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#61 味噌にぎり串と手作りマヨネーズ。その1

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 翌朝、また壱は茂造より早く起きる。サユリに増やしてもらい、また米が豊富になっていた。前日の晩から水に浸けておいた分を炊く。

 次に鍋に湯を沸かして塩を入れ、ブロッコリを茹でる。

 卵焼きを焼く。今日も塩味である。焼きあがったらまな板に上げて、切りやすくなる様に寝かせて置く。

 ブロッコリが茹で上がったので、ザルで丘上げにしておく。余熱で火を通すのである。

 米が炊き上がったら蒸らし、解したら、擂り粉木すりこぎを手にする。普段食堂でバジルソースを作る時に使っているものである。

 それで米を潰して行く。全てでは無く、半分程が潰れた、粒が残る状態を目指す。その状態を半殺しと言うらしい。なかなか物騒な呼び方である。

 なかなか時間が掛かるものである。力も要る。壱はやや呼吸を荒くしながら、擂り粉木を押し付けて行った。

「こんなもんかな?」

 初めて作るものなので加減が判らないが、多分大丈夫だろう。

 次に木製のマドラーを取り出し、2本束ねて、潰した米を握りながら付けて行く。割りばしを使いたいところだが無いので、代わりである。

 半殺しにしている内に冷めているので、充分手で触れる温度になっている。

 米が小判形になる様に形造り、まな板の空いている部分に置いて少し乾かす。

 その間にタレ作りである。と言っても簡単なものだ。味噌に砂糖を練り込み、水少々で軽く伸ばすだけである。

 味噌はサユリの魔法で発酵を止めて貰える事になったので、2階のキッチンで保存する事にした。

 さて、作っているのは、味噌にぎりの様な、五平餅ごへいもちの様な。

 味噌握りにするには焼くときに必要な網が無い。五平餅にするには胡桃が無い。なので、それぞれの出来る部分を取ったのだ。

 米の表面が乾いて来たので、裏返してまた乾かす。その間に卵焼きを切り、皿に盛る。

 鍋などの洗い物も手際良く済ませ。

 米が両面乾いたので、左手にひとつ、右手にふたつ持って、コンロの直火で焼いて行く。

 火に当たる箇所かしょを変えながら、両面に軽く焼き目を付けて行く。それが終わると、片面に味噌ダレをたっぷりと塗り、また直火に掛けて行く。今度はしっかりと焦げ目を付ける。

 焼けたら、もう片面にも味噌ダレを塗り、また炙って行く。

 そろそろ茂造が起きて来てくれないだろうかと思う。時計を見ると、起床予定時間まで後5分程。温かい状態で食べて欲しいので、後で温めるとするか。

 一旦いったん上げて、皿に置いて置く。

 その時に、カルパッチョのソースに使っているレモンが厨房にある事を思い出した。壱は慌てて取りに行き、横に半分に切っておく。

 ボウルに卵を割り、泡立て器でしっかりと解す。そこにオリーブオイルを少しずつ加えながら撹拌かくはんして行く。

 卵の鮮やかな黄色がカスタードクリームの様な色になったらレモンを絞って入れ、更に混ぜる。

 作っているのはマヨネーズである。本来なら卵は黄身だけを使うのだが、白身の使い所が今は無い。処分してしまうなんてとんでも無いし、併せて使うのは当たり前の事である。

 卵焼きを作る前に思い付いていれば、そちらに加える事も出来たのだが。

 少し味見をしてみる。うん、少しあっさりはしているが、ちゃんとマヨネーズだ。

 そこに黒粒胡椒を多めに混ぜ込み、塩茹でしたブロッコリを和えた。

 そうして、茂造が起きて来た。今朝はサユリも一緒である。

「おはようカピ」

「おはようのう。今朝もありがとうのう」

「いや、料理結構楽しいからさ」

「では儂は支度したくをして来ようかの」

「もう出来るから」

 茂造が洗面所に向かうと、サユリがテーブルに上がって来た。

「今日の朝ご飯は何カピ?」

「味噌握りの五平餅バージョン? 何て言ったらいいのかな」

 壱が応えに困っていると、サユリは小さく鼻を鳴らす。

「ま、壱の作るご飯はどれも美味しかったカピ。今朝も期待しているカピ」

「期待に添えられると良いけど」

 壱は嬉しくなって穏やかに笑うと、五平餅もどきを弱い直火で温め直す。もう何と呼んだら良いのか判らない。味噌握り串? あ、これが1番しっくり来るかも。米は半殺し状態だが。

 支度を終えた茂造が戻って来た。

「待たせたのう。今朝は何を作ってくれたのかのう」

「味噌握り串、って言い張る」

「それはまたどう言う事じゃ」

 茂造が首を傾げる。壱はこの料理が出来た経緯を話す。

「成る程の。じゃが良い匂いじゃ。早速いただくとするかの」

 茂造は良い、ほっほっほっと笑った。
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