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2章 ただ純粋だっただけ
第15話 一件落着です
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冬暉と夕子は捕り物のすぐ後、里中家の車に前原を押し込んで警察署に向かった。冬暉含め担当の警察官は就業時間外だったので、ふたりは前原をとりあえず留置場に放り込んだ。
「取り調べは明日からな。速水さんから被害届け出されてっから。こっからどうなるんかはそれ次第な。ま、一晩そこで反省しててくれや」
冬暉が言うと、それまですっかり消沈していた前原が噛み付いた。
「被害届けってどういう事ですか」
「どうゆう事も何も、その通りや。速水さんはおめぇからストーカー行為を受けてたんだからよ」
「俺はストーカーなんてしてへん!」
前原は憤慨するが、冬暉は素っ気なく言い放った。
「おめぇがどう思ってようが、おめぇのやってた事はどう見たかてストーカーやっての」
「ちゃう!」
「あー、話はまた明日な。他にも人おんねんから、大人しくしとってくれや」
冬暉はそう言い残すと、顔を真っ赤にして怒る前原を後目に留置場から出て行った。
さて朝が訪れ、シュガーパインは通常通り開店する。前夜に一騒動あり、後片づけを放ったらかしにしたまま店を空けたわけだが、今日は土曜日、書き入れ時だ。平日でも無いのに臨時休業などとんでも無い。いや平日であってもできるだけしたくないのだが。
春眞と秋都、茉夏は昨夜シュガーパインに戻るやいなや、一息入れる間も無く後片づけを始めた。遅くなった分睡眠時間が削られてしまったわけだが、眠たい顔でお客さまの前に出るわけにはいかない。春眞などはしゃんとしなければと何度も冷たい水で顔を洗った。
その日の閉店後、速水さんがやって来た。もうストーカーの驚異は去ったので、春眞と冬暉のお送りも必要無いのだが。
「あらためてお礼がしたくて。ほんまにどうもありがとうございました!」
昨日の捕り物の結果は、昨日のうちに速水さんにお伝え済みだった。冬暉と夕子が警察署に行った後、春眞と秋都、茉夏は速水さんの部屋を訪ねたのだ。走ったせいで喉が乾いていたので、出してもらった冷たいペットボトルの緑茶がありがたかった。
速水さんは手にしていた紙袋の中身を取り出し、カウンタから出て来た秋都に差し出した。百貨店に入っている、有名和菓子屋のものだった。時間的に、お昼休憩などにわざわざ買って来てくれたのだろうか。
「お口に合えばええんですけど」
「まぁ~、ありがとう! 気を遣ってもらっちゃってごめんなさいね~」
春眞たちは片付けの手を止めて、速水さんの謝辞を謹んで受け入れた。こちらとしては大したことをした認識は無いのだが、速水さんが本当に嬉しそうに礼を尽くすものだから、こちらも嬉しくなってしまう。もう安全だ、その事実が速水さんをこうさせているのだろう。
「良かったら今度はお客さまとして来てちょうだいね~。お友だち価格でサービスするわよ~」
シュガーパインの親族・お友だち価格は2割引きである。ちなみにそれがどこまで適用されるかは、秋都の匙加減に寄る。
「ありがとうございます。あ、あの、実は今日山崎くんからメールをもろて、あれからどうなったかって。その流れで今度逢おうて事になりまして。私の仕事が落ち着いたらになるんですけど、一緒にお邪魔してもええですか?」
「勿論よ~、お待ちしているわ~。あ、山崎くんには写真のお礼もしなきゃね!」
そうして速水さんは、何度も頭を下げながら帰って行った。
「そっか、山崎さんと逢うんか。よりでも戻すんやろか?」
「どうやろ。でもまぁ、そうなったらなったでめでたいやんね!」
「そうね~。今度来られた時にチェックしてみましょ~」
ゴシップめいた話題にやや沸いた後、春眞たちはまた後片づけに戻って行った。
速水さんは、前原に対する被害届けを取り下げた。初犯だったと言うことと、行為が比較的軽度だったと言うこと、そして前原の行為で速水さんが怖がって迷惑していた事を冬暉経由で伝えると、「そんなつもりは無かった」と深く反省したことからだ。
とは言えお咎め無しと言うわけにはいかない。あの捕り物の翌日に事情聴取した上で釈放したが、逮捕という形になってしまったので、書類送検と相成った。
前原はカワカミリースを依願退職した。前科は付かなかったものの、流石に逮捕となると会社側も穏やかではいられなかった様だ。この話は山崎さんから聞いた。お仕事の外出の途中で「近くまで来たんで」とわざわざ寄ってくれたのだった。
この一件は、これにて一応の終わりを見せた。
速水さんの帰宅は安全になり、シュガーパインに寄る事はなくなった。が、時折ガラス越しに目が合う事があり、その時は小さな会釈を交わす。
その内の何回かは山崎さんと一緒で、春眞たちはついにんまりとしてしまう。本当によりを戻したのかも知れない。これでますます速水さんは安全になるのでは無いだろうか。
こうした諸々を受け止めながら、シュガーパインは通常通り開店する。
ほぼ開店と同時に、1組目のお客さまが来店された。
「いらっしゃいませ!」
今日もまた、忙しい1日が始まる。
「取り調べは明日からな。速水さんから被害届け出されてっから。こっからどうなるんかはそれ次第な。ま、一晩そこで反省しててくれや」
冬暉が言うと、それまですっかり消沈していた前原が噛み付いた。
「被害届けってどういう事ですか」
「どうゆう事も何も、その通りや。速水さんはおめぇからストーカー行為を受けてたんだからよ」
「俺はストーカーなんてしてへん!」
前原は憤慨するが、冬暉は素っ気なく言い放った。
「おめぇがどう思ってようが、おめぇのやってた事はどう見たかてストーカーやっての」
「ちゃう!」
「あー、話はまた明日な。他にも人おんねんから、大人しくしとってくれや」
冬暉はそう言い残すと、顔を真っ赤にして怒る前原を後目に留置場から出て行った。
さて朝が訪れ、シュガーパインは通常通り開店する。前夜に一騒動あり、後片づけを放ったらかしにしたまま店を空けたわけだが、今日は土曜日、書き入れ時だ。平日でも無いのに臨時休業などとんでも無い。いや平日であってもできるだけしたくないのだが。
春眞と秋都、茉夏は昨夜シュガーパインに戻るやいなや、一息入れる間も無く後片づけを始めた。遅くなった分睡眠時間が削られてしまったわけだが、眠たい顔でお客さまの前に出るわけにはいかない。春眞などはしゃんとしなければと何度も冷たい水で顔を洗った。
その日の閉店後、速水さんがやって来た。もうストーカーの驚異は去ったので、春眞と冬暉のお送りも必要無いのだが。
「あらためてお礼がしたくて。ほんまにどうもありがとうございました!」
昨日の捕り物の結果は、昨日のうちに速水さんにお伝え済みだった。冬暉と夕子が警察署に行った後、春眞と秋都、茉夏は速水さんの部屋を訪ねたのだ。走ったせいで喉が乾いていたので、出してもらった冷たいペットボトルの緑茶がありがたかった。
速水さんは手にしていた紙袋の中身を取り出し、カウンタから出て来た秋都に差し出した。百貨店に入っている、有名和菓子屋のものだった。時間的に、お昼休憩などにわざわざ買って来てくれたのだろうか。
「お口に合えばええんですけど」
「まぁ~、ありがとう! 気を遣ってもらっちゃってごめんなさいね~」
春眞たちは片付けの手を止めて、速水さんの謝辞を謹んで受け入れた。こちらとしては大したことをした認識は無いのだが、速水さんが本当に嬉しそうに礼を尽くすものだから、こちらも嬉しくなってしまう。もう安全だ、その事実が速水さんをこうさせているのだろう。
「良かったら今度はお客さまとして来てちょうだいね~。お友だち価格でサービスするわよ~」
シュガーパインの親族・お友だち価格は2割引きである。ちなみにそれがどこまで適用されるかは、秋都の匙加減に寄る。
「ありがとうございます。あ、あの、実は今日山崎くんからメールをもろて、あれからどうなったかって。その流れで今度逢おうて事になりまして。私の仕事が落ち着いたらになるんですけど、一緒にお邪魔してもええですか?」
「勿論よ~、お待ちしているわ~。あ、山崎くんには写真のお礼もしなきゃね!」
そうして速水さんは、何度も頭を下げながら帰って行った。
「そっか、山崎さんと逢うんか。よりでも戻すんやろか?」
「どうやろ。でもまぁ、そうなったらなったでめでたいやんね!」
「そうね~。今度来られた時にチェックしてみましょ~」
ゴシップめいた話題にやや沸いた後、春眞たちはまた後片づけに戻って行った。
速水さんは、前原に対する被害届けを取り下げた。初犯だったと言うことと、行為が比較的軽度だったと言うこと、そして前原の行為で速水さんが怖がって迷惑していた事を冬暉経由で伝えると、「そんなつもりは無かった」と深く反省したことからだ。
とは言えお咎め無しと言うわけにはいかない。あの捕り物の翌日に事情聴取した上で釈放したが、逮捕という形になってしまったので、書類送検と相成った。
前原はカワカミリースを依願退職した。前科は付かなかったものの、流石に逮捕となると会社側も穏やかではいられなかった様だ。この話は山崎さんから聞いた。お仕事の外出の途中で「近くまで来たんで」とわざわざ寄ってくれたのだった。
この一件は、これにて一応の終わりを見せた。
速水さんの帰宅は安全になり、シュガーパインに寄る事はなくなった。が、時折ガラス越しに目が合う事があり、その時は小さな会釈を交わす。
その内の何回かは山崎さんと一緒で、春眞たちはついにんまりとしてしまう。本当によりを戻したのかも知れない。これでますます速水さんは安全になるのでは無いだろうか。
こうした諸々を受け止めながら、シュガーパインは通常通り開店する。
ほぼ開店と同時に、1組目のお客さまが来店された。
「いらっしゃいませ!」
今日もまた、忙しい1日が始まる。
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