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#154 味噌煮込みうどんの朝ご飯

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 さて一夜が明け、壱は朝食を作る為にキッチンに立つ。

 もう作るものは決めてある。壱は鍋に水を貼って昆布を入れておき、材料を取りに、ボウルを手に厨房へ。

 冷蔵庫から卵と鶏肉、棚から玉ねぎと人参を出し、ボウルには中力粉を入れる。

 しかし1度では運べないので、まずは中力粉のボウルを、次に鶏肉などを上に上げた。

 では、調理開始である。

 まず、中力粉を少し別のボウルに分けておく。

 次に、元のボウルの中力粉に塩を少量加え、水を少しずつ入れながらねて行く。粉と水の割合が良い塩梅になると、力を込めて、手前から奥に押す様にして捏ねて行く。

 そうして時間を掛け、額に汗をじんわりと浮かべながら、手を動かして行く。

 やがて生地が纏まる。つるりと綺麗なかたまり。そうしたらまな板に打ち粉をし、出来た生地を置く。まずはてのひらで押して広げ、続けて綿棒を使う。

 出来る限り四角になるように、2ミリ程の厚さに伸ばして行く。出来たら折りたたみ、包丁で5ミリ程の幅に切って行く。

 これがまた気の使う作業で、不慣れな壱はやや息を詰めながら包丁を動かして行く。

 やがて全てを切り終えると、ふぅーと細く、勢い良く息を吐いた。

「……出来た」

 そう呟く様に言う。

 さて、次に大きめな鍋を出すと、水を入れて強火に掛ける。

 続けて出汁だしの準備。昆布の鍋を火に掛け、沸くまでの間に鰹節かつおぶしを削って行く。

 沸騰ふっとう直前になったら昆布を取り出して鰹節を入れ、火を止めて、鰹節が沈むのを待つ。

 その間に湯が沸いたので、さっき作った生地を切ったものを、解しながら入れて茹でる。

 ぐらぐらと沸く湯の中で踊る生地。吹きこぼれない様に火加減に注意しながら。

 次は出汁を別の鍋に静かに移し、火に掛ける。

 沸くまでの間に野菜と鶏肉を切る。玉ねぎは薄切りに、人参は葉をざく切りに、鶏肉は一口大に。今日は人参の本体は使わないので、後で厨房に戻しておこう。

 出汁が沸いたら、鶏肉を入れる。灰汁が出たら余分な油とともにレードルで取り除く。続けて玉ねぎを入れ、少し煮て行く。

 さて、少し時間が空いたので、洗い物などをして。

 終わったら、出汁の鍋に味噌を溶かす。米味噌と赤味噌のブレンドだ。

 その頃には、切った生地が茹で上がる。ザルに上げて流水にさらしながら、揉む様にして良く洗い、ぬめりをしっかりと取る。

 それを、味噌を溶かした鍋に入れ、煮て行く。

 その間に、また出た汚れ物を洗い。

 時計を見る。そろそろサユリたちが起きて来る時間だろうか。

 卵をボウルに割り入れ、それを静かに鍋に落として行く。それを3個分繰り返す。それぞれがくっつかない様に離して。

 また、汚れたものを手際良く洗う。

 後は仕上げである。レードルで味噌出汁をすくい、そっと卵に掛けて行く。そうしてじんわりと火を通すのだ。

「おはようのう」

「おはようカピ」

 サユリと茂造が起きて来た。良いタイミングである。

「おはよう。もうすぐ朝ご飯出来るからね」

「ありがとうのう。では支度して来るからのう」

 茂造が洗面所に向かうと、人参の葉を加える。

 卵に味噌出汁を掛けるのは途絶えずに。白身の部分はすっかりと白くなり、黄身の部分にも白い膜が張っていた。これは良い火通りでは無いだろうか。

 ボウル状の器と、サユリ用にパスタ用の器を出し、まずは中力粉で作った麺をトングで入れる。卵はもう少し火を通したいので、茂造が戻って来るのを待つ事にする。

「お待たせじゃの」

 戻って来た茂造が椅子に掛ける。サユリはとっくにテーブルの上に。

 レードルで味噌出汁、鶏肉、玉ねぎ、人参の葉を掬ってよそい、最後にふんわりと仕上がった卵。

 味噌煮込みうどんの完成である。

「お待たせ! 味噌煮込みうどんだよ」

 テーブルに速やかに運び、壱もテーブルに着いた。

「おお、美味しそうじゃの。いただきます」

「いただくカピ」

「はい。いただきます」

 まずは味噌出汁をすする。うん、昆布と鰹節からは勿論の事、鶏肉と玉ねぎからも良い出汁が出ている。ふくよかで味わい深い。

 続けてうどんをはしで掬う。つるりと口に運び、しっかりと噛む。うん、コシも悪く無い。コシが生命の讃岐うどんに比べればまだまだかも知れないが、上出来だ。

 続けざまに具材も食べる。味噌を纏っていてどれも美味しい。壱は表情を綻ばせる。

 さて、卵はどうだろうか。味噌出汁とうどんが半分程になった頃に、そっと割って見る。すると良い具合に半熟になっていて、黄身がとろりと流れ出て来た。

 その艶やかな黄身をうどんに絡めてつるり。ああ、何とまろやかで旨いのか。壱はつい眼を閉じてしまう。

 また凄いものを作ってしまった。自画自賛である。

 そしてサユリと茂造を見ると、ふたりともガツガツと器に集中していた。

「どうかな」

 壱がそっと訊くと、茂造は満足そうに息を吐いた。

「うまいのう。味噌の出汁も勿論じゃが、それを吸っておるうどんもうまいのう。凄いのう、壱はどんどん腕を上げておるのう」

「難しいのは作って無いんだよ。でも口に合って良かった」

 茂造の反応に壱は安心する。さて、サユリはどうか。

「サユリ、どう?」

 率直に訊くと、サユリは動きを止めぬまま。

「うむ、良いカピな。我も味噌を吸っている麺が良いカピ」

 そう言いながら、ひたすらに皿に向かっている。壱はまた安堵した。
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