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1章 あらたなる挑戦
第13話 お勉強のために
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社会人になってから初めての週末、日曜日。春の陽気というのだろうか、やわらかな陽射しと風が気持ち良い。
家で万里子の昼ごはんを食べ、天王寺に移動した紗奈は、どの本屋から行くのが効率が良いかと頭を巡らす。結果、近いところから行こうとあべのハルカスの近鉄本店に向かった。
ここには広大なジュンク堂書店が入っている。何列もの木製の棚に膨大な書籍が詰め込まれ、新刊や比較的新しいと思しきものは表紙を表にして大量に積まれている。その様は圧巻である。店内に足を踏み入れて、案内板を見ながら料理書コーナーに向かった。
どの本が良いのか、一応下調べしておいた。口コミや記事でのおすすめなどをスマートフォンのメモ機能に綴っている。そこまでしたのなら電子書籍やネットショップで買えば良いのだろうが、紗奈は中身を見てから買いたかった。
自分のレベルに合った本で無ければ意味が無い。初歩や基本から応用まで、分かりやすく書かれているかどうかが大事だった。
昨日の土曜日は雪哉さんとデートだった。その時にお料理部の話をしたら「おもしろいなぁ」と笑っていた。紗奈が料理の本を買うつもりだと言うと、付き合おうかと申し出てくれたのだが、紗奈の都合であちらこちらの書店を連れ回すのも申し訳無いので、嬉しかったが丁重に断った。
「ええ本が買えるとええな」
「はい」
「でも紗奈が料理かぁ。巧くできる様になったらええな。そしたら家で手伝いとかするん?」
「それはどうでしょ。うちはお母さんが全部やってくれますからねぇ。ほんまに感謝ですよ」
「まぁ、そうか」
ジュンク堂の次は、MIOの紀伊国屋書店。その後にはあべのアポロの喜久屋書店にも足を伸ばした。そうして「初心者」「初めての」「簡単」「お手軽」などのワードが入った料理本を片っぱしから漁った。
戦利品が入ったずっしりとしたサブバッグを片手に、他に大きな本屋さんは無かっただろうかと考え、思い出したのは蔦屋書店。しかし今いるあべのベルタからは少し億劫な距離だった。
だが行かなければ後悔する気がして、紗奈は気合いを入れ直す。今日はたくさん歩くつもりで足元は黒のスニーカーだ。服装もピンクのチュニックとネイビーのサブリナパンツといった活動的なものだった。
ああ、そう言えばMIOのプラザ館にも大きめの本屋さんがあったのでは無いか。こう何軒も巡るとさすがに面倒だとも思ってしまうが、何せ新刊でも無い限り、品揃えが本屋さんによって違うのだ。
いろいろ見て回ったところ、どうやらお料理にも多少の流行がある様だ。だがきっと基本の皮剥きや切り方などは今も昔は変わらないだろう。紗奈が特に知りたいのはそういうことなので、ここは惜しんではいけない。
(がんばろう)
紗奈は心の中で呟くと、気合いを入れる様に大股で1歩を踏み出した。
何冊もの料理本を買い込んだ紗奈は、家に帰り着いてから晩ごはんまでの間に、リビングのソファでそれを貪る様に読んだ。まずは知識だけでも取り入れなければと必死である。
洗濯物をたたんでいた万里子はそんな紗奈を見て、意外そうに目を丸めた。
「あらま、ほんまに料理しようと頑張ってるんやねぇ」
「言うたやん。この前私、お料理部の当番になって、教えてもらいながらの手伝いやったけど、お料理したんやで」
「言うてたね。楽しかった?」
「分からん。いっぱいいっぱいやったから、そんなん感じる余裕無かったわ」
「あらま。まぁ、やってたらその内慣れるわ」
牧田さんも岡薗さんもそう言ってくれたが。
「なぁ、お母さんもお料理初心者の時があったやんねぇ。最初はやっぱり巧くできひんかったりした?」
「そりゃあねぇ。お母さんは結婚決まってからお母さん、あんたからしたらお祖母ちゃんに教えてもらったんやけどね。みじん切りとか小口切りとかできるにはできたけど、不揃いで凄っごい遅かったわ。せやからやっぱり料理は慣れやね。味付けも、何も料理人になれって言うわけや無いんやから、それなりに美味しく食べられたらええんよ。それこそそんだけ本があるんやから、レシピ通りに作ったらええねん。そしたらそのうち目分量でも作れる様になれるやろうから」
「お母さんも最初はレシピ通りやったん?」
「レシピっちゅうか、お祖母ちゃんに言われた通りやな。まぁせやから目分量みたいなもんやったけどな。お醤油ひと回しとかな。自分ひとりでやる様になったら、少し辛かったり甘かったりもあったけど、だんだん自分の味みたいなのが作れる様になったわ」
万里子にもそんなお料理時代があったのか。紗奈は少し安心する。なら紗奈だってきっとできる様になるはずだ。なにせ万里子の娘なのだから。
「さ、ほなお母さんは晩ごはんの支度しようかな」
洗濯物をたたみ終えた万里子は立ち上がり、紗奈はまた本に向き直った。
数日が経ち、また紗奈のお料理部当番の日がやって来た。
「天野さん、そろそろ買い物に行こうか」
隣から岡薗さんが声を掛けてくれる。紗奈は「はい、あの」と応えながら、足元のバッグから日曜日に買ったレシピ本の1冊を取り出した。
「これ、作ってみたいんですけども」
紗奈が開いたのは肉豆腐のページだった。
「へぇ?」
岡薗さんが興味を示してページを眺める。紗奈は緊張しながら岡薗さんの言葉を待った。
「ええやん。そうしよか。ここにある材料が高かったら他のもんに代替えするかも知れんけど、調味料とか作り方とかは基本この通りにしたらええな。ほか行こか」
「はい」
紗奈は岡薗さんに続いて立ち上がるとサコッシュを持ち上げ、「行って来ます」と声を掛けて事務所を出た。
家で万里子の昼ごはんを食べ、天王寺に移動した紗奈は、どの本屋から行くのが効率が良いかと頭を巡らす。結果、近いところから行こうとあべのハルカスの近鉄本店に向かった。
ここには広大なジュンク堂書店が入っている。何列もの木製の棚に膨大な書籍が詰め込まれ、新刊や比較的新しいと思しきものは表紙を表にして大量に積まれている。その様は圧巻である。店内に足を踏み入れて、案内板を見ながら料理書コーナーに向かった。
どの本が良いのか、一応下調べしておいた。口コミや記事でのおすすめなどをスマートフォンのメモ機能に綴っている。そこまでしたのなら電子書籍やネットショップで買えば良いのだろうが、紗奈は中身を見てから買いたかった。
自分のレベルに合った本で無ければ意味が無い。初歩や基本から応用まで、分かりやすく書かれているかどうかが大事だった。
昨日の土曜日は雪哉さんとデートだった。その時にお料理部の話をしたら「おもしろいなぁ」と笑っていた。紗奈が料理の本を買うつもりだと言うと、付き合おうかと申し出てくれたのだが、紗奈の都合であちらこちらの書店を連れ回すのも申し訳無いので、嬉しかったが丁重に断った。
「ええ本が買えるとええな」
「はい」
「でも紗奈が料理かぁ。巧くできる様になったらええな。そしたら家で手伝いとかするん?」
「それはどうでしょ。うちはお母さんが全部やってくれますからねぇ。ほんまに感謝ですよ」
「まぁ、そうか」
ジュンク堂の次は、MIOの紀伊国屋書店。その後にはあべのアポロの喜久屋書店にも足を伸ばした。そうして「初心者」「初めての」「簡単」「お手軽」などのワードが入った料理本を片っぱしから漁った。
戦利品が入ったずっしりとしたサブバッグを片手に、他に大きな本屋さんは無かっただろうかと考え、思い出したのは蔦屋書店。しかし今いるあべのベルタからは少し億劫な距離だった。
だが行かなければ後悔する気がして、紗奈は気合いを入れ直す。今日はたくさん歩くつもりで足元は黒のスニーカーだ。服装もピンクのチュニックとネイビーのサブリナパンツといった活動的なものだった。
ああ、そう言えばMIOのプラザ館にも大きめの本屋さんがあったのでは無いか。こう何軒も巡るとさすがに面倒だとも思ってしまうが、何せ新刊でも無い限り、品揃えが本屋さんによって違うのだ。
いろいろ見て回ったところ、どうやらお料理にも多少の流行がある様だ。だがきっと基本の皮剥きや切り方などは今も昔は変わらないだろう。紗奈が特に知りたいのはそういうことなので、ここは惜しんではいけない。
(がんばろう)
紗奈は心の中で呟くと、気合いを入れる様に大股で1歩を踏み出した。
何冊もの料理本を買い込んだ紗奈は、家に帰り着いてから晩ごはんまでの間に、リビングのソファでそれを貪る様に読んだ。まずは知識だけでも取り入れなければと必死である。
洗濯物をたたんでいた万里子はそんな紗奈を見て、意外そうに目を丸めた。
「あらま、ほんまに料理しようと頑張ってるんやねぇ」
「言うたやん。この前私、お料理部の当番になって、教えてもらいながらの手伝いやったけど、お料理したんやで」
「言うてたね。楽しかった?」
「分からん。いっぱいいっぱいやったから、そんなん感じる余裕無かったわ」
「あらま。まぁ、やってたらその内慣れるわ」
牧田さんも岡薗さんもそう言ってくれたが。
「なぁ、お母さんもお料理初心者の時があったやんねぇ。最初はやっぱり巧くできひんかったりした?」
「そりゃあねぇ。お母さんは結婚決まってからお母さん、あんたからしたらお祖母ちゃんに教えてもらったんやけどね。みじん切りとか小口切りとかできるにはできたけど、不揃いで凄っごい遅かったわ。せやからやっぱり料理は慣れやね。味付けも、何も料理人になれって言うわけや無いんやから、それなりに美味しく食べられたらええんよ。それこそそんだけ本があるんやから、レシピ通りに作ったらええねん。そしたらそのうち目分量でも作れる様になれるやろうから」
「お母さんも最初はレシピ通りやったん?」
「レシピっちゅうか、お祖母ちゃんに言われた通りやな。まぁせやから目分量みたいなもんやったけどな。お醤油ひと回しとかな。自分ひとりでやる様になったら、少し辛かったり甘かったりもあったけど、だんだん自分の味みたいなのが作れる様になったわ」
万里子にもそんなお料理時代があったのか。紗奈は少し安心する。なら紗奈だってきっとできる様になるはずだ。なにせ万里子の娘なのだから。
「さ、ほなお母さんは晩ごはんの支度しようかな」
洗濯物をたたみ終えた万里子は立ち上がり、紗奈はまた本に向き直った。
数日が経ち、また紗奈のお料理部当番の日がやって来た。
「天野さん、そろそろ買い物に行こうか」
隣から岡薗さんが声を掛けてくれる。紗奈は「はい、あの」と応えながら、足元のバッグから日曜日に買ったレシピ本の1冊を取り出した。
「これ、作ってみたいんですけども」
紗奈が開いたのは肉豆腐のページだった。
「へぇ?」
岡薗さんが興味を示してページを眺める。紗奈は緊張しながら岡薗さんの言葉を待った。
「ええやん。そうしよか。ここにある材料が高かったら他のもんに代替えするかも知れんけど、調味料とか作り方とかは基本この通りにしたらええな。ほか行こか」
「はい」
紗奈は岡薗さんに続いて立ち上がるとサコッシュを持ち上げ、「行って来ます」と声を掛けて事務所を出た。
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