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#22 途中経過として
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穏やかな目覚めだった。壱がゆっくりと上半身を起こすと、額に乗せられていた濡れタオルが布団の上に落ちた。手にすると温かった。
ああ、そうか。熱を出して寝込んでいたのだったか。自分の掌を額に当ててみる。熱の有無は良く判らなかったが、気分は悪く無い。それどころかすっきりしている。
今は何時なのだろうか。ベッド脇の小さな台の上に置いてある目覚まし時計を見ると、アナログ盤の針は8時過ぎを示していた。
ベッドから降り、窓のカーテンを開けると、外はどっぷりと暗かった。夜だ。寝込んだ当日なのか、翌日になったのか、それとも更に日が過ぎているのか。
スマートフォンはWi-Fi接続こそ生き返ったが、時計は死んでいるので当てにならない。
それでも気になってしまって、机の引き出しからスマートフォンを取り出す。やはり時計は進んでおらず、壱がこの世界に来た時間で止まっていた。
すると、画面に並ぶアプリのうち、いくつかのSNSのアイコンに受信を知らせるマークが付いていた。
そうか。Wi-Fiが生きていると言う事は、電話やメールは出来なくても、SNSなどは使用出来ると言う事だ。
ああ、これでは家族に、父に、母に、柚絵に、連絡が出来てしまう。
受信件数はかなりの数になっていた。アイコンをタップしてしまえば、寄越された内容を読んでしまえば、里心が付いてしまうかも知れない。
既読を付ければ、向こうに壱の生存の可能性が知らされる。
しかし、壱自身は少なくとも後数年は家族の元に帰れないのである。
どうしたら良い。壱の頭は軽く混乱する。タップしてしまいたい気持ちもある。だがそうする事が今のベストなのか、それとも逆なのか、判断出来ない。
呆然とスマートフォンの画面を見つめていたその時。
部屋のドアがノックされた。
壱は我に返ると、慌ててスマートフォンをスリープさせ、引き出しに放り込んで閉じた。
「は、はい」
「あ、イチさん、起きられ、たんですね」
ドアが開かれると、そこに立っていたのは、濡れタオルを持ったマユリだった。壱を見て安堵した様な笑顔を浮かべる。
「おでこの、タオルを、取り替えに、き、来たんですが、あ、あの、体調は、どうですか?」
「うん、もうすっきり。多分熱も下がったと思う。マユリさんがタオルを取り替えてくれていたのか? ありがとう」
「い、いえ、あの、その時に、手が空いた人が、交代交代で、やりました」
「そっか。後でみんなにお礼言わなきゃな」
「は、はい。治って、良かった、です」
またマユリが笑みを浮かべ、壱も思わず笑顔を返す。ほのぼのとした雰囲気が漂った。
「あ、あの、お腹、空いてませんか? 何か、食べられます、か?」
「あ、あー、腹減ったかな」
言われたからか、空腹を意識する。
「俺、何時間寝てた? と言うか、熱出たの今朝だよな?」
「そ、そうです」
じゃあ昨日の晩の賄いから何も食べていないと言う事か。ちなみにポトフを頂いた。そこそこに遅い時間だったからか、あまり濃いものを食べる気がしなかったからである。
思えば、その時から身体は不調を訴えていた事になる。味噌蔵の仕事の後に、夕方から飲食店でアルバイトをしていた壱は、その後に夜食を摂るのが常だったのだ。ラーメンやカレーなどの濃いものもペロッと食べていた。
あらためて食の重要さをじみじみと噛み締めたところで。
「じゃ、じゃあ、何か、作ってもらって、来ますね」
「いや、俺が自分で作るよ。まだ食堂忙しい時間帯だろ?」
「そ、それは、そうですけども、けどあの」
「もう元気だから大丈夫。マユリさん先に降りてて。俺も着替えたら行くから」
「は、はい、じゃ、じゃあ、後で」
マユリが出て行こうとした時、壱は咄嗟に呼び止めた。
「あ、マユリさん」
「は、はい?」
「持って来てくれた濡れタオル、置いて行ってくれて良いかな。身体拭きたくて」
「あ、はい。どうぞ」
マユリが濡れタオルを手渡してくれる。代わりにベッドに落ちてしまっていた、温くなった濡れタオルをさり気なく回収して、部屋から出て行った。
「さて、と」
壱は気合を入れる様に小さく息を吐くと、まずは身体を拭こうと、パジャマを脱いだ。
ああ、そうか。熱を出して寝込んでいたのだったか。自分の掌を額に当ててみる。熱の有無は良く判らなかったが、気分は悪く無い。それどころかすっきりしている。
今は何時なのだろうか。ベッド脇の小さな台の上に置いてある目覚まし時計を見ると、アナログ盤の針は8時過ぎを示していた。
ベッドから降り、窓のカーテンを開けると、外はどっぷりと暗かった。夜だ。寝込んだ当日なのか、翌日になったのか、それとも更に日が過ぎているのか。
スマートフォンはWi-Fi接続こそ生き返ったが、時計は死んでいるので当てにならない。
それでも気になってしまって、机の引き出しからスマートフォンを取り出す。やはり時計は進んでおらず、壱がこの世界に来た時間で止まっていた。
すると、画面に並ぶアプリのうち、いくつかのSNSのアイコンに受信を知らせるマークが付いていた。
そうか。Wi-Fiが生きていると言う事は、電話やメールは出来なくても、SNSなどは使用出来ると言う事だ。
ああ、これでは家族に、父に、母に、柚絵に、連絡が出来てしまう。
受信件数はかなりの数になっていた。アイコンをタップしてしまえば、寄越された内容を読んでしまえば、里心が付いてしまうかも知れない。
既読を付ければ、向こうに壱の生存の可能性が知らされる。
しかし、壱自身は少なくとも後数年は家族の元に帰れないのである。
どうしたら良い。壱の頭は軽く混乱する。タップしてしまいたい気持ちもある。だがそうする事が今のベストなのか、それとも逆なのか、判断出来ない。
呆然とスマートフォンの画面を見つめていたその時。
部屋のドアがノックされた。
壱は我に返ると、慌ててスマートフォンをスリープさせ、引き出しに放り込んで閉じた。
「は、はい」
「あ、イチさん、起きられ、たんですね」
ドアが開かれると、そこに立っていたのは、濡れタオルを持ったマユリだった。壱を見て安堵した様な笑顔を浮かべる。
「おでこの、タオルを、取り替えに、き、来たんですが、あ、あの、体調は、どうですか?」
「うん、もうすっきり。多分熱も下がったと思う。マユリさんがタオルを取り替えてくれていたのか? ありがとう」
「い、いえ、あの、その時に、手が空いた人が、交代交代で、やりました」
「そっか。後でみんなにお礼言わなきゃな」
「は、はい。治って、良かった、です」
またマユリが笑みを浮かべ、壱も思わず笑顔を返す。ほのぼのとした雰囲気が漂った。
「あ、あの、お腹、空いてませんか? 何か、食べられます、か?」
「あ、あー、腹減ったかな」
言われたからか、空腹を意識する。
「俺、何時間寝てた? と言うか、熱出たの今朝だよな?」
「そ、そうです」
じゃあ昨日の晩の賄いから何も食べていないと言う事か。ちなみにポトフを頂いた。そこそこに遅い時間だったからか、あまり濃いものを食べる気がしなかったからである。
思えば、その時から身体は不調を訴えていた事になる。味噌蔵の仕事の後に、夕方から飲食店でアルバイトをしていた壱は、その後に夜食を摂るのが常だったのだ。ラーメンやカレーなどの濃いものもペロッと食べていた。
あらためて食の重要さをじみじみと噛み締めたところで。
「じゃ、じゃあ、何か、作ってもらって、来ますね」
「いや、俺が自分で作るよ。まだ食堂忙しい時間帯だろ?」
「そ、それは、そうですけども、けどあの」
「もう元気だから大丈夫。マユリさん先に降りてて。俺も着替えたら行くから」
「は、はい、じゃ、じゃあ、後で」
マユリが出て行こうとした時、壱は咄嗟に呼び止めた。
「あ、マユリさん」
「は、はい?」
「持って来てくれた濡れタオル、置いて行ってくれて良いかな。身体拭きたくて」
「あ、はい。どうぞ」
マユリが濡れタオルを手渡してくれる。代わりにベッドに落ちてしまっていた、温くなった濡れタオルをさり気なく回収して、部屋から出て行った。
「さて、と」
壱は気合を入れる様に小さく息を吐くと、まずは身体を拭こうと、パジャマを脱いだ。
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