異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

文字の大きさ
175 / 190

#175 お目出度い席

しおりを挟む
 料理を盛った皿を手にサユリの元に行く。基本は立食なのでテーブルは無しだが、サユリの為にひとつだけテーブルを出してある。

 サユリは既にテーブル上でスタンバイ。壱はその前の椅子に掛けた。

「サユリ、お待たせ」

「うむカピ」

 サユリの前に皿を置いてやると、サユリは満足そうに頷き、早速手前のローストポークをぱくついた。

 それを見届けてから、今度は自分の分を取りに行く。サユリと同じメニューを盛り、テーブルに戻った。

 さて、旨く出来ているかどうか。村人は全員喜んでくれている様だが、初めて作ったものも多いので不安もある。

 まずはサユリにならった訳では無いが、ローストポークを口に運ぶと、しっとりと柔らかく仕上がっていた。豚肉の甘みも全然損なわれていない。成功だと言って良いだろう。

 続けて蒸し鶏のサラダ、牛肉の赤ワイン煮込みを口に。

 蒸し鶏はぱさついておらずふっくらと。赤ワイン煮込みの牛肉はフォークを入れるとほろりと崩れた。味も甘みと酸味のバランスが良く、上々の仕上がりと言えた。

 かつおのたたきは以前にも作ったし、つい先程スルトに誉められたところだから大丈夫だとは思うが。

 うん。表面が香ばしく、仄かに残っている臭みも味わいである。新鮮な鰹を使っているので、実は臭みと言う臭みはあまり壱には感じられないのだが。

 壱が一品一品丁寧ていねいに味わいながら食べていると、サユリの皿はとうに空になっていた。

「壱、追加だカピ」

「はいはい。美味しかった?」

 壱がやや苦笑しながら聞くと、サユリはふんと鼻を鳴らす。

「悪く無いカピ。次は違う料理を取って来るカピよ。ドリンクは白ワインを追加カピ」

 乾杯の時にも使ったサラダボウルを見ると、こちらも空になっていた。

「オッケー、待ってて」

 壱はサユリの皿を手に追加の料理を取りに行く。どうやらサユリにも満足して貰えた様だ。

 途中、楽しそうに談笑しながら料理やドリンクを口にする村人を眺めると、微笑ほほえましい気持ちになる。

 最早もはや結婚パーティなのだか宴会なのだか判らない有様になってはいるが、村人が入れ替わり立ち替わり新郎新婦であるカルとミルの元におもむいているので、祝う気持ちは充分にある様である。壱も後で行かなければ。

 さて、次の料理は鮭のムニエル、ツナときゃべつのペペロンチーノ、たいのアクアパッツァ。

 料理の脇に積んである柔らかな紙で皿に付いた汚れを拭い、新たに盛り付けて行く。これなら前の料理と味が混ざらない。

 続けてドリンクのテーブルから白ワインのグラスを取る。

 冷蔵庫などには入れていないが、サユリの魔法で冷やしていてアルコールも飛ばないので、美味しい状態でいただける。

 皿をサユリの前に置いてやり、サラダボウルに白ワインを移して、今度は自分の分を取りに行く。料理の内容はサユリと同じで、ドリンクはエールをおかわり。

 乾杯のドリンクは好きなものが飲める様になっていて、壱はエール、サユリは白ワインだったのである。

 後片付けもあるので、あまり酔わない様にしなければという気遣いからのエールであった。

 テーブルに着いて、食事の続きである。さて、こちらも旨く出来ていると良いのだが。

 鮭のムニエルは表面のバターが香ばしく中はふっくら。ツナときゃべつのペペロンチーノは程良い辛味と素材の甘みのバランスが良い。鯛のアクアパッツァもしっとりと風味良く出来上がっていた。

 これはどの料理も成功と言って良いだろう。壱は満足げに眼を細め、エールを流し込んだ。

「壱、これらの料理もまた作ると良いカピ」

 サユリもまた、気に入ってくれた様子。食堂で出すには手間と時間が掛かってしまうものも多いので、やはりこういったパーティ限定になってしまうかと思うが、そんな事はサユリも承知だろう。それを踏まえた上で壱はにっこりと頷いた。

「解った。今度の機会にね」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...