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#19 フレンチトーストおかわり
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壱は冷蔵庫を開け、フレンチトーストの材料を取り出し、調理台に置く。
「これが材料。シンプルだろ?」
「こ、これが、あ、あの、良い香りを、出すんです、ね」
これはフレンチトーストであるが、カスタードクリームの材料でもある。この世界には無かった味なのだろう。
ああそうだ、これらがあればプリンも作れるし、小麦があるのだからシュークリームも作れる。あ、だがシューを焼くものが無い。これは茂造に相談か。
ともあれ今はフレンチトーストである。壱はボウルに卵を割った。
「これを解してな。で、ミルクと砂糖を混ぜて、パンを浸すんだ」
「は、はい、解しま、す」
マユリがフォークで丁寧に卵を解す横で、パンを切る。
「こ、こんな感じで、良い、でしょう、か」
卵は白身も綺麗に切られていた。
「うん、大丈夫。じゃあこれにミルクと砂糖を入れて、と」
ボウルにミルクと砂糖を加える。
「また混ぜる。砂糖のジャリジャリした感じが出来るだけ無くなるまで混ぜてな」
「は、はい」
マユリがまた作業を始める。壱はまたパンを切る。今回はナイフで切らずに食べられる様に小さめにカット。
「あ、あの、私」
マユリが嬉しそうに口を開く。
「甘いものが、す、好きで、だから、自分でつ、作ってみたいって、思っていて。だから、楽しい、です」
「そっか。なら良かった」
壱が言うとマユリはふんわりを笑い、またボウルに向かった。
可愛いな。壱はふとそんな事を思う。良く見るとマユリは整った可愛らしい顔をしていた。普段下を見ている事が多いイメージだったし、壱が初めて挨拶をした時も畏まっていたものだから気付かなかった。
外見が中性的なメリアンとも、作り物とも言えるマーガレットとも違う、普通の、本物の女の子。
ようやく「普通」に浸れた気がして、壱はほっと息を吐いた。ここに来てから驚かされる事ばかりだったから。
「あ、あの、ジャリジャリ、無くなったと、思う、んですけ、ど」
「ん。じゃあパンを浸して、時間短縮の為にフォークとかスプーンで押してな」
マユリが言われるがままにパンを押す。その間に壱はフランパンをスタンバイ。バターを溶かして。
「焼いて行くっと」
フライパンから漂う香りに、マユリは心地好さそうに眼を細めた。残りのパンを全部使い、フライパンは2枚。香りは先ほどより濃い筈である。
そうして焼きあがったフレンチトーストを皿に盛り、蜂蜜をとろり。客のテーブルに大皿ひとつ、従業員様に大皿ひとつ。なかなか豪快だ。
「じゃあマユリさん、お客さんに出す分の皿、任せて良いか?」
「は、はい」
それぞれ皿を手に、フロアに戻る。
「待ってました!」
「いやぁん、良い匂い!」
「やっと食えるー!」
客や従業員から声が上がり、眼の前に置かれた皿に各々フォークを伸ばす。メリアンとマーガレットが既にフォークと小皿を全員にサーブしていて、準備万端だったのだ。何と言う期待値か。
我れ先にと口に運ぶ面々。そしてあちらこちらから喜びの声が上がった。
「うめー!」
「甘ーい!」
「おいしい!」
そんなみんなの様子を見て、マユリがほっと息を漏らす。自分がメインで作ったからか、心配だった様だ。
すでにパン1個分を平らげたボニーも、客に混じって皿に集っている。
「壱よ。これ、メニューに加えられるかの」
茂造が口を動かしながら寄って来た。
「まぁ、うん、出来るかな。浸けておけば良いし」
「よしよし。パンが無駄にならんで済みそうじゃ」
茂造もご満悦そうである。これなら無断で客にスイーツ、しかもメニュー外を出した事もお咎めは無さそうだ。
「あ、あの、イチ、さん」
マユリが小皿を手に、壱に駆け寄って来た。
「フレンチトースト、本当に、ほ、本当に、美味しいです! お、お手伝いが、出来て、嬉しかった、です。ありがとう、ご、ございます」
紅潮した頬をして、礼を言う。
「何言ってるんだよ。作ったのはマユリさんだろ? 俺は作り方を言っただけだから」
「で、でも、分量とか、を、調整したの、は、イチさん、ですか、ら」
「あれは俺の好みで目分量。今度マユリさんが好みの味に調整してみたりするといいから。マユリさん、甘いもの好きなんだよな」
「は、はい、大好き、です」
マユリが眸を輝かせて頷く。
「じゃあ今度いろいろ味見してみてよ。もちろん手伝ってくれたら助かるし。まずは俺らの世界のスイーツを何種類か試作してみたいんだ。実はその前に作りたいものがあるんだけど、それは甘く無いから」
「では!」
マユリが壱にぐいと顔を寄せる。
「お手伝い、させて、ください。 私は、甘いもの、が、好きですが、イチさんが、作りたいもの、なら、お手伝い、が、したいで、す。よ、良かったら、なので、すが」
「……うん、ありがとう」
マユリはどうやら、人との距離感を図るのが上手く無い様だ。しかも可愛いから、トラブルを招く事もありそうだ。心配ではあるが、今のところ、それはそれとして。
壱はみんなの様子を眺め、笑みを浮かべた。
「これが材料。シンプルだろ?」
「こ、これが、あ、あの、良い香りを、出すんです、ね」
これはフレンチトーストであるが、カスタードクリームの材料でもある。この世界には無かった味なのだろう。
ああそうだ、これらがあればプリンも作れるし、小麦があるのだからシュークリームも作れる。あ、だがシューを焼くものが無い。これは茂造に相談か。
ともあれ今はフレンチトーストである。壱はボウルに卵を割った。
「これを解してな。で、ミルクと砂糖を混ぜて、パンを浸すんだ」
「は、はい、解しま、す」
マユリがフォークで丁寧に卵を解す横で、パンを切る。
「こ、こんな感じで、良い、でしょう、か」
卵は白身も綺麗に切られていた。
「うん、大丈夫。じゃあこれにミルクと砂糖を入れて、と」
ボウルにミルクと砂糖を加える。
「また混ぜる。砂糖のジャリジャリした感じが出来るだけ無くなるまで混ぜてな」
「は、はい」
マユリがまた作業を始める。壱はまたパンを切る。今回はナイフで切らずに食べられる様に小さめにカット。
「あ、あの、私」
マユリが嬉しそうに口を開く。
「甘いものが、す、好きで、だから、自分でつ、作ってみたいって、思っていて。だから、楽しい、です」
「そっか。なら良かった」
壱が言うとマユリはふんわりを笑い、またボウルに向かった。
可愛いな。壱はふとそんな事を思う。良く見るとマユリは整った可愛らしい顔をしていた。普段下を見ている事が多いイメージだったし、壱が初めて挨拶をした時も畏まっていたものだから気付かなかった。
外見が中性的なメリアンとも、作り物とも言えるマーガレットとも違う、普通の、本物の女の子。
ようやく「普通」に浸れた気がして、壱はほっと息を吐いた。ここに来てから驚かされる事ばかりだったから。
「あ、あの、ジャリジャリ、無くなったと、思う、んですけ、ど」
「ん。じゃあパンを浸して、時間短縮の為にフォークとかスプーンで押してな」
マユリが言われるがままにパンを押す。その間に壱はフランパンをスタンバイ。バターを溶かして。
「焼いて行くっと」
フライパンから漂う香りに、マユリは心地好さそうに眼を細めた。残りのパンを全部使い、フライパンは2枚。香りは先ほどより濃い筈である。
そうして焼きあがったフレンチトーストを皿に盛り、蜂蜜をとろり。客のテーブルに大皿ひとつ、従業員様に大皿ひとつ。なかなか豪快だ。
「じゃあマユリさん、お客さんに出す分の皿、任せて良いか?」
「は、はい」
それぞれ皿を手に、フロアに戻る。
「待ってました!」
「いやぁん、良い匂い!」
「やっと食えるー!」
客や従業員から声が上がり、眼の前に置かれた皿に各々フォークを伸ばす。メリアンとマーガレットが既にフォークと小皿を全員にサーブしていて、準備万端だったのだ。何と言う期待値か。
我れ先にと口に運ぶ面々。そしてあちらこちらから喜びの声が上がった。
「うめー!」
「甘ーい!」
「おいしい!」
そんなみんなの様子を見て、マユリがほっと息を漏らす。自分がメインで作ったからか、心配だった様だ。
すでにパン1個分を平らげたボニーも、客に混じって皿に集っている。
「壱よ。これ、メニューに加えられるかの」
茂造が口を動かしながら寄って来た。
「まぁ、うん、出来るかな。浸けておけば良いし」
「よしよし。パンが無駄にならんで済みそうじゃ」
茂造もご満悦そうである。これなら無断で客にスイーツ、しかもメニュー外を出した事もお咎めは無さそうだ。
「あ、あの、イチ、さん」
マユリが小皿を手に、壱に駆け寄って来た。
「フレンチトースト、本当に、ほ、本当に、美味しいです! お、お手伝いが、出来て、嬉しかった、です。ありがとう、ご、ございます」
紅潮した頬をして、礼を言う。
「何言ってるんだよ。作ったのはマユリさんだろ? 俺は作り方を言っただけだから」
「で、でも、分量とか、を、調整したの、は、イチさん、ですか、ら」
「あれは俺の好みで目分量。今度マユリさんが好みの味に調整してみたりするといいから。マユリさん、甘いもの好きなんだよな」
「は、はい、大好き、です」
マユリが眸を輝かせて頷く。
「じゃあ今度いろいろ味見してみてよ。もちろん手伝ってくれたら助かるし。まずは俺らの世界のスイーツを何種類か試作してみたいんだ。実はその前に作りたいものがあるんだけど、それは甘く無いから」
「では!」
マユリが壱にぐいと顔を寄せる。
「お手伝い、させて、ください。 私は、甘いもの、が、好きですが、イチさんが、作りたいもの、なら、お手伝い、が、したいで、す。よ、良かったら、なので、すが」
「……うん、ありがとう」
マユリはどうやら、人との距離感を図るのが上手く無い様だ。しかも可愛いから、トラブルを招く事もありそうだ。心配ではあるが、今のところ、それはそれとして。
壱はみんなの様子を眺め、笑みを浮かべた。
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