導入しない理由の主たるものは「面倒」「無くても困らない」からだ。
サミエルの実家もこれまで入れなかったのはそう言った訳だったのだが。
「電話入れたら、兄さんと連絡しやすくなるんじゃない?」
モリアのこの一言で、設置を決めた。
「だから、気が向いたら電話ちょうだいよ」
「おう」
電話は、受話器を上げたらまず交換代に繋がり、そこで住所と名前を伝えて、目的の場所に繋いで貰うのだ。
「じゃ、行ってくるわ」
「お邪魔しましたカピ」
サミエルが手を振り、マロが礼儀正しくお辞儀をすると、母親も手を振って見送ってくれた。
「は~い、行ってらっしゃ~い。マロくんもまた帰って来てね~」
「は、はいカピ!」
母親の言葉に、マロが嬉しそうに眸を輝かせた。
次の村に行くまでの馬車を借りる。また小型の馬車だ。餌の人参を買って。
後ろにトランクとマロを乗せ、サミエルは操縦席に着いて、さぁ出発だ。
茶色いサクと言う名の馬が引く馬車は、順調に進んでいる。
昼になった頃、馬車を止めて昼食の準備をする。
実家で貰って来た食材を使って、簡単に手早く。
食パンにマスタードを塗り、豚肉の塩漬けのスライスとゴーダチーズ、レタスを挟んでサンドイッチを作った。
「簡単なもので悪いな」
「とんでも無いですカピ。とても美味しいですカピ!」
マロは嬉しそうにがっついている。サミエルも一口。ぴりりとしたマスタード、塩漬けとは言えまろやかな豚の味がして、ゴーダチーズのコク、しゃきしゃきレタスのアクセント。
間違いの無い組み合わせである。とても美味しい。
サクにも人参と水をやって。
またトコトコと進む馬車。途中休憩を入れながら、マカロワの村に無事到着した。早い目に実家を出たからか、まだ陽は落ちていない。
馬車を返し、まずは宿を取る。いつも世話になっている宿に行くと、キッチン付きの部屋は空いていて、当然の様にそこを借りた。
マロを連れトランクを引いてエレベータに乗って3階に到着。部屋はすぐそこである。
荷物を置いて一息着くと、サミエルは声を上げた。
「よっしゃ、じゃあ晩飯の買い物に行くか!」
「はいカピ」
サミエルはマロをバッグに入れて肩に担ぎ、市場へと向かった。
「今夜は移動疲れもあるから、手軽なものな」
キッチンに立つサミエルは、鍋に湯を沸かして塩を入れ、タリアテッレを茹で始める。
フライパンにオリーブオイルを引き、小振りの一口大にカットして塩と白ワインで下味を付けた鶏肉を炒める。
炒まったら、ざく切りにして水で灰汁抜きをしたほうれん草を入れ、更に炒める。
ほうれん草がしんなりしたら、タリアテッレの茹で汁を加え、鍋底に付いた旨味を刮げながら少し煮詰めて。
ミルクと生クリームを加える。塩と粒の黒胡椒、擂り下ろしたパルミジャーノ・レッジャーノで調味をして。
茹で上がったタリアテッレを入れて、良く絡める。
鶏肉とほうれん草のクリームパスタ、出来上がり。
そしてそのタイミングでやって来るのがカロリーナなのである。
「来てあげたわ!」
「本当にお前さん、毎度毎度タイミング良いなぁ」
「あらそうなの? いつも来られる時間に来ているだけなんだけど」
言いながら、椅子に掛ける。マロは無表情、そして無言。
「それより食事よ! 今日も良い匂いね」
「はいよ、どうぞ」
器に盛ったパスタをカロリーナ、そしてマロの前に置いてやる。
「いただくわ」
「いただきますカピ」
カロリーナは早速フォークを手に。マロも皿に顔を埋める。
競う様に口に運んで。
「美味し~い!」
「美味しいですカピ!」
そう歓声を上げるふたりを横目に、サミエルも一口。
ソースにはミルクだけでは無く生クリームも使っているので、しっかりと濃く、パルミジャーノ・レッジャーノがコクを生み出す。
鶏肉はふっくらと、ほうれん草はしっとりと仕上がっていた。クリームソースに良く合っている。
粒の黒胡椒が良いアクセントになっている。
「ところでサミエル、次の営業はいつなのかしら?」
「明日か明後日かな。ま、明日次第だな」
「そう。ま、仕方が無いわ、また探してあげるわよ」
「そうしてくれ」
ぽつりぽつりと会話をしつつ、眼の前の器に熱中しながら、食事を進めて行った。
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