11 / 41
1章 あらたなる挑戦
第11話 ようやく整えて
しおりを挟む
「あああ、すいません、時間が」
紗奈が焦って言うと、岡薗さんは「大丈夫大丈夫」と笑う。
「少しぐらいは大丈夫やで。あとはもう早いからな。フライパンにしろ菜の軸入れて混ぜてくれるか」
「はいっ」
紗奈は言われた通りにする。もうフライパンの中身が多くなって来ていて、混ぜるのも大変だ。こぼしたりしない様にそっと混ぜる。
「で、ここに調味。まずは砂糖と酒な」
言いながら調味料を入れて混ぜる。片手鍋の水も沸いて来たので、岡薗さんは顆粒だしを入れ、ティスプーンですくった絹ごし豆腐を入れて行く。
「天野さん悪い、冷蔵庫から味噌出して」
「はい」
紗奈は冷蔵庫を開け、お味噌の容器を出して蓋を開けた。
「ありがとう」
岡薗さんはお玉でお味噌をすくい、片手鍋に菜箸で溶かして行く。
「味噌は沸騰させたらあかんで。風味が飛んでまうからな」
「はい。お汁物ってお味噌汁なんですか? あ、でも昨日は卵のスープでしたね」
「メインが何によるかやな。今日はメインが醤油ベースの和食やから味噌汁にしたけど、昨日は中華やったからな。あ、俺も牧田さんも嫌いなもんもアレルギーも特に無いから、作る時は天野さんの食べたいもん作ったらええわ。慣れるまでしばらくは俺が一緒やけどな。牧田さんとはやり方が違うから、変わったら混乱するやろうし。言うても料理の仕方とか要領とか流れって人それぞれでな、正解とかって無いと思うねん。せやから包丁とか慣れてひとりで作れる様になったら、自分のペースを掴んだらええわ」
「が、がんばります」
紗奈がプレッシャーを感じてごくりと喉を鳴らすと、岡薗さんは「はは」とおかしそうに笑う。
「そんな深刻にならんと。やってるうちに慣れて来るから」
「は、はい」
「よし、煮物の方に醤油入れよか」
また岡薗さんは目分量でフライパンにお醤油を回し入れる。
「で、しろ菜の葉を入れてっと」
葉をこんもりと入れるとフライパンはぎちぎちになる。岡薗さんはそれを慣れた手付きで沈めて行く。すると煮汁に浸かった葉がしんなりとかさを減らして行った。
「葉に火が通ったら完成や。味噌汁ももうできとるから、食器棚から食器出してくれるか。お椀と茶碗と、深さのある皿みっつずつ。あ、引き出しから箸もな。そこのテーブル使って。トレイに載せてな」
「はい」
細身の白い食器棚を開けると、上下の真ん中にお箸などを入れる引き出しがあり、それを仕切りとして上部に食器が収まっていた。一番上の段はマグカップ。従業員の私物だ。今はほとんどが使われていて、奥に事務所の備品の白いマグカップが2個あるだけである。その下の段には来客用の湯呑み茶碗や茶托、急須などが置かれている。
食器も数段に分けて置かれている。平皿や数種類のお皿が5枚ずつあった。
「深さのあるお皿ってこれですか?」
紗奈は1枚を出して岡薗さんに見せる。すると「そうそう、それ」と返事をしてくれたので、そのクリーム色の陶器のお皿を3枚出した。それにお汁物用の黒塗りのお椀、ご飯用の、白地に青い模様が絵付けされたお茶碗、竹製のお箸も出す。
壁際のテーブルには長方形の大きな木製トレイが2枚、裏を向けて壁に立て掛けてあったので、それをテーブルに置き直してそこに食器を置く。テーブルは細長く、炊飯器と電気ポットがそこの端に置かれていた。炊飯器を見るとすでに炊き上がっていて、保温の文字横のランプが点いていた。
「天野さん、ご飯お茶碗によそってくれるか? もう蒸らしも終わってるはずやわ。しゃもじは米がくっつきにくいやつやけど、水で濡らしてな」
「は、はい」
お茶碗にご飯をよそうのも紗奈は慣れていない。万里子がやっていたシーンを思い出しながら、紗奈は炊飯器を開ける。するとふわぁっと蒸気が上がり、お米の甘い香りが上がって来た。ああ、良い匂いだ。自然と顔がほころぶ。
炊きたてのご飯は艶々していた。そう言えば家庭科の授業でも、炊きたてご飯を扱った覚えがある。確かまずは全体をふんわり混ぜるんだっけ。紗奈はご飯に濡らした白いプラスチック製のしゃもじを挿し入れ、底から返して行く。するとほぐれてふわふわになって来た。
それをお茶碗によそって行く。いつも家で万里子が入れてくれる様に、ふんわりとうず高く盛る。2合のご飯は3客のお茶碗に入り切らなくて、炊飯器に1膳分ほどが余ってしまった。
「これ、残った分は」
「あ、俺のお代わり用や。ごめん、言うの忘れとったわ」
そうか。男の人なのだから、紗奈や牧田さんより食べる量が多いのだ。紗奈はお茶碗をテーブルのトレイの乗せる。深さのあるお皿には岡薗さんがフライパンから煮物を盛り付けていた。
「天野さん、冷凍庫から冷凍のねぎ出して、鍋に入れてくれるか」
「はい」
冷凍庫を開けると、入っていたのは製氷器と、使い掛けの冷凍青ねぎ小口切りの袋だった。上部がジッパーになっている。それを開けて、スプーンでお鍋に入れた。お味噌汁に入っている青ねぎの量はそう多く無かったはずだ。
「これぐらいで大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。これでできあがりや。お椀に注いだって」
「はい」
紗奈はお椀3客に均等にお味噌汁を注いだ。岡薗さんも盛り付けが終わって、ようやく今日のお昼ご飯が揃った。
紗奈が焦って言うと、岡薗さんは「大丈夫大丈夫」と笑う。
「少しぐらいは大丈夫やで。あとはもう早いからな。フライパンにしろ菜の軸入れて混ぜてくれるか」
「はいっ」
紗奈は言われた通りにする。もうフライパンの中身が多くなって来ていて、混ぜるのも大変だ。こぼしたりしない様にそっと混ぜる。
「で、ここに調味。まずは砂糖と酒な」
言いながら調味料を入れて混ぜる。片手鍋の水も沸いて来たので、岡薗さんは顆粒だしを入れ、ティスプーンですくった絹ごし豆腐を入れて行く。
「天野さん悪い、冷蔵庫から味噌出して」
「はい」
紗奈は冷蔵庫を開け、お味噌の容器を出して蓋を開けた。
「ありがとう」
岡薗さんはお玉でお味噌をすくい、片手鍋に菜箸で溶かして行く。
「味噌は沸騰させたらあかんで。風味が飛んでまうからな」
「はい。お汁物ってお味噌汁なんですか? あ、でも昨日は卵のスープでしたね」
「メインが何によるかやな。今日はメインが醤油ベースの和食やから味噌汁にしたけど、昨日は中華やったからな。あ、俺も牧田さんも嫌いなもんもアレルギーも特に無いから、作る時は天野さんの食べたいもん作ったらええわ。慣れるまでしばらくは俺が一緒やけどな。牧田さんとはやり方が違うから、変わったら混乱するやろうし。言うても料理の仕方とか要領とか流れって人それぞれでな、正解とかって無いと思うねん。せやから包丁とか慣れてひとりで作れる様になったら、自分のペースを掴んだらええわ」
「が、がんばります」
紗奈がプレッシャーを感じてごくりと喉を鳴らすと、岡薗さんは「はは」とおかしそうに笑う。
「そんな深刻にならんと。やってるうちに慣れて来るから」
「は、はい」
「よし、煮物の方に醤油入れよか」
また岡薗さんは目分量でフライパンにお醤油を回し入れる。
「で、しろ菜の葉を入れてっと」
葉をこんもりと入れるとフライパンはぎちぎちになる。岡薗さんはそれを慣れた手付きで沈めて行く。すると煮汁に浸かった葉がしんなりとかさを減らして行った。
「葉に火が通ったら完成や。味噌汁ももうできとるから、食器棚から食器出してくれるか。お椀と茶碗と、深さのある皿みっつずつ。あ、引き出しから箸もな。そこのテーブル使って。トレイに載せてな」
「はい」
細身の白い食器棚を開けると、上下の真ん中にお箸などを入れる引き出しがあり、それを仕切りとして上部に食器が収まっていた。一番上の段はマグカップ。従業員の私物だ。今はほとんどが使われていて、奥に事務所の備品の白いマグカップが2個あるだけである。その下の段には来客用の湯呑み茶碗や茶托、急須などが置かれている。
食器も数段に分けて置かれている。平皿や数種類のお皿が5枚ずつあった。
「深さのあるお皿ってこれですか?」
紗奈は1枚を出して岡薗さんに見せる。すると「そうそう、それ」と返事をしてくれたので、そのクリーム色の陶器のお皿を3枚出した。それにお汁物用の黒塗りのお椀、ご飯用の、白地に青い模様が絵付けされたお茶碗、竹製のお箸も出す。
壁際のテーブルには長方形の大きな木製トレイが2枚、裏を向けて壁に立て掛けてあったので、それをテーブルに置き直してそこに食器を置く。テーブルは細長く、炊飯器と電気ポットがそこの端に置かれていた。炊飯器を見るとすでに炊き上がっていて、保温の文字横のランプが点いていた。
「天野さん、ご飯お茶碗によそってくれるか? もう蒸らしも終わってるはずやわ。しゃもじは米がくっつきにくいやつやけど、水で濡らしてな」
「は、はい」
お茶碗にご飯をよそうのも紗奈は慣れていない。万里子がやっていたシーンを思い出しながら、紗奈は炊飯器を開ける。するとふわぁっと蒸気が上がり、お米の甘い香りが上がって来た。ああ、良い匂いだ。自然と顔がほころぶ。
炊きたてのご飯は艶々していた。そう言えば家庭科の授業でも、炊きたてご飯を扱った覚えがある。確かまずは全体をふんわり混ぜるんだっけ。紗奈はご飯に濡らした白いプラスチック製のしゃもじを挿し入れ、底から返して行く。するとほぐれてふわふわになって来た。
それをお茶碗によそって行く。いつも家で万里子が入れてくれる様に、ふんわりとうず高く盛る。2合のご飯は3客のお茶碗に入り切らなくて、炊飯器に1膳分ほどが余ってしまった。
「これ、残った分は」
「あ、俺のお代わり用や。ごめん、言うの忘れとったわ」
そうか。男の人なのだから、紗奈や牧田さんより食べる量が多いのだ。紗奈はお茶碗をテーブルのトレイの乗せる。深さのあるお皿には岡薗さんがフライパンから煮物を盛り付けていた。
「天野さん、冷凍庫から冷凍のねぎ出して、鍋に入れてくれるか」
「はい」
冷凍庫を開けると、入っていたのは製氷器と、使い掛けの冷凍青ねぎ小口切りの袋だった。上部がジッパーになっている。それを開けて、スプーンでお鍋に入れた。お味噌汁に入っている青ねぎの量はそう多く無かったはずだ。
「これぐらいで大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。これでできあがりや。お椀に注いだって」
「はい」
紗奈はお椀3客に均等にお味噌汁を注いだ。岡薗さんも盛り付けが終わって、ようやく今日のお昼ご飯が揃った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
30
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる