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#40 いろいろ、これから

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 とりあえず壱は念願の味噌にありつけた事で、頭の中はほぼそれに占められていた。

「しかし壱は、余程味噌が好きなのカピな。我、こんなボルテージが上がった壱、初めて見たカピ」

「儂もじゃ。やはり家が蔵じゃからかのう」

「それは大きいかもな」

 壱はまた味噌きゅうりをかじりながら言う。

「小さい頃から、ご飯が和食でも洋食でも味噌汁が出てたから、慣れ親しんだ味って言うのもあるし、母さんいわく、離乳食にも味噌使ってたって。塩分には勿論気を付けて、かなり薄味だったみたいだけど。俺も柚絵もそうだったから、もうDNAレベルで染み付いてるのかも」

「やはり、大きくなってからの好物は、食生活から繋がっているのかのう。この村の食事はこの食堂だけみたいなものじゃから、メニューももっと増やしてやりたいと思うのじゃが、誰からも文句のひとつも出んでのう。みんな遠慮しとるのかのう」

 茂造が何本めかの味噌きゅうりを頬張りながら言う。

「それも少しはあるのかも知れないカピが、多分そんな不満は無いのだと思うカピよ。ここの食事はどれも美味しいカピ。何度でも食べたくなるものだカピ。ユミヤから始まって、2代目、そして茂造と、少ないメニューながらも、少しでも美味しくなる様にと改良を繰り返して来たカピ」

「そう言ってくれると嬉しいがのう」

 茂造が柔らかく笑う。

「じいちゃん、この食堂忙しいんだからさ、無理の無い範囲でメニュー増やす事を考えても良いかもな。俺も来て、とりあえず人数だけは増えたんだから」

「そうじゃの。この食堂がもっと喜んで貰える様になると良いのう」

 茂造は言うと、眼を細めた。

「さてさて」

 そして切り替える様に声を上げる。

「そろそろ夜営業の仕込みを始めるぞい。カリルとサントも来る頃じゃからな」

「もうそんな時間か。じゃあ味噌を、ええと、じいちゃん、厨房の冷蔵庫に入れて良いかな。結構スペースに余裕があると思ったんだけど」

「そのくらいのサイズじゃったら大丈夫じゃ」

「助かる。ありがとう」

 冷蔵庫で保存できるのであれば、これ以上の発酵はっこうも遅らせられるから、この味と鮮度をある程度保てる。また落とし布をして空気に触れない様にすれば、かびも防げる。

 次は、味噌汁を飲む為の出汁だしを考えなければ。基本は昆布、カツオ、煮干しなどであるが、この世界にあるのだろうか。

 貝類でも良い出汁が出るが、それは週に1度海に潜って採る貴重品だと言っていた。なら出汁には使えない。

 その時にふと思い出した。カリルが魚をさばく時に出るあら。あれらは全て捨ててしまっていた筈である。頭の中や骨に付いている身はあるが、時間も使い所も無いので、捨ててしまっている。

 基本は勿体無い精神で使えるところは使っているのだが、魚に関しては及ばない部分が多かった様だ。

 なら、出汁を取る事と他の使い道、合わせて解消出来ないかと壱は考える。

「なぁじいちゃん、今夜カリルが捌いた魚の粗さ、全部置いておいてくれないかな」

「それは勿論構わんが、どうするのかの?」

「うん、俺の想像通りなら、また旨いもの出来るかも」

「そうか。それは楽しみじゃのう」

 明日少し早く起きて、朝食に作ってみる事にしよう。今夜スマートフォンでレシピなどを仕入れなければ。

 壱が蓋をした味噌の木桶を抱え、茂造とサユリとともに下に降りると、そのタイミングでカリルとサントが再出勤して来た。

「ちわっす! 今夜もよろしくっす!」

 カリルの元気な挨拶と、サントの黙礼。

「ほいほいよろしくの。じゃあ早速仕込みじゃの」

 壱は味噌を冷蔵庫に入れると、割烹着かっぽうぎを身に着けた。

「イチ、今日はミートトマトソースの作り方を覚えて貰うからな!」

「解った」

 割烹着を着ながらのカリルの台詞に、壱は頷いた。
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